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第46話 憧れ

――――商店街


 

 水道橋(すいどうきょう)の倉庫から都市の西方に位置する商店街へ向かう。

 本来ならばさっさと宿場街に向かいチェックインと行きたかったが、ラフィの心内(しんない)が全く見えない以上、彼女の気が変わる前に物資の補給を終えておこうと私が提案する。


 幸い、日はまだ昼を過ぎたばかり。宿を探す時間はまだまだある。

 

 商店街へ訪れる。

 大きめの馬車が二台すれ違うのがやっとの道のため、道の半分程度を埋める荷車を曳いた貫太郎は町行く人々の足の邪魔になっている。

 しかし、今回はラフィの顔を借りて、狭い道ながらも荷車を通らせてもらった。


 さて、その商店街の様子だが、店舗は軒並み背が低く、二階建てがほとんど。

 一階が店になっており、上が住居スペースのようだ。


 店の種類は青果に日常雑貨に菓子屋に本屋に武器屋に魔道具屋と様々。

 カリンが菓子屋に惹かれ、リディが本屋に惹かれ、ツキフネが武器屋に惹かれ、貫太郎が装飾店に惹かれ、私が魔道具屋に惹かれているが、それらは後回しだ。


 まずは旅に必要なものを優先して購入する。

 その様子を商店街を行き交う客と店舗の店員たちがじろじろと見ている。

 奇妙な集団が商品を大量に買い付けて、領主の娘までいる。

 これでは悪目立ちどころではない。


 ツキフネが米の入った袋を荷台に載せつつ私に話しかけてくる。

「すっかり注目を浴びているな」

「あはは、そうだな。だが、ラフィがいる。彼女がいる限り、警備兵も余計な口出しはしてこないし、短時間であればトラブルに巻き込まれることもないだろう」

「そうだといいが……」


 店舗を何店か回り、荷台から荷が溢れたところでカリンが物資のチェックに入った。

「米と小麦おっけ~。調味料類おっけ~。調理器具と食器類の替えと追加おっけ~。修理道具おっけ~。着替え類おっけ~。毛布類おっけ~。雨具おっけ~――――」



 何度も指差し確認を行い、ふむふむと納得した表情を見せる。

 必要な物は間違いなく揃っているようだ。

 私は水の入った桶を両手に持ち、これから荷を引っ張ってくれる貫太郎に水を与える。

「荷は満載。大変だろうが頼むぞ、貫太郎」

「もも~!! も!」

「フフフ、さすがは貫太郎。ま、君にとってこの程度の荷。羽毛よりも軽かろうが」



 貫太郎は水桶に顔を突っ込み、ごくごくと勢いよく水を飲み、次に顔を上げて振るう。

 振るった顔から水滴が飛び出して、私と傍にいたリディに降りかかった。

「おお~、いい飲みっぷりだ」

「きゃ!? びしょびしょ。アルラさんもびしょびしょですけど大丈夫なんですか?」

「水だからな。放っておけば乾く。しかし、本当に良いのかラフィ。小切手を切りまくっているようだが?」


 私は荷台から溢れんばかりの物資へ黄金の瞳を振った。

 それをラフィはにこやかに受け止める。

「枚数が多いだけで、金額はさほどではありませんから。わたくしの個人資産で十分事足りますよ。むしろ、詫びがこの程度で良いのかと不安になります」


「少なくとも私たちには十分すぎる詫びだよ。だろう、カリン」

「うん! おかげで出費が抑えられて助かっちゃった。本当はここで全財産つぎ込む予定だったからね」

「カリンさんにそう言って頂けるとは大変光栄ですわ。あなたはわたくしにとって生まれて初めて……」



 ラフィは途中で言葉を止めて、頬を赤く染める。

 それをカリンが覗き込む。

「どうしたの?」

「い、いえ、なんでもありません。それよりも皆様はスラーシュに何泊ほど?」

「もしかしたら物資補給でお金が足りなくなるかもと思って、こちらで仕事をする予定で数日滞在するつもりだったけど、ラフィのおかげで明日には出発できそうかな?」

「え…………そ、そうなんですか?」


 赤くしていた頬から色を失い、表情に影を落とすラフィ。

 それに気づかないカリンは言葉を続ける。

「でも、リディはこんな大きな街初めてだから、しばらく滞在して色々見せてあげたいかな。みんなも個人的に購入したいものもあるだろうし。おじさんも魔法のことを調べたいだろうし」

「で、では、しばらくは滞在されるのですね!」

「うん、そうなると思う。みんなもいい?」



 私たちは揃ってこくりと頷く。

 カリンはラフィへ向き直る。

「ということで、明日はゆっくりこの街の見学をしようと思うの」

「そ、それでしたら、ぜひともわたくしが案内を!!」

 表情に影を落としていたラフィはカリンへ掴みかからん勢いで声を上げた。

 その勢いに押されるカリン。


「え、あ、別に良いけど……ラフィは予定とか大丈夫なの? 学生だし、貴族のお嬢様だし」

「そんな予定なんて生ごみの日に投げ込んで差し上げますわ! カリンさんのために街を案内することの方がよっぽど大事ですし!!」

「あ、ありがとう。でも、なんでそこまで?」


「それは……あなたがわたくしにとってあこが……」

「あこ?」


「えっと、あの……そう、これはお詫びです! 物資補給だけでは謝罪が全然足りていないと思いまして、だから、お詫びに街の案内を!」

「あこ、から全然つながってないけど……まぁ、そういうことならお願いしようかな。でも、あんまり無理しないでね。わたしたちは全然気にしてないんだから」

「そうはいきません! 明日の案内は全人生を賭けて挑むつもりです!!」


 ラフィはお嬢様らしからぬ様子で腕まくりをし、力こぶを見せて、そこからガッツポーズを決める。

 その気合の入れようにカリンの腰が引けている。

「え、はい、お願いします……」

「合点です!」



 二人の様子を私とツキフネが見守る。

「ラフィお嬢様は随分とカリンを気に入ったようだな」

「彼女の生き方に感銘を受けたのだろう。少なからず私もカリンの志には心に響くものがあるからな。お前とてそうであるから、共に旅をしているのだろう?」

「ふふふ、たしかにな」


「人生経験の薄いラフィはその響きが大きかったようだ」

「隙のないお嬢様かと思いきや、年相応な部分もあるということか。だが、短期間ならともかく長居は禁物だ。人が多ければトラブルに巻き込まれやすい。それに大きなトラブルというものは力の強い者を好む」


「そうだな…………ん、何の騒ぎだ?」



 商店街の奥から人々の騒ぎ声。空には青色のキャンバスを焦がす黒い靄。

 騒ぎ声の中で、ひと際甲高い中年女性の声が商店街の道に木霊する。


「火事だよ!! みんな、手を貸しておくれ!!」


 この声にいち早くカリンが反応する

「火事!? 大変、行かなきゃ!!」

「あ、カリンさん? お待ちになって!!」

「ぶもぶも!」

「え、貫太郎さん? 首を振って……あ、荷台のハーネスですね! 取れました!! 私たちもカリンさんを追いましょう!」


 カリンに続き、ラフィが。そのあとに貫太郎とリディが続く。

 ツキフネは大きく腕組みをして、煙が立ち昇る場所を見つめる。

「どうやら、巻き込まれるのではなく、トラブルは向こうからやってきたようだ」

「はぁ~、どうしてこうなるのやら。貫太郎も行ってしまったし、私たちだけここに残るという訳にもいかないだろう。荷の見張りは店主に頼み……私たちも行くか」

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