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第41話 とてもお暇な才色兼備の魔法使い

――魔導都市スラーシュ



 人口十万を超える西方最大の都市。

 主要な道は全て石製の道路で整備され、メインストリートの両脇には背の高い建物や木造やレンガを組み上げた住宅にコンクリートの家などが建ち並ぶ。


 建物の色は大地や植物などの自然物に近い、茶色や緑色系(りょくしょくけい)が中心。

 大勢の人々が行き交う道には露店が溢れ、馬車の轟きにも負けぬ威勢の良い声が飛び交う。

 

 賑やかなメインストリートを北に進むと、強大な建築物。

 そこは魔導学園グラントグレン。


 有能な魔法使いの卵たちが通う学園。

 また、魔法使いのみならず、勉学に秀でた者たちも多く通う。



 その学園の中で最も優秀な魔法使いの生徒であり、生徒会長という職責を担い、また、魔導都市スラーシュの領主の三女であるラフィリア=シアン=グバナイトはとても暇をしていた。


 輝く金の長い髪に、絹のようにきめ細やかな白い肌。

 蠱惑的な紫の瞳を揺らし、十七歳とは思えぬすらりと伸びた長い足と豊満な肉体は多くの男たちの視線を虜にする。


 友人も多く、彼女が多様なフリルとラメが散りばめられた赤いドレスを纏い道を歩いていると、すぐにあちらこちらから声が届く。


「ラフィリア様、今日はどちらへお出かけなのです?」

「ラフィリアお姉様、ご一緒にお昼をしませんか?」

「ラフィリア様、術式についてわからないことがあるのですが?」



 と、誰もが慕い、頼る、魔導の天才ラフィリア=シアン=グバナイト。

 彼女は友人たちへ軽い挨拶を交わして、誘いを巧みに躱していく。

「皆さん、今日は少々予定が入っていますの。申し訳ありません。では、ごきげんよう」


 頭脳明晰。容姿端麗。友人から慕われる領主の娘。

 非の打ち所がない女性。

 だけど、彼女はこの満ち足りた生活に暇をしていた。



 屋敷へ戻り、自室の巨大ベッドに飛び込むように倒れ込む。

「あ~~~~~、もう、嫌! 毎日毎日毎日、同じことの繰り返し。学園で学んで、つまらない友人を相手にして、社交界に出て愛想笑い。つまんないつまんない」


 ラフィリアは手足をバタバタと振り回し、仰向けになり、細やかな意匠が施された天井を見つめる。

「はぁ、隕石でも降ってこないかしら? そうしたら、こんなつまらない生活に少しは刺激が生まれるのに……このままだと、わたくしの人生、クソですわ!」



 彼女は貴族の娘。

 たとえ優秀であっても、やがては政略結婚の道具として、政治力の強化、経済力の向上、家格の上昇のために使われるだけ。


 うつぶせになり、音が漏れ出ぬよう顔を枕へ押し付けて叫ぶ。

「あばばばばばば、はぁ~。見知らぬ男性と結婚して、子どもを作る? それがわたくしの幸せ? 冗談じゃない!! わたくしは魔法使いとして生きたい! 勇者ティンダルの仲間であった賢者ローラー=ミルのように!!」


 かばりと起き上がり、彼女はベッドの上に立つ。

「そう、わたくしは冒険がしたい! こんなつまらない変化のない毎日を捨てて! でも、どうすればいいのか……いっそのこと家出でもしようかしら? だけど、外のことはあまり詳しくないし……ダメダメ! そんな消極的じゃダメ。よし、決めた! こんなつまらない生活をもう捨てて――」



――モ~――



「モ~? モ~? 何ですの? モ~って? 今の声は? 窓の方から?」

 ラフィリアはガラス窓へ近づき、遠くにある塀の向こう側の道を見た。

 するとそこには、一匹の牛。

 荷車を曳く牛がいた。


「え、どうして貴族街に牛が? グラスグラスっと」

 引き出しから双眼鏡を取り出して、牛をよく見る。

 背には小さな女の子。

 牛の左横には太った男。右横には大剣を背負うオーガリアンに赤い軽装鎧を着た冒険者らしい少女。


「な、何ですの、あの珍妙な集団は? 大道芸人には見えませんし……大変、大変興味深いですわね」

 彼女は双眼鏡を机に置いて、屋敷内の気配を探る。

「帰宅したばかりですが、学園に用事があると言えば問題ないでしょう。あんな珍妙な集団、ただ見ているだけではつまらない。これは是非とも接触を図ってみないと。フフフフフ」

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