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第37話 随分と立派に呪われている

――――西へ



 旅は続く……旅仲間は私、貫太郎、影の民のカリン、オーガリアンのツキフネ、魔族と人間族の血を引く半魔のリディ。


 次に向かうは、この地域では最大の町になるだろう、魔導都市スラーシュ。

 王都から遠く離れた都市であっても、ここでは最先端の魔導が研究されているという話だ。

 遅れた術式しか使えない私にとって、新たな術式を学ぶには良い機会とも言える。

 そこへ向かい、物資を補給し、さらに西へ向かう予定だが、西へ進めば進むほど道は険しく、さらに強力な魔物と出会いやすくなる。

 それを踏まえ、カリンは自分の腕を磨くためにツキフネの胸を借りていた。



――夕食前


 私と貫太郎とリディが見守る中、カリンは手に刀を持ち、ツキフネは漆黒の大剣を持って対峙していた。


「いやあぁああ!」

 カリンが先に仕掛ける。彼女は刀を大きく振るい体重を乗せてツキフネの胴を薙ぎ払う。

 しかし、ツキフネはその攻撃を読んでおり、大剣を盾代わりにして振るわれた刀を弾く。


「ふんっ!」

「っ、この!」

 

 体勢を崩されたカリンは右足で地面を蹴って距離を取ろうとした。

 その隙をツキフネは見逃さない。

 一気に詰め寄り、カリンを頭から真っ二つにしようとする。


 だが、カリンはさらに地面を蹴って、左へ回り込み、首元へ一閃!

「でぇい!」

「おっと!」


 ツキフネはそれを紙一重で避けると、大剣を左手のみで振るい、カリンの動きを縫い留め、空いた右拳で顔を打った。


「フン!!」


 拳は鼻先紙一重で止まり、拳により生まれた衝撃波がカリンの肩まで届く黒髪を揺らす。

 動きを止める二人。


 私は彼女たちに短く声をかけた。

「勝負ありだな」


「あああああ~、まけたぁあぁあ!」

 カリンはその場で大の字に転がり悔しさを表す。

 ツキフネの方は余裕綽々(しゃくしゃく)と大剣を背に戻した。



 地面に転がるカリンへ私はため息を浴びせる。


「はぁぁぁ~、全くなってないな」

「なによ~、ツキフネさんは一流の賞金稼ぎなんだからしょうがないじゃん」

「敵が何者であろうと関係ない。君は刀の使い方が全くなっていないと言っているんだ。君の剣術、根底は勇者ティンダルの父が生み出した剣術、アニオン流だろ?」

「そうだけど?」


「やっぱりな。だから、まるで剣のように刀を使用している。それではせっかくの刀の特性が台無しだ」

「そんなこと言ったって、刀使いなんてこの大陸には滅多にいないし」

「その滅多にいない刀使いになんでなろうとしたんだ?」


「元々長剣を使ってたんだけど、それが折れちゃって武器屋さんに行ったら、たまたま刀がすっごい安い値段で売ってたの。で、なんかカッコいいと思って購入しただけだよ。あと、長剣よりも軽いから持ち運び楽だし」


「自分の命を預ける道具をそんな理由で……君の能天気さ加減には驚かされる」

「ずけずけ言ってるけどさ、おじさんはこの刀扱えるの?」

「君よりはな」

「むっ――その体形で?」

「余計なお世話だ! 少し刀を貸しなさい」



 私が右手を伸ばすと、彼女は刀の柄側を向けて渡す。

 それを受け取り、刀を抜く。

 白銀(しろがね)(やいば)に波紋が浮かび、僅かに湾曲する剣。


 (つか)の部分は鮫皮で覆われ、それを通常の紙よりも丈夫な和紙という紙で挟み、さらにその和紙には鯨の髭が何層にも巻かれおり、それらが持ち手の部分を渋味のある装飾として表していた。

 


「ほ~、これは相当な業物だぞ。いくらで購入したんだ?」

「え~っと、たしか二万クランくらいだった」

「いくらなんでも安すぎるぞ! これほどのものなら数百万から千万を超えるはずだ!」

「ええ~、いくら何でもそんなにしないと思うよ。武器屋のおじさんはその値段で構わないってやる気のない感じで売ってくれたし」


「やる気がないにもほどがあるぞ、それは。まさか、何かいわくつきじゃないだろうな?」

「今までずっと使ってたけど、そんないわくつきっぽい怪しげなこと起きてないから大丈夫だよ」

「だといいが……」


 私は無言を纏い、じっと刀を見つめる。

(これは……思いっきりいわくつきだな。随分と立派に呪われてる。放置していたらカリンの魂を奪われかねない。呪いを解いておくか)

 手に、教会の連中が好んで使う魔法とは異なる法力と呼ばれる力――神術による呪術解除の力を刀全体に広げる。


「これで良し」

「ほえ、なにが?」

「大したことではない。では、手解きをしよう」



 私は気を取り直して、刀を両手で持ち構える。


「刀は私たちが一般的に使用するロングソードよりも軽い分、衝撃に弱い。だから、力任せに振るうなどもってのほか。しかし、切れ味はロングソードと比べ物にならないくらい鋭い。その特性と軽量であることを生かして、力でなく(そく)で扱う」


 素早く数段の突きを見せる。

 さらに剣を振り下ろしたかと思うと、地から空へと切り上げる。

 

「刀は自分の手の延長上だと考え、このように自在に操る。力ではなく手数と(そく)と技を中心に扱うんだ」

 説明を終えて、刀を鞘へ戻す。



 すると、貫太郎とカリンとリディが手放しに褒めてくる。


「もも~、ももも」

「おお~、すご~い。おじさん、魔法だけじゃなくて剣も使えるんだ」

「流れる舞いみたいで綺麗です。剣を扱えない私でも凄いというのが良くわかります」


「ふふ、照れるな……でだ、ツキフネ。頼むから殺気をこちらへ飛ばすのをやめてくれないか?」



 皆が褒める中、ツキフネだけは大剣を抜いて、こちらへ構えを見せてくる。

「アルラ、構えろ」

「いやいや、なぜそうなる?」

「魔法のみならず、剣の腕も一流とみた。(ゆえ)に、試したい」

「私はお断りなんだが。そもそも、君とやり合うほどの体力がない」

「数瞬で構わない。それに、実践を交え、刀の扱いを見せた方がカリンもわかりやすいはずだ。だろう、カリン?」


「見たい!」

「カリン……はぁ、少しだけだぞ」

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