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第16話 何やら?

「待て待て待て待て! 君は何を言っているんだ?」

「なに、おじさん? 問題でもあるの?」

「問題しかない! 私たちはこの村で昼食を取り、物資を補給して旅に出る予定だろうが」

「だからって、困ってる人たちを放っておけないよ」


「その困っている人たちはそこの……ツキフネだったか。彼女の手を借りているんだから問題ないであろう」

「でも、十人もいるんだよ?」

「並みの盗賊程度ならば、オーガリアン一人で十分すぎる。それに彼女は凄腕のようだしな。だから、余計なことに首を突っ込むな」

「並みの盗賊じゃなかったら?」

「力量不足で残念だ。で、終わりだろ」

「それはひどいよ! 私たちがいたら万全を期せるんだから、ここは――」



 さらに問答を続けようとした私たちの言葉を、中年の村長が遮ってくる。

「いやいやいや、お嬢さん。お気持ちはありがたいが、こちらのツキフネ様にご依頼しておりますので」

「だけど、万が一失敗しちゃったら盗賊を怒らせるだけになっちゃうよ」


 この言葉に、ツキフネが輝くオレンジ色の瞳に殺気を乗せた。

「私が失敗するだと?」

「え、いや、悪く言うつもりじゃなくて、えっとね、わたしもおじさんも腕に覚えがあるから力を貸せるし、ここは協力した方が盗賊を退治しやすくなるんじゃないかなぁ~って」

「取り分が減る。だから断る」

「別に依頼料はいらないよ」

「なに? では、何のつもりで手を貸そうと言うのだ?」



 カリンはここで、そこそこに盛り付けられた胸を張って、どんとその胸を叩く。

「私たち、人助けの旅をしてるから!」


 この、あまりにも馬鹿げた回答にオーガリアンのツキフネは言葉を失い、ただただ嘆息を生んでいる。

 これではらちが明かないと、私が割って入る。


「カリン、人助けが人の邪魔になっている。ここは大人しく引っ込んでいなさい。あと、先程から『たち』と言っているが、君だけだろ」

「あ、ひどい。旅仲間なのに」

「その仲間、辞めてもいいか?」

「一度仲間にした人は死んでも離さない。これ、我が家の家訓」


「困った家訓だな、それは。だがな、私に協力を仰いでも、盗賊がいる場所につく前に倒れるぞ」

「そこはパイユ村で使った魔法でピューっと」

「あれを(おこな)った後は魔力制御が曖昧になりやすいんだぞ。そうなるとまたひと騒動だ。とにかく、カリン。ここは退いておけ。ツキフネだけではなく、村長も困っているだろう」


 そう彼に振ると、その通りだと言葉を重ねてきた。

「ええ、ええ、お若いお嬢さんには無理な話です。どうか、ここはツキフネ様だけにお任せしてくださいな」

「でも……」


「せっかくの申し出でありながらこのようなことを申しては恐縮ですが、ツキフネ様はベテランであり、武名を博する賞金稼ぎでございます。ですが、あなたは一介の旅人。いかに腕に覚えがあろうと、盗賊退治を任せられるような方ではございません」

「あ……」

「どうか、無用な心配事を増やさないでください」

「あ、はい。わかりました……ごめんなさい」



 カリンは村長に頭を下げると、次にツキフネへ向き直った。

「ツキフネさんもごめんなさい。勝手に騒ぎ立てて」

「かまわない。その正義感は素晴らしいことだ。だが……変わっているな、お前は?」

「ほぇ?」

「オーガリアンの私と共に仕事をしようなどとは」


 彼女の言葉に、カリンは寂しくも柔らかい笑顔を見せる。

「種族なんて関係ないよ。誰かが困っているなら助けてあげたい。協力できるなら、してあげたい。そう思うことが、普通だと思っているから」

「……フッ、本当に変わっている」


 ツキフネは小さな笑いを漏らし、村長へ顔を向ける。

「謝礼の半金は盗賊の頭領の首級を持ち帰り次第だったな」

「ええ、そのとおりでございます。しっかりとご用意しておきますので」


 村長は愛想笑いを浮かべてぺこぺことツキフネに頭を下げる。

 ツキフネはそんな彼を冷めた瞳で見つめ、踵を返し、足早に本道を歩き、盗賊が根城としている場所へ向かっていった。



 私はいじけるカリンを横目に、村長へ問い掛ける。

「盗賊というのはいつから出ているんだ?」

「え? それは、ここ最近ですね」

「何故、役人に相談しない?」

「この村は森の奥にありますし、今は戦時下ですのでこちらまで手が回らないのですよ」

「そうか。盗賊は手強いのか?」

「はい、初めてやってきたときは私たちも抵抗したのですが、その時、村の若い者たちが怪我をして、それ以降は言いなりでした。はぁ、まさか、この片田舎にあれほどの盗賊が……」



 ここでカリンが声を上げる。

「待って! そんなに手強そうな盗賊をツキフネさんだけに任せるの?」

「あ! そ、それは……」

「おじさん、やっぱり私も行ってくる!」

「おい、カリン」


「なに、反対しても行くからね!」

「別に反対はしない。ほら、干し肉と水を持っていけ、昼抜きになってしまうからな」

「ほぇ? ありがとう。でも、なんで急に?」

「そうだな……止めても無駄だから諦めただけだ」

「なにそれ! とにかく、行ってくるからね。おじさんは貫太郎ちゃんと待ってて!」



 カリンは声を飛ばし、ツキフネを追いかけて本道を駆けて行った。

 消え行くカリンの姿に、村長や村人たちは何やら慌てた素振りを見せる。


「おや、どうした。村長?」

「え、いや、お嬢さんを一人で行かせてもよろしいのですか?」

「私も着いて行けと?」

「いえいえ、そうではなくて、戻さなくてよろしいのかと?」

「別に構わん。ここで死ぬようであれば、その程度だったということだ。さて、私は村で休ませてもらうとするか。村長、構わないかな?」


「え、ええ。どうぞ……」

「フフ、ではそうさせてもらう。行こう、貫太郎」

「も~」



 私と貫太郎は村長と村人たちを横切り、村の中へと消えていく。

 そして、曲がり角を曲がり、人の目が無くなったところで彼らを覗き見た。


 村人たちは村長を中心に何やら話し込んでいる。 

 私は貫太郎へ声を掛ける。


「ふむ、どうやら貫太郎、君の力が必要のようだ」

「もも~」

「そうだな……本来ならスマートに行きたいが、今回は時間もない」

「ぶもも、もも~」

「君の言うとおり、ここはより一層、スマートに事を運ぶとしよう。フフフフ」

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