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第13話 国家を創設し、君は王となれ!

 国家――カリンはこの言葉に驚きを見せる。だが、これは必然の帰結。


「国家!? いやいや、どうしてそんな大きな話に!?」

「大きな話? まさかと思うが、君は居場所のない者たちのために、小さな集落や村を用意するだけで良いと思っているのか?」

「それで十分じゃない?」

「何を馬鹿なことを……」



 私は北方領域へ手を広げ、次に南方領域に手を伸ばす。

「北は魔族の支配地。南は人間族の支配地。このグレーラ大陸は、この二種族によって支配されている。少数種族はこの二大勢力のどちらかに(くみ)して暮らす。そのような場所に、世界の敵と揶揄される影の民の居場所など作れると思っているのか?」

「そ、それは……」


「他の大陸も同じだ。何かしらの種族が大地を治め、影の民を忌み嫌う。()()を持たぬ影の民に、対抗する(すべ)はない」

「だから、国を?」

「そうだ。さらに君が求める場所は、影の民だけの場所ではないのだろう? 君が望むのは、様々な理由を抱え、この世界に居場所のない人々が(つど)う場所。言わば、世界から追い出された者たちの集まりだ。そのような場所、誰も許さない」



 カリンは私の言葉を受け取ると、小さな沈黙を挟み声を返す。

「……そうだね。たしかに、おじさんの言うとおりかもしれない……だけど私には、誰からも許されなくても、誰からの許しを得られなくても過ごせる場所がいる――それには国家が必要……そうなんだね?」


「そうだ。私たちに牙を剥かんとする者たちと渡り合うために必要な力だ。それが組織。国家。力がなければ、存在することも許されない。同じ思想を持つ者が(つど)い、存在を見せつける力が必要なのだ」


(つど)い、見せつける力……それは軍隊のことも含めて?」

「その通りだ。しかし、何もそれは、力による制圧を行うためではない。おそらく、君が最も望むであろう話し合いとて、背景には力が必要。どれほど綺麗事を並べようとも、武力・経済力・資源・数といった力が必要。それらを持つ相手が国家という存在であれば、君も国家を持ち、対抗する他ない」


「国家を持つ? え、それって……私の国家ってこと!?」

「もちろんそうなるだろう。これは君の夢。居場所のない人々に安住の地を産み出すこと。その理想のために国家を生み、君が王となる」

「そ、そんなの無理だって」


「君は多くを救いたいのだろう? 居場所を失った、多くの者たちを……」

「それは、もちろん」

「なればこそ、王になるべきだ! 個が伸ばす手はとても短い。多くを救いきれない。だが、王の御手は遥か先まで届く」

「だからって、私が王になるなんて、それこそ馬鹿なことだよ!!」



「フフ、馬鹿なこと、か。他者から見れば、影の民である君が居場所を求めるだけでも、十分馬鹿げた話だぞ」

「――っ! そ、そうかもしれないけど……でも、話が大きすぎて」

「話が大きいからなんだというのだ?」

「え?」


 私は両手を広げて、世界の広さを表す。

「どうせ馬鹿げたこととなじられるならば、大馬鹿野郎になるのも一興。大きな挑戦を行おうとするときは、必ずと言って、他者は馬鹿にしてくるものだ。しかしだ、それがなんだというのだ! 彼らは何も成し得ない存在。ただ、指を差して、他者を(あざけ)ることしかできない存在ではないか!!」


 広げていた両手を降ろして、片手を前へ向ける。

「カリン、君に問おう。君は馬鹿げた夢を見て、他者に夢を嘲笑(あざわら)われる存在になるのか? それとも、他者の馬鹿げた夢を見て、それを嘲笑(あざわら)う存在になるのか? あるいは、全てを諦めて傍観者となるのか?」




 突き詰めれば、生きる道に多くの種類はない。

 夢を見て邁進するか。夢を諦めるか。夢見る者を嘲笑(あざわ)うかしかない。

 そして、カリンに選択肢はない――。


 彼女はたとえ他者から嘲笑(あざわら)われようとも、夢を見て進む以外ないのだ。

 そうしなければ、彼女の夢は掴めない。


「国を作る。私が、王に……」

「どうするカリン? 選ぶのは君だ」


 問われたカリンは、自分の手のひらを見つめる。

「おじさんの言うとおり、この大陸に、この世界に、わたしの居場所はない。たとえ居場所を産み出しても、力がないと磨り潰されてしまう。対抗するためには……国家が必要。だから……」

「では?」



 カリンは何かを掴むように、開いていた手のひらをぐっと握った。

「馬鹿げた夢を見て見る。大馬鹿野郎が見る夢を! わたしは国を興して、王を目指す!」


 空色の瞳に強い意志の力を宿して、まっすぐと私の黄金の瞳を見つめた。

 困難極まりない夢に挑戦する覚悟。

 かつて、私にもこのような瞳をしていた時代があった。

 ただ、カリンのそれは私の瞳よりも、純粋で透き通っているが。

 

 カリンは私から視線を外して、遥か西へ瞳を投げた。

「手付かずの大地。その場所が、西にあるんだよね?」

「ああ、遥か西にあるまほろば峡谷を越えた先の大地だ」


「でも、そこって……百年前に勇者ティンダルと魔王アルラが戦い、その末に呪われたという峡谷じゃ……?」


「その通りだ。だが、呪われているのはその手前の乾いた大地と汚染された湿地だけだ。峡谷に、誰も寄せ付けぬようにな」

「寄せ付けないように? どうして?」

「あそこには少々問題があってな。まぁ、私が同行する限り、問題はないが」

「その問題って?」



 問題の中身をいま伝えてもいいが、まだ深い信頼を得ていない以上、言えば乗る気が削がれるだろう。


 なにせ峡谷の奥は……世界を滅ぼす力を持った化け物の出入り口なのだからな。


 百年前、その出入り口が開いた。

 もしあの時、勇者ティンダルたちがいなければ世界は滅んでいた。同時に、私の愚かさを強調する出来事でもあった……。


 愚かさを隠す必要はないが、ともかく乗る気を削ぐのだけは避けたい。

 だから、黙っておく。



「今は行けばわかる。とだけ言っておこう。それに、ここで言葉を重ねたところで峡谷の豊かさの証明にはならんだろう」

「それはそうだけど……でも、どうして、おじさんは峡谷の奥について知っているの?」


「知っている理由か? ああ、そうだった、忘れていたな。私の正体を明かせば、豊かさの証明に一役を買うかもしれぬな」

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