無名のなろう作家が死んだ時
僕の大好きななろう作家さんが、亡くなった。
その人は世間に認められようと一生懸命書いていたものの、投稿した作品は誰からも評価されていないような小説ばかり。
それでも僕はその人の書く小説が大好きだった。
いつか世間に認められればいいなと応援していた。
だが亡くなってしまったので、もう新作は読めない。
それどころか、下手をすればこれまで投稿してきた作品もいつかは削除されて読めなくなるかもしれない。
はたして僕に何ができるだろうかと考えた。
その人の小説を模写して、僕が書いたものとして手当たり次第にコンクールなどに出してみようか。
あるいはいろんな小説投稿サイトに転載しようか。
とにかくどうにかして、その人の作品を世に認めさせたい、後世に残したいという気持ちがある。
我ながら自分勝手だなと思う。
自分が好きな作家の残した作品が、誰の記憶にも留まることがないまま消えていくのを、指を咥えて見ていることしかできないのがつらい。
その作家はどう思いながら亡くなったのだろうか。
作品を盗まれるくらいなら、墓まで持っていきたいのだろうか。
それともどんな手段であれ、自分の想いが詰まった作品が世に出ることを望むだろうか。
死人に口なし。
それを知る術はない。
どの道、その人の作品を転載しまくったところで、結局は誰にも評価されないまま終わるだろう。
コンクールで受賞することはないだろう。
何故ならその小説は面白くないから。
それでもその小説は確かにその作家が生きていた証であり、短い人生の中で形にした言葉であり、文字であり、想いなのだ。
僕もいずれ同じ運命を辿るだろう。
僕自身の書いた小説も、誰からも見向きもされず、僕が死ねば消えて無くなる。
他人の心配をできるほど、自分が強いわけではない。
むしろ、自分が弱いからこそ、自分が好きなものにしがみつきたいに違いない。
はたして僕に、何ができるだろう。
何もできやしない。
弱いまま、好きだった人の作品と思い出を抱えて消えていくのだ。
それまで書いたたった一文すら残ることなく、人知れず。