行動開始
三菜瀬駅 大瀬市三菜瀬町に存在する駅であり、三菜瀬に住む住民達の最寄りの無人駅だ。
三菜瀬町は山と山に挟まれ海に面している町で、人口も約100人しかいない田舎の町だ。隣の大瀬町や加瀬町へ行くには長いトンネルを通らなければならない。
朝7時30分三菜瀬駅に晴は十分後に来る電車を待っていた。ただでさえ三菜瀬駅を利用する人は少ないのに早朝ということもあり現在晴だけしかいない。
晴は昨夜姉である誓からの連絡を思い出していた。
「(とりえず、生徒会長にいろいろと聞いてみるか)」
そんなことを考えながら、電車を待っていると残り5分というところで駅のホームに二人の人影が現れた。
「おはようさん」
「おあよー」
一人は冷也でもう一人はおそらくまだ眠たいのだろう舌足らずな挨拶をしてきた渚だった。
「おう、二人ともおはよう」
二人へと朝の挨拶を済ませると、晴は昨夜の話をしようとした。
「そういえば昨日の夜姉貴から連絡が来た」
「誓さんから?なんて?」
「あぁそれが・・・」
晴が冷也の質問に答えようとする前にホームへと乗る電車が入ってきた。
「取り敢えず乗ろう」
「そうだな」
晴と冷也は一旦話を止め半分寝かけの渚と電車に乗り込んだ。
電車へと入ると大瀬高校の制服を着た学生がちらほらと乗っていた。今だ眠そうにしている渚を席に座らせて晴と冷也は立ったまま話始めた。
「流石にまだ早いからか人も少ないな」
「まぁ三菜瀬駅と違って加瀬駅は結構な頻度で止まるからな、わざわざこんな早く乗る必要もないさ」
「それもそうか」
三菜瀬駅は急行電車や特急電車が止まることはなく各駅停車の普通電車しか止まらない、そのことにより一日の利用車数も少ないため1時間に二回止まればいいところで一回しか止まらない時間帯も存在する。
加瀬町とは、三菜瀬町の隣の町で、三菜瀬に比べるとかなり栄えている町だ。
生活用品や雑貨など様々な買い物をする店があり、並大抵のものは加瀬町に行けば買えるくらいに専門店やスーパーなどが揃っている。
そして、それよりももっと専門的な店があり栄えているのが大瀬町である。
電車が出発し始めたと同時に晴と冷也は先程の会話の続きを話し始めた。
「それで、誓さんからは何の連絡だったんだ?」
「入学おめでとう、保安部どう?、わからないことがあったら生徒会長頼れだとさ」
「何でそんな箇条書きみたいな感じで言うんだよ、生徒会長かなるほど、というか保安部に入ったこと言ったのか?」
「いや、言ってない」
「じゃあなんで誓さんはお前が保安部だってこと知ってるんだ?」
「なんでだろうな、まぁ本人に聞いたところで私だからとかまた意味わからない理由ではぐらかされそうだしな」
「あの人なら言いそうだな」
「恐らくこの保安部のこともあの人が関係してそうだし、取り敢えず今日の放課後生徒会長に会いに行こう」
「生徒会長?なんで?」
二人の話が途切れたところで、どうやら目を覚ましたのか渚が会話へと参加してきた。
「起きたか?昨日姉貴から連絡があってさ、わからないことがあるなら生徒会長を頼れだと」
「ちか姉からとは、珍しいねー」
「まぁ取り敢えず、この事を立花さんに言って放課後生徒会長に会いに行こう」
晴がそう言うと丁度電車が大瀬駅に停車した。
大瀬駅を出た三人は大瀬高校への道のりを歩いていると前方に詩織がいるのが見えた。
「あっ!しおりんだ」
渚はそう言うと詩織の方へと駆け出した。
「しおりーん」
渚の声が聞こえたのか詩織が振り向きこちらを見た。
「あっ!おはようございます波野さん」
「おはよ、しおりん」
渚が挨拶をしていると、晴と冷也も合流した。
「おはよう、立花さん」
「おはよう」
「お二人もおはようございます」
冷也に続き晴が挨拶をする。
保安部全員が集合したこともあり、晴は昨夜姉である誓から来た連絡の内容を詩織に話すことにした。
「つまりその雨水くんのお姉さんである誓さんが何か裏で動いていたと言うことですか?」
「確証はないけど、たぶんそうだろうな」
「ところでその誓さんとはどういう方なんですか?」
先程の話を聞き興味がわいたのか、詩織が晴へと尋ねた。
「そうだな、簡単に言えば完璧人間だな」
「完璧人間ですか?」
「なにをするにも、完璧にこなすことができる人だよスポーツ、勉強、その他もろもろな、それに顔は身内の俺が言うのもなんだけどだいぶ整ってる」
「それはまた、すごいですね」
少し引き気味に詩織が言う。
「まぁあの人は同じ人間だと思わない方がいい」
そういう冷也は少し遠くを見る目になっていた。
「えっと、温海君もご存じなんですね?」
すこし遠慮がちに詩織が冷也へと尋ねた。
「あぁ誓さんのことなら知ってるよ、渚も面識あるぞ」
冷也はそう言いながら渚へと視線を向けた。
「そだねー、ちか姉はいろいろとすごいからねー」
そう言う渚の目は冷也同様遠くを見ていた。
そんな二人に愛想笑いしか浮かべることができない詩織だった。
その後も晴達は、他愛もない話をしていると大瀬高校に到着した。各クラスへ行く前に放課後生徒会室へと向かう為一度部室へと集合する約束をし解散した。
晴と冷也はクラスへ向かう間に生徒会長のことについて話をしていた。
「そういえば、生徒会長って誰だっけ?」
晴がそう言うと冷也は心底呆れた表情を晴へと向けた。
「なんだよ?」
その表情を見てか晴は冷也を少し睨みながら言った。
「いや、お前在籍している高校の生徒会長くらい知っているだろ普通、というか入学式で挨拶してたぞ」
少し溜息を吐いた後冷也が言った。
「え?そうだっけ?」
「お前さては寝てたな?」
冷也がそういうと、あからさまに晴は視線をそらした。
晴自身に記憶がないのはそのはず入学式の間眠気との闘いに夢中になっておりいっさい話など聞いていなかったのだ。
「まぁいいや、生徒会長の名前は古山 爽斗実際に話していないから何とも言えないが、第一印象は優しそうで爽やかな人間だったな」
「なるほど、まぁ後恐らく苦労人だな」
「なんでそんなことがわかるんだ?」
「姉貴が頼れって言ったってことは何らから関係があったはずだ。あの姉貴のことだどうせめんどくさいことをしてるに違いない」
「お前の誓さんへの印象なかなかに酷いな」
「でも、実際想像できるだろ?」
「まぁ否定派しないな」
丁度話に区切りがついたところで二人は教室前へとたどり着いた、晴と冷也はまだ会話もしたこともない生徒会長を心の中で少し憐れみながら教室へと入っていくのだった。