出会いの日 3
職員室がある職員棟から出た冷也と渚は中庭を通り部室棟へと向かっていた。その際、先程晴と話していた内容を冷也は渚に問いかけた。
「そういえば、渚は今回の保安部の部員について何か思わなかったのか?」
冷也が渚に言う。
「なんか偶然にしてはおかしいなって思ったかな?」
渚は少し首を傾げながら答えた。
「というと?」
「だって冷也と晴と私だけだよ三菜瀬中学から入学したの、その三人が約200人から4人しか選ばれない保安部に選ばれるとか偶然だと思えないよ」
「やっぱりか、晴も似た様なこと言っていたな」
「そうなんだ」
「冷也はどうなの?何とも思わないの?」
「どうだろうな本当に偶然の可能性もあるからな」
「えーそうかなー?」
二人が話をしながら歩いていると、部室棟へとたどり着いた。
「これは・・・もう少し整理したほうがいいんじゃないか?」
「うん私もそう思う」
二人は部室棟一階の備品の多さに少し引き気味に言うのだった。
そうこうしていると、二人は保安部の部室前へとたどり着いた、その時だった部室の中から何かが落ちた音の後に女性の焦り声が聞こえた。冷也と渚は一度顔を見合わせ、部室の扉を開けた。
「悪い遅れた、晴お前立花さんに迷惑かけてないだろうな?」
「ごめんねー遅れましたー」
冷也は幼馴染がもう一人の部員に迷惑をかけてないか心配しており、渚は元気よく挨拶し部室へと入ろうとした。
そこには、幼馴染が頭を押さえ蹲っており、その隣には分厚い本を持った女性が立っていた。
本日二度目の気まずい空気が部室内に漂った。
部室の扉を開けたら幼馴染が頭を押さえ蹲っており、その隣に分厚い本を持った女性がいた、その光景をみた冷也と渚は・・・
「大丈夫!しおりん何されたの!」
渚は晴など見向きもせず詩織の元へと駆け寄った。
「おいおい何したんだよ晴?」
冷也は心底呆れたように晴に言った。
「いや、おかしいってどう考えても被害者だから俺!!」
いまだ頭を押さえながら二人に抗議する晴。
「はいはい、わかったわかった晴頭大丈夫か?」
「なんでだろうな、お前に言われると外側じゃなくて内側のことを言われてる気がしてならないんだが?」
晴と冷也がそんなやりとりをしているなか、詩織はなんと声を掛けたらいいのかわからないでいた。
「しおりん大丈夫何があったの?」
「え?あっ!取り敢えず話を聞いてもらえますか?」
渚が詩織に話かけたことにより詩織は我に返り冷也と渚に今までの経緯を説明し始めた。
「なるほど、すまなかったな晴」
「いやー私はてっきり晴が何かしたのかと思ったよ、ごめんごめん」
「いや、まぁ別にいいけどさ」
詩織が渚と冷也に経緯を説明すると現状を理解した二人は、晴へと軽く謝罪をし詩織が手にしている本へと話題を移した。
四人は部室にある長机の椅子に座ると、詩織の持っている本へと視線を向けた。本は国語辞典と同じ様な暑さをしており全体的に汚れなどはなく綺麗な状態だった。そして表紙にはその本のタイトルが書かれていた。
歴代保安部記録
「歴代保安部記録?」
渚が不思議そうに言った。
「取り敢えず開けてみようぜ」
晴がそう言うと、詩織は頷き本を開いた。本をめくっていくとそこには数々の写真が貼られていた、4人の生徒が並び撮られている写真だった。
「これって歴代の保安部の人達ですかね?」
「たぶんそうだろうな、写真の上にその年の西暦が書かれてる」
詩織が写真の内容を聞くと、冷也が答えた。
本をめくっていた詩織が最後のページを開けるとそこには他のページとは違い一人の女生徒だけが写った写真が貼られていた。
「このページだけ一人ですね」
「西暦1962年今が2022年だから丁度60年前だな」
「これ西暦が一番古い写真ってことは初代の保安部なんじゃね?」
「初代って一人だったんだ」
各々が写真を見て感想を述べていた、すると詩織が初代保安部の写真を見て違和感を覚えた。
「この人・・・」
「ん?この人がどうかしたのか?」
詩織の言葉に晴が反応する。
「いえ、なんでもありません」
そう言うと詩織はいつも通り微笑んだ。
「まぁ何はともあれ、この本が何かはわかったわけだ」
「色々わからないことも増えたけどな」
冷也が少し溜息をつきながら言う。
「そこは、これから調べていこうぜ」
「まぁいいんじゃない、依頼が来るまでの暇つぶしってことで」
「そうだな」
「そうですね」
渚、冷也、詩織がそう言うと、晴は早速今日冷也と話した内容を再度皆に言うのだった。
「まぁそういうことでこんな偶然あるのかーってこと」
晴は今日伝えられた保安部のこと渚、冷也、とのことを詩織に話した。
「そうですね、確かにすごい確率ですね」
そのことを聞き、驚きながら言う詩織。
「俺たちの知らない何か理由があるのかもしれないと思って佐野先生にも聞いてみたんだが特に何も知らなかった」
「だとしたら、本当に偶然って感じかな?」
渚がすこし首を傾げながら言う。
「それか、もともと決まっていたのか」
「そうなると雨水君達を誰かがわざと選ばれるようにしたってことですか?」
「でも、そんなことして何の意味があるんだ?」
四人が話に夢中になって話をしていると、下校時刻五分前の予鈴が鳴った。
「取り敢えず続きは明日にするか?」
晴がそう言うと、三人は頷き帰り支度をするのだった。
晴が自宅に帰り、就寝までのやることをすましリビングでゆっくりしていると携帯に着信が入った。画面には姉とででいた。
「姉貴?いったい何の用だ?」
自分の姉である雨水 誓は四月から大学に通う為実家を出て行った,姉は完璧人間だ、文武両道、才色兼備、十人すれ違えば十人全員が振り返るほど顔が整っている。
姉が高校に入ってからはあまり家で会話をした記憶がないが特に仲が悪いというわけでもなかった。
自宅に電話をかけてくることはあったが、自分自身に連絡をしてくることは珍しいなと思った晴は不審に思いながらも通話にでた。
「はい」
晴がそう言うと、女性にしては低い声が通話越しに聞こえた。
「もしもし晴入学おめでと、どう?高校には慣れたかしら?」
「いやもう半月たってるんだが、まぁいいやありがとう姉貴、少しは慣れたよ」
「そう、それで保安部はどう?」
「どうも何も今日初めて部室に行ったばっかだよ」
「そういえば入学して少しした後だったわね、選ばれるの」
「そうだよ」
「ならいいわ、今日は取り敢えず祝いの言葉言いに来ただけだし」
「そうか、それはどうも」
「また電話するわね、それじゃ」
「ああ、また」
晴は通話を終了すると、すこし溜息をこぼしふと先程の会話内容を思い出した。
「あれ?姉貴に保安部に選ばれた事言ったか?」
晴が独り言を言っていると携帯からメッセージの音がなった。
「姉貴から?」
誓から届いたメッセージには、わからないことがあれば生徒会長を頼れと書いてあった。
「生徒会長ね、了解っと」
晴は誓へと返信を送り終わるとその日は眠りにつくのだった。