出会いの日 2
晴が部室で女生徒と気まずい出会いをしているその一方冷也は職員室へ日誌を返すため教員棟へと向かっていた。
「(そういやあいつ、もう一人の部員知ってたか?)まぁ大丈夫か」
冷也は先に部室へと向かった幼馴染を少し気にしたが、なんとかなるだろと思い気にするのをやめた、その考えとは裏腹に当の本人が絶賛気まずい状態ということを知らずに。
冷也は中庭を抜け教員棟へとたどり着いた、職員室は中庭の通路から入ってすぐ左にあった。
「失礼します一年一組温海冷也です佐野先生いますか?」
冷也が職員室へ入り一番そばの席にいる教師へと問いかけると奥の方から自分を呼ぶ声がした。
「温海ーこっちだ」
その声の先には、腕を上げ眼鏡をかけた中年で少し細身の男性教師がいた、教師の名前は佐野 良樹一年一組の担任をしている。
「佐野先生今日の日誌記入終わりました」
冷也はそう言うと、日誌を佐野に渡した。
「そうか、ありがとう」
佐野先生は、そう言うと日誌を受け取り中を確認した。
「そういえば佐野先生少し聞きたいことがあるんですけど?」
いい機会だと思い冷也は先程晴と話をしていた内容を少し聞いてみようと思った。
「おう、どうした?」
佐野先生は見ていた日誌を机に置き冷也のほうを見る。
「保安部についてなんですが、なぜ自分たちが選ばれたとか基準とかってあるんですか?」
「そうだな、基準とかは知らないが何かお前たちに光るものがあったんじゃないか?というのも俺達教師も校長から聞かされて伝えてるだけなんだ、だから詳しいことはわかっていないんだ」
佐野先生は少し微笑みながらそう言った。
「そうですか、すいませんいきなり変な質問して」
「いや、別にいいよ温海達もいきなりよくわからない部活に入れられて大変だと思うがほどほどに頑張ってくれ」
佐野先生はそう言うと、冷也の肩を二回ほど叩き微笑むのだった。
佐野先生との話が終わり冷也が職員室から出ようとすると、聞き慣れた声に呼びかけられた。
「あっ!冷也」
声の主はそう言うと冷也のもとへと駆け寄ってきた。
「ん?なんだ、渚か」
冷也は声をかけてきたのが渚だとわかると渚の方へと振り返った。
波野 渚晴と同様保育園からの幼馴染だ、人一倍活発であり遊ぶなら外という完全なるアウトドア派の人間である肩より少し長い茶色がかった髪は邪魔にならない様にヘアゴムを使用しまとめている。
「相変わらず元気だな」
「元気が一番だからね」
「元気すぎるのもどうかと思うが、それでなんで渚は職員室にいるんだ?」
時刻は夕方の四時を過ぎている普通なら、部活をしている人間は部活に行きしていない人間は帰宅を始めている、渚は同じ保安部に属しているそれなら部室へ向かっていると思っていたのだが。
「ん?私は日誌を奥村先生に渡しにきてただけだよ」
「なんだ、渚も日誌当番だったのか俺はてっきり入学して早々重要なプリントでも消失したのかと思ったんだが」
「いくら私でもそんなことしないよ、晴じゃあるまいし」
もう一人の幼馴染よ馬鹿にされているぞと冷也は心の中で思いながら渚に職員室から出ようと声をかけるのだった。
職員室から出ると二人は部室へと向かっていた。
「あれ?そういえば晴は一緒じゃないの?」
渚は隣を歩く冷也へと少し目線上げ話しかけた。
「晴なら先に部室へ向かったよ」
「一応聞くけど晴もう一人の部員知ってるよね?」
渚の問いかけに答えた冷也に渚は冷矢も思ったことを口に出して言った。
「いや、多分知らない」
「それ大丈夫なの?」
「まぁ大丈夫だろ、取り敢えず部室に向かおう」
「了解」
そう言うと二人は幼馴染の待つ部室へと向かうのだった。
初対面の人間が先ずすることとは何か、取り敢えず自己紹介だろうと思った晴は気まずさが充満したこの保安部の部室を何とかしようとしていた。
「と、取り敢えず座るか?」
目の前にいる赤面した女生徒へ提案をだす晴、すると女生徒は頷き元々座っていたであろう椅子に座った。
晴は女生徒の対面に座り話し始めた。
「改めて初めまして、俺は雨水晴ここにいるってことは同じ保安部だよな?よろしく」
晴がそう言うと少し落ち着いたのか女生徒は微笑んだ。
「すいません先程はお見苦しいところをお見せしました、初めまして立花 詩織と申します、私も雨水君と同じ保安部の部員ですこれからよろしくお願いします」
詩織はそう言うと綺麗なお辞儀をした。
「いや全然大丈夫だ、むしろ頭ぶつけてたが大丈夫か?」
「あっ大丈夫ですよもう痛みもある程度引いたので」
「そうか、悪い俺が急に話しかけたばかりに」
「いえいえ、私が消しゴムを落とさなければこんなことには」
お互いにそんな話をしていると少しおかしく感じたのか二人して笑ってしまうのだった。
「ところで、何か書いてたのか?消しゴム使ってたってことは」
「あ、はい今日の宿題をやってまして」
「マジか、真面目だな」
「宿題はちゃんとやらなきゃ駄目ですよ?」
「家でやります」
「本当かなぁ」
晴がそう言うと、詩織は信用してなさそうな目線を晴に向けながら言うのだった。
詩織が宿題をしているのでその間部室をもう一度見ていた晴は気になるものを見つけた。
「あれなんだ?」
「え?何がです?」
「いや、あれ」
晴はそう言うと部室にある天井から吊り下げられたテレビのほうに指をさした。
「えっと、テレビですけど?」
詩織はさしているのがテレビだと思い晴に言う。
「いや、そっちじゃなくてその下の棚、一番上に何か辞典みたいなのないか?」
「ん?あっ何かありますね分厚い本ですかね?」
「ちょっと取ってみるか」
晴はそう言うと、棚の方へと向かった。
黒板の横、天井から吊り下げらたテレビの下にある棚は晴の身長の170㎝を軽く超えていた。
晴は届かないとわかると近場にあった椅子を使用し取ろうとしたが、それでもあと少し届かない。
「うーんどうしようか、いちいち脚立借りに行くのもめんどくさいし」
晴はそう言うと部室を見渡した。
すると晴は詩織に目がとまった。
「よし、立花さん俺の背中に乗ってあれ取ってくれないか?」
晴は椅子の上で腰を曲げ背中に乗るように詩織に頼んだ。
「えっ大丈夫ですか?」
「大丈夫大丈夫いける」
急に言われたことにより少し吃驚した詩織だったが言われた通り晴の背中に膝をつき本を取ろうとした。
「あと、もう少し」
詩織が立てかけてある本を抜こうとしたその時だった
「あ、やばい・・・くしゅん」
晴がくしゃみをしてしまい少しバランスが崩れた、詩織は急いで本を取ろうとして手を伸ばし指を本にかけたすると本は抜けたがバランスを崩していることもあり手から落ちてしまった。
「あっ!」
「どうかしたガッ!!!!」
落ちた本は、そのまま重力に身を任せ詩織を乗せるために腰を曲げている晴の後頭部に落下した。
すると晴はそのまま痛みに耐えながら詩織を下すと床に蹲った。
「雨水君大丈夫ですか!?」
落ちた本を拾った詩織が急いで晴の元へ向かい心配していると部室の扉が開いた。
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