140字小説まとめ②
**よろしくの唄**
私だけの部屋に、スプーンと皿が奏でる甲高い音が充満する。
社会に出て一人暮らしを始めて、今日で一年になる。料理ができないこと以外の不安を言うなら、 彼がいなくて少し寂しいことだろうか。
──ピンポーン
はっとして、もう一本のスプーンを出してから、玄関に向かった。
「いらっしゃい!」
**君の夢**
僕と同じシャンプーの匂いを漂わす君が僕の前からいなくなった、ずっと昔のあの日の夢を見た。
車の屋根を打ちつける雨の音の中、助手席に置かれた焦げ茶色の鞄を漁る。
革の感触を頼りに探し出した財布を開くと、真っ先に君の顔が飛び込んできた。 色が落ち始めたそれが濡れてしまうほど、雨は強い。
**透明な声を**
駅のホームに降り立つ。自分の足音も、電車の発車する音も、私にはちっとも聴こえない。
一年前、交通事故で聴覚を失った私は今、故郷に帰ってきた。
キャリーケースを転がしながら歩くと、背後から懐かしい声が聴こえた気がした。けれど、振り向いても彼はいない。
もう、こちらにはいないみたいだ。
**夕日に沈む街**
私は殺し屋だ。 七歳の頃の両親の殺害が初仕事だった。
今日、長年過ごした街から旅立つ。
両親を殺してから名前を変え、移り住んできた地だ。
この街の人口は年々減っていっている。友人たちはここに残ると笑っていた。でももう、後悔はない。
夕暮れ時、赤く染まったアスファルトを踏みしめて、街を出た。
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