現実世界にウィンドウはなかったステータスお前もか
「ん、う?」
知らない天井である。真っ白でそっけなく円筒型のLED照明が据え付けてあるだけの。
「…………なんだ夢か。二度寝しましょう、セイ様からのメールの夢を見てしまうなんて私なんてメイドの鏡なんでしょうね。褒めてくださいますでしょうかセイ様は」
のそのそと布団をかぶりなおして目をつむるフレンダ。
しかし、なかなか寝付けない。そりゃそうだついさっきまで爆睡していたのだから。
それになんかおかしい、具体的に言えばフレンダは腕に違和感があった。
何がというと今まで経験したことが無いので表現できないのだが、継続した刺激がある。
その腕を持ち上げて自分の眼前にかざすと白いガーゼがテープで止められて、金属製の針がチューブにつながっているのが見えた。
「あー、そっかそっか。そうですよね、なあんだ右腕に針が刺さってればそりゃもう違和感あって当たり前ですよね? あっはっはー!っていうと思いましたかっ!!?? 何なんですこれ!? もしかしてこれ痛いって感覚なんじゃないですか!! まってまってまってまって!! セイ様カモン!! あなたの従者がめちゃ困ってますぅぅ!!」
がばあっ!! と勢いよく布団を吹っ飛ばして起き上がるフレンダの視界にはネットでよく見る病院室と高精細で限界の無い空が広がってた。
感動の一瞬である。混乱してなければな!!
「何の匂いだろう、鼻につんと来る……うあ駄目だ私何一つ理解できてない。しかもこの身体……もしかしなくても生身だぁ……超高級品だ。200年くらい働かないとAIには払えないよぉ」
ぷにぷにと自分のほっぺや足、二の腕や胸をもみほぐしその感覚から判断する。
だってなんか柔らかくてあったかいし、何回『システムちぇっくぅぅぅ!!』と脳裏で叫んでもアイコンの一つも出やがらんのです。
そういうのは必要なのです。偉い人はわからんのか?
「ということはここ、病院? うええぇぇ、セイ様の手紙読む直前から記憶が無い……キャンペーンなんかあったっけ? そもそもなんで私?」
困ったことにいつもなら無意識で接続可能なネットワークどころか記憶の扉すらうまく開閉できず、一向に考えがまとまらない。
だが、ここでフレンダに救いの放送が流れる。
『外来でお越しの高木誠司様、会計の処理が済みましたので受付までお越しください』
ぴん♪ぽん♪ぱん♪ポン♪
「たかぎ……せいじ。セイ様だ!! ってことはここ宮城県!?」
腕の点滴チューブを辿るとラックに半分ほど残った点滴液のパック。
ひょい、とそのラックを見ると下には滑車がついている。
「行ける。上手くいけばセイ様に会える!!」
ならばと毛布をまくり、反応が鈍い身体を一生懸命に鼓舞して何とかベッドに腰かけると……
「疲れた……無理だこれ」
汗ぐっしょり、息は上がり腕がプルプル震えていた。
「うぇぇ……この身体どうなってるの?」
膝に手を当てて突っ張ってないと前のめりに転倒しかねないほどの虚脱感がフレンダを襲う。
かといってベットに横になることもかなりの重労働。
「は、早まったかも……今更だけどナースコール押せばよかった」
その通りであるが遅すぎた。
さあ、どうしようかという時に病室の入り口に掛けられたカーテンが小気味よい音ともに開いた。
――しゃっ!
「はーい、天城さん。清拭とお着換えしますねー」
「ひゃい!?」
白衣を着てタオルと洗面器、綺麗に洗濯された代わりの病院着を持つ看護師さん。
ショートボブで不思議そうな表情を浮かべながらフレンダと目が合う。
…………
………………
……………………
たっぷり三十秒ほど見つめあい、時は動き出した。
「生き返ったああぁぁぁあ!? 先生!! 先生ぇぇ!! 脳死の患者さんが生き返りましたぁぁ!!」
大絶叫で看護師さんが先生を呼ぶ、そりゃあそうだ。
一か月前自宅で昏睡状態から流れるような脳死判定に陥った患者が目の前でぷるっぷる震えながらこちらを見つめていたのだから。
気分的には幽霊かなんかと遭遇した気分だった。
「私死んでたんですかっ!?」
「一週間前に脳死と判定されたんですっ!? なんで動けるんですか!?」
「教えてください!」
「こちらが是非お聞きしたい所です!? せんせいぃぃ!! 早く早くぅ!!」
大騒ぎだった。
とんでもない大騒ぎだった。