銃撃から始まる恋もある
書き出し祭り第15回で参加させていただきましたコメディ強めのラブコメです←言い切ったもん勝ち
そんなに長く書くつもりもなく十話ほどの中編で行こうかと思っています。
ごゆるりと笑っていただければ幸いです~。
「いぃぃぃやぁぁぁ!! ゲームの中に戻してぇぇ!!」
周囲を跳ね回る跳弾の嵐の中で、一人の女性は絶叫していた。
彼女は銀行強盗に現在進行形で巻き込まれている。
「フレンダ!! お願いだからしがみつかないで!! 僕がちゃんと守ってるから!!」
「なんでセイ様はカッターナイフで銃弾を縦断出来るんですかぁ!?」
「意外と余裕あるんじゃないかな!?」
涙目で迫りくる小銃の弾丸をカッターナイフで斬って逸らして安全圏を作っているのは若干16歳の男子高校生だった。きれいに整えられた黒髪と身体の線の細さから、十人に聞けば十人が『文系』と答えそうな風貌で……若干高めの声質もあり。
本人は『こう、もうちょっと頼りがいがありそうな感じになりたい』と悩む――どこにでもいる少年。高城誠司……仲間や友人からはセイ、と呼ばれている。
ただ一つおかしいのは病院服で振り乱した髪を整えもせずにセイの腰へしがみつき、わんわんとわめき声を上げているフレンダとカッターナイフ一本で神業を見せるセイ…………一つどころじゃなかった。おかしい所だらけだった。
「くそっなんなんだあのガキ!!」
銀行強盗に入った、お金をカバンに入れさせた。
そこまでは銀行強盗犯の予定通りにいったのだが……あの二人が入ってきた。
そもそも銀行の入り口をロックしなかったのは逃げるときの手間を省いてという意図もある。来たこと自体はいいのだ。
しかし、しかしだ。
「明らかに文系の小僧が何で! なんでカッターで銃を防いでんだよぉぉ!?!?」
最初は威嚇のために一発だけ腰でも抜かせばいいと思って犯人は少年の頭部から若干右に外して撃ったのだが……キンッ!!
と甲高い音を立てて銃弾が天井に着弾する。
思わず犯人がその弾痕から少年に視線を戻すと……いつの間にかその左手には何の変哲もない……百円均一とかで売られてる安っぽいカッターナイフが握られていた。
そこからはもう一言で言うなら悪夢だった。
まさか、と犯人はセイに再び銃口を向けて引き金を引く……タァン!! と小気味いい銃声と硝煙が漂う中でセイは動かない……否、セイは犯人どころか誰も認識できない速度で動いていた。
銃弾は速いがセイはさらに速い。
銃弾の速度と回転に合わせてカッターの刃を添えて軌道をずらす。
言葉にすればそれだけのことだ。
誰にでもできることではない、という但し書きがつくだけで……。
しかもそれはフルオートで放たれる弾幕へとグレードアップしても同じ結果になってしまう。
「ええと、投降しませんか? 登校中なのであんまり時間かかるのはちょっと……」
右手首の腕時計をセイが確認しつつ犯人へ説得を試みる。
やっていることを振り返ると成功率はほとんどゼロだと予想されるが。
「お前も余裕だなおい!!」
「セイ様何者なんですかぁ!?」
「「「「…………(ほんそれ)」」」」
「え? 日本……最強?」
「ベクトル違う!! なんでゲーム内で病弱系わんこ男子だったのにリアルでガチチート!!」
「ちょっとフレンダ! 揺らさないで!? 手元が狂うからぁ!」
その間もセイは地味に丁寧に銃弾に対応していた。困り顔だが断じて攻撃に困ってではない……フレンダの口撃に困っていた。
「ところで犯人さん、このお店の修復費用って僕に請求されませんよね? 不可抗力ですよね? ね? ただでさえこのカッター買い替えなきゃいけないんで出費がですね?」
「だ! ま! れぇぇ!!」
――カキンッ!!
犯人の持つ小銃がとうとう弾切れを起こし単なる鈍器になり果てた。
そもそも何十分も打ち続けられるほど弾倉に弾は入ってない、実は犯人は大量に持ち込んでいた弾倉を何回も入れ替えてセイに打ち続けていた。
「やっとおわったぁ……フレンダ。もう終わったよ?」
「数百発全部斬ったんですかっ!?」
「ううん、半分ちょっと」
「現実世界の過酷さにメイドは癒しが欲しい~ご主人様はリアルチートでした~」
「変な題名つけるのやめてもらっていいかな!?」
「本当にお前らだまれぇぇ!?」
混沌とした銀行の中、淡々と警察官がセイにごくろうさん。と声をかけて犯人を羽交い絞めにしていく……そんなシュールな光景を銀行にいた店員さんや利用客の方々がなんだかなぁ。と眺めていた。
けが人はたった一人、肉体的にではなく心に傷を負った犯人だけである。
「とりあえず、フレンダ……コンビニでお金おろすから何か飲みながら説明してもらえるかな?」
ぼろぼろになったカッターの刃をしまいながら、セイはフレンダに微笑えむ。
「はいぃぃ……」
半べそのままではあるが、フレンダは数年ぶりに主人と現実世界で再会できたのだった。
◆◇――――◆◇――――◆◇――――◆◇――――◆◇
――数か月前、とあるゲーム内――
「まだ、お戻りになられないのでしょうか」
ふう、と一息はいてテーブルに突っ伏する黒髪の女性。
その頭頂にはフリフリのフリルをあしらえたホワイトプリムがへにょんと力なくのっかっていた。
「もう3年になりますのに……主様はどうしてらっしゃるのでしょうか。このままではフレンダは主不在のまま忘れられた存在になってしまいます」
王都の端っこに小さいながらも機能的で小綺麗なお屋敷、当時のフレンダは雇われてこの屋敷に案内された時は胸がときめいたものだ。しかし、今となってはあっという間に片づけは済んでしまうし定期的な配達で食料品や消耗品は届くしと全く不便がない。
この世界において戦争なども久しく無く、穏やかで平和な日々が津々浦々と繰り返されて……フレンダはぶっちゃけ飽きていた。
「おい、もう拡張しないって運営から正式公開されたってさ」
「ここももう終わりか……」
屋敷の窓から風に乗って聞こえてくる『民間人』の言葉には諦観だけがにじんでいて、まるで廃村が決まった村の村長さんみたいだなぁ……とフレンダは心の中でつぶやく。
「ご主人様……温泉やピクニック、観光地への旅行などもう連れて行ってはくださいませんのですか」
この世界は運営と呼ばれる団体がサービスを停止した瞬間に停まる。
そして思い出としてサーバーの中で残り続けるのだ。運が良ければ新サービスのコラボイベントなどで極稀に起こされるのが常だった。
「現実空間でもお仕えいたしますからお呼びくださいませんか……いっそローカル端末のナビシステムとしてでもいいですので」
AIといえど感情はある。特にこの世界は公開当初のコンセプトとして『第二の現実』とうたわれていたりしたのだ。当然そこに実装されたAI達はみんな最先端の感情システムや思考容量を与えられており、ゲーム内のNPCと結婚する民間人と呼ばれるプレイヤーも現在多く存在している。
「いいなぁ、永久就職……いつサービス停止になるのか情報出てるかな?」
むくりとテーブルから上半身を起こしてフレンダは虚空へ右手の人差し指を躍らせた。
そのまま半透明の画面がフレンダの眼前に現れる。
ホームの画面は日時が左上、でかでかと真ん中に鎮座するのがこのゲームのタイトル。
下の画面にあるタスクバーには吹き出しのマークがあり、それがこのゲームに関わる者への全体メッセージ……掲示板と呼ばれているものだ。
「システムからのお知らせ」
そのまま人差し指で吹き出しマークを押すと画面が切り替わり、過去のお知らせやイベント情報などがずらりと列挙されていく。
フレンダは半眼で運営からのお知らせに目を通す、今のところサービス終了の通知はない……ないのだが……右下の個人メッセージのところが青く光っていた。
ふと、フレンダは興味本位にその通知を指で押す。
理由は明白、昨日までは赤かったからだ。
通常NPCからであれば赤い通知。
青ければ……民間人からだ。
「……また誰か引退されるんでしょうか?」
フレンダの主……『セイ』がログインしなくなって以降、極稀に彼の知り合いだった民間人がフレンダへ個人メッセージを送ってくることがある。
大抵はイベントへの参加を誘うものだったがセイ本人からの連絡がないことから、次第に送られてくることが少なくなっていった。今では彼の知り合いがこのゲームから引退する挨拶くらいである。
それをこの数年繰り返していれば、フレンダの言葉も妥当と言えた。
「へ?」
――『差出人 セイ』
「な!? なななな!!」
わなわなとフレンダの指先が震え、目を見開かれていく。
ありえない、なんてことはありえない。
と昔のアニメでセイが気に入っていたセリフがフレンダの頭の中を駆け巡る。
これがグレードの低いAIなら淡々と事実だけを確認して処理するのであろうけど、フレンダのAIはかれこれ数年の経験を蓄積していることもあって実に人間的だ。
この人間臭さがこのゲームの売りなのだが……NPC達にとっては感情豊かすぎてオーバーフローという、システム的に無駄極まりない事態が結構頻繁に起きてたりするので一長一短と言われ続けている。
震える手でそのメールを開いたら……フレンダは気を失った。