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二十ニ話 03 聖霊の墓場

 俺とプリシナは馬車を降りて砂漠の陽炎の中を歩き《砂漠の墓場》へと到着した。

 馬車の御者さんは日が落ちるまでは待って居てくれるそうだ。


 《砂漠の墓場》は近くにある赤い大岩を加工して作ったドーム型で、一般的な体育館の半分強程の広さがある。

 入口と側面が攻城兵器のような物で破壊されてあり屋根も一部崩れていた。


 俺はその屋根に《隠密の歩行ペゼウエイン・ラテイス》と《砂塵の掴手(アンモス・ケイル)》を駆使してよじ登る。


「よっと…………、良かったエナは無事だ」


 空いた穴から慎重に内部を覗くと真っ先にエナの姿を確認できた。


 相手は《サンザーラ》と呼ばれる闇の組織だ。

 人質を殺していたとしても不思議はない。本当に良かった。


 もしエナが殺されていたら俺は俺でなくなる判断をしていたかも知れない。


 そこから3メートルくらい離れた所に騎士の甲冑を身に着けた人がいる。

 ただそれより、ドーム内に真新しい無数の死体が散らばっているのが気になる。


「……やっぱりか」


 俺は静かにプリシナの待つ岩陰に戻る。


「はい、それがユリザです間違いないでしょう」

「やっぱりか」


 俺は上から見た騎士の風貌をプリシナに報告した。

 やはりあれがユリザで間違いないようだ。


 《魔蟲》に操られていても本人が生きてる場合は強さは変わらないらしい。

 相当な強敵になるかもしれない。


「プリシナ、ここで聖人達が殺されたのってどれくらい前?」

「1年ほど前です」

「真新しい死体が幾つもあった。多分罠で《魔蟲》に操られてると思う」

「私の時と全く同じ手口ですね」


 《魔蟲》に操られた屍はどれくらいの強いんだろうか。


 そして問題は数だ……全部は数え切れてないけど30体はあったはず。

 数の暴力は俺の弱点だ。

 筋力強化系スキルを持ってないから捕まったらやばい。


「プリシナは戦える?」

「それは……無理ですね。《魔蟲》には私の聖魔法が効かないので、《魔霊》系の魔物なら役に立てたのですが」

「そうか、わかった。何とか隙きを作ってエナを解放してみる」

「はい」


 もしかしてプリシナが強力な攻撃魔法を持ってるかと思ったけど、流石に聖女様のジョブは支援職だよな。

 戦闘面で当てにすることは出来そうもないね。


「……プリシナ、1つ頼みがあるんだけど」

「何でしょうか」


 ただ戦闘以外でなら猫の手でも助かる状況だ。


(《創造の贋視イマジナリー・ビジョン》)



【《創造の贋視イマジナリー・ビジョン》】

タイプ特殊、消費SP3、約5分

目の前に簡素なイメージの幻影を作り出し、複雑に動かすことができる。

効果時間が長く第3者にも見える、かわりに極めて粗悪。

【閉じる】



 俺はドームの左側面に空いた穴の傍で待機するとドームの入口の穴付近に自分の幻影を作り出した。


 《想造の粘視イマジナリー・リームス》と違って《創造の贋視イマジナリー・ビジョン》は幻影を素早く動かす事に長けている。

 代わりに質が悪くて至近距離からだと偽物だと簡単に分かる。


 それでもユリザまでは結構な距離なので十分デコイになるはずだ。


コンッ! コンッ コンッ ココンッ コココッ……


 ドームの入口側に待機していたプリシナが幻影の近くに石を投げる。


「テッ、テルト!」

「……」


 音に気付いてユリザとエナは入口にある俺の作り出した幻影の方を見た。


 エナは上手く騙されてくれたようだ。ユリザはどうだ?


 ユリザはゆらりと立ち上がりエナの方へ抜剣して歩き出す。

 やっぱり! 人質の役目は終わったから殺すつもりか!


…………ゾゾゾゾ…………


 ……駄目だ!


「くっそ……! 《跳鼬の飛脚(ストラート・サリア)》!」


タンッ! タンッ! タンッ!


 俺は全力で大地を蹴って、壁を蹴り上げ、ユリザに斬り掛かる。


……キィン!


 助走を付けた俺の全力の剣撃をユリザは静かに受け流した。


 その動きはアレクレスを凌駕するほど美しかった。

 確かにユリザは女性にしては体格は大きいが力では男が勝る。

 彼女の強さは間違いなく繊細な技の方だ。


「テルトが2人⁉」


 エナが俺の姿が2つある事に少し混乱している。


「《振裂刃シュヴィング・クリンゲ》!」


カァン! キィン! キンッ!


 ともかく今は事故や巻き添えを防ぐ為にユリザをエナから遠ざけなければ。


 幸い思った通り俺の剣を技巧派のユリザは足さばきで避けようとするので誘導しやすかった。


「……そっか幻影!」


 スキルが時間切れて消えるとやっとエナが幻影だと気付いた。


ガサガサッ……!


 声に引きずられてエナを見ると後ろに1匹の《魔蟲》が這いずりエナに襲い掛かろうとしていた。


 俺はミッションの注釈『人格が消失した場合は失敗』の不自然な一文を思い出した。


 蟲に寄生されると人格が消されたりするかも知れない⁉ まずい!


「《劈く雷迅(トルエノ・ローア)》」


バチッ!


 俺はユリザに斬り掛かるのを中断して、左手をエナの方へ掲げて雷撃スキルを放った!


「きゃっ!」


キキイィーッ!


 雷撃は制御が難しいけどなんとかエナの後ろの《魔蟲》に当たって、焦げた煙を出しながらポタリと床に落ちる。


 《魔蟲》がエナに何をしようとしてたか知らないけどこれでひとまずは安心だ。


キィン‼ ヒュン……! 


 だけど、当然ユリザはこんな隙きを見逃すはずがなかった。


ズシャ! ブシャーーーー!


「ぐわぁあああぁぁぁぁーーーっ!」


 素早く重心を移動させ俺の左側に踏み込むと、俺が掲げた左腕を一刀の元切り落とした。

 ヤバいくらいの血が腕から出る。


 激痛で叫んでる場合じゃない!


(《失血耐性(しっけつたいせい)》) 


 スキルのおかげでみるみる失血は収まっていく。

 だけど既にかなりの量の血液を失った。


 さらに左腕が無くなって重心が崩れふらふらとする。

 それだけじゃない左腕を失った喪失感で心臓が弾けそう。

 ついでに猛烈な吐き気もしてきた。


 これは駄目だ。一旦逃げないと!


タンッ


「テルトーーーーッ!」

「…………」


 俺が飛び跳ねた後をユリザの剣がギリギリで空を切った。


 その目はうつろに俺の方を凝視し獲物を狩る肉食獣の様に俺にゆっくりと忍び寄る。


 まずい。片手じゃユリザの剣を受け止められない。


「《撃滅の聖火(アイギオス・ピュール)》」


カッ! オォオオオオオオオォォォォォォーーーー!


「ぐぅううううぅぅぅぅーーーっ‼」

「プリシナさん!」


 俺を助ける様なタイミングでプリシナがユリザに聖魔法を浴びせる。

 いやまさに助けてくれたに決まってる。


 ユリザは白い炎に包まれたけど肉体が焼けるような様子は無かった。


「おやめなさユリザ」

「ううぅー…………、あっ‼」


 炎が消えた後ユリザは周囲を見回し声の主のプリシナを視認すると体を向けて走り出す。


ガシャ、ガシャ、ガシャ、ガシャ!


「おおああぁーーーー……!」

「……もう、私の事も覚えて無いのねユリザ」


 ユリザが剣を構えて斬りかかった。

 プリシナの言葉はユリザに届かず諦めの表情でうなだれている。


 なんとかしないと。

 けど俺は今とても動けない。

 さらに貧血と痛みで頭も回らない。


 駄目だ、間に合わない…………!


「《追遂の風翼(フルーゲル・ウィンド)》!」


シュン、シュンッ……ーカン キィーン!


 俺の中に諦めがよぎった時。


 プリシナの後ろから2つの回転するナイフがやや傾いた弧を描きながらユリザへと向かっていく。


 ユリザはそれに気付き立ち止まり丁寧で美しい動作で叩き落とす。


 アレクレスもやってたけどそれってそんなに簡単に出来る事なのか?


「待たせたようだな!」

「クッ、クーベル‼」

「ミュニャ!」


 ドームの眩しい入口に暗いクーベルのシルエットが浮かび上がる。

 そしてその足元でシャロンも飛び上がりエナの元へ駆けていく。


 どうしてここにクーベルとシャロンが?


「ありがとうシャロン! クーベルさんを呼んで来てくれて!」


 なるほど、シャロンがクーベルを呼んで来たのか。


 エナと使い魔のシャロンは近い距離なら思念で意思疎通ができるらしい。

 攫われた時にエナがシャロンに助けを求めたのかも知れない。


ザッ ザッ!


「うるぁああああぁぁぁーーーーっ!」


ドッ キィーンーーーーッ! ドンッ!


 俺達の感動の対面などお構いなしにユリザはプリシナに斬りかかる。


 だがそれをクーベルは許さず自慢の移動スキル《追羚の走脚(ブーバリス・ペース)》でユリザの前に立ちはだかった。


 クーベルの手には大剣が握られている。

 今クーベルは大型武器を扱う訓練の真っ最中だ。ものに出来たのか?


「プリシナ! 俺がコイツを引き受けるテルトとエナを頼む!」

「クーベル! うん!」


タッ タッ タッ タッ……


 俺の左腕を抱えたプリシナとシャロンに縄を解かれたエナが俺の元へ駆け寄って来る。


 まさかクーベルに助けられる日が来るとはね。

 今俺は失血と痛みで出る汗とで脱水症状気味だ。

 悔しいけど素直に喜んでおこう。


 ただクーベルがユリザを相手に何秒持つだろうか。

 ……次の瞬間には首が飛んでても驚かないぞ。


「さあ来い!」

「キキィ……、キキィキィ…………」


モゾモゾモゾモゾ…………


 突然蟲の高い鳴き声がドーム中に鳴り響いてクーベルの周囲に散らばる無数の屍が動き出し次々にむくりと起き上がる。


「なっ、何だコイツらは!」


 あっという間にクーベルは《魔蟲》に操られた20体以上の屍に取り囲まれた。


 ついに始まってしまったようだ────

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