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二十話 02 魔霊契約の代償

 魔光灯が僅かに黄色みを帯びた光で照らしだす中。

 アレクレスが剣を放して口元からあふれる血を手で抑えながら膝を折る。


「バカな……この俺が……!」

「……余計な事したか?」

「いーやクーベル、ナイスアシストだ」


 今回は正々堂々の決闘じゃない聖女を守るためなら手段を選んでられないミッションだ。


キィン、カン、カカン! カンッ、ジャジャジャーー……


「終わりだ、悪いけど生かしておきたくない」


 念の為アレクレスの剣を弾いて遠くに蹴飛ばしトドメを刺そうと剣を振り上げる。

 このまま放っておいても死にそうだったけど何か嫌な予感がする。


「ふざけるなふざけるな、何で俺が何で俺が、こんな所でこんな所で……嫌だ、嫌だ、嫌だ……俺は嫌だ!」

「……」


カシャ


 アレクレスは正気を失ってる様に見えた。

 俺はかけてやる言葉も無く剣を構える。


『……《(ちから)》ガ……欲シイカ? アレクレス……』

「⁉」

「何だこの声は! どこから?」


 突然当たりに重く低い声が響く。人の声には聞こえない。何だ?


『……欲シイナラ貴様ノ《心》ヲ我ニ差シ出セ……』


 耳を凝らして聞くとアレクレスの膝下から声の響いてくる。

 視線を運ぶとそこにぐもぐもと蠢く気色の悪い幼虫の様なものが皮膚を気持ち悪く震わせ音を鳴らしていた。


「くっ……くれてやる! ここで終わるくらいなら! 《心》など!」

『契約成立……ダ』


 アレクレスは幼虫の様なものに向かい血を吐きながら答える。


「テルト! なんかヤベェ早くアレクレスを殺せ!」

「あっああ!」


 クーベルに言われるまでもない!

 俺はやばい予感がしてアレクレスの胸に向かって剣を突き刺す!


「《振裂刃シュヴィング・クリンゲ》!」


ズシャ‼


 鼓動の感触が手を伝わる。俺の剣はアレクレスの心臓を間違いなく貫通した。

 これで俺が思い描くような展開は防げたはず────


グシュ! ……ギュオォオオオオォォーーーー……!


 アレクレスの膝の下にいた幼虫の様なものがグシャリと潰れ、黒い体液が周囲に飛び散る。

 その体液から何か黒煙の様なものがアレクレスの全身に吸い込まれていく。


「うっ!」


ジュボッ


 俺は剣を引き抜いて1歩後ずさる。


「ぐっ! ぐぁああああああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーっ‼」


メキメキメキメキ…… グシャ! ギシャ バキッ!


 全ての煙が吸い込まれるとアレクレスの体の中の何かが這う様に盛り上がる。

 まるでアレクレスの体内で何かが肉や骨を食いちぎっているかのようだ。


 ……どうやら手遅れだったようだ。


「なっ……何だよあれ……!」

「あれは……《魔人化(デモニック)》……」

「《魔人化(デモニック)》? なんだそりゃ」

「私が聖霊と契約したように、人が《魔霊》と契約すると人は《魔人》になる」

「そんな話、聞いた事がねぇぞ」


 クーベルの問に聖女が答えるのが聞こえた。

 《魔人化(デモニック)》なんて俺も聞いた事は無い。


「それは聖教会が隠しているから、《魔人》の力を求める人が増えないように」

「あうっ……ぐあぁ……あぁ……」


ゴリッ メリメリッ バキバキバキッ ボリボリボリボリッ!


 アレクレスは、いや元アレクレスは皮膚が赤黒く変色し指と爪が伸びまるで悪魔の様な姿へと変貌していく。

 角まで生えてまさに《魔人化(デモニック)》と呼ばれるに相応しい異形の存在だ。


「ありゃ……化け物じゃねぇか、強ぇのかよそれって」

「肉体すら人で無くなるのだから当然です」


 聖女のその言葉を聞く前に俺はさらに《魔人》から離れる。

 《魔人》と呼ぶ以外に相応しい言葉が今は見つからない。


『……良イ、良イゾ、コノ肉体……』

「《心》どころか体も魔物になって、完全に別物じゃないか!」


 変形が終わると《魔人》は初めての言葉を発した。

 その台詞からアレクレスの意思はもう感じない。

 バカかよ……そんな力じゃ、なんの意味ないだろ!


『《邪刃の咆哮(エアケル・ゲブリュル)》』


タンッ!


ドゴォオオオオォォーーーーンンッ!


 《魔人》の口から黒紫色に光る魔法が放たれる。


 俺は《魔人》の口が大きく開かれるのを見て事前に避けていた。

 魔法の光はボロボロのレンガの家の壁を破壊し粉塵を周囲に舞い上がる。


ヒィイイイイ!


 家の中から誰かの悲鳴と慌てて逃げる足音が聞こえた。


 その家の住人だったのか、騒ぎを聞き付けて覗き見でもしてたのか。

 衛兵でも呼んできてくれると助かるんだけど、この世界の貧民がそこまで気を回してくれるとは思えない。


 ふと俺のミッションを誰にも見られない縛りの事を思い出した。

 けど、もうそんな縛りどうでも良い。


「なっなんて威力だ!」


タンッ!


「《振裂刃シュヴィング・クリンゲ》‼」


ガキンッ!


「なっ‼ 傷1つ付かない⁉」


 今の《魔人》の魔法は連発出来ないとふんで俺は剣撃を打ち込んだけど《魔人》の体は異常に硬く鉄すら切り裂くスキルを弾き返した。


 この手応えは《レベル補正(ほせい)》だ! 《魔人》のレベルはこれまで体験した事のない程高い‼


『フンッ』


ゴフッ! ドンッ!


「ぐっ……かはっ!」


 《魔人》の腕の一振りで俺の体は壁に叩きつけられた。

 《衝撃耐性(しょうげきたいせい)》の限界を越えていたようで肋骨が折れた。

 肺に刺さったら死ぬ!


「とんだ皮肉だな……」

「……プリシナ?」

「我が前に《魔人》が現れるとは」

「……違う、お前誰だ?」


 俺は痛みに耐えながら片目で聖女を見ると聖女が《魔人》の方にゆっくりと歩み寄る。

 その口調と表情はさっきまでと何か違がっていた。


「我は、この女の心に宿る聖霊だ。今、しばらくの間、肉体を借りている」

「まじかよ」

「はぁ……はぁ……」


 よく分からないけど聖女の中には聖霊が居て今は入れ替わってるとかそんな所かな。


 《魔人》が攻撃対象を聖女へ変えて向き直る。

 俺は聖女を守らなきゃいけない……痛みを堪えてゆっくりと立ち上がる。


 その肝心の聖女は臆すること無く《魔人》の正面を向き両手を突き出すと、全身がうっすらと輝き光の糸が両手の内側に集まりだす。


「《聖光の浄槌アイギオス・スピューラ》!」


カッ! オォオオオオオオオォォォォォォーーーー!


『グァ……ガァアアアアアアアッ‼』


 聖女の両手に集まった光の束を《魔人》へ放射すると、まばゆい光が《魔人》の全身にまとわり付いて燃やす様に輝いた。


 でも別に《魔人》の肉体が燃えたりする様子はなく光が徐々に消えていく。

 そこには特段何も変わっていない《魔人》が佇んでいた。


「行け。今ならその刃は届くであろう」


 聖女の……いや聖霊の言葉に俺は直感的に理解した。


「《振裂刃シュヴィング・クリンゲ》‼」


ジュバッ!


 俺が再び《魔人》に全力の剣撃を叩き込むと今度は豆腐を切るように《魔人》の体を引き裂く事ができた。


 思った通り先程の聖女の魔法は俺の得意な《ガードブレイク》と同じ様な効果を持っているようだ。それもかなり強力な。


『……ォォォォオオオオーーーー……』


ガシュッ ……ドサッ!


 《魔人》は叫びながらその場に崩れる。


「倒せ……たのか?」


 どうだろうか《魔人》はまだピクピクと動いている。

 再生能力を持ってる可能性がある。


「《撃滅の聖火(アイギオス・ピュール)》」


 そう思っていると聖女は再び別の魔法を唱えて放つ。


ボオォ! バチッバチッ……バチッ……


「……燃え尽きちまった、な」



【ミッション「聖女を暗殺から守れ」達成】

【スキル「《創造の贋視イマジナリー・ビジョン》」を取得しました】

【閉じる】



 聖女の放った魔法は今度こそ《魔人》を燃やし尽くした。

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― 新着の感想 ―
[良い点] おいおい、さっきのアレクレスでギリギリの戦いだったのに、 それ以上に強い奴に勝てるかよと思ってたら、 聖女がほとんどやってくれて、楽できて助かった
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