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一話 04 猫を助けろ

 俺は森の中を歩きながらミッション『北方の地形の探索』の条件を確認した。



【達成条件】

北方の半径200メートルほどの範囲の地形の特徴を把握してください。

東西南北をバランス良く探索すると良いでしょう。

【閉じる】



 ミッション報酬のカード機能《SP表示》は欲しいな。

 もしかしたらシビアなSP管理が必要になるかも知れない。


【SP13/16】


「あれ? さっきまでSP12だったよな? 1ポイント増えてないか?」


 検索検索ぅ!



【SPの回復】

SPは一定時間で回復します。回復速度は個人差などがあります。

一晩の睡眠でも完全に回復しない事もありますので注意しましょう。

【閉じる】



 なるほどゲームのように宿屋で全快はしないのか。

 多分HPもあってそれも1日じゃ回復しないんだろうな。

 怪我とか現実でも1日で治らないし。


「……ここはゲーム世界じゃなくてリアル世界って事ね」


 さてそろそろ別の方向も探索しよ。

 次はどっちに行こうかな。


「ヴォウオオォゥー!」


 わりと近い所から獣の雄叫びが聞こえた。

 雌かもしれないけど。


 雄叫びの方を見ると木々を掻き分けながらイノシシらしき動物が猫らしき動物を追い駆けていた。


 いや、マサイ族レベルの視力でよく見るとイノシシより熊に近いかも知れない。

 俺の方に向かってくる。


「早っ!」


 大抵の野生動物は人間よりもとても早い。


 どうやら熊が猫を追いかけているようだ。

 足の速さは熊が勝っているみたいで追いきそう。

 ……追いついた。目にも止まらぬ速さで殴り掛かった。


ドゴフッ!!


「ンニギャァ!」


 猫が『く』の字に折れ曲がりながら右方向へ吹き飛ぶ。

 ……あっ、死んだな。


ヨロヨロ……


 と思ったけど生きてたらしく、猫は弱々しく立ち上がった。


ノソ……ノソ……


 けど今の衝撃ですぐには走れなそう。

 熊が猫の方にゆっくり近付いてる。


 まずいな。



【ミッション「《オルオロス》から《シャルク》を守れ」を開始しますか?】

条件、《オルオロス》(熊に似た動物)から《シャルク》(猫に似た動物)を守る。制限時間1日。

注釈、倒す必要なし。

報酬スキル、《劈く雷迅(トルエノ・ローア)

【はい/いいえ/詳細】



 ミッション発生。

 これはチュートリアルじゃ無いのか。まあそれは後。


 俺は腰のキーボード入力から『はい』を押し、続けて報酬スキルの詳細を確認。



【《劈く雷迅(トルエノ・ローア)》】

タイプ攻撃魔法、消費SP2

対象に向けて雷撃を放つ事ができる。ただし威力は強くない。

特殊な雷撃であり、近くの金属等の影響を受けず直進する。

【閉じる】



 早速試すため俺は《オルオロス》の方に右手を向けた。


「《劈く雷迅(トルエノ・ローア)》!」


 スキルを唱えると体の中を何かが流れるのを感じて、手の平に集まる。


バチンッ!


 俺の右から《オルオロス》の脇腹に雷光が奔った。


 早い! 思っていたのと違って呆気ないほど早い雷撃だ。

 そして思ったより地味だ。


ヌソッ……


 《オルオロス》は《シャルク》に向かう足を止めて俺の方を振り向いた。

 目と目が合う。


 雷撃は威力は強くないらしい。

 分厚い脂肪を持つ《オルオロス》には効果はいまひとつだ。


「グルルッ……」


 《オルオロス》は怒りの感情をあらわに唸り声を上げ俺の方に向き直る。

 取り敢えず《シャルク》からタゲを外すのには成功だな。


「《劈く雷迅(トルエノ・ローア)》!」


バチッ!


「グ……!」


 念の為ダメ押しの雷撃を《オルオロス》の顔に放った。

 少しだけ痛そうに頭を振ったけどやっぱりあまり効いていない。


「グオオッ!」


 怒ってこっちに走って来た。俺は身構えタイミングを待つ。

 《オルオロス》が手を大きく上げる。


「《跳鼬の飛脚(ストラート・サリア)》!」


タンッ! ドフンッ! ……タンッ!


 俺が後ろにジャンプした地面を《オルオロス》の鋭い爪が数10センチくらいえぐる。

 ヤバ、あれ食らったら死ねるな。


 《オルオロス》は身長は俺と同じくらいだけど体重は3倍はありそう。

 これを倒すのは無理だよな。どうしようか?


「グアァアッ!」


 《オルオロス》が牙を見せつけ体を震わせ威嚇してくる。

 怖い!


タンッ! ……タンッ!


 あまりに怖かったのでビビって後方にさらに2回ジャンプ。


 ジャンプの回数は合計4回だ。

 9回になったらまたSP2消費して《跳鼬の飛脚(ストラート・サリア)》を使わなきゃならないな。


 少し周りを観察してよう。

 辺りは木々が生い茂っていてあまり逃げ場は無さそう。

 上は? 丁度良い高さに、丁度いい枝がある、ラッキー!


ドッドッドッドッ……!


 《オルオロス》がこっちに突進して来る。

 野生動物さんは目を反らすとすーぐこれだ。


タンッ!


 俺は垂直に跳躍して上の木の枝に捕まって、勢いと腕力で一気に枝に乗り上がり、すぐさま立ち上がって別の手近な枝を掴んで姿勢を固定した。


「ふぅ……」


 下を見ると《オルオロス》がこちらを見上げてウロウロしてる。

 木の幹は太いから倒される心配は無い取り敢えず安全になった。


 さてどうするか。

 木の枝に捕まってるのは疲れるけど、《オルオロス》が諦てどこかに行くまで待つしかないかな?

 我慢比べになりそうだ。


「…………えっ?」


 《オルオロス》の後ろに《シャルク》がヨロヨロ近付いてくる。


「バカ! 何で逃げないんだよ!」


 報酬スキルの《劈く雷迅(トルエノ・ローア)》は威力は弱いけど使い道は多そうだ。

 何より最初の攻撃手段だから絶対欲しい。ミッション失敗は嫌だ!


「……他に何か無いか!」


 とりあえず周りをもう一度見てみるか。

 …………なんだあそこは?

 あれは……崖だ! えっと《オルオロス》はあそこで、崖はあっちで……。


「……よし、やってみるか」


シュタン! タンッ!


 俺は意を決して木から飛び降りて《オルオロス》の方を向いた。


 《オルオロス》は一瞬『なんで?』って顔をしたけど、すぐにこちらに向かってくる。


タンッ! タンッ! タンッ!


 俺は後方に3回ジャンプして《オルオロス》を誘導。

 合計8回。残りあと1回でラストだ。


「さあ来い!」

「グォオオオオッ!」


 《オルオロス》が雄叫びと共に猛追してくる。


 中途半端は駄目だ限界まで引き付けるんだ。

 野生動物の反射神経でかわされる。ギリギリまで我慢だ。

 失敗したら死ぬかもって思うと手から汗が出てきた。


(今だ! 《跳鼬の飛脚(ストラート・サリア)》!)


「グア゛ッ‼」


 《オルオロス》が噛み付こうと大口を開けて飛び込んで来た。


タンッ!


 俺は念の為に《跳鼬の飛脚(ストラート・サリア)》を上書きして、後方斜め上にジャンプする。


 そして首を傾けそこにあるはずの木の枝を探す……見つけた!


パシッ!



【チャナの木】

野木の一種。渋い実を付るが食べると下痢などを引き起こす。

とても丈夫で良くしなる枝を持ち、弓の原材料に使われる。

【閉じる/詳細】



 《オルオロス》は噛み付こうとした先の俺が移動したため、今度は爪で引っ掻こうとする!


グランッ!


 でも俺は崖際に生えた大きなチャナの木の枝に掴まっていて、体が振り子の原理で勢いよく《オルオロス》から遠ざかる。


 ……ヒュン!


 爪が空を切った。


「はぁっ!」


ドフッ!


 俺は掴んだ枝が反動で戻ろうとする力を利用して、スキル強化済みの蹴りを《オルオロス》の背中に叩き込こむ!


 《オルオロス》の巨体は本来あるはずの地面を越えて落下して行く。

 そこは既に崖を越えていた。


 枝が揺れて《オルオロス》の姿を見る余裕はなかったけど鈍い音が崖下から聞こえた。


トンッ トトトッ……


 俺は蹴り上げた勢いと掴んだ枝の戻る勢いを利用して崖上にジャンプし、無事着地した。


「ハァ……ハァ……!」


 呼吸を整えて手汗を拭い木に掴まりながら崖から身を乗り出し崖下を見ると《オルオロス》はなんとまだ生きていた。

 死んでてくれても良かったのに。


 でも崖は急斜面で登ってくるのは無理そうだ。



【ミッション「《オルオロス》から《シャルク》を守れ」達成】

【スキル「《劈く雷迅(トルエノ・ローア)》」を取得しました】



【チュートリアルミッション「北方の地形の探索」達成】

【「カード機能《SP表示》」を取得しました】



「よしミッションコンプリート!」


 でも今のミッションは結構ヤバかった。

 もう少しで失敗……下手したら落下して死んでたな。

 チュートリアルと違って普通のミッションは結構シビアで甘く無いのかも。


 俺は改めて後ろの崖を振り返って見た。


「この崖の存在に気付かなかったら厳しかったな」


 ……崖の存在? 知っていれば?


「事前にミッション『北方の地形の探索』をやってれば、崖に気付けていたかも」


 もしかしてそれ込みでのバランス?

 だとしたらミッションは捻くれたりぜず真面目に取り組まなきゃダメだな。


「カードカスタム機能で遊んでたのが悪かったのか……」

「ミニャア!」


 いつの間にか目の前に《シャルク》が行儀よく座っていた。


 いや思ったよりでかい、中型犬くらいの大きさで白くて長い毛並み。

 顔も猫と似てなくもないが何か違う。

 そして首には丸っこいの宝石の付いた首輪が付いていた。


「お前飼い猫だったのか? 怪我は大丈夫か?」

「ミニャ!」


 傷跡は見えないな。

 長い毛が《オルオロス》の爪から身を守ったんだろう。


「1人で大丈夫だよな? 気を付けてご主人さまの所に帰れよ」

「ミュニャー!」


 《シャルク》はまるで言葉を理解してるかのように立ち上がって森の茂みの中へと消えていった。



【チュートリアルミッション「コントロ村へ向かえ」を開始しますか?】

条件、さらに北にあるコントロ村の領内に入る。制限時間半日。

報酬、カード機能《HP表示》

【はい/いいえ/詳細】



 新しいミッションが目の前にポップした。

 さて、次のミッションに行きますか!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 制限時間1日?? シャルク走れなくなってるし、 10秒もせずに決着がつきそうな雰囲気だったけど、 意外にシャルクが粘り強くて、 放っておいても1日は死ななかったってことか? それとも…
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