一話 03 チュートリアル
俺は眩しい光の中で目を瞑り続けていた。
耳鳴りが鳴り響き徐々に肉体が重力を感じ始め、本能的にバランスを取る。
何かが足に当たるのを感じた、きっと地面だ。
急激に耳鳴りが収まって瞼越しに感じていた眩しさが消えていく。
恐る恐る目を開く────
そこは森の中、広めの獣道で少し開けた場所だった。
「すっ、凄い!」
本当に見ただけでそこが異世界だと分かった。
木や草や葉の形が地球で知っているどの地域のものとも違う!
でもそんな事より俺が驚いた事がある。
「めちゃくちゃクッキリ見える! 視力が回復してる!? 俺今マサイ族じゃん!」
元の視力は両目とも1.5だけど、それでもはっきり感じられるほど視力が上がっている。
新しい肉体だからか骨格が矯正されたからかは分からないけど。
呼吸するたび樹液や腐葉土の混じったこれまで嗅いだ事の無い匂いを感じた。
「さて、これからどうしようかな」
辺りを見回すと目の前にカードが浮いていた。
少し驚いだけど、もう異世界転生してしまってる事に比べたら些細な事だ。
気にしない気にしない。
【チュートリアルミッション「周辺の植物の観察」を開始しますか?】
条件、周辺の植物を20以上鑑定する。制限時間半日。
報酬スキル、《植物鑑定》
【はい/YES】
カードにミッションが表示された。
「おっ、チュートリアルか。なになに……周辺の植物の観察?」
報酬は《植物鑑定》スキルね。
なんかあんまり必要無さそうだけどチュートリアルだしこんなものか。
俺は選択肢に突っ込まずに『はい』を押す。
【鑑定方法】
鑑定対象の植物をよく観察します、視点を変えて様々な角度で見ましょう。
引き抜いて根を見たり、切断面を見るのも効果的です。
また危険がなければ触ったり、匂いを嗅いだり、経口摂取なども有効です。
【戻る/次へ】
なるほど。まんま鑑定って感じの事すれば良いわけね。
『次へ』っと。
【達成条件】
条件を満たすと報酬条件のスキルを獲得します。
またミッション期間中は条件スキルを試用出来ます。
未達成時は報酬スキルは消失し2度と取得できません。
【戻る/終了】
2度と獲得できないって言われると取り逃しが怖くなる。
ゲームでもこういうのコンプリートしたくなるんだよな。
『終了』っと。
「とりあえずやってみよう」
俺がその場にしゃがむと宙に浮いていたカードも共に動く。
手近な小さい花に手を伸ばして引き抜く、そして根や葉の裏を見て匂いを嗅ぐ。
チュートリアルは捻くれず素直にやるのが間違いない。
【ハナラン】
鑑賞以外にとくに用途の無い野草、春になると花が咲く。
下痢になるので食用に適さない。
【閉じる/詳細】
食べると下痢になるのか経口摂取は試さなくてよかった。
『詳細』は今は見なくていいな。『閉じる』っと。
要領は分かったし早く終わらせよっと。
【チュートリアルミッション「周辺の植物の観察」達成】
【スキル「《植物鑑定》」を取得しました】
よしミッションコンプリート。
時間は10分ちょいかな? チュートリアルだけあって簡単だ。
【チュートリアルミッション「周辺の動物の観察」を開始しますか?】
条件、周辺の動物を20以上鑑定する。制限時間半日。
報酬スキル、《動物鑑定》
【はい/YES】
おっ、次のミッションか。『はい』っと。
【ボーナスミッション「北方向への移動」を開始しますか?】
条件、開始地点から北方向へ約300メートルほど移動する。制限時間半日。
報酬スキル、《跳鼬の飛脚》
【はい/YES】
おおっ? 『はい』っと。
【チュートリアルミッション「北方の地形の探索」を開始しますか?】
条件、北方の周辺地形の探索。制限時間半日。
報酬、カード機能《SP表示》
【はい/YES】
ミッションが立て続けに3つ発生した。
1つ目の『動物の観察』ミッションは、その辺に昆虫が何匹もいるのを見たしすぐ終わるだろ。
2つ目の『北方への移動』ミッションも簡単だ。
まずは太陽だ……あれか。地球のと殆ど同じくらいかな?
「こういうのは得意なんだよ」
時刻は正午くらい、獣道は太陽の見える方向に続いていた。
太陽の方向は南だから逆が北って事だ。
勿論今いる場所が南半球だったら逆になるけど、その時は戻ってくれば良い。
時間には余裕がある。
「《跳鼬の飛脚》ってなんだ? 名前からはよく分かんないな」
指スクロールで戻って『詳細』を見る。
【《跳鼬の飛脚》】
タイプ移動、消費SP2、使用回数9
垂直3メートルほどジャンプできる。
移動や回避に使用できる。
移動スキルかこれはかなり実用性がありそうだ。
この使用回数9ってのは、もしかして1回の消費で9回使えるって事か?
【『SP14/16』】
SPってのはカードの端に表示されてる、これだな。
少し減ってるのはさっきの《植物鑑定》スキル分かな。
【スキル発動方法】
心の中でスキル名、あるいはイメージなどで発動します。
スキル名の発声により威力が上がる場合もあります。
初回の発動は感覚を掴むためオートで発動します。
【閉じる】
なるほど。新スキルは1回使っておくのが良さそうだ。
「《跳鼬の飛脚》!」
スキル名を叫ぶと自分の意識とは別に体が勝手に屈む。
おっとオートってこういう事ね!
トンッ!
そして俺の大腿四頭筋が唸りを上げて体を垂直に跳躍させる。
めっちゃ早い、思ってたより3倍くらい早い、きっと今の俺は赤い。
頂点で停止。
体の自由が戻ってゆっくりと落下を始める。
……シャアッ! 着地。
「こりゃ、凄い」
続けて進行方向の北に向かってスキルで横方向にジャンプしてみた。
トンッ!
これまた思ってたよりスムーズにコントロールできた。
続けて3回、4回、5回、6回、7回、8回、9回……痛っ!
最後のジャンプで飛んでいた小虫が顔に当たった!
「イテテ……」
移動に使うと助走が付いて怖いくらいの速度になる。
虫に当たっただけで大ダメージだし、木の枝とかも怖いな。
『SP12/16』か、思った通り1回SP2消費で9回使える。こりゃお得だ。
でも《動物鑑定》のミッションもあるし虫を探しながらゆっくり歩いて行こう。
【チュートリアルミッション「周辺の動物の観察」達成】
【スキル「《動物鑑定》」を取得しました】
【ボーナスミッション「北方向への移動」達成】
【スキル「《跳鼬の飛脚》」を取得しました】
30分くらいかな? 楽勝楽勝!
でも確認が面倒だな。効果音が鳴らないからミッション終了が分かりにくい。
……ん? カードの右上にハンバーガーアイコンっぽいのがある。
これってもしかしてメニューじゃないか?
【ユーザー】【取得スキル】【検索】【カスタム】
やっぱりそうだ!
とりあえず『ユーザー』と『取得スキル』を見たけど予想通りの情報が表示されるだけだった。
『検索』は音声認識と使いにくそうなキーボード入力。今はいいや。
『カスタム』……これだ!
カードの表示をカスタムできる機能らしい。
しかもめっちゃ高機能でカードを別ウィンドウのように増やしたり、大きさ、形、色、フォント、表示内容を設定できる。
他にも相対表示位置を手首などに設定できて、手と連動させればそのウィンドウも一緒に動いた。
残念ながら効果音は無かったけど。
「色に透明度があるのが大きいな、これは凄いぞ!」
俺の中の謎スイッチが入った。
こうなったらもう止まらない。
俺は意外と手先が器用で図工や工作で金賞をとった事もあるんだ!
「出来た!」
ビフォアアフター。
匠の技をお見せしよう。
通知の設定はウィンドウを透明にしてメガネの様に頭部に連動させる。
フォント色を白、フォント影を黒、40フレーム間表示してディレイで20フレームかけて消去に設定。
これなら通常時は透明なので視界の邪魔にならない。
通知のログは左腕に別ウィンドウを連動させた。
これで通知の見逃しもすぐに確認出来る。
必要なSPなどの情報表示は右腕に。
腕時計の様に必要な時だけ見れば良い。
そしてキーボード入力を右腰に。
これでミッションの選択とかを目立たず自然に操作出来る。
「完璧過ぎる!」
あっと……1時間ちょいくらい時間が経ったかな? 試行錯誤して結構時間が掛かっちゃったな。
まあ制限時間はたっぷりあるし大丈夫!
さあミッションの続きだ!