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六話 01 貧民街にて

 盗賊団がハーツゲッヘ伯爵の宝物庫に侵入する予定の前日の午前。

 俺ことテルト・リバースとシャロンはアルセフォン市に到着した。


 アルセフォンはオロフォンの3倍くらいの規模で伯爵家の主領だけあって見事な賑わいを見せていた。


 ゴルトンに紹介された店で部屋だけ先に貸して貰った。

 店の人は親切で頼めばいつでも仕事を紹介してくれるそうだ。


 ただ今は仕事よりやる事がある。


「行くよシャロン」

「おー!」


 俺達は部屋に荷物を置き早速観光にいや下見へと繰り出した。




◇◇◇




 俺とシャロンはハーツゲッヘ伯爵邸の宝物庫の下見に向かっていた。

 ……向かっていた筈なんだけど。


「あれー、おっかしーなー」

「テルト迷ったー?」

「うん迷ったかもー、誰かに道でも聞こうかな」


 建物がボロくいかにも治安が悪そうな区域に迷い込んでいた。

 道がやたらかなり入り組んでいる。

 防衛上の理由で都市の道を複雑にするとか聞いた事が有る。

 もしかしてそれかな? もしくは無計画な都市計画か。


 細道を抜けてなんとか人通りの多い開けた通りに出れた。

 よし誰に道を訪ねよっ。


「こりゃー! 糞ガキども! ワシの鉢を返せー!」

「わっー!」


 目の前を3人の子供が走り抜けて行った。

 反対側を向くと老人が叫びながらゆっくり走って来る。


 いや全力なんだろうけど。


「泥棒じゃ! 誰か捕まえてくれ!」


 老人が叫んでも周りの人は無気力で何もしようとしない。

 みんな着ている服も粗末で貧しさが伺える。


 仕方ないねぇ。


「待て!」


 俺は捕まえようと走り出したけど既に子供達はかなり遠くに逃げていた。

 スキルを使おうかと思った矢先3人の子供はそれぞれ別の路地へ散り散りに走り出す。


 子供とは言え逞しく生きる知恵を持ってるようだ。これは無理だ、諦めよ。


「シャロン、戻ろう」


 俺とシャロンが戻ると、老人は呼吸を荒げながら壁に寄り掛かっていた。


「ゼハァー……ゼハァー……」

「ごめん、子共達逃げ足が早くて逃げられちゃった」

「追いかけてくれたのか、すまんのう」

「じいさん何を盗まれたの?」

「ぬぁあ、ワシの銭入れ用の小鉢じゃ。そんな大した金は入っとらん」


 改めて老人を見ると、白い髪とヒゲが手入れもされずボサボサに伸び切っていて衣服もボロボロで継ぎ接ぎすら綻びている。

 まるで物乞いのようだった。


「それは良かった」

「良くないわい! これからどうやって金を稼げばいいんじゃ! 新しい器を探さんと!」


 老人は両手で空虚な小鉢をクルクルと撫でる様な動作をした。


 小鉢を使って金をせびっていたらしい。どうやら物乞いそのものだったようだ。

 同情してお金を恵んでやる気は起きない俺はケチだし財布の中身も凍ってる。


 そうだ道を聞かなきゃ!


「爺さん、ハーツゲッヘ伯爵のお屋敷ってどっちにあるか分かる?」

「ん? 何じゃ? 向こうの大通りの先じゃが?」

「ありがとう。それと伯爵のお屋敷のどのへんに宝物庫があるか知ってる?」

「宝物庫? お前達、まさか盗みにでも入るつもりか?」


 老人は眉をひそませ怪しむ様に俺の顔を覗き込んだ。

 あっ、しまった。そりゃそう思われるよな。軽率だった。


「違う違う、盗みに入ろうとしてるのは俺達じゃない」

「何? どういう事じゃ?」


 周りを見るけど近くに人は居ないし遠くの人は興味も無さそうに座り込んでる。

 少しくらいなら話しても大丈夫か。


「ここだけの話にしてくれよ爺さん。実は伯爵の宝物庫がガレオロス盗賊団って奴らに狙われてるんだ」

「なんじゃと!?」

「テルトはそれを止めに来たの!」

「こら! シャロン静かに! 誰かに聞かれたらどうするんだ」


 俺はシャロンに人差し指を立ててシーッとした。

 良かった周りの人は誰も反応していない。


「なんでじゃ? 誰かに聞かれてまずいのか? やはりお前達が盗人じゃな?」

「違うんだって爺さん、実は盗賊団には内通者がいるんだ」

「ほう? 話によっては、ワシも黙っててやらん事もないぞ?」


 老人が眉をよじりながら聞いてくる。


 面倒くさいじいさんだな。

 仕方ない事情を少し話すか。騒がれたら台無しだし。


「俺達はオロフォンでガレオロス盗賊団に盗みをされたんだ」

「ほう」


 盗まれたのはゴルトンの宝石細工だけど詳しい説明は省いちゃえ。


「その時シャロンの鼻を使って、逆に盗賊団の仮拠点を突き止めてやってさ」

「シャロンの手柄ー!」

「そこで明日の夜に、盗賊団が宝物庫に盗みに入る計画を盗み聞きしたんだ」


 どう? これで納得した?


「なるほど。それを伯爵家に伝えて褒賞を貰おうと?」

「いや違うよ」

「なんじゃと?」


 老人が目を見開いて驚いた。


「さっきも言ったけど伯爵家の内部に内通者がいる。知らせてもバレて計画を変更されるだけ」

「むぅー……」

「今の話、本当か?」


 突然後ろから男の声がした。

 振り向くと2人の騎士が俺の方に歩いてくる。


 オロフォンで宝石細工を取り戻した後に出会った騎士だ。

 確かアレクレスとか言ったっけ?


「今の話は本当かと聞いている!」


ガシッ!


「うぐっ!」


 なんて答えようか考えていると、いきなりアレクレスが俺の胸ぐらを掴み持ち上げた。


 くそっ! なんなんだよコイツは。

 この前は酒のせいかと思ったけどシラフでもいきなり暴力かよ!


「本当っ……だっ!」

「ふんっ」


ドッ!


 なんとか答えるとアレクレスが手を放して俺は片膝を付いた。


 顔を少し上げると老人はフードを深く被り顔をそむけていた。薄情者め!

 シャロンはムッとした顔をしてるけど感情的に動いたりはしない。

 話がややこしくならないから助かるよ。


「それでビシター計画は何時だと言っていた?」

「明日の夜ですアレクレス様」

「時間は?」

「言ってませんでした」


 俺達は小声で話してたからアレクレス達の場所からは聞こえ無かったはずだ。

 多分このビジターって騎士が聴覚強化系のスキルで聞いたんだろう。


「時間はいつだ!」

「……明日の夜……4の刻」


 この世界の時間は1日が12刻。

 1刻が地球時間で2時間。


1の刻は 22時ごろ。

2の刻は  0時ごろ。

3の刻は  2時ごろ。


 つまり4の刻は地球時間で朝4時ごろだ。

 『2X-4』の計算式で覚えた。


 ちなみに5時なら4の半刻と数える。

 分に相当する言葉もあるけど一般的じゃないらしくてかなり大雑把だ。


「内通者が居るんだったな、俺達だけでやるぞビシター」

「そうしましょう」

「行くぞ」


 そう言ってアレクレス達は去って行った。


 やれやれ服に土埃がついちゃったよ、中々落ちないんだよなこれ。


「ふぅー、怖かったのう」

「シャロンあいつら嫌い!」

「俺も嫌いだよ」


 薄情な老人がフードを脱ぎながらほっとした顔で立ち上がる。


「でも良かったのう。ガレなんたら盗賊団もさっきの騎士達がいれば安心じゃろ」

「……どうかな」

「どうかなとは?」


 ほっとした老人には悪いけど、俺は思わずニヤリと笑ってしまう。


「盗賊団が宝物庫を狙う時間は本当は2の刻なんだ」

「なんじゃと!?」


 老人は目玉が飛び出そうなほど驚いた顔をした。

 あんな奴らに捻くれ者の俺が素直に教える訳が無いじゃん!


「なんで嘘を付いたんじゃ? それでは盗賊団を止める者が居なくなるではないか?」

「大丈夫だよ、俺達がやるから」

「ほぁ?」

「そのために準備して来たんだ」


 もはや驚くを通り越して呆れるような老人に向かって俺は胸を張る。


「……そんなに手柄が欲しいのか?」

「手柄? まさか、誰にも見られないように盗賊団を倒したら、黙って立ち去る予定だよ」

「なら何の為にじゃ?」


 どうせ答えても理解されない。


 盗賊団を止めるミッションが面白そうだからやってみたいってだけ。

 だけど、それを見られて正義感ぶってるだとか偽善者だと思われるのは癪だ。

 だから誰にも見られないようにコッソリ隠れて心置き無くやる。

 それが俺の誓いと縛りだ。


 それに……。


「あのアレクレスって騎士達を、俺は信用していない」

「ほぁ??」


 なんだか老人に話しながら俺の中でのあやふやだったものが、あらためて決意に変わった気がする。


「いま信用できるのは俺とシャロンだけだ」

「シャロンもテルトだっけだー!」

「……」


 老人にキツく口止めをして俺達は伯爵家の宝物庫へと向かった──




◇◇◇




 アルセフォン市内の人気のない区画の細長い横道の影の中。

 そこにガレオロス盗賊団のベイガスと騎士のビシターの2人がいた。


「計画がバレていただと!?」

「アレクレスを誘導して聞き出した。15歳前後の少年と白い《シャルク》だ。心当たりは?」


 ベイガスは口調こそ驚いた調子だが、顔も殆ど動かさず腕を組んで建物の壁に背を掛けていた。


 対面のビシターも直立したまま微動だにしない。

 2人は視線を交差させる。


「ある。ドンピシャだ、仕方ない計画を中止するか」

「いや待て、計画の時刻は2の刻だったな? その少年は4の刻だと言っていた」

「本当か?」

「少年が聞き間違えていたのだろう。計画に問題ないはずだ」

「……いや。そのガキが本当は2の刻なのを知っていて偽った可能性がある」


 この世界の2と4は聞き間違えるような発音では無い。

 ビシターはしばらく考え込む。


「仮に少年が伯爵家に密告しても伯爵家内の内通者が知らせる手筈だな?」

「ああ」

「アレクレスからは俺が目を離さない。問題あるか?」

「……いや」

「あの少年に何か出来ると思ってるのか?」

「まさか」

「《天羅の星華(てんらのせいか)》は金貨100枚にはなる。逃すのは惜しい」

「分かってる」


 口以外は微動だにしなかった2人が最後の言葉を皮切りに、同時に別々の方向に歩き去り雑踏の中へ溶け込んでいった──

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― 新着の感想 ―
[一言] このミッションは難易度高すぎないか? 無双系でもない主人公が盗賊団を相手する 衛兵、騎士に頼ってもいけない。むしろ邪魔な競争相手 被害者にも話さず裏で解決する どうしろってんだよ 不治の疫病…
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