五十二話 03 始まりの地で
《マジックビジョン》の画面の光は形を変え一つの部屋を映し出す。
レケットがマイクのセッティングを終えると画面外に退場して行く。
「皆さん、私の声が、私の姿が見えておりますでしょうか」
「あれは聖女様! 聖女プリシナ様だ!」
「⁉」
そして中央にはプリシナとロイナードが並んで立っていた。
「驚いた方も多いと思います。この放送は魔法ではなく電力、科学の力というものでお送りしています」
「隣にはロイナード様も居るぞ!」
「プリシナちゃんにロイナード様まで、何がどうなってるの?」
《魔嘔》と戦ったあの時から私はプリシナとは会っていない。
力が無くなってもプリシナは聖協会の象徴として復興に尽力していた。
「記念すべき《テレビジョン》の放送で何を話そうか迷いましたが、まずはテルト・リバースの真実について皆さんにお伝えする事にしました、どうか聞いて下さい」
「テルト・リバースの真実だって?」
ドヨドヨ……!
「巷ではテルト・リバースは暴君として忌み嫌われてる事を知っています。テルトが行った事を考えれば当然です。ですがテルトの行動には理由があったのです」
プリシナの代わりにロイナードが語りだした。
しかして二人共……。
「魔法やスキルには予言や未来予知の能力があります。でも見える未来は漠然としてあまり当てにならないものだったり精々数日先が限度です。しかしテルト・リバースはかなり先の未来を正確に知る事が出来たのです」
「なんだって!?」
未来予知の力は国家機密レベルのレアスキルで一般人には殆どしられていない。
でもロイナードには人々を説得できるだけの信頼と力がある。
「その能力で《魔嘔》の襲撃を事前に知り、《魔嘔》を倒し世界中の被害を最小限に抑える方法を考えました。しかし常識的な方法では一冒険者のテルトの言葉では世界中の国は動かず《魔嘔》によって滅ぼされてしまうのです」
やっぱりそうだ。
二人共私がやりたかった事と同じ事をしてくれてるんだ。
「様々な方法を試す中、暴君として世界を支配する方法が最も損害が少なくなると突き止めテルトは実行しました」
民衆もマフィアも今や《マジックビジョン》に釘付けになって、プリシナとロイナードの言葉に耳を傾けて聞き入っている。
「皆さん、テルトは確かに横暴だったかもしれません。でも考えてみて下さいあの巨大な《魔嘔》が発生したにも関わらず被害があまりにも少なかったとは思いませんか?」
「確かに王都も殆ど無傷だった」
「俺の家族も皆無事だ」
完全に潮目が変わったのを肌で感じた。
これは夢?
「勿論、中には救いきれず犠牲になった者、家を失った者もいるでしょう。恨むなと言うのも無理な話かもしれません」
「しかし、もう既にテルト・リバースは死にました!」
「え!?」
「何だって!?」
テルトが死んだって言うのは嘘だ。
でも転生の事を話すと話がややこしくなるので仕方がない。
「テルトは自分が死ぬ事も予知能力で知っていたのです。自分の命を犠牲にしてテルトは世界を救ったのです!!」
「そんな……!」
「私は思いました、テルト・リバースは立派な英雄であったと! 彼の名を暴君として残すべきでは無いと!」
「どうか皆さん。テルト・リバースへの恨みは水に流し、王都とこの国の復興に励んて下さい」
オオオオオオオオオオオオオオォォォォォォーーーーーーッ!
ロイナードとプリシナの力強い演説の言葉に民衆は大歓声を上げた。
「なんて事だ、嬢ちゃんの言っていた事は本当だったのか」
「ロイナード様が言うなら間違いない、すまななったな」
「テルト・リバースこそ真の英雄だ!」
信じられない。
絶望的だと思っていたテルトの名誉の回復がこんなにあっさりと……。
バカだな私。
私がやった事は全部無駄、全部プリシナに任せておけば良かったんだ。
私は何もする必要なんて無かったんだ。
「テルト……良かった。本当に……本当に良かった」
「ずいぶん無茶をしたようですねエナさん」
ついさっき聞いたばかりの懐かしい声が後ろから聞こえてきた。
「!? プリシナ! どうしてこに?」
「街中に張り紙が貼られてるという噂を聞いてすぐにエナさんだと分かりました」
振り向くとそこにはさっきまで《マジックビジョン》で演説していたプリシナが立っていた。
そういえば映像は録画できるんだっけ?
「あの貼り紙のお陰で気付いたんです。復興の前に先にテルトの汚名を拭っておくべきだと」
「そう……ありがとうプリシナ」
そっか……、私の行動は無駄じゃなかったんだ!
いつのまにか雨は止んで雲の隙間から淡い夕日が頬を優しく照らしていた。
◇◇◇
二ヶ月後。
私とプリシナは王都から東にあるコントロ村にやってきていた。
あの後聖協会の力添えで各地の視察を兼ねたテルトの名誉の旅をしている。
「そう……やっぱり皇帝テルト・リバースってあのテルトだったんだね。まさかとは思ってたけど」
「何かでかい事をやるとは思っていたけど、まさか世界を救った英雄になっちまうとはな」
「安心しなさいな。このコントロ村でテルトの事を悪く言う者なんていやしないし、私の目の黒いうちは誰にも言わせやしないからさ」
「はい」
幸いこのコントロ村はテルトと縁があって、このドーラと言う女将さんを中心にスムーズに話が進んだ。
懐かしいなぁ、向こうは私の事は覚えてないみたいだけど。
「しっかし大変だねぇ嬢ちゃん達、テルトの事を国中に広めるために旅をしてるなんてさ」
「この辺りの村や町は俺達がやっておいてやるよ」
「ありがとうございます」
「じゃあ気をつけてな」
事情を知らないプリシナはあまりに協力的な村人達の態度に目を丸くしている。
後でテルトのコントロ村での活躍を話してあげよう。
「エナさんどうしたんですか?」
村から出る直前で私は立ち止まる。
「……ちょっと寄って行きたい所があるんです、少しいいですか?」
「もちろん付き合いますよ」
懐かしさが蘇ってどうしても立ち寄りたい場所を思い出した。
……ザッ、ザッ、ザッ、ザッ……ザッ
コントロ村とセラスールにある私の家の間にある森の中。
私はプリシナの少し先頭を細い獣道を枝をかき分けて進む。
「ミュニャア!」
「ミャ!」
シャロンとダークも私達の後ろを飛び跳ねながらつい来ている。
「ここですか? テルトとエナが初めて出会ったという森は」
「はい、私はここでテルトに教わったんです。呪いを言い訳に自分を押さえつけるのを止めて、心の赴くままに行動する勇気を」
季節はもう初夏で木々が濃く生い茂っている。
雰囲気は同じだけど森の中の景色は記憶に無いほど変わっていた。
まるでテルトとここで出会ったのが夢だった様な気がしてきた。
「そうなんですか、大事な思い出の場所ですね」
「はい……あっ!」
タタタッ
少し開けた場所で小さな光が目に入った、私は駆け寄ってそれを拾う。
「これはあの時のポーションの空き瓶……」
厚く硬い小瓶が2つ落ちていた。
テルトが倒れた時私が使ったポーションの空き瓶だ。
「やっぱり……夢じゃなかったんだ、テルトは本当に居たんだ」
「……エナさん?」
小瓶を包み込むように持つ両手が震える。
あの時テルトを抱きしめたはずの両手の感覚をどうしても思い出せない。
「テルト……」
いつからだろうこんな感覚になったのは。
そうだ、テルトと最後に別れてからだ。
小瓶を落として自分の両手の平を見つめる。
別れ際、テルトに触れようとして触れられなかったあの時から両腕が自分の手じゃないみたい。
これまでずっと抑えつけていた何かがはち切れて両目から涙が溢れてくる。
「プリシナ!」
「エナさん!?」
私は立ち上がってプリシナに抱きつく。
自分の涙を見られたくなくて。
誰かを抱きしめたくて。
「やっぱり駄目、私!」
「ど、どうしたんですかエナさん!」
「もうテルトは居ない、テルトは戻ってこない。だからこれからは一人で生きていこうって決意もした……だけどやっぱり駄目なの!」
突然の事でプリシナが動揺しているけど今は自分の感情を抑えられない。
「テルトが居なくなってから両手があるのに両手が無いみたいで」
「エナさんしっかり」
「ごめんプリシナ、でもクーベルさんとは違ってテルトは生きてるんですもの! テルトは生きてる……テルトに会いたい、テルトにもう一度会いたい!」
「エナさん……」
もう一度テルトに会いたい!
テルトとずっと一緒に居たい!
クーベルを失った悲しみはプリシナも同じ。
私の願いは身勝手なんだって分かってる。
プリシナの事を考えると本当にあまりに自分本位で、自分が嫌になる。
だけど想うのを止められない。
「うあぁぁああああぁーーーーん!!」
大声で咽び泣く事しか今の私にはできなかった。
◇◇◇
第二ステーション。
その暗い暗室でムクテリスが明るいモニターを眺めていた。
「自分を押さえつけるのを止めて、心の赴くままに行動する勇気……ですか」
「ムクテリス様そろそろこの第二ステーションを爆破する時間です」
後ろの扉が開きムクテリスと同種の巨大な頭の生物が連絡にやってきた。
「それが必要なのは我々《ケアムーバ》かもしれないですね」
ムクテリスが顔を上げる。
眼の前には数百の円柱状の半透明の容器が立ち並んでいた。その中にはこの世界での転生者達の肉体が入っている。
ムクテリスは一瞬の逡巡のあとコンソールのボタンに指を伸ばす。
カチッ ……ヴォオオオオォォォォーーーーン……
装置が起動していくつかの光が円柱状の容器が包み込む。
◇◇◇
「あぁぁああああぁーーーーん!」
森の中で咽び泣きながらプリシナに抱きついているエナ。
カァーーーーッ!!
「!?」
その後ろで光が突然輝き出す。
プリシナの胸に顔を埋めるエナは気付いていない。
ズザザッ!
包んでいた光が消え中から人が一人現れた。
それをプリシナは硬直しながら見つめていた。
「エッ……エナさん!」
「?」
数秒後、硬直が溶けたプリシナはエナの肩を叩いて知らせる。
「……後ろ……」
目を赤くしたエナがプリシナから離れて顔を覗き込むと、プリシナが目を見開きながら後ろを指差していた。
エナが無造作にプリシナの指差す方へと振り向く。
そこに立っていたのは────
「テルト!!」
タタタタッ ……バッ!
エナは小さく駆け寄ってテルトに抱きついた。
「ミュニャア!」
「ミュニャア!」
抱き合う二人の周りをシャロンとダークが駆け回る。
初夏の太陽が空と森を蒼く照らしていた────
◇◇◇
新首都アルセフォン市、その一角に大きな工房が作られていた。
工房内では転生者のリーレレが製図をしていた。
「リーレレ先生この機械はなんですか?」
「それはボーリングだよ、地中に穴を開けて石油という燃える液体を掘り出す為の機械だ。魔法が無くなったこの世界の新たなエネルギーになる物だよ」
「へぇー!」
ハーツゲッヘ伯爵の後ろ盾でリーレレがこの工房の所長をしており、多くの弟子を抱えている。
冷めかけたハーブティを口に運びながら弟子の質問に答えた。
「あれこの写真は何ですか?」
「ああ、それは昔なじみの冒険者と久々に出会ったので記念にね。今度届けなくては」
《魔嘔》を倒した後、転生者は元の世界に帰った筈だった。
だが何故かリーレレは数カ月後のこの世界に戻っていた。
理由は知らないがリーレレはこの世界を少し気に入っていたので嬉しかった。
それにこの世界に戻っている転生者は他にも何人かいて、たまにリーレレの元へ尋ねてくる。
それが世界での楽しみの一つになっていた。
「リーレレ先生は冒険者でもあったんですか、本当に多才ですね尊敬します!」
「……写真を作る約束、果たせて良かった」
弟子に聞こえない小声で呟きながら写真を優しい眼差しで見つめる。
写真には中央に小さなリーレレが、左右には男女の冒険者が並んで写っていた。
fin
最後まで読んで頂き有難うございます。
プロットの段階で結末まで全て決まっていたのですが最後の2話で何故か筆が止まってしまい、約一年越しの完結さとなってしまいました。
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