キララと両親
「あたしが一年生のときに、悠里ちゃんって子がいたの」
腕が疲れたらしい。キララはシャベルを地面に置いた。
「小学校ではじめて出来た友達だったの。いつも大声で笑ってて、一緒にお姫様の絵を描いたの。すごく絵が上手で、一緒にいると楽しかった」
キララは無神経な子供だった。
それに加えて両親からの愛情不足によって不安定なところもあった。
そういう子供は一定の親しさを相手に感じた途端、横暴になってしまうこともある。
「他の子と遊ばないでって言ったり、わざといじわるしたり…いやなこと、したの」
悠里は優しい子供だった。キララの言葉に従えばキララのかんしゃくが治まった。
まだ一緒にいると楽しい時もあったため、はじめは我慢をしていた。
「悠里ちゃんは、ちょっと太っていたの。でも悠里ちゃんのママはそれでも悠里ちゃんがカワイイって言ってた」
キララはそれがうらやましくて、許せなかった。
「悠里ちゃんにデブだって、ブタみたいでおもしろいって、言ったの。そしたらいっぱい泣いちゃった」
キララは膝を抱え込んだ。
「はじめて大嫌いって言われたの」
そのあと、ケンカしたまま泣きながら家に帰った。
優しい悠里ちゃんに嫌われてしまったと考えると、途端に怖くなってしまった。
悲しくて涙が止まらなかった。
そして運悪く、その日はたまたま父親が家にいた。
「パパにどうしたのって聞かれたから、悠里ちゃんとケンカしたって、大嫌いって言われたって。言っちゃったのよ」
両膝に顔をうずめた。
今でも悠里の大嫌いが耳に残っている。
「…そしたら?」
キララは後悔を思い出して笑った。
「もう次の日から、学校に来なかったわ。そのあとね、もう遠くにやったからいいだろって。パパが言ったの」
後悔を思い出して苦しくなった。キララの顔が歪んだ。
「あたしは、そんなこと、してほしくなかった」
鼻がつんと痛くなる。涙が出そうだった。
「そっか…」
ハクちゃんはまた優しい声で語りかけた。
「キララちゃんは、悠里ちゃんに謝る勇気が欲しかったんだね」
キララは顔を上げてハクちゃんを見た。
「壁を排除してほしいんじゃなくて、乗り越え方を教えてほしかったんだね」
「…うん」
「本当は話を聞いて、背中を押してほしかったんだよね」
「うんっ…!!」
キララは堪えきれずに泣き出した。
今までキララの話をゆっくり聞いて、気持ちを理解しようとしてくれる存在がいなかった。
優しい白骨死体だけがキララの話を聞いて、気持ちを理解してくれようとしてくれた。
キララにとってそれは泣いてしまいたくなるほどに嬉しいことだった。
「私でよければ、これからキララちゃんの話、たくさん聞くからね。いっぱいお話しようね」
「うん!!」
キララは嬉しそうに笑った。
ハクちゃんも嬉しそうな笑い声をあげた。