キララと大人
遅くなりました。
キララの両親は仕事で忙しく留守がちだった。
そのため多くの時間を両親以外の大人と過ごしてきた。
まず通いの家政婦が二人。当番制でどちらかが必ず家にいる状態だ。
「家政婦の佐々木ってオバサン、いつもうるさいの。好き嫌いするなって作るごはんは野菜ばっかりでマズイし、宿題しろとかネチネチえらそうでだいっきらい」
でも、とキララは続ける。
「佐々木のオバサンは嘘をつかないからまだいいの。もう一人の北村はもっと嫌い。あたしみたいな子供にコビうってみっともない。それに、あの人がママのアクセサリー盗んでるとこも見たわ。でもごはんにあたしが嫌いな野菜を出さないからまだ見逃してあげてるのよ」
両親が家にいるといろんな大人が訪ねてきた。
仕事の関係のパーティーに連れて行かれたこともある。
「パパの仕事関係の大人はね、あたしに笑顔で挨拶するわ。でもそういう人たちって子供がバカだと思い込んでるのよね。子供の前で人の悪口やうわさばっかり。あたしが目の前にいるのにね」
シャベルを手に持った。手持ち無沙汰に地面に線を描いた。
「そしてあたしとさようならするとね、あたしに聞こえてないと思ってるんだろうね。みんな『頭の悪そうなガキだった』って言うのよ! 大人はみんな! あたしをバカにする!! あたしにだって耳はあるのよ! 言葉の意味を考える頭だってあるのよ!」
キララはシャベルでさらにハクちゃんを掘り起こしていく。
声でやっと女性だと推測したがキララが見た限りだと性別も分からない。
ただ後頭部が異様にへこんでいるので、きっと殴られてしまったんだろうなと考えた。
テレビでなんとなく見てしまったサスペンス劇場の音楽が頭に流れた。
「学校の先生もみんなそう。あたしには笑顔でも、あたしのことをバカにしていて、めんどくさくて、嫌いなのよ」
教師のキララと他の生徒との扱いは目に見えて違っていた。
子供が見てもおかしいと感じるほどにキララを優遇していた。
教師の身内のほとんどは会社の関係者だからだ。
そんな教師にしかめぐり合えなかったのはキララにとっては不幸でしかなかった。
ハクちゃんの首の骨が見えてきた。
「そっか。キララちゃんはそんな大人にならないようにしなくちゃね」
「…うん」
「あのね、反面教師って言葉知ってる? 大人がみんな正しいわけじゃないし、偉いわけじゃないのよ。キララちゃんはそういう人たちの嫌なとこを見て、学べばいいんだわ」
「はんめんきょうし…」
「そう。誰かの間違ったところを見て、自分が同じ間違いをしないように気をつけるの。キララちゃんならきっと出来るよ」
今まで人生でキララの話をゆっくり聞いてくれて、共感してくれた存在などいなかった。
ハクちゃんの言葉はキララの心にゆっくりと染み込んでいくようだった。
キララは恵まれた子供だが、その心には確かに孤独という傷があった。
「あのね…あたし、パパもママも本当は嫌いなの」
ハクちゃんを掘り起こし続けながらキララの話は続いた。
ありがとうございます。
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