キララと友達
「あたし、友達がいないの」
それは誰にも言えない悩みだった。
「このあたり、あたしのパパの会社関係の工場ばっかりなの。だから同じ学校の子のパパや親戚も、ほとんどあたしのパパの部下みたいなものらしいの」
「へぇー…キララちゃんはお姫様みたいだね」
「ううん」
キララは首を横に振った。
「最初はね、みんながあたしの言うこと聞いてくれるのが嬉しかったし、それが当たり前だと思ってたの」
二ヶ月前、同じクラスの女の子達がキララの悪口で盛り上がっていたのを聞いてしまった。
『キララちゃんってほんとに性格悪いよね!』
『あいつ、うちらのこと友達とか思ってんのかな?』
『あははっ! ないない!』
『あんな子、大っ嫌い』
『わたしもー!』
キララ自身も薄々とクラスメイトとの間に壁があることを感じていた。
それをいざ言葉として耳にしてしまうと、予想していたよりも心を蝕んだ。
それでも急に性格を変えるなんて事はできず、夜になってからまた今日も偉そうにしてしまったと一人で落ち込むのだ。
「あ、そうだ。四月に撮ったクラス写真がね、今日配られたんだよ。見る?」
ランドセルから写真を取り出して、頭蓋骨の目があったであろう箇所から見えやすい位置に置いた。
「うーん…この中だとキララちゃんが一番可愛いかな」
「そうかな?」
「そうだよ!」
キララは端から指さしてクラスメイトの一人一人の話をしてきく。
「こいつは山本拓司。いっつも机で勉強してて、あたしと目が合うと睨んでくるの。山本のパパがリストラされたんだって。あたしのパパの会社から」
ハクちゃんは優しい声で、キララを否定せずに相槌を打ってくれる。
「こいつは佐藤姫華ちゃん。ママが美容師だかなんだか知らないけど、いっつも派手な髪型してきてホントに生意気なの」
「この子は吉田友里恵。いっつも本ばっかり読んでて喋ったこともないけど、暗くて不気味なのよね。いるだけで周りが暗くなって迷惑だわ」
「次は斎藤レオくんね。クラスで一番モテるらしいけど、あたしはこんなバカお断りね。走るのが速いだけじゃない」
「こいつね! 石田ひまり! あたしの前では大人しいのに一番あたしの陰口言ってるの! 言いたいことあるなら直接言えばいいのに!」
キララはお姫様になりたいわけではなかった。
ただ親の言われるまま、周りに言われるままの自分でいただけだ。
ある日突然、自分が孤独だと気づき、気づいた時にはもう手遅れなほど周りが『嫌われ者のお姫様とその他』というふうに出来上がってしまっていた。
キララという共通の敵を作り上げ、キララ以外の仲間意識が深まっていく。
「みんな大っ嫌い。クラスの子達も、大人も、みんな大っ嫌い」
キララの顔が歪んだ。
誰にも言えない本音だった。
「じゃあ担任の先生は? 学校の先生も、みんな嫌い?」
「先生なんて…大人なんてもっと大嫌い」
キララの顔がさらに歪んだ。