表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/5

第5話 女子校の王子は弱者を見過ごせない

「フローラ、ちょっといいかしら」


 放課後。僕は早速、友人と歓談中のフローラを呼び止めた。


「はっ、はい……」


 フローラは肩をびくりと震わせ、僕を振り返る。その慎ましい仕草は下級であるながらも、貴族としての上品さを窺わせる。


「あなた、あの平民の娘と親しくしてらっしゃるようですわね」

「そ、それは……」


 僕の問いに、フローラはますます顔を俯かせる。伏せられた睫毛はぷるぷると震え、見る者の庇護欲をそそらせる。

 うぅ……罪悪感が凄い……。でもここで負けたら駄目だぞ、真咲!


「仮にも貴族ともあろう者が、平民と馴れ馴れしくするなんてね。下級ともなると、貴族としてのプライドまで失われてしまうのかしら?」

「そ、それは……」


 フローラは何も言い返せない。言い返せるはずがないんだ。同じ貴族でも、マルグリットとフローラの間には簡単には覆せないほどの階級差がある。

 貴族社会に身を置くフローラには、その事がよく解っている。自分の言動が、家全体にまで影響を及ぼすという事を……。


「平民に媚びへつらう貴族だなんて、聞いた事がないわ。恥ずかしくはないの?」

「……っ」


 僕の辛辣な言葉に、フローラは遂に泣き出してしまった。傍らの友人が、それを慰める様子はない。

 当然だ。今フローラを慰めたら、今度は自分の方に矛先が向けられるかもしれない。それにフローラの他の友人は、フローラとローザの友人関係を好ましく思ってないという設定だったはずだ。

 フローラに、味方は誰もいない。そう思った瞬間、僕は――。


「……それ以上泣くのはおよし、フローラ」


 気が付くと、僕はそっとフローラの頭を撫でていた。柔らかなクリーム色の髪が、指に絡み付いてくる。


「ただ泣いているだけでは、運命は変わらないよ。君は、ローザと友達を止めたいのかい?」

「いっ……い、いえ……」

「だったら、胸を張らないと。こんな事を言われても、毅然としていられるくらいにはね」


 あ、ヤバい。これヤバい。そう思っても、入ってしまった王子スイッチは止まらない。


「強くおなり、フローラ」

「マ、マルグリット……様……」

「僕はいつも、君を見守ろう。可憐な、隠れた気高さを持つ君を……」


 最後に、瞼にキスをする。してしまう。顔を赤らめるフローラは、もう泣いてはいなかった。


「マルグリット様……解りました。私胸を張って、ローザと友達でいます……!」

(……やっちゃったあああああ!!)


 僕はそう、心の叫びを上げるので精一杯だった――。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 何故そこでそうなるwww
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ