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第3話 望まないトライアングル

「マルグリット!」


 距離感のやたら近いローザを何とか引き剥がそうと四苦八苦していると、遠くからチャールズの声が響いてきた。振り返るとチャールズが、血相を変えてこっちに駆け寄ってくるのが見える。


「うわ……」

「マルグリット、一体何のつもりだ!」


 近づいてくるなりそう詰め寄られて、僕は思わず顔を歪めてしまう。そんな僕の反応などお構いなしといった風に、チャールズは更に声を荒げた。


「この期に及んでまだ、ローザをまるで従者のように扱うとは! 昨日はローザの顔を立てて婚約破棄の件は保留にしたが、やはりそなたのような女を婚約者になどしてはおけん!」


 え、いや、ちょっと待て。婚約破棄は望むところだけど、この状況のどこをどう見てローザが従者扱いされてると判断した?

 むしろ纏わり付かれて迷惑してたのは、こっちの方だ。そう、僕が反論しようとした時。


「いいえ、誤解です! 誤解だったんです、チャールズ様!」


 声を上げたのは、僕の隣に陣取るローザだった。ローザはこれみよがしに僕の腕に自分の腕を絡め、キッパリと宣言する。


「私達、愛し合ってるんです! 今までの事は、総てマルグリット様の愛の鞭だったんです!」

「……は?」


 その発言に、また僕の顔が大きく歪んだ。いやいやいや。何でそこまで話が飛躍してるんだよ!

 ほら見ろ、チャールズもポカーンとしてるじゃないか! そりゃそうだよ、いじめられてる可哀想な女の子と思ってたのが、突然こんな事を言い出して!


「……可哀想に……」


 僕があまりの急展開について行けなくなっていると、不意にチャールズがぽつりと呟いた。そして、何故か僕の方をキッと睨み付ける。


「そんな事まで言えと、ローザを脅しているのか、そなたは……! どこまでも見下げ果てた女だ!」


 は!? 今の流れで何でそうなるの!? 目ぇ腐ってんじゃないの!?

 駄目だこの王子。人の話全然聞いてない!


「今のところは引くが、覚えておくが良い。ローザは必ず、私が救ってみせる!」


 言いたい事だけ言って、チャールズは去っていった。いや、そりゃ婚約破棄はしたい、したいけど、これは何か釈然としないと言うか!


「……あの」


 ふと、ローザがおずおずと僕の顔を見上げる。その顔は少し不安げで、先程までの勢いはどこにもない。


「ローザ?」

「私、すみません、あの、調子に乗って図々しい真似を……チャールズ様が、まさかあそこまでお怒りになるなんて……」

「……何だ、そんな事か」


 そんな弱々しいローザの姿に、僕はつい優しい笑みを浮かべてしまう。そして、反射的にこう言っていた。


「大丈夫だよ、僕の可愛い小鳥。これからの事は、二人で考えればいい。だから笑っておくれ。花の咲くような笑顔を、この僕に見せておくれ」

「……!」


 しまったと思った時には、もう遅かった。ローザは

すっかり頬を紅潮させ、輝く瞳で僕を見つめていた。


「あ、いえ、ローザ……」

「はい、マルグリット様! 私も微力ながら、マルグリット様のお力になります!」

「いえ、だから……」

「あっ、授業が始まってしまいますね! 名残惜しいですけれど、お話はまた授業が終わってから!」


 弁明する間もなく、ローザは校舎に向けて駆けていってしまった。その背を僕は、呆然としながら見送る。

 ……また、やってしまった……。身に染みついた王子ぶりを、僕は心底恨めしく思うのだった。

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