今年のバレンタイン。母ちゃんからは絶対に受け取らない!
2月14日。今日はバレンタインデー。
俺はこの日のために、眼鏡からコンタクトに変え、体を鍛え、陽キャグループと無理して付き合ってきた。
女子からチョコをもらうために!!
その前に――。
「こらタケシ! お弁当だよ」
来たッ。毎年くれるけど、コレジャナイ人物。
俺の母ちゃんだ。
「いい! 今日急いでるから」
「持っていきな! あと時間ないならチョコだけでも食ってきな!」
何でだよ、そこはパンとかじゃないの?!
俺は受け取った弁当を、その場で開けてみた。やっぱり……弁当箱にはデカいハートチョコ。そこに「I LOVE MY SON」って書いてある。
「おい、弁当もチョコじゃねえか!」
「あんた、今年も貰える宛がないだろ? 母ちゃんので我慢しな」
「冗談じゃない! いってくる」
俺は家を飛び出した。
受け取りたいチョコは、母ちゃんのじゃない。
家族じゃない女子からだけだ。
宛があるから言っているんだ。
「逃げても無駄だよ! あんたは母ちゃんのチョコを受け取るッ。必ずだ!」
遠くなっていく母ちゃんの叫び声がこだました。
母ちゃんの言葉は、呪いの様について来た。
ロッカーと机の中は、朝見たチョコが詰め込まれ、ホームルームでは「お母さんのチョコでも、受け取れば1個にカウント」と担任が話し始め、行く先々で母ちゃんのチョコが仕掛けられていたのだ。
俺は精神的に疲れ果て、そのまま放課後を迎えた。
結局、女子からのチョコは0個。
帰ろうとしたとき、クラス委員の鈴木女史に呼び止められた。
彼女は俺に可愛らしい包みを差し出した。
「あの、これ……ヒロコさんから」
いつも冷たい彼女が、妙にしおらしく下を向いて震えている。
ヒロコって誰だっけ?
まあいか。初めて女子から1個貰ったんだ。
俺は、スキップしながら家路についた。
夕食もそこそこに、俺は受け取った包みを開く。
中身はチョコ。それも手紙付き。なになに。
「あなたをこれからもずっと愛しています 母・ヒロコより」
あーそういや母ちゃんの名前、ヒロコだった。