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悪役令嬢?らしいので、真似をしてみます。

作者: 夏月 海桜

かなり長めの短編です。

3万字超えしました。

連載作品にすれば良かった……

「また、ですわ。エルリーヌ様、どうすれば良いのかしら」


講義が終わり次は教室ではなく特別棟で行われる魔法の講義のために特別棟へ向かう途中でした。隣にいた侯爵令嬢であるレイラ様から声をかけられてチラリと視線を向けます。そこは中庭で、今日のように暖かい日にはベンチに座り本を読んだり、向こうにあるガゼボでお茶を楽しんだり、と私達貴族向けの学院だけあって、そんな工夫がなされています。




その中庭には私、エルリーヌとレイラ様と後ろにいらしているマジョリカ様とその隣にいらしているユリアーラ様の婚約者達が1人の女生徒と共に談笑しています。男性4人に女性1人。講義で必要な人数でもなんでもないのです。休み時間なのだから。しかも婚約者がいる身で女性の髪を撫でたり女性の手を握ったり……と有り得ない距離感。


淑女教育を施された私達からすれば、その女生徒……男爵家のルリィ様は淑女とは程遠い女性でした。彼女が男爵家の養女になった事は学園に入学する前には高位貴族に連絡が来ていました。王家も含めて。直前ではなく、かれこれ5年は経つのではないでしょうか。


「5年も有ったのにここまで淑女教育が進んでいないということは、男爵家は家庭教師を雇うお金が無かったのかしら」


呟くように私が言葉を零したところで、ルリィ様と視線が合いました。するとあからさまに怯えた様子を見せて、私の婚約者である第二王子殿下に擦り寄りました。そんなルリィ様を見て第二王子がこちらに視線を向け……睨み付けて来ます。




「視線が合っただけで睨み付けられてはもうダメね。何度も婚約者がいる身で距離が近い、とルリィ様にもアリエス様にもご忠告をさせてもらいましたのに」


アリエス様とは、第二王子殿下……つまり私の婚約者様の名前であるのです。


「エルリーヌ様……」


痛ましげにレイラ様・マジョリカ様・ユリアーラ様から視線をもらいますが、直後彼女達の婚約者達もこちらを睨み付けて来ました。これではどちらが悪者か分からない、と気付かない辺りもう無理でしょう。彼等は学院入学前……いえ、ルリィ様に出会う前までの聡明で理性的で信頼厚い姿を失っておりました。


「レイラ様・マジョリカ様・ユリアーラ様。行きましょう。講義に遅れます」


促すと3人も固い表情と目に絶望を浮かべて歩き出します。私達は高位貴族の生まれだから政略で結ばれた婚約。けれども彼等がルリィ様に出会う前までは私を含めて慈しみ信じ合っていました。皆、互いに好意を伝え合い、政略が恋愛に変わりつつあった、その矢先にコレでした。




私を含めて皆が婚約者もルリィ様も諫めたし、お慕いしているとも何度も告げました。けれど彼等は言う度に目から輝きが失せて私達を疎ましがり遠ざけました。今では視線が合う度に睨まれるまでになってしまっていました。


こうなると、何らかの魔法が彼等に使われている、と多分見做すべきだと思われます。でも魔法を扱う練習中の私達に何の魔法なのかまでは看破出来ません。もう私達本人だけではどうしようもない所まで来ていました。




「殿下方はこの講義をまた休むつもりでしょうか……」


ポツリとマジョリカ様が仰る。

高位貴族は、警護の関係で全員同じ組に分けられます。私達の婚約者達も私達と同じ組なのだけど、ここのところ魔法の講義は皆が出席していません。ルリィ様は本来違う組なのに、私達の婚約者達と一緒にいます。彼女の講義はどうなるのだろう、と、つい心配してしまいました。こんな目に遭わせた当事者なのに。




「皆様。覚悟なさって下さいませ。私はもう決意しました。この講義が終わり次第、魔法講義の師にお話致しますわ」


私の言葉に3人は、ハッとしてから固い表情で頷きました。魔法講義の師は魔術師といって魔法を扱う仕事をされている方達の中でもトップの魔力と魔法の持ち主・魔術師長様が直々に教えて下さる。お忙しい中を未来の魔術師が出るならば、と惜しみ無く。


特に第二王子殿下であるアリエス様は、魔術師になれる才能があって、魔術師長様に教わる事を入学前はあれほど楽しみにされていました。ルリィ様と出会う前までは、楽しく講義を受けていらしたのに。この1ヶ月、アリエス様を含めた皆様は講義に出席していないのです。これだけでもアリエス様がおかしい事が分かります。そうして私達は講義終了後に魔術師長様にご相談させて頂きました。




「ふむ。話は解った。だが、最初に言っておこう。おかしな魔法の気配は一切無い」


魔術師長様は話を聞くやそのように否定されました。……薄々そうだろうな、とは思っていました。魔術師長様は国一番の魔術師。魔法に関して右に出る者無し。魔力量も一番で数々の魔法を扱える事から、実はその御身が危険に晒される事も良くある事らしく、常に危なそうな魔法を感知出来るように感知魔法を発動しているそうです。その範囲は学園全体らしく、以前、そのように講義の合間にお話されていました。




つまり。

魔術師長様は命を奪われそうになったり、女性に誘惑されそうになったり、或いは命を脅かすまではいかずとも怪我をさせられそうになるのは日常茶飯事だそうです。

だから感知魔法を発動しているそうです。

その魔術師長様の感知魔法に反応しないならば、ルリィ様は怪しげな魔法を使用していないということになります。


「それはどういうことですの……?」


困惑したような表情を浮かべるレイラ様に、私は唇をキュッと結んでからゆっくりと口を開きました。




「レイラ様。マジョリカ様。ユリアーラ様。大変申し上げ難い事ながら。私達の婚約者様達は、ルリィ様に怪しげな魔法を使用されているわけでなく。……あの方達自身が、ルリィ様を好いていらっしゃる、ということに他なりません」


私自身も認めたくなかったです。認めたくなかったけれど、魔術師長様の話を聞いてしまえば認めるしか有りませんでした。




ーー私達は、愛されなくなった、ということに。




好きな男性から……それも思い合っていた男性からもう愛されなくなる。愛していると告げても愛してもらえない。そんな日々をこれから私達は送るのです。政略だから、家同士の決まり事だから、向こうに私達への愛情が失せてしまっても、この婚約は続く。

愛されないと解っていても愛する婚約者様達の正妻になる事が決まっているのと、こちらが愛していても愛されないのだから婚約を解消してしまいたい気持ちと。その両方が私達の心を弱らせていくのでしょう。




どちらが幸せなのでしょう。

愛されないと解っていても愛する方の妻になる事。

愛されないと解って愛する方と婚約解消をする事。




私達はどちらであっても苦しむ事になるだろうけれど。でも私達は結局親同士が決めるから、親に従うしかないのです。


「この件については、私から国王陛下へと話しておこう」


私の言葉に絶望している皆を見ていられなかったのか、魔術師長様がそのように仰って下さった。




「では、魔術師長様にお願いがございます。私達は全員高位貴族故に政略として婚約が結ばれております。ですが、アリエス様を含めた殿方達は、ルリィ様と出会う直前まで私達に好意を抱いて下さいました。愛し合う事が出来る、と思っていたのです。ですが、皆さま心変わりをされてしまいました。それでも家同士の利益を考えれば婚約は続くのでしょう。私達は愛する殿方達に愛されない哀しみを抱いて嫁ぐ事になりましょう。しかしながら、それでは私達はあまりに惨めでございます」


そこで私は言葉を切りました。魔術師長様は魔法を扱うには常に冷静であれ、と教えて下さる方ですし、その言葉通り常に冷静ですが、情のない方では有りません。……いいえ、寧ろその内には秘めた情熱が有る方です。私は知っています。アリエス様の婚約者に選ばれた直後に誘拐された私を救いに来て下さったのは、この方でした。その時の秘めた情熱を私は直に感じたのです。情に厚いこの方に、私は切々と訴えます。




「ですから、せめて私達は互いの両親に現状を伝えたいと願います。……もちろん、私を含めて皆、現状を家族に訴えて来ました。ですが家同士の利益を考えた婚約故に解消もして頂けず、今日までを過ごしています。これがまだ何らかの魔法によって皆さまは心変わりをされた、と言うのであれば受け入れられました。元に戻って下さる、と希望を持てました。……その希望が失われた今、私達は互いの両親に現状を伝えて皆様に現状を共有して頂きたいのです。それには私達1人1人が訴えるのではなく、全員が互いの両親に訴えるのが効果的でしょう。それによって婚約が解消になるのかもしれません。全員が解消出来ずとも、私達は婚約者様方とルリィ様を精一杯諫め、引き留め、愛を告げた努力を認めて頂きたいのです。このままでは私達はーー」


そこで、不覚にも私の目から涙が一筋溢れてしまい、慌てて拭います。淑女が人前で涙を見せるなど恥ずかしい事なのですから。ですが、私が泣いてしまった事で、レイラ様もマジョリカ様もユリアーラ様もご自分の気持ちを訴える決心がついたようです。




「そうです。私達は婚約者様達に精一杯心を尽くして来ました。その努力を認めて頂けなければ、私達は自分の両親から役立たずの烙印を押されかねません」


レイラ様が悔しそうに唇を噛んでます。




「家同士の利益のための婚約だから、恋しく思う愛情は不要だ、と私は父に言われました。それはそうなのでしょう。ですが、私は婚約者様に恋しております。それをあの方も受け入れ、それどころか同じ想いまで返して下さいました。それは此処にいる皆様が一緒なのです。想い想われる喜びを知った直後にこのような事態になり……衝撃を受けている私に、恋しく思う愛情は不要などと血も涙もない言葉をかけられ、その上、婚約が解消どころか向こうから破棄されてしまったら、家族から役立たずの烙印を押されるなんて……あまりにも酷いでは有りませんか」


マジョリカ様は、激しく動揺しながら泣き出します。




「そうです。私も父から恋愛など政略結婚には無いのが当然。幻だったと思えば良い、と言われ、親愛くらいの情さえ無くても結婚出来る、と……。いくら政略結婚がそのようなものでも、そして自分達の両親がそういった関係だと見て来ても、せめて自分の結婚くらい夢を見ても良いでは有りませんか。……それなのに、それすらも親に打ち砕かれた挙句役立たずだと思われて厄介払いをされてしまったら、私達は……」


ユリアーラ様が最後まで言い切れず嗚咽を漏らされます。




「そう、私達は不要だとされて修道院送りか領地幽閉の憂き目に遭いましょう。この国では親の役に立てない令息も令嬢も不要な存在。それでも令息は男性であるだけで、自分で働く事も出来ますが、私達は女性というだけで働く事も出来ず、かといって適齢期を過ぎた娘は邪魔者なだけ……。これでは私達はあまりにも惨めです。いえ、私達は愛されずとも婚約が続くのでしょうから、嫁ぐ事になりましょうが、愛されない妻は跡取りさえ産めば不要な存在。旦那様は即座に愛妾を持たれます。


……そうして家に殆ど帰って来ないのは、自分達の父親を見れば分かります。そんな父親を見限って夜会等で愛人を作る母親は、恋愛は結婚してから、と楽しむ。楽しめるだけまだマシで、中には帰らない夫をいつまでも只管に待つだけの妻もおります。そんな両親を見て来た私達が結婚に夢を持つのは愚かなのかもしれません。ですが、それでも私達は結婚に夢を見てしまっていたのです。ですからせめて私達が努力した事くらい認めて頂かなければ、結婚への夢も潰えた今……何を目標にして頑張れば良いのでしょうか」


私の、いえ、私達の長い切なる訴えに、魔術師長様は黙って聞かれた後、嘆息されました。深く長い息を吐いて、私達の願いを必ず叶えよう、と約束して下さいました。




「ありがとうございます、魔術師長様。それと……これは魔法とは関係が有りませんが、魔術師長様は悪役令嬢という言葉をご存知でございますか?」


「あくやく?」


私が尋ねますと、表情を変えないので表情筋が死んでいる、と噂される魔術師長様が珍しく表情を動かされました。と言っても右の眉を僅かに上げて首を少しだけ傾けただけですが。私を含めて皆が息を呑む程珍しい事です。




「はい。……実はその男爵令嬢のルリィ様から、私は悪役令嬢? とやらだと言われまして。それは何か尋ねたところ、愛し合う恋人同士を引き裂く悪女の事だ、と。もちろんこの場合の愛し合う恋人同士とは、ルリィ様、と、アリエス殿下だ……と。彼女からすれば私が悪女だそうですわ。私達の仲を引き裂き、淑女には有り得ない距離感でアリエス殿下に近付き、その上で婚約者がいる複数の殿方と親しくする方が悪女だ、と私は思いますのに……。そう告げれば、泣かれてしまいました。そうしてそれをアリエス殿下が見られて、私ではなくルリィ様に駆け寄り……私を激しく叱責されたのです。つい、10日程前の事ですわ。物知りな魔術師長様ならご存知の言葉かと伺ったのですが……」


「いや、知らぬ」




「エルリーヌ様も悪役令嬢だ、と言われましたの?」


私の話を聞いていたレイラ様が目を丸くします。肯定すれば、レイラ様もルリィ様からそのような言葉を投げ付けられたようです。




「……私も愛し合う恋人同士を引き裂く悪女だと言われましたの」


レイラ様が肩を落とします。どうやら私の時と同じで泣いているルリィ様を見た婚約者様に叱責されたそうですわ。時期も大体同じ頃のようです。悪役令嬢とやらは、2人も居ますの? ところが、と言うべきでしょうか、やはり、と言うべきでしょうか。マジョリカ様とユリアーラ様もそのような言葉を投げ付けられ、私と同じ状況になられたそうです。私達は揃って悪役令嬢? とやらのようです。




「……話を君達だけからしか聞いていないため、肩を持つのは避けるが。普通、こういった話は相手方からも話を聞くものだからね。しかし、それでも愛し合う恋人が何人も居るというのは、令嬢というより娼婦のようだな。……いや、娼婦は仕事だから娼婦に失礼だ。何て言えばいいのか……とにかく、淑女教育を受けた令嬢には在るまじき言動だね」


魔術師長様がまた嘆息されます。




「だが、実はアリエス殿下がこの1ヶ月に行った私の講義に出席していない件は既に国王陛下に報告済みだ。……私も別に何も思っていないわけでは無いよ。この特別棟に来るに辺り、私も君達と同じルートを通る。君達学生の方が先に到着し着席しているから、当然私は君達の後にあの中庭の側を通るのだ。だからアリエス殿下を含め、君達の婚約者の現状は私も把握しているよ。ただ何らかの魔法の形跡は無いし、君達の話を聞くまでは、少々毛色の変わった令嬢にうつつを抜かしているだけか、と思っていたからね。あまり深刻には捉えていなかった。……それでも私の講義を欠席して良いとは思っていないから、報告はしていたが。……ふむ。ついで、と言ってはなんだが。他の授業はどうなんだい?」




「ルリィ様は私達と同じ組では有りませんので、午前の授業は比較的出席されておりますが……お昼休みから午後の授業にかけては、欠席される事が多くなっておりますわ。他の教師陣も把握していますが、何しろアリエス殿下に意見が出来るのは学院長を除けば私のみ。そして学院長は……」


「そうか。現在病で伏せっておられたな。副学院長では身分差が有る、か……」


学院長様は代々王族の方が務められます。現在の学院長様は前王弟殿下であらせられます。ですからアリエス第二王子殿下に苦言も出来ました。ですが高齢で病に伏せっておられ、学院にはいらしておりません。そのためアリエス殿下に苦言を呈する役目は、この学院では私だけなのでございます。




「それですので教師の皆様も苦言を呈する事が出来ず、そのままでございます。尤もルリィ様と殿下方が急接近されたのが、この1ヶ月ですから、一時的なものだろう……と考えておられる教師陣が多いのも確かです。学院は身分など関係ないので本来ならば教師の皆様が苦言を呈する事はおかしくないのですが……やはりアリエス殿下の機嫌を損ねて、殿下が学院を卒業された後で何かしら叱責でも有ったら……と恐れている、というのが本音でございましょうが」


その気持ちを否定する気はありません。いくら学院内は身分差など関係ない、と謳っていても、教師とて人間です。殿下が卒業されれば圧倒的な身分差が戻って来ます。そうなれば、下手に機嫌を損ねて叱責どころか罰を下すお咎めを受ける事になってしまえば……と不安に駆られる気持ちを、誰が否定出来ましょう。




「ふむ。そのように考えてしまう事を否定は出来ぬ、か。分かった。それも含めて陛下に奏上する。君達と相手の両親達との話の日も私が必ず調整する。早いうちに、だ。次の私の講義は……3日後だ。3日後には日を決めておく。場所も、だ。良いな」


長くお忙しい魔術師長様をお引き留めしてしまい、私達は謝りましたが。それ以上に4人まとめて互いの両親に訴えられるとあっては感慨深いですわ。私達はこの後、家に帰るだけですので、皆で馬車乗り場に向かいます。これまでは行きも帰りも婚約者様と一緒で、偶にはデートもしていたというのに……。そんな日々はもう戻らないのでしょう。




馬車乗り場では、アリエス殿下を含めた私達の婚約者様達が、ルリィ様と相乗りするのだ、と言い合っておりました。私達はあまりの事に情けなくなり……見なかった事にして、自分達の馬車に乗って別れました。向こうがこちらに気付かずに言い争っていて、かえって安堵しております。あのような醜い争いを学院内とはいえ、誰に見られるか分からないというのに、皆さまはその事をお忘れのようでした。あんなに聡明だった皆さまはどうされたのでしょうか……。







***


そうして魔術師長様はお約束通り、3日で話し合いの日と場所を教えて下さいました。全部の家が参加して下さり……王城で、と決まりました。私の両親は今回の件について報告して相談しましても、何もしてくれませんでした。そして魔術師長様経由での呼び出しに、私は何か知っているのか、とお父様から尋ねられました。


「お父様もお母様も何も助言して下さらないので魔術師長様を頼ったまでですわ」


と私がお父様に申し上げれば、お父様が顔を真っ赤にさせて怒り出しました。




「向こうから頼まれた婚約だ! 多少の浮気くらいで大げさだ! そこを許してやれば、向こうに恩が売れるだろうが!」


「お父様……今までお父様だと思いこそすれ黙っておりましたが」


「なんだ、その言い方は!」


「ご自分のお立場をもう少しご理解されているとばかりに思っておりましたわ」


嘆息した私は、()()()お父様の高慢な態度を折る事に決めました。ええ、私は今度の話し合いで国王陛下並びに王妃陛下に許可を得て、アリエス殿下の高慢な態度をへし折るつもりですの。ここまで私を蔑ろにしたのです。当然の罰ですわ。あの方も解っていらっしゃらないようですわね。私が王子妃教育を受けているのは、万が一王太子殿下と王太子妃になられるお2人に何かあった場合に、代わりを務めるためですわ。


でも何も無ければ、私がこの公爵家の跡取りですもの。アリエス殿下はこの公爵家に婿入りする事になっていますのに、婿入りの分際で愛人を持つのも有り得ないのに結婚前から浮気なんて尚、有り得ませんわね。


「な、なんだと⁉︎ 女の分際で……っ」


激昂するお父様に対してこれ見よがしに溜め息をついてから、私はお父様を見据えます。




()()()伯爵家の三男の婿入りの立場で、公爵令嬢の私に随分な物言いですわね。お父様はもう少し賢いと思っておりましたが、案外愚か者でしたか。婿のくせにお祖父様が隠居した途端に、愛人を囲った挙げ句気が向いた時にしか帰って来ないくせに随分と偉そうですわね。貴方は公爵ではないから、と自由に振る舞い過ぎでしたわね。お解りですか? 婿の立場で愛人なんて、契約違反ですわね? 既にお祖父様には報告しておりましてよ?」


「なっ、な、なんだと⁉︎」


あらあら声が裏返っておりましてよ? まぁそうですわね。お祖父様に婿入りの条件として、男女関係なく跡取りを作る事。あくまでも公爵は私の母であり、父である貴方は公爵の夫というだけの存在であること。愛人は作る事を許さない。というものを付けられたそうです。




当たり前ですわね。だってお父様は伯爵家の出。それもお父様がお母様に一目惚れした。とかで頼み込んでの結婚ですもの。だからこその条件だったし、それを受け入れたはずだと言うのに。あまりにも愚かですわね。まぁお母様の方も婚約者の方が流行病で亡くなられて婿に入って下さる方を探していたから、ちょうど良かったみたいですが。


ちなみにお母様は()()()である私を産み、いくらか育てて下さった後は、領地経営に勤しんでいるせいで、アリエス殿下の一件を報告しても返事すら来ないですわね。そんなお母様だからお父様も愛人を囲いたくなったのかもしれませんが、知られていないと思っている時点でお父様がどれほど愚かなのか分かりますわね。




「な、な、何故条件を……」


あら。条件を覚えていたなら愛人なんて作らなければ良かったのに。それともたった今思い出したのでしたら、思い出すのが遅かったですわね。


「お母様がお祖父様に訴えられましたのよ。条件を忘れて愛人を囲った、と。そこからお祖父様が私に手紙を寄越しまして真実を教えろ、とのことでしたのでお教えしました」


お父様は真っ青な顔で口をパクパクと開閉しています。まぁ情けないお顔。婿入りの分際で、愛人を持つなんて有り得ませんのよ? しかも契約違反。愚かにも程がありますわ。跡取りを産んだ妻が愛人を持つのを許されているのは、子を産めないように孕まない薬を飲んでいるから。それはそうですわよね。誰の子か分からないなんて醜聞以外の何物でも有りませんわ。


男が愛人を囲むのも当たり前だと思って愛人を持ったのかもしれませんが、愛人を持つ高位貴族の当主というのは、その愛人が未亡人であるのは暗黙の了解ですのよ。未亡人の生活の面倒を見るのも高位貴族の男の務め、という考えが浸透してますの。その代わり未亡人である愛人は、当主に恋愛の楽しさを教えるそうですわ。その際に子が出来た場合は、男女問わず跡取りが生まれていないのなら引き取るし、跡取りが妻との間にいるならば、面倒は見るけれど、認知はしてもその家の者として名乗らせない、とか様々な法が有りますのよ。


お父様の場合は、婿入りする時に愛人を持たない契約をしていたのに愛人を囲ったのですから契約違反。しかも、婿入りならば愛人を持ったとしても子は作ってはいけませんのよ。妻が愛人を持つのに子を産めないように薬を飲むのと同じですわ。いくらお父様の子でも、我が公爵家の血筋ではないのだから、作ってはいけないのです。


本当に有り得ませんわね。

そしてアリエス殿下も解っていらっしゃらないわね。私はこの公爵家の跡取り。でも王子妃教育を受けているから、私が嫁ぐとでもアリエス殿下は思っていらっしゃるのかしら。


私が王子妃教育を受けているのは、王太子殿下と王太子妃殿下に何かあった時に代わりが務まるように、という万が一のためのもの。基本的には公爵家の跡取りとして、当家の執事から跡取り教育を受けてますのよ。今のところ、王太子殿下と婚約者様はつつがなく。そろそろ結婚されましょう。そして王太子殿下ご夫妻に子が2人以上出来れば、私とアリエス殿下はお役御免。


アリエス殿下は爵位を頂く代わりに我が家に婿入りし、公爵家当主の夫として、私を支える立場になる、と決まっているのに。私ももちろん愛人を持つなんて許さないですわよ。私が子を産めないとしたら、我が公爵家の血筋から養子をもらいますもの。だからその契約を結婚する際に結ぶつもりでしたのに。


結婚どころか婚約中から浮気なんて有り得ませんわよね? 私を蔑ろにするなんて許せませんわ。当然仕返しさせて頂きますわよ。でもその前に、この父に自分の立場を弁えさせませんと、ね?




「公爵家から追い出されないと良いですわね? それと。これより先はお父様の権限でお金は使用出来ない、と既に執事には伝えてありますわ。ですから愛人さんにお金を渡す事も出来ませんわね?」


クスリと笑えば、お父様がもう一度顔を真っ赤に染め上げる。


「このっ! 娘の分際で黙っておればっ」



……本当に愚かですわね。



「お父様。言っておきますが、私は貴方より身分が上なのですよ? 今はまだ第二王子殿下の婚約者である身ですの。つまり、私は準王族。私より身分が上なのは国王陛下及び王妃陛下。王太子殿下とその婚約者様。そして第二王子殿下、ですわ」


ええ。殿下が婿入りするとしても、まだ王族の殿下ですもの。身分は殿下並びにその婚約者である私の方が上でしてよ?

お父様が顔を真っ青どころか真っ白に変えた。ようやく私の立場が理解出来たらしい。私はお父様の娘でもアリエス殿下の婚約者になった時からお父様より身分が上。お父様もお母様も王族の婚約者になった準王族の私を預かっている、という状況。つまり私を怒鳴り付けるお父様は不敬なのです。




「ご理解頂けて良かったですわ。まぁお父様の私に対する不敬は見逃してあげますわ。但し、今回限り。これ以降は許しませんので言動にはお気をつけて下さいませね。それと。


お父様の愛人さんは手切金をお祖父様が送ったようです。受け取る・受け取らないに関わらず、手切金を送った以上、お父様と関わるな、とのことのようです。……もちろん、お父様が平民になったとしても、だそうです。自分から頼み込んだ結婚だというのに、すっかり忘れて愛人を囲うような人だから、私が殿下との婚約を解消してくれ、と望んでも解消して下さらないはずですわね。


都合の良い頭にきっちり教えておきますが、離婚するかどうかはお母様とお祖父様の気持ち一つ。私に縋っても意味は有りませんわ。それと私が国王陛下に直接婚約解消を願い出ても口は挟ませませんわ。私は貴方の駒では有りませんの。というより、貴方がこの公爵家の駒である事を忘れている時点で、愚かさを露呈していますけど。


お解りになりましたら、大人しく話し合いに出席して下さいませね。約束を忘れて口を挟んだ瞬間、貴方の愛人が淑女教育を受けた()()()貧乏であっても歴とした男爵家の令嬢のはずなのに、未婚で子どもを産んでいる事を公言させて頂きますわ。というか、本当に淑女教育を受けていたならば未婚で婚約者以外の殿方の子を産むなんて有り得ないので、本当に受けたのか甚だ疑問ですわね。まぁともかく。お父様の件が露呈した場合の末路はお解りですわね? 愛人さんもですが、未婚の令嬢に手を出したお父様も平民どころか牢に入れられますわね?」




何しろこの国の法律では、未婚の令嬢が男に肌を許した場合、令嬢も男も合意が有れば罪人ですの。例外は合意無き状況で肌を許した場合のみ。これは令嬢は罰せられませんが、男は当然罰せられます。お父様の愛人さんは合意が無かった、と言い逃れるのか知りたい気もしますが、まぁ放っておきましょうか。公爵家の血を持った子ではないですものね。


それに。どちらにせよ、男は罰せられるのだからお父様はバラされたくないでしょうね。お父様は黙って肩を落とし膝を折りました。私の本気に気づいたのでしょうね。


でも、遅いですわね。もっと前に気づけばこんな惨めな状況にならなかったのに、ね。本当に愚かですわ。契約を忘れて愛人を持った事で気が大きくなったのかしら。自分が公爵のつもりで振る舞っているのは前から気になってはいましたけど。……私は、あなたが婿だと前から知っていましたから、公爵のつもりで振る舞っている姿は可笑しいと思っておりましたのよ?


それとも自分は婿ではなく、公爵だと思っていたのかしら。……公爵としての仕事など殆どしていないのに。不思議ですわね。さて、この父の事はこの辺にしておきましょうか。どういう処分を下すのか。それは当主であるお母様の判断ですもの。お母様はさすがに陛下からの呼び出しに出ていらっしゃるでしょうし。


私が仕返しをするのは、あくまでもアリエス殿下ですわよ。もちろん、レイラ様達もそれぞれの婚約者に仕返しをする、と仰ってましたから、一緒に仕返ししますわ。方法も既に私が考えた事を皆さまに伝えて、皆さまも了承していますの。そしてこの仕返しには、各々の家……つまり当主に了承をもらう必要が有ります。我が公爵家と同じように女性が当主の家も有りますから、両親揃っての話し合いなのですわ。そうそう、その両親揃っての話し合いにはルリィ様のご実家である男爵家の当主夫妻と、ルリィ様の婚約者である子爵家の当主夫妻並びにルリィ様の婚約者様もご招待して頂くように、魔術師長様にお願いしましたの。


驚きましたわ。婚約者がいらっしゃる身で殿方に、しかも複数の方に擦り寄るのですもの。ちなみにルリィ様の婚約者様はルリィ様より……つまり私達より3年歳上でして、学院は卒業されてますの。ですから此度の事は知らなかったそうですわ。ルリィ様の婚約者は三男とはいえ、子爵家の方ですのよ? それもルリィ様は男爵家の養女。男爵の血は引いてますが、愛人の娘。というか、男爵夫人の跡取りが亡くなってしまい、仕方なく愛人を持った男爵が産ませた子を引き取ったわけですわ。男爵夫人は中々子宝に恵まれずようやく生まれた我が子が儚くなり……仕方なく引き取った養女は、とんでもないことをやらかしている。


男爵夫人は不幸に不幸が重なっていて、おいたわしいですわ。ですから男爵家にお咎めは無しにしようとは口添えをするつもりですけれど。爵位が上のルリィ様の婚約者である子爵家はどうかしら。婚約者の方の気持ちと子爵家の意向は聞かないと、公爵家の身分で意思を封じられた、と思われたら遺恨を残しますからね。ふふっ。話し合いも仕返しも楽しみですわね。もし婚約解消出来なくても仕返しくらい許可を得たいですわね。







***


そして。話し合いの日が参りました。国王陛下並びに王妃陛下がいらっしゃる前ですから、私も友人達も緊張しておりますわ。ですが、訴えねばならない事はきちんと言わないとこの場を設けて下さるために奏上して下さった魔術師長様に顔向け出来ませんからね。


私達は各々方の両親や国王陛下並びに王妃陛下に切々と窮状を訴えます。アリエス殿下の事は王妃陛下に相談していましたの。でも国王陛下から色良い返事は頂けない、と王妃陛下が済まなそうに仰るから今まで大人しくしていましたのよ。でも、もう1ヶ月以上もこの状態では我慢出来ませんでしたわ。1ヶ月を短いと言うなかれ。




私達は互いに婚約者と愛し合う家庭を築けると思った矢先ですのよ? いわば恋人期間をようやく楽しみ出したところでの浮気。それもこれ見よがしですわ! 嫉妬をするな、と最初は婚約者様達から苦笑された私達。なれど改善されないどころか悪化の一方。その上、私達を疎ましく思い邪険に扱い睨まれる。これのどこが浮気くらい大目に見ろ、と言えるものでございましょうか。




もう浮気する婚約者に仕返ししても許されると思いましてよ! そんな本音は隠しつつ、けれども切々とした訴えで婚約解消を狙います。もちろん、私達全員ですわ。私・レイラ様・マジョリカ様・ユリアーラ様全員が婚約解消を申し出ましたの。なれど……簡単には婚約解消は認めて頂けないでしょうから、それならば仕返しをお認めください、とお願いしましたわ。


これも駆け引きですわよ。婚約解消をしたい。でも無理でしょう? だから……という交渉。婚約解消して下さるなら有り難いですけど、無理でしょうからね。……各家の当主様方がお認めになって下されば良いのに。認めて下さらないかしら?




「仕返し?」


あら。国王陛下からのご下問です。意識が飛んでましたわ。気を引き締めた私は強く頷いてある一つの推測を話し始めました。此処からが本番ですわ。




「そもそも私達は、淑女教育を当然のように受けて参りました。社交界を渡り歩くには必須だと思いましたから。ですが。現状を見て下さいまし。アリエス殿下を筆頭に私達の婚約者様達は、淑女教育を受けている()()なのに、全く淑女らしくないルリィ様に心惹かれているのです」


チラリと男爵夫妻を見れば、顔色が青から白へと変化しています。申し訳なく思いますが、ルリィ様が何をしたのか知って頂かないと私達の気が治りませんわ。とはいえ知って頂くだけでよろしいです。男爵夫妻を責めたいわけではなくてよ。何故ならきちんと教育を受けさせようとしていた事は把握済みですもの。それを拒否したルリィ様が悪いのですわ。


「まぁ変わった毛色の者を愛でたいだけだろう」


あら、陛下。父親として息子がやらかしている事を大事にしたくないのですのね。でも、逃しませんわよ。




「成る程。魔術師長様もそのような事を仰っていましたわ。……では、私達が受けた淑女教育とはそもそもなんでございましょう?」


「「「淑女教育とは何か?」」」


私の問いかけには、集まった家々の当主夫妻が疑問に思ったようで、問いかけに問いかけを返していらっしゃいました。全員で。




「左様でございます。私達は将来、自分の生家に益をもたらすために幼い頃から淑女教育を受けて参りました。それは嫁ぐでも婿取りでも良縁を望むため。つまり家のためだと私達は理解しております。淑女教育には表情を動かさないように常に微笑む事や、発言が家や家族どころか領民の人生をも左右する事まで教わります。殿方との距離感や婚約者様との接し方も淑女教育で教わりました。


つまり必要以上に殿方に触れる事や距離を縮める事は、はしたない。という事ですわ。そうですわね?」


私が各家の面々を見れば、当主夫妻も国王陛下並びに王妃陛下も強く頷かれます。


「それを私達の婚約者様方もご存知のはずなのに、ルリィ様はその紳士・淑女の距離を簡単に超えて不要な触れ合いをされている。それを婚約者様方は良し、とされている。という事は私達が受けた淑女教育がそもそも間違っている。そういう事になりますわ」


「いいえ! 淑女教育が間違いなど有りません!」


王妃陛下が強く否定され、女性も賛同される。そこには私のお母様もいるが……良く考えてみてほしい。





「でしたら、何故ルリィ様はあんなにも私達の婚約者様方に好かれていらっしゃるのでしょう? それも婚約者様方は、ルリィ様の肩を抱いたり手を握ったり髪に触れて口付けたり……とされてますのよ? 淑女教育を受けた私達は、手すら握られるのに時間がかかりましたのに。どういう事でございましょう?」


私の再度の問いかけには、王妃陛下やお母様を含む女性達も黙り込み、国王陛下を含めた男性方は複雑そうな顔をされる。自分達だって、妻以外の女性(国王陛下は珍しく側室がおりませんが、王妃陛下と結婚される前に恋人が居たのは高位貴族は皆知ってます)に、そのような態度を取ってきたわけですものね。それも皆さま曰く恋愛感情を教えてくれる愛人に。


つまりご自分の息子達がルリィ様に接する態度が恋人同士のようなものだとご理解頂けたようですわね。という事は、ルリィ様の言動が淑女教育とかけ離れているからこそ、心惹かれたという私の推測の裏付けになりますわよね。




「それは確かに……淑女教育を受けた私達の根底を覆しますわね」


お母様がポツリと零された。お父様が囲った男爵令嬢もきちんと淑女教育を受けていないからこそ、未婚にも関わらずお父様の愛人に収まった事に思い至ったのでしょう。淑女教育を受けたなら、結婚も出来ないのに令嬢が愛人でいることを受け入れるわけがありません。お金に困っていたとしても、愛人であるなら子を作らない・産まないのは鉄則なのに、それすら知らないのは淑女教育を受けていない事の現れです。淑女教育は愛人の心得も教わりますからね。妻として知っておくべき、若しくは万が一愛人になった時には知らねばならない心得です。




「ご理解頂けたでしょうか。その上で提案がございます。私達も結婚前から浮気を許せる程寛容では有りません。私達は婚約者様方に仕返しをさせて頂きたい、と思いますの」


私の発言に、レイラ様・マジョリカ様・ユリアーラ様が強く頷いて同意する。……さぁここで許可を得ないと、私達の仕返しは成り立ちませんわ。仕返しをさせてもらえるならば、浮気を許して婚約継続も視野に入れますが、仕返しも出来ず婚約解消も出来なかったなら、私達はそれこそ家の手駒ですわ。私達は手駒ではなく人間ですのよ!


「仕返しを認めたなら?」


国王陛下は私達の本気に気付いていらっしゃる。私ははっきりと告げた。




「婚約継続も視野に入れますわ。本来なら結婚前から浮気されては結婚後、私達は大切にされない事が理解出来ます。ですが、私達は家同士の契約による政略結婚を目的とした婚約関係。簡単に解消はして頂けないのでしょう? それでしたら仕返し程度は許して頂きたいですわ。それとも仕返しを認められないのなら、婚約を解消して頂きたいです。まさか、婚約解消も許さず、仕返しも認めない、などと仰いませんでしょう? それとも私達は家の手駒であって人間では無いから感情も不要だ、と? それでしたら今から全ての感情を閉しますが、そうなればきっと私達の変化に同じ学院の令息・令嬢方が気付かれますわ。となれば、私達の婚約者様方がどういった状況かもう何人もの学生達が知っておられます。私が皆様にどうか見なかった事に、と止めているから大勢の方に知られていないだけですが……」




婚約解消も仕返しも認めないなら、人間ではなく感情の無い人形になりますがよろしいですか? と尋ねる。私1人だけでなく4人がそうなってしまえば、その原因は私達の婚約者様方に有ると思う方も何人かいらっしゃいます。となれば?


私が黙っていて欲しいと止めていたのに止める事もやめて私達が変わってしまえば……きっと皆様はご自分のご家族に報告するでしょうね。そうなればどちらに非が有るのか明確ですから。殿下に対してはアレコレ言えずとも、他家についてはアレコレ言えますものね。社交界では噂が立てられる事でしょう。それは醜聞を意味しますわ。




私の発言しなかった先を想像したのでしょう。レイラ様とユリアーラ様のご両親及び婚約者様のご両親は仕返しを認められました。マジョリカ様のご両親は相手方の家を気にして認める事が有りません。マジョリカ様の婚約は向こうのご両親が癇癪もちですので、簡単にはいかないようです。癇癪持ちだとどう対応すれば良いのか分かりかねますものね。


「婚約、解消の方を選びましょうか」


ウチは、なんとお母様がそのような事を仰って下さいました。えっ? 本気ですか?




「ま、待ってくれ!」


お母様の発言に国王陛下が焦ります。ウチに婿入りするアリエス殿下の浮気に怒っていらっしゃるようですわ、お母様。


「待ちません。ウチに婿にくるから、という話が娘を蔑ろどころか浮気だなんて許せませんわ。婚約解消を願います」


私の手紙になんの反応もなかったので、てっきり婚約継続かと思っておりましたが。お母様がこのように仰って下さるなんて……! 


この時の事を後からお母様に尋ねれば、お母様は何とかしたかったみたいですが、お父様と国王陛下がどのような対応をするのか見極めよ、とお祖父様に止められていたそうです。てっきり、私、お母様に嫌われていると思っていましたわ。中々領地から帰っていらっしゃらないし。




「は、話し合いを!」


陛下の方がお母様に気を遣っているなんて、驚きですわ。




「話し合いもしません。決定事項です。エルリーヌ。新しい婚約者は自分で探すか、結婚しないなら親族から養子を取りなさい」


「はい!」


陛下よりお母様の方が力関係が上なんですかね……。話し合いもなく婚約解消は決定事項だそうです。でも。有り難いです。




「仕返しを認める! 認めるから、婚約解消は待って欲しい」


「くどい! もう決定事項だと申し上げましたよ!」


そういえば……お母様と陛下は再従姉弟(はとこ)同士でしたわね。お母様が年上ですからもしかしたら幼い頃に何か有ったのかもしれません。成る程力関係が把握出来ました。でも本来はお母様が臣下なので、このような態度は不敬になりそうですわ。大丈夫かしら。




「わ、分かった。アリエスとの婚約を解消しよう」


本当ですか? それならば有り難く婚約解消を受けます。それを受けたマジョリカ様のご両親が、どうやら我が公爵家の意見は国王陛下も大切にしている、と思われたらしく(随分良い捉え方ですが)マジョリカ様のご両親は、同じくマジョリカ様の婚約者様のご両親に婚約解消を申し出られました。


マジョリカ様の婚約者様のご両親は、癇癪持ちだったはずですが、国王陛下がお母様に頭が上がらないのを見て、ウチに歯向かうのはマズイと見たらしく。ご自分の息子が悪い、と全面的に認めてそれをご了承下さいました。


まぁ幸いですわ! そのせいか、レイラ様のところもユリアーラ様のところも、お二人のご両親及び婚約者様のご両親も仕返しどころか婚約解消を認めて下さる事になりました。嬉しい限りですわ。まぁ家同士の契約を結婚前から破っているようなものですものね。いくら政略とはいえ相手を大切にしないのでは、将来が思いやられますものね。




きっと結婚してからの私達がどんな扱いになるのか、想像が付いた事でしょう。婚約解消になっても互いの家同士の契約が不利にならないよう、改めて互いに利益となる契約してもらいたいものですわ。


さて、国王陛下から仕返しの許可を得られましたし、婚約解消も認められましたし。願ったり叶ったりですわ。では心置きなく仕返しをしましょう。もちろん、仕返し内容はこの場で皆様にお知らせしておきました。相手方のご両親を不安にさせるわけにもいきませんから。内容を伝えれば、された事をやり返すだけだと知って、婚約者様方のご両親が安心していらっしゃるようです。ふふっ。国王陛下公認の仕返し。さぁ婚約者様方、楽しんで下さいませね。あと、ルリィ様も。ルリィ様と言えば……。




「そういえば、ルリィ様のご婚約者様とご両親様はこの際に仰りたい事はございまして?」


ルリィ様の事を思い出して、その婚約者様とご両親の事を思い出しました。忘れていたなんて私としたことが失礼でしたわ。


「公爵令嬢様にお気遣い頂きましてありがとうございます。ルリィ嬢との婚約は、男爵領と私の家である子爵領が隣同士で両親達が幼馴染みであることから、ルリィ嬢が貴族の世界に馴染めなかった時の支えになるように、と私が婚約者になりました。また彼女は跡取りには当たるものの彼女では跡取り教育を受けていないため、私が男爵家の跡取り教育を受け始めておりましたし、領地経営も覚え始めていましたが。


どうやら皆様のお話を聞く限り、ルリィ嬢は私が婚約者である事が不快な様子。いくら両親同士が幼馴染みとはいえ、格下の男爵家のそれも養女に迎えられた令嬢から蔑ろにされるとは思いも寄りませんでした。婚約者として顔合わせもしていたし、関係は良好とまではいかなくても悪くはなかったはずなので、とても驚きましたよ。こう言ってはなんですが、自分の妻になる女性が男を……それも婚約者がいる高位貴族の男を侍らせているなどと聞かされては、私は馬鹿にされていると思ってもいいのでしょうかね? 男爵」




……怒っていらっしゃいますわね。まぁ当然の反応ですが。ルリィ様のお父君はこの場に来てからずっと肩身の狭い思いをされているのか、奥方と共に肩を寄せ合っておりますが、婚約者様の怒りには更に縮こまっていらっしゃいますわね。


なんだか哀れですわ。ルリィ様はご自分のお父様がこのような状況に陥る事を想像もされなかったのかしら。婚約者様の子爵家だけでなく、私達高位貴族にも反感を買ったのですから男爵家が爵位返上して平民になるか潰されるかのどちらかの状況なのですけどね。本当はお咎め無しに、と口添えするつもりでしたがルリィ様の婚約者様のご意見を尊重しなくてはいけませんものね。




本当に状況をご存知なのかしら? もしや、アリエス殿下達と仲良しだから男爵家を守ってもらえるとでも思っていらっしゃるのでしょうか。殿下達といくら仲良くなろうとも、その親から反感を買っていれば、親元で庇護されている子ども(この場合は殿下を含めた私達の婚約者様方ですね)は何の役にも立ちませんのに。


取り敢えずルリィ様のご両親方は私達と両親、婚約者様とその両親も含めて方々に頭を下げて謝っておられます。婚約者様もその姿に冷静さを取り戻したようですが……。




「申し訳ないが、ルリィ嬢との婚約は破棄させてもらうよ。解消ではない。彼女自身の有責だ。男爵家から慰謝料ももらうが、あなた方がルリィ嬢をどうにか淑女らしく育てようとしていたのは、婚約した頃から知っている。だからあまり高くは要求しない。だが、彼女を赦すつもりはない。男爵、解って下さいますね?」


ここまで冷静に要求を突きつけた上に、常識的で優しさを見せるこの方は好感が持てますわね。ルリィ様のご両親も頷き、そして男爵位を返上する、と陛下に申し出られました。手続き等の問題も有りますし、返上された男爵領をどうするかも考える必要が有るから、と陛下が3ヶ月間は男爵でいるように、と温情を見せられました。




直ぐにでも男爵位を取り上げる事は陛下ならば可能です。ですが、ルリィ様のやらかしには第二王子殿下……つまり国王陛下夫妻の息子も関わっている。それなのに男爵位を即座に召し上げては理不尽です。猶予を男爵家に与える間に、色々と男爵に整理させようとしているのでしょう。この整理には子爵家に払う慰謝料や領民達への説明(領主が変わるという事ですね。さすがにその原因までは話さないですが)が入って来ます。同時にアリエス殿下の処遇も3ヶ月間で陛下達は決められるはずです。


そしてそれは、私達が仕返し出来る期限でも有りました。それを過ぎれば陛下が下したアリエス殿下を含めた皆様の処遇が決まるので、逆に私達が陛下の意向に逆らう事になりかねません。3ヶ月。いい区切りなのかもしれませんね。やり過ぎず、こちらも仕返しが物足りないとは思わないでしょうから。


尤も私達は話し合って仕返しは同じく1ヶ月の間だけ、と決めていますけれど。寧ろそれ以上長いと私達がルリィ様のように思えますもの。それは嫌ですわ。


あくまでも真似でしてよ。私達を悪女だとルリィ様が仰ったのです。では悪女らしく、ルリィ様から奪っても構いませんわよね?


これで話し合いは全て終了しましたわ。さぁ悪女らしくやられたならやり返しましょうか。







***


それから暫くして、先ずは私が仕掛ける事にしました。


作戦は、こうですわ。私・レイラ様・マジョリカ様・ユリアーラ様は、それぞれの婚約者であるアリエス殿下・オロスト侯爵令息・ジェイ伯爵令息・デストア伯爵令息に近づくのです。と言ってもそれぞれの婚約者に私達は嫌われていますので(遠くから見ただけで睨まれる時点で嫌われています)私はオロスト侯爵令息に近づき、レイラ様はジェイ伯爵令息に近づき、マジョリカ様はデストア伯爵令息に近づく。そしてユリアーラ様がアリエス殿下に近づきます。ユリアーラ様は私より爵位が下なので、逆にそれがアリエス殿下に近づくチャンスなのですわ。




というのも、アリエス殿下はか弱い令嬢に泣い頼られるのが弱いので。私も王子妃教育が始まった時はよく泣いてアリエス殿下に慰められたものです。最近は直ぐに泣く事が許されなくなったため、アリエス殿下はそれがご不満のようでした。ルリィ様に会う前から時折、昔はよく頼ってくれたのに……と溢されたことを思い出しますわ。だから私より爵位が下であるユリアーラ様がアリエス殿下に、意を決して涙ながらに頼らられば……必ずユリアーラ様に食い付きますわね。


そうすればルリィ様から引き剥がせます。ユリアーラ様に作戦を伝え、その時にか弱く(少々大胆ですが)殿下の胸に泣き縋れば尚良しですわ。だってルリィ様の真似って言うと、常に殿方と然りげ無く腕を組んだり、ご自分の胸を押し付けたりとはしたない事をされてますもの。という事は、殿方はそういった大胆さを求めているわけでございましょう? だからこれがルリィ様の真似作戦ですわ。




もちろん、私もオロスト侯爵令息にそのような手を使いますわよ? オロスト侯爵令息は、勉強を頑張っておられる方ですので、勉強で分からない所が有った……と教えてもらうフリで密着する作戦ですわ。オロスト侯爵令息の成績は殿下より上で1番ですの。ですからこの作戦なのです。


この作戦を思い付いたのは当然レイラ様ですわ。レイラ様は、オロスト侯爵令息に認められるように、と勉強を頑張って来たのに、それが逆に気に入らなかったのか、ルリィ様と会う少し前から偶に不機嫌になられていたそうです。多分、レイラ様がオロスト侯爵令息に勉強を教えて欲しいと頼らなくなったから、のようですわ。


そして私がオロスト侯爵令息に近づく所から仕返しは始まりますの。自分達の婚約者は嫌われていても、他人の婚約者から嫌われるほどの言動はしていませんもの。ですからこの作戦は、それぞれの令嬢と婚約者の両親方公認で行われるのですわ。ここでご両親方まで認めている事が大事ですの。




だっていくら仕返しだからって、婚約者でもない殿方と2人っきりなんて私達の不貞を疑われますわ。でも婚約者である令嬢自身とご両親方が知っていれば不貞にはなりません。しかも毎日ではなく何日か置きに狙えば、怪しい態度だと学院の生徒達の噂にもなりませんわ。毎日ではない所がコツですの。


尤も私達が婚約を解消した事は早いうちに噂で流しますから、例えば私がオロスト侯爵令息と一緒に居るのを見られたとしても、新たな婚約者を吟味している、と言えばそれで済みますけどね。




さて、レイラ様が近づくジェイ伯爵令息は、芸術センス抜群ですのよ。だから婚約者であるマジョリカ様も頑張って芸術センスを磨くために絵画や彫刻・歌にピアノにバイオリンの勉強を中心に頑張って来ましたの。我が国ではそれらが芸術の中心ですからね。マジョリカ様はその中でピアノに才が有ったようで、歴史を学ぶだけでなく実際にご自分でも演奏されますわ。ジェイ伯爵令息は最初はそんなマジョリカ様をご自慢されていたのですが……。


なんでもジェイ伯爵令息ご自身もピアノを演奏されるけれど、マジョリカ様の方が技術も造形もピアノに乗せる感情も上である事に気付かれてしまったようで。それが気に食わないみたいとマジョリカ様は仰っていました。ご自分より上手い婚約者の存在が疎ましいようですわ。だから、レイラ様は敢えてピアノを教わるスタイルで近づきますの。


レイラ様はピアノは経験された事が無いそうなので、基本中の基本を教わるという事でジェイ伯爵令息に近づくわけですわ。もちろんルリィ様の真似ですので、ジェイ伯爵令息に教わった事が出来たら嬉しさのあまりギュッと手を握る、とか、抱きついてみる、とか、頑張ってみるそうですわ。



そして、マジョリカ様が近づくデストア伯爵令息ですが。彼の生家である伯爵家は、商会を経営していてかの伯爵家は商品の売れ筋が良いんですの。それについて、最初はユリアーラ様は凄いと褒めていただけのようですが、デストア伯爵令息と結婚するから、と商会の事や商品の事を勉強し始めたユリアーラ様が、色々とアイディアを出し始めた途端に、デストア伯爵令息は素人が口出しするな、と罵られたそうですわ。


ユリアーラ様のアイディアが商品に反映されて売れた事もあるようですのに。まぁそんなデストア伯爵令息ですから、マジョリカ様が商品や商会を褒めれば、デストア伯爵令息の機嫌が良くなる、という作戦です。


問題は私達がそれぞれの殿方に嫌われているかどうか、ですが。いくら婚約者の友人であっても婚約者ではないから、多分大丈夫ではないかしら? という若干の楽観的思考が有ります。




だって私達の婚約者様方は揃いも揃って女性にチヤホヤされたい人種ですもの。婚約者である私達が褒めるだけじゃなくなったから、ルリィ様にのめり込んだようですし。でしたら婚約者以外の女性からチヤホヤされたいのでしょうから、婚約者の友人からチヤホヤされるのも受け入れるのでは? と判断しましたのよ。


あら? こう考えますと、私達の婚約者様方ってあまり素敵な殿方ではないのではないかしら。もしかして男性を見る目が無かった……? いくら婚約者だからといって、親愛を育んでも恋愛に発展する事がない夫婦もおりますものね。それでも好きになったのは私達です。……客観的に見ると男性を見る目がないですわね。今更ながらですが。婚約解消して正しかったのかもしれません。


見る目を養って今度こそよいお相手を見つけねばなりませんわ。




そんなわけで、先ずは私からレイラ様の婚約者であるオロスト侯爵令息に近づく事にしました。……きちんと私達全員が婚約解消をされた事を噂に流してから、ですけどね。婚約者様方の耳にはおそらく入りません。ルリィ様に夢中な上、私達が婚約者様方に惚れ抜いていると自惚れてますもの。……やはり見る目が無いですわね、私達。いえ、気を取り直しましょう。ある程度噂が浸透した所で仕掛けますわ。


「オロスト様」


ルリィ様から少し離れたオロスト侯爵令息を見届けて、私はそっと呼びかける。オロスト侯爵令息は呼び止めたのが私だと知ると、目を眇めて周りを見渡します。レイラ様を探しておられるのでしょう。居ない事に少し驚いたようです。


「なんです?」


あら、そんなに素っ気ない返事を侯爵令息が公爵令嬢にするなんて無礼ですわよ? まぁ咎めていては話が進みませんから、無視しますが。


「実はオロスト様にお助け頂きたい事がございますの」


「助け?」


「私が王子妃教育を受けているのはご存知でございましょう?」


「それは、まぁ」


「それで困っていますの。東の小国の言語を習得するように王家の教師から言われましたが、私、元々言語習得が苦手で。それでも共通語と周辺諸国の言語は我が国の公用語と似ていますので覚えられたのですが……」


「東の小国の言語は難しい?」


「はい。それで恥を忍んで友人であるレイラ様にご相談した所、オロスト様は勉強に優れているし、様々な国の言語も習得されているから、もしかしたら東の小国の言語も習得しているかも、と助言を頂きまして……。お願いします、お助け下さいませ」


此処で婚約者である(とオロスト侯爵令息が思っている)レイラ様からの紹介と言う事でレイラ様が実はオロスト侯爵令息を未だ尊敬している、と思わせられるのも仕返し作戦の一つですわ。案の定、レイラ様の名前を出したら嫌そうな顔をしたのに、レイラ様から紹介された、と言った途端に嫌そうな顔が戻りました。おまけに。


「なんだ。レイラのやつ、そんな可愛げがまだあったのか」


なんて、上から目線で呟いてます。うふふ。作戦成功ですわ。婚約者である令嬢が相変わらず自分に好意を持っている、と思わせる作戦です。これでオロスト侯爵令息の中でレイラ様への好感度は上がった事でしょう。そうして上昇した気分から実はもう婚約を解消していた、と現実を知った時のオロスト侯爵令息は、どんな顔を見せて下さるのかしら。


オモシロイですわね。うふふ。


「オロスト様、いかがですか?」


「いいだろう。教えて差し上げるのも紳士の務めだ」


どこまでも上からですか。私の方が身分が上ですのに、ね。まぁにこやかに笑って「お願いします」と言っておきます。そうして最初から少し距離を縮める事にします。レイラ様と打ち合わせた通りに図書室でお勉強です。2人っきりでは有りませんよ。司書がおりますもの。でもちょっと婚約者でもない2人では有り得ない距離まで近づいて、オロスト侯爵令息を褒めます。


確かに東の小国の言語は知っていましたね。あ、ちなみに私はきちんと習得してますの。でも解らないフリくらい簡単ですわ。そして褒めるのと同時にルリィ様のように腕を触ってみたりちょっと顔を近づけてみたり。……あらまぁ簡単ですこと。ニヤニヤという表現がピッタリの笑みで「まぁな」とか仰ってますわ。


それどころか私の頭を撫でて来ましたの。あらあら随分と調子に乗っておられること。もちろん恥ずかしい、と俯いてみましたけど。全部ルリィ様のやり方を模倣しているだけですけどね。少し調子に乗らせた後は「淑女でははしたない距離でしたわ。ごめんなさい。レイラ様に悪いですわね」と大げさに謝っておきます。レイラ様がまだオロスト侯爵令息を好きだと錯覚させるためですわ。案の定、オロスト侯爵令息は「レイラは本当に俺が好きだな」なんて呟いてましたもの。


うふふ。

作戦通りですわ。もちろん、レイラ様を含めた皆様に作戦を報告し、順調である事も報告します。そうして、次はレイラ様。その次はマジョリカ様。その次はユリアーラ様がそれぞれに仕返しを始めました。尚、ユリアーラ様が国王陛下がお認めになっているとはいえ、粗相をしないか不安と仰いましたので、殿下とのやり取りを私は陰でこっそり見てました。


ええ、しっかりとユリアーラ様にニヤニヤしていましてよ? 成功です。後ほどユリアーラ様に満面の笑みで「その調子ですわ」と褒めましたら、安心したようでやる気になっていました。徐々に徐々にそれぞれの殿方に私達が近づいて距離を縮めるのと同時に、ルリィ様と婚約者様方との距離が徐々に徐々に開いていくのもみましたの。


その時のルリィ様のお顔ったら、醜くてこれがこの方の本当の性格かしら? と思ったほどですのよ。でも、考えてみればチヤホヤしてくれていた殿方が自分から離れてしまえば、嫉妬はするかもしれませんわね。ただ私達は表情には出しませんが、ルリィ様は淑女教育を怠った証のように醜いお顔が晒されているのですわ。その違いがあります。


そして、そんなルリィ様の表情は、私達の婚約者様方には見せずとも、ほかの学生達には何度も目撃されておりますので、どうやら皆様の中ではルリィ様こそ殿下方を誑かす悪女だと思われているようですわ。そんな噂を耳にしましたもの。あらあら。ルリィ様、味方が減ってますわよ?




そんな日々が2週間程続いた後でしょうか。ルリィ様が醜い顔で私とオロスト侯爵令息が共に勉強をしている所へ押しかけてきました。


「ルリィ?」


オロスト侯爵令息が声をかければ、醜い顔を咄嗟に笑顔に変えられます。まぁ凄い早技ですわ。もしや演者の方でしょうか。オペラを観に行った時の演者の方のような変わり身の早さですわ。


「オロスト様ぁ。最近ちっとも私と過ごして下さらないから寂しくてぇ」


「ああ。こちらのエルリーヌ嬢に教えて欲しい、と言われて勉強を見てやっているからな。だが別に俺が居なくてもルリィには殿下や他の奴らが居るだろう。それよりも熱心に勉強しているエルリーヌ嬢を手助けしてやらねば」


どこまでも上から目線ですわねぇ。面白いですこと。オロスト侯爵令息の説明に、ルリィ様がギッと私を睨み付けてきます。あらあら怖いですわ。私は少しだけ身震いをしてみせてオロスト侯爵令息に視線を向ける。オロスト侯爵令息もルリィ様のその視線には驚いているのか、若干ルリィ様から身体を引いてますわ。


「なんなのよ、あなた!」


「あら。私のことは知っておりますでしょう?」


いつぞやに文句を言って来たではありませんの。


「ちっ。悪役令嬢のくせに、私の男に手を出すなんて信じられない! 断罪されるまでおとなしくしていなさいよね!」


何を仰っているのかさっぱりですが、断罪という言葉は聞き取りました。小声で言っていましたけど、いくら少し離れたとはいえオロスト侯爵令息の方がルリィ様に近いので、舌打ちは聞こえていたようです。驚いた上に嫌悪の表情を浮かべています。あらあら皆様が好きな淑女教育を受けていらっしゃらない令嬢ですわよ? 舌打ちくらい許して差し上げて?


「仰っている意味が解りませんが、私は何もしていないのに断罪される事は有りませんわ」


「私を虐めたでしょう⁉︎」


「いじめ……? いつ、どこで、どのように? 私は第二王子殿下の婚約者ですわよ? もしあなた様にいじめなどしていましたら、私付きの監視役が国王陛下に訴えておりますけれど。国王陛下からそのような事を尋ねられておりませんし、あなた様自身、国王陛下に謁見して尋ねられましたの?」


虐めた、なんて、そんなありもしない妄想をされても困りますわ。


「かんしやく?」


ルリィ様が言葉の意味が分からないのか首を捻ります。


「はい。婚約者に選ばれた時から、常に私には監視役がおりますわ。不貞が無いか、とか、素行が悪くないか、とか、発言はどうか、とか、付き合いのある友人はどんな者達なのか、とか。事細かに。婚約者に選ばれた時に陛下から説明を受けました。その上で受け入れられなければ婚約解消。受け入れられれば婚約者に決定だ、と。受け入れましたので殿下の婚約者に決まったのですわ」


「は? え? 嘘でしょ?」


「いいえ。嘘ではありません。家でも外でもずっとですわ。私に付いている侍女と護衛がそうですもの。ちなみに、オロスト侯爵令息様に勉強を教わる事は前もって国王陛下にお話をしておりますから、不貞とは見られませんわ」


私の滔々とした説明に、ルリィ様が顔色を真っ青にしている。あら。何故かしら。


「し、失礼しますわ!」


なんだか分からないうちにルリィ様は去って行きました。あら残念。もっと文句を言われるかと思いましたのに。


「なんだか興が削がれましたわ。オロスト様、また後日改めてお教え下さいませな」


「分かった」


オロスト侯爵令息は、ルリィ様の言動に何か思う所があるのか、眉間に皺を寄せて考えていました。……まぁどうでもいいですわ。さて、皆様に報告しましょうか。


私付きの監視役が侍女と護衛なのは嘘ではありませんが、殿下との婚約が解消になった時点で彼等の役目は終了しています。彼等は改めて私に仕える事を決めてくれたので、そのまま私付きですわ。彼等のお給金は国王陛下が慰謝料の一部ということで、国が相変わらず支払っています。有り難いですが、私が公爵になったら自力で彼等を雇うつもりです。




この一件を含めて皆様にもルリィ様が突っかかったようですわ。悉く退けられたようですけど。そうして予定通り1ヶ月が経ちました。


この1ヶ月。婚約者様以外の男性に淑女にとって有り得ない距離感で距離を縮めたところ、ここ数日は彼等の誰もルリィ様と関わっていないようです。毎日毎日、私にはオロスト侯爵令息が。レイラ様にはジェイ伯爵令息が。マジョリカ様にはデストア伯爵令息が。そしてユリアーラ様にはアリエス殿下が、側に居ようと昼休みや放課後に足繁くいらっしゃったようです。


もちろん、自分達の本来の婚約者(つまりアリエス殿下は私、レイラ様はオロスト侯爵令息、マジョリカ様はジェイ伯爵令息、デストア伯爵令息はユリアーラ様)に気づかれないように、コソコソと。……知ってますけどね。


それにしても。本当に私達が幼い頃から受けて来た厳しく自由も無い淑女教育は、一体なんだったのでしょうか。あれほど時には叩かれながらも身体に覚えこまされてきた淑女教育とはかけ離れた言動で、殿方がこれほどまでに擦り寄って来るなんて、おかしいですわね。淑女教育は間違っているのかしら。


取り敢えずここ数日は、私達自身が学園で一緒に居られなくなったものですから、今日は我が公爵家で集まって報告会ですわ。


「それで。そろそろ1ヶ月ですが、皆さまはどうでしょうか。私はこれ以上やっていてもつまらないので、終わりにしたいのですが」


私が言えば、3人も頷いてくれます。


「ええ。すっぱりと辞めてさっさと新しい婚約者を見つけたいですわ」


レイラ様が随分とはっきりものを言うようになりました。性格が変わったのでしょうか。


「本当に。浮気男と縁を切って気持ちを切り替えたいですわ。もう仕返し自体がつまらなくて」


マジョリカ様が清々しい程に浮気男、と元婚約者を切り捨てています。マジョリカ様の方が余程男らしいですわ。


「確かにつまらないですわね。仕返しをしているのに、アリエス殿下も自慢ばかり。しかも私が頼らないと不機嫌ですし。面倒ですわ」


ユリアーラ様は、元々殿下に仕返しをすること自体が恐れ多いと思っていたようなのに、今は嫌悪感丸出しですわ。


「では、もう仕返しはやめて婚約解消の話をしましょうか」


「「「賛成ですわ」」」


私の提案に3人が強く頷く。そして私は魔術師長様の立ち会いを希望して、魔術師長様がそれを了承して下さったならば、初めて婚約者様方に婚約解消の件を話しましょう、と話をまとめました。うふふ。婚約者様方とルリィ様にも来て頂いて話しましょうか。どのようなお顔を見せて下さるのか楽しみですわね。






***


そうして、仕返しを止めて婚約解消の件を話しましょう、と私達で話し合ってから半月程後。色々と忙しい魔術師長様の都合に合わせて本日、元婚約者様方とルリィ様を中庭の片隅に呼び出して、魔術師長様立ち会いで話を始める事にしました。


「さてお集まり頂きまして、感謝致しますわ皆様」


「悪役令嬢が呼び出すなんて、オカシイんだけど! ここはアリエスが呼び出して断罪する場面じゃないの⁉︎」


私が発言すればルリィ様がそのような事を仰います。……本当に淑女教育が身に付かない方ですわね。どう考えても身分が一番下の彼女が発言の許可無く発言するのも、殿下を呼び捨てにするのも有り得ませんのに。学院とはいえ、魔術師長様が立ち会いの話し合いであるこの場は、公のものと同じですのに。でも、まぁいいですわ。気にしていては、話が進みませんもの。


「エルリーヌ。一同を集めた理由はなんだ」


「アリエス殿下のご質問に答えさせて頂く前に、魔術師長様立ち会いの話し合いという事をご理解下さいませ」


私は殿下と魔術師長様に頭を下げる。


「魔術師長様……。では父上、いや、国王陛下もご存知の話し合い、ということだな」


「左様にございます」


1人だけ首を傾げるルリィ様。……貴族ならば知っているべき事なのですが。よもや知らないとでも仰いますの?


「誰この人ー?」


不敬ですわ。私は少しだけ目を見開いてしまいます。もちろん、レイラ様・マジョリカ様・ユリアーラ様も驚いておりますわ。そして殿下以下元婚約者様方も、です。


「ルリィ! なんて不敬な事を言う! 魔術師長様だぞ⁉︎ 貴族ならば皆存じ上げている存在だろう⁉︎」


殿下が慌てふためいておりますわ。身分こそ殿下の方が上ですが、魔術師長様は、陛下の側近でもございます。それも、嘘偽りを申さない……というか、嘘偽りを()()()()お方です。


つまり、魔術師長様が口にした事はどんなことであれ、真実であって、故に国王陛下が意見を求める時や自分の代わりに耳目として国内を見て周り奏上するのです。もちろんお忙しい方ですので、ご自分で赴く事は無いのですが、魔法の一つに遠見というものがあるそうで、その場から国内の隅々を見る魔法があるのだそうです。それを魔術師長様は嘘偽りなく陛下に奏上するのです。


嘘偽りが申せないのは、そういう契約魔法を結ぶからですわ。万が一その契約を違えた場合は、魔術師長様の首に付けられている魔法具の首輪が魔術師長様の首を切ると、伝えられています。……実際に何代も前の魔術師長様がそのような目に遭われたとか。本当ならば恐ろしいですわ。死にたくなければ、魔術師長様は陛下には真実を述べる以外無いのです。


故に、この場に魔術師長様が居る事は、この話し合いを見聞きした事は全て陛下に嘘偽りなく奏上する、との表れなのです。たとえ殿下が「黙っていろ」と仰っても、陛下から「話せ」と命じられれば逆らう事は出来ません。逆らう事も契約魔法違反なのだそうです。具体的な契約内容は陛下と魔術師長様だけがご存知のことですが、貴族に生まれた者は義務として、魔術師長様がどのような存在か教育されます。契約魔法についても。


その契約魔法の中に、魔術師長様が他人から嘘偽りを教わり、それを陛下に申し上げたらそれも首を切る対象だと私達は教育を受けます。それだけに魔術師長様立ち会いの話し合いは、とても重要な事だと知れます。何故なら私達は嘘偽りを魔術師長様に教えれば、それをそのまま魔術師長様が陛下に奏上するのですから。結果、魔術師長様がお命を落とす……。


人様の命を左右するような事を迂闊に出来るわけが有りません。


そういった事をたとえ養女に迎えられたとはいえ、貴族という立場になった以上は教育として受けさせられたはずなのですが……。さすがに殿下以下元婚約者様方もルリィ様の発言には、恐ろしい者を見るような目をしていました。


「ルリィ。彼には絶対嘘をついてはいけないよ。嘘をついたら命に関わるからね」


殿下は諸々の説明を省いて、そうとだけ説明されました。まぁルリィ様のように物覚えの悪い方には良い説明の仕方かもしれませんわね。仕切り直しですわ。



「お集まり頂いたアリエス殿下・オロスト侯爵令息様・ジェイ伯爵令息様・デストア伯爵令息様に、お伝え致しますわ。私達の婚約は解消されました」


その一瞬、空気が凍ったような感覚がしましたが、なんだったのでしょう?


「なっ、どういうことだ⁉︎」


「お伝えした通りですわ。皆様方と私達との婚約は陛下公認で既に解消されていますの。その原因はルリィ様ですわ」


「私が何をしたっていうのよ! 私はヒロインよ? 皆が私を好きになるのは当たり前のことなの。それなのに嫉妬しちゃってさ。私を虐めて楽しかった?」


「私がルリィ様をいじめる理由など有りませんわ。それに虐めている時間など私にも友人達にも無かったですわよ? 以前も伝えましたが、私には監視役が居ますの。虐めなど出来ませんわ」


以前、監視役が居ると話したのに、そのことはすっかり忘れていたのでしょうか。それにしてもルリィ様の仰います事は時々理解出来ないのですわ。ひろ、いん、とはなんですの。


「あ、アンタが直接出来なくても誰かにやらせる事も出来たでしょ⁉︎」


何故私がアンタなどと呼ばれなくてはならないのでしょうか……。溜め息をつきたくなりましたが、話を戻しましょう。


「とにかく、私達の婚約は陛下公認で解消されました。それと! ルリィ様の婚約も、ですわ」


ちょっと言葉が強かったのは良くなかったですわね。取り乱すなんて淑女にとっては、恥ずかしい事ですわ。


「はぁ⁉︎ あー。そういえば、私、婚約者がいたんだっけ。でも別に婚約が無くなっても困らないわ。アリエスの妻になれば、私は王子妃だし」


……ええと。もしや王子妃狙いだったのでしょうか? 無理ですわよ?


「それは無理ですわ」


「なんでよ! 嫉妬しちゃってみっともない! アリエスに愛されてないからってそんな意地悪を言うの、みっともないわよ! それこそ淑女とやらじゃないんじゃないの?」


あらあら、そんな言い方をして可愛げが何処かに忘れ去られていますわ。殿下以下元婚約者様方がルリィ様から距離を置いてますわよ?


「いえ。意地悪ではなく。先ず、身分の問題。王子妃は伯爵位以上から選ぶ事が国の法律で決まってますわ。それから王子妃教育を5年は確実に受けていないと、王子妃にはなれません。それも法律で決まっています」


「は、はぁ⁉︎」


「ご存知無い事がおかしいですわ。それこそ淑女教育の一環ですが。そもそも王子妃教育を受けるにも、勉強が出来なくてはダメですわ。学院でしたら学年で15位以内の成績を修めている。学院に通っていなくても淑女教育や家庭教師による教育の様子を見て勉強が出来ているかどうか、王家は把握しています」


「えっ……」


本当に何もご存知有りませんのね……。


「ルリィ様のご身分では、王子妃ではなく、愛妾ですわね。それも正妻である妃に子が居ない場合のみ、愛妾になれますわ。これは王家の血筋を簡単にばら撒くわけにはいかないから、ですわ」


「そ、そんな……」


というか、元婚約者様方は誰もルリィ様に説明なさいませんでしたの? 殿下はご結婚されるつもりでは無かった? ああ、そうでしたわ。ルリィ様は跡取りとして養女に迎えられた方。皆様、ルリィ様の家に婿入りする予定でしたのね! でも。……誰か1人しかルリィ様と結婚出来ないのに、そこはどうお考えなのかしら。


まぁいいですわね。私にはもう関係ないことですわ。


「とにかく、ルリィ様は王子妃にはなれません。そもそもアリエス殿下は、私が公爵家の跡取りですので、私と結婚後は公爵家に婿入りの予定でしたの。最初からそのように婚約が結ばれていましたから、王子妃にはやはりなれませんでしたわね」


ルリィ様が愕然とした顔をされましたが、本当は王子妃を狙っていたのでしょうか? 残念でしたわね、王子妃になれなくて。ようやく黙ったルリィ様はさておき。私達はそれぞれの元婚約者様方に、婚約解消の件は国王陛下も両方の家も知っていて覆らない事を申し渡しました。皆様もルリィ様と同じように愕然とした顔をされてますわね。


「な、何故だ、エルリーヌ! 私を愛していたのだろう?」


「変な事を仰いますわね? アリエス殿下。あれだけ蔑ろにされ、睨まれ、疎ましがられて何故好きで居続けると思われたのです?」


私のこの言葉は、奇しくもレイラ様・マジョリカ様・ユリアーラ様と同じでした。皆、同じ事をそれぞれの元婚約者様に言っていたのです。私達、これからも仲良くいられそうですわ!


そして、私達にそう言われた元婚約者様方は、膝をついて衝撃を受けていらっしゃるようでした。今更反省されても、ねぇ。もう覆りませんわ。


「ルリィ様の家に婿入りされるも良し。年は離れましょうが、別の婚約者を探すも良し。もう私達には関係有りません。という事を伝えたかったのですわ。ーーもちろん、皆さまの素行は婚約解消の時点で既に国王陛下並びにそれぞれの家の当主が知っていますから、もしかしたら何やらお咎めが有る……かもしれませんわね」


私のこの言葉に、ようやく元婚約者様方全員が、仕出かした事の大きさを理解したようです。……まぁ婚約解消の件以降、婚約は置いといて改めて互いの家に利益になるような契約をしていますから、お互いの家に損は無いですけれど。そこまで親切に教えてあげる必要は有りませんものね。


「では、元婚約者様方及びルリィ様、もう関わる事は有りませんが、学院卒業までは学友では有りますので、お互い勉強に励みましょうね。ごきげんよう」


私と友人達は綺麗にカーテシーを決めて、魔術師長様にも礼を述べて話し合いを終えました。膝をついて項垂れる元婚約者様方と、王子妃になれない事実に打ちのめされたルリィ様をその場に置いて……。






***


さて。その後のことですわ。数年経って学院卒業後ですが。

ルリィ様は、各家の良縁を破談にした責任を負って、修道院へ。国が管理する修道院の中でも規律の厳しい所だそうです。もう貴族では無いから、その事実も知らされて泣き喚いて暴れたそうですが、魔術師長様に拘束されて陛下直属の騎士に強制的に修道院へ送られたそうです。


アリエス殿下は、まぁ学院内での失態だった事。自分の将来の行き先を失っただけの事でしたので、王位継承権剥奪と、国外から王女を迎えて結婚して公爵家を興して国に尽くすか、子を作れない身体になって一生独身で国王陛下と将来の国王陛下に王族として生きて国を支えるか、選択権を与えられたそうです。そして、一生独身で子を作れない身体になって王族として生きる事に決めた、とか。


オロスト侯爵令息は、跡取りから外され、侯爵領にて領地を治めるそうです。将来の侯爵を支える人生ですが、王都入りは一生不可になったとのこと。跡取りは弟様だそうですわ。


ジェイ伯爵令息様も同じく跡取りから外され、伯爵領行きだそうです。伯爵領を治める方の補佐だとか。王都の煌びやかな芸術に敏感だったあの方に王都入りがやはり一生不可なのは、キツイのではないかしら。跡取りは親戚から養子を取るそうですわ。


デストア伯爵令息様は三男だったから、跡取りでは無かったので。商会に入り、一番下から商会の勉強をさせるそうです。そこできちんと反省が出来れば王都の出入りは認めるそうです。商人として、だそうですわ。


一応皆様の将来が完全に潰れたわけでは無くて、少しだけ安心しましたわ。あれで潰れてしまっていたら後味が悪いですものね。


私達ですか? 友情は続いておりますわ。それと全員縁談が沢山来てますの。傷心中として断っていますけど。まぁ私はお母様が仰って下さったので、婿を取る必要もないですわね。あ、私のお父様は案の定離縁されました。でも何処へなりと行け! ではなくて、我が公爵領の中で、若干貧しい村で生涯を過ごすようです。飼われているようなものですわね。もちろん、愛人には会えませんわよ? おそらく寂しい老後になるのではないでしょうか。


こんな所ですわね。

それにしても、淑女教育ってなんなのでしょうね。社交界にデビューした今では、淑女教育の大切さは身にしみて理解してますわ。表情を変えない事も話し方も話す内容も。足を引っ張られないための武器ですもの。


でも、淑女教育で婚約者を失うのでは何とも言えませんわ。淑女教育の改革が必要なのかもしれませんわね。そんな事を思いつつ、それでは皆さまごきげんよう。これにて私は失礼致しますわ。またどこかでお会い出来たら良いですわね。





(了)

思い付きの短編をお読み頂きまして、ありがとうございました。


補足として。

お気付きでしょうが、ルリィは転生者です。それも痛い系の……。彼女だけが転生者なので彼女以外理解出来ない言葉があります。

悪役令嬢とか、ヒロインとか……。




本来、別の短編を書く予定だったのですが、つい思い付いてしまって……。

別の短編をあと3作品くらい執筆予定です。1作品は今月中を予定してます。


気になる方はよろしくお願いします。

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