日本殲滅作戦が開始された!
●12月15日 深夜 通信団本部 電波塔先端
「ねえアカル、わたしたちおじいちゃんおばあちゃんになってもずっと一緒にいようね!」「ってかもう俺たちなってるし、ジジババに」「そっか!こつんてへぺろ!」
市ヶ谷駐屯地B棟から天を突く電波塔のその先端、ハタコおばあちゃんとアカルおじいちゃんがしわだらけの手をつないで東京の夜景を背負っていた。
「ハタコ、俺、おばあちゃんになったハタコのことも好きなんだな、そのシワと白髪も愛おしいよ」「あはっ!アカルもおじいちゃんになって、あたまハゲててもカッコいいよ、大好き!」
―――チヨニ!ヤ!チヨニーッ!――― ―――ジョーカーで浄化!―――
ハタコは魔法老女に変身してイタコ役として『存在』と人類とのコネクションになり、アカルはよぼよぼジョーカー爺さんに変身してハタコと対策本部とのコネクションになった。人類滅亡を食い止める最初で最後のチャンスである。
正座し目を静かに閉じて精神集中をする魔法老女ラスフ婆さん、程なく何やらブツブツとつぶやき始めたが最初のうちは日本語どころか言語にすらなっていなかった。
その後しばらくして『存在』とラスフ婆さんのシンクロは進み、それと同時に夜空一杯に白く光るHやO、H2NやOHといった巨大なアルファベットとそれらを結ぶ何本もの線が現れ、構造式らしきものを形成し始めていた。
どうやら『存在』が自分自身を人類に解るよう視覚的に表現しようとした結果、アミノ酸の構造式のようなものになったようだった。所々で線は五角形や六角形を描いている。「いよいよアンドロメダ病原体だな」髭野大臣がつぶやいた。
「わ、わたし…」シンクロ来た!「わたしマリリンモンローよぉ~」ハタコ渾身のイタコギャグ、しかし対策本部は皆苦笑いだ。
その中ではやぶさ爺さんだけが弟に軽蔑の眼差しを向けられてもなお腹を抱えて笑い転げていた、流石は修羅場を幾度となく潜り抜けてきた大物だ。
本体まで物理的距離があるからであろう、幽体のこちらは依然子供の見た目のままであるやぶさ2くんは、会議室にいる老化した日本人たちを、そしてその向こうにいる多くの老化した日本人たちを見てこう思わずにはいられなかった。
『こんなにも絶望的な状況なのになんて明るくなんて前向きなんだろう』と。そういえばJaXaのパパたちもこんな感じだったなとはやぶさ2くんは思い出す。
「そーゆー民族なんダyp…!」「兄さん…」「困難とか逆境とか、そういう状況でも絶対に負けたくない絶対に諦めない、それが大和民族なノsa…!」はやぶさ兄さん、いつもなら憎たらしいドヤ顔を見せるところだが、今は静かに遠い目をしていた、彼もまたJaXaのパパたちを思い出しているのかもしれない。
「上級国民と呼ばれている地獄に生きる鬼畜どもの存在価値なんて、案外『世界に名立たるJP¥』を支える大多数の日本国民に対するハンデであるところにだけあるのかも知れんな」髭野大臣のひとり言に会議室全体が大きく相槌を打つ。
「逆に我ら日本人は予算とか時間とかがダブつくとパフォーマンス下がったりしますよね!」「ってかクソ政治屋やクソ官僚屋みたいにいきなり悪さ始めたりな!」「ちげえねえ!」笑顔の自衛官たち。はやぶさ2くんも少し驚いたような顔をした後控え目に笑いの輪に加わった。
「―――では、あなたのことは『アミノさん』と呼ぶことにします、わたくしどものことは『人類』とお呼びください」「◇◇▽▽△□○」「肯定されました」ラスフとアミノさんのシンクロ交信が始まった。
「アミノさんは地球という生命を守りたいとお考えですね?」「◇◇▽▽△□○」「肯定ですね、ではなぜ人類を滅ぼさなくてはならないのですか?」「………◇◇▽▽△□●?」「…確かに、そうですが…」ハタコの顔色が陰る、文字通り旗色が悪くなってきたようだ。
「………◇◇▽▽●●●?」「ッ!アミノさん、ちょ、ちょっと待っててくださいね、アカルー助けてー!」「ハタコ落ち着いて、アミノさんは何て?」「地球環境破壊は大量殺人では?ならば死罰は当然では?だってー」「大臣、指示を!」
「………人類も、持続可能な社会実現の取組を始めておりm「!!##!!◇◇▼▼●●●!!」むっ、どうした?」「アミノさん…今凄く怒ってます!人類は嘘吐きだと!」「(アカルーこれ詰みだよ詰みー)うっさい!あきらめんな!お前も日本人だろ!」
「!!##!!◆◆▼▼●●●!!」「…大量生産大量消費主義社会と決別出来ていない人類が持続可能な社会実現とは何の冗談かって!あと…お前たち日本人の普段の生活が既に殺人行為だとなぜ解らんのか…だから死罰は当然だ…って、アミノさん、言って…ます」
全人類に対する死刑宣告に5秒程沈黙する会議室、その沈黙を破ったのは「その娘の父親です!アミノさんに提案、いえ懇願します!人類にもう一度だけ!チャンスをください!せめて子供たちだけでも残すことは出来ませんか!?」ただの人の親だった。
「…◇…◇……」「ッ!アミノさん肯定的に考えています!」たまらずに会議室では声があちこちからあがる「人類の負の遺産、全て捨てます!」「ですから子供たちにどうかチャンスをください!」「お願いします!」「「「「「お願いします!」」」」」
その時!
会議室のスピーカーから更なる悪夢が滴り落ちた―――
速報 中露連合とおまけのチョン星が日本国に宣戦布告 殺人ウィルスをばら撒いた世界共通の敵である日本国を撃滅し その後適切に列島を分割管理運営する計画を発表しました
速報 米英EUを中心とした国連軍が宇宙ウィルス封じ込め作戦を発令 日本国全土をウィルス駆除の目的で焦土化し保菌容疑者すべて 即ちすべての日本国住民を殺処分する計画を発表しました
速報 日本国政府はこれらの発表に関し 遺憾の意を示しました
―――そして日本殲滅作戦が開始された。