3.待ってろ、おっぱい
裏門から正門に回り、張り出されている組み割りを確認した所、俺はどうやらA組のようだ。
クラスは全部でF組まで。
一クラスの男子の人数よりも、裏門に集まっていた人数の方が多かったので、一クラス以上の同類が居ると考えて良さそうだ。
そうと決まればイベント回避の為にもさっさと教室へ向かうべきだろう。
攻略対象キャラクター六人の内、同学年は四人。同じクラスに攻略対象が居ない可能性も大いに有り得る。
教室が俺にとって安全である確率は高いと言えよう。
校舎に足を向けたのと、旧校舎の方の騒がしさに気付いたのは、ほとんど同時の事だった。
旧校舎裏には桜の木がある。
朝、二度寝をせず、登校時寄り道をしなかった場合。旧校舎の桜の木を見に行く強制イベントが入る。
俺は周回する際、何度も彼女のイベントスチルを目にした。ひたすらバツボタンを連打するので会話までは記憶に無いが、ウィンドウに表示されていた名前は覚えている。
吾妻咲。
緑の長い髪を後ろで一束に纏めて、三つ編みにした女の子。
日本人で実際に目にする機会はあまり無い気のするそばかす少女で、黒縁の野暮ったい眼鏡を掛けた女の子だ。
吾妻咲は人気投票的には攻略対象キャラクターの中で五番目と低かったはずだが、同人界隈では根強い人気を誇っていた。
何せ、設定上、全てのキャラクターの中で一番乳がデカい。
ぽっちゃりを気にしているという設定で、先程の青髪の女の子とは違った意味合いで尻から太腿にかけてが大変ふくよかである。良い意味でと補足も入れておこう。
俺は天使以外には至って興味が無いので、その辺りに関しても勿論興味が無いけれど、違った意味合いで、吾妻咲には大変な恩義がある。
彼女は、知能のパラメーターを上げていない状態では一切の恋愛イベントを起こさないのだ。
他キャラクターは好感度補正だなんだと不足パラメーターを補ってくれるらしいが、彼女に関しては鐚一文も譲らない。知能パラメーターが基準値に達していない男子にはまるで靡かない、鉄壁女子なのだ。
その為、出会いイベントで乳を擦りつけて来る以外は比較的害の無い女子だった。
選択必須の項目が出た際には何度も彼女の名前を選んだ。
惰眠を貪り続ける俺――もとい主人公は、土を抉る勢いで知能パラメーターが低かった。そうすると彼女は、道端に落ちた犬のウンコを見るような冷やかな視線を浴びせてくれるのだ。
そんな恩人である彼女が、困っているかもしれない。
強気なさばさば系女子設定なはずの青髪の女の子でさえ、悲鳴を上げたあの地獄絵図を、吾妻咲も築き上げているのかもしれない。
そこまで思い至ってしまえば、俺の足は旧校舎へと向かっていた。
何より、一番の理由は、青髪の女の子を見るに、彼女は男たちの事を恐れていた。
自我があるのだ。
システム通りのテンプレートなど無い。
自分で物を判別出来るのだ。
もし吾妻咲にも自我があり、男たちを恐れて登校自体を辞めてしまう様な事態に陥った場合。
恋愛イベント全て回避という道は困難になる。
これだけ主人公もどきが多ければ、イベントが発生しない可能性だってあるけれど、万が一があっては困る。
ウンコを見るような、あの眼差しが俺には必要なのだ。
幸い吾妻咲の出会いイベントは強制イベントにカウントされる。
それに、イベント発生のタイミングからは時間帯がズレているだろうし、発生しない可能性だってある。
最悪、乳を擦り付けられそうになったとしたら、尻尾を巻いて逃げよう。
吾妻咲の運動オンチは筋金入りなので、常に気を張っていれば避けれるに違いない。
これは、男の戦いだ。
俺の愛と、おっぱいの、ぶつかり稽古だ。
待っていろ、おっぱい。
俺のおっぱい童貞は、天使に誓って、守り抜く。