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148/151

148.食べて

時間軸:139話後、140話前




 三条遂叶の話は、聞くに耐えない。


 それなのに、また、私は例の部室に居る。


「二ノ前さんが此処に居るなんて、なんだか不思議ですねぇ」


 嫌味か、クソ女。

 牙を向いてやりたい所だというのに、この女、三条遂叶を盾にする。


 翠の髪の美しいこの女、吾妻咲は、三条遂叶に連れられて、この部室にやって来た。

 なんでも昼食を一緒に食うとか何とか。


『最近は全然一緒にご飯食べれてないから』


 なんて、悲しそうに言うもんだから、私は別に誰が居ようと気にしないと言ってやった。そうしたら、三条遂叶は喜んでこの女を連れてきた。


 おまけに、五十嶋桂那も。


 中央に置いた机で雑談しながら食事をする、三条遂叶と吾妻咲。入り口の横辺りに椅子を置いて、そこで本を読む五十嶋桂那。私は、窓の側に椅子を置いて、それを見ている。


 混沌を、極めている。


 昼休憩の終わりを告げる鐘がなっても、彼女たちは微動だにしなかった。


「優等生の吾妻さんでも、授業サボったりするんだね」

「優等生の二ノ前さんでも、授業サボったりするみたいですからね」


 嫌味だな、クソ女。

 明らかに敵意を向けられているのに、三条遂叶はまるで気付いていない。

 何なら、自分の友達と友達が話をしていて嬉しいと、面に書いている。

 これでは、嫌味を返してやることすら叶わない。


 苛立ちを抑えるために、窓の外に視線を向けていると、えらく近くから「はい」と声がする。


 しゃんと通る、鈴みたいな声だ。

 視線を戻すと、すぐ側に五十嶋桂那が立っていた。


「……何、」


 五十嶋桂那の手には、菓子パンの入った袋がちょこんと乗っている。

 ――周りの空気が固まったのは、気の所為では無いだろう。

 この行動の、何がそんなに重要なのか見当もつかないが、三条遂叶と吾妻咲は何か思う所があるらしい。


「毎日、パンを買う」


 だからどうした。

 そう言ってやりたかったが、それが許される空気ではない。


「何の為かわからない。でも、私は、これを買わなきゃいけない」


 まるで理解出来ない。

 五十嶋桂那の記憶は消したし、そんな習慣が残っているはずもないのに。

 消されても、忘れる事が出来ないほどに、彼女にとって菓子パンを買う事が重要なのだろうか。


「甘いもの、好きなの?」

「好きじゃない」


 訳がわからない。会話をする気があるとも思えない。

 それでも、五十嶋桂那は、ずいと更に此方に菓子パンを差し出す。受け取れと促す。それが自分の使命だとでも言わんばかりに。



「きっと、あげるために買ってる。貴方に、あげるためかもしれない」



 私と五十嶋桂那に関わりなんて無かった。

 そう言ってやりたかったけれど、最早発言を許される空気ではない。どうしたもんかと、頭を悩ませていたつもりでいたのに、無情にも私の腹はぐうと音を立てた。


「食べて」

「……ありがとう」


 受け取ると、五十嶋桂那は綺麗に笑った。

 攻略対象キャラクターなのだから、顔が良い。

 お人形みたいに綺麗に綺麗に微笑んでみせた五十嶋桂那、それを見ていて、私は、どうしようもなく、恐ろしくなった。


 ――私は、何を消してしまったのだろうか。



『必ず、思い出す。そうして世界を、壊してみせる』



 彼女がそう宣言した理由は、そうまでして、世界を壊したい理由は、何だったのだろうか。

 菓子パンは、何処へ行くべきだったのだろうか。


 ――向き合う、べきではない。


 そんな言葉が頭を過って、勢い任せに立ち上がる。

 攻略対象キャラクターが三人、驚いた顔をして此方を見る。


 私は、どうしてしまったんだろうか。

 こんな所に居るべきでは無い。


 必死に足を動かして、部室から逃げる為に、ドアへ向かった。

 後ろから三条遂叶の声がしたけれど、関係無い。

 此処に、居てはいけない。





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