147.たすけて
一歩、一歩。足を踏み出して、重ねたその手は、とても暖かかった。
「満月ちゃんは――」
「その、名前で、呼ばないで」
「……なんて呼んだらいいの?」
「……ほ、なみ」
「穂波ちゃん」
少し考える素振りをみせて、それから、小さく私の名前を呼ぶ。私の、本当の名前だ。
「穂波ちゃんは、鳳凰の事が好きなんだよね」
鴎太の事が、好きだ。
大切なのだ。もう、失いたくない。
「アタシ、協力するからさ」
そんな言葉は、前にも聞いた。
首を振る。だって私は、鴎太とどうにかなりたいだなんて思っていない。生きていてくれればそれでいい。幸せでいてくれると、更に良い。
短命で、幸せになれずに死んでしまったあの人に似ているから。
あの人の事が、大好きだったから。
ぼやける視界の中で、三条遂叶は笑っていた。
ゲームのキャラクターに過ぎないくせに、私と同じ、幸せになれない存在のくせに、幸せそうに笑っている。
「ねえ、穂波ちゃん」
優しい優しい顔をして、慰めるみたいに、包み込むみたいに、お母さんみたいに。
誰も私にそんな顔を見せる人はいなかったのに。
「アタシ、穂波ちゃんの事が好きだよ」
あの、ひとりぼっちの穴蔵から。
雪の沢山降った次の日の朝に顔を出して、そうして出会った景色みたい。澄んだ世界は、青くって、ちょうどこの子の瞳のような色をしていたんだ。
「たすけて」
口からこぼれた言葉が本心なのか、私にはもう分からなかった。
何も助けて欲しい事なんて無いはずなのに、助けなんて、要らないはずなのに。
けれど、その言葉を受けた三条遂叶は、殊更に笑って、私の手をしっかりと握った。
「もちろんだよ。アタシが、助けてあげるから」
クイックロード、クイックロード、危なくて、危険で、頭の中ではもう逃げろと叫んでいるのに。
それでもやっぱり、私はその手を離す事が出来なかった。
私だけの、私のために差し出された手なんて、もうずっと、未だかつて一度も、なかったから。
読んで頂き有難うございます(_ _*))
配分をミスってしまい、昨日投稿分は長く、本日投稿分は短くなってしまいました……申し訳ありません。この章はあと2、3話程で終了になります。引き続きお付き合い頂けると嬉しいです。