表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

147/151

147.たすけて





 一歩、一歩。足を踏み出して、重ねたその手は、とても暖かかった。



「満月ちゃんは――」

「その、名前で、呼ばないで」

「……なんて呼んだらいいの?」

「……ほ、なみ」

「穂波ちゃん」



 少し考える素振りをみせて、それから、小さく私の名前を呼ぶ。私の、本当の名前だ。



「穂波ちゃんは、鳳凰の事が好きなんだよね」



 鴎太の事が、好きだ。

 大切なのだ。もう、失いたくない。



「アタシ、協力するからさ」



 そんな言葉は、前にも聞いた。

 首を振る。だって私は、鴎太とどうにかなりたいだなんて思っていない。生きていてくれればそれでいい。幸せでいてくれると、更に良い。


 短命で、幸せになれずに死んでしまったあの人に似ているから。


 あの人の事が、大好きだったから。


 ぼやける視界の中で、三条遂叶は笑っていた。

 ゲームのキャラクターに過ぎないくせに、私と同じ、幸せになれない存在のくせに、幸せそうに笑っている。



「ねえ、穂波ちゃん」



 優しい優しい顔をして、慰めるみたいに、包み込むみたいに、お母さんみたいに。

 誰も私にそんな顔を見せる人はいなかったのに。



「アタシ、穂波ちゃんの事が好きだよ」



 あの、ひとりぼっちの穴蔵から。

 雪の沢山降った次の日の朝に顔を出して、そうして出会った景色みたい。澄んだ世界は、青くって、ちょうどこの子の瞳のような色をしていたんだ。



「たすけて」



 口からこぼれた言葉が本心なのか、私にはもう分からなかった。

 何も助けて欲しい事なんて無いはずなのに、助けなんて、要らないはずなのに。

 けれど、その言葉を受けた三条遂叶は、殊更に笑って、私の手をしっかりと握った。



「もちろんだよ。アタシが、助けてあげるから」



 クイックロード、クイックロード、危なくて、危険で、頭の中ではもう逃げろと叫んでいるのに。


 それでもやっぱり、私はその手を離す事が出来なかった。


 私だけの、私のために差し出された手なんて、もうずっと、未だかつて一度も、なかったから。





読んで頂き有難うございます(_ _*))

配分をミスってしまい、昨日投稿分は長く、本日投稿分は短くなってしまいました……申し訳ありません。この章はあと2、3話程で終了になります。引き続きお付き合い頂けると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ