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143/151

143.クソみたいだな

時間軸:131、132とほぼ同時期。





 三条遂叶。

 彼女の話は、聞くに堪えない。


「それでさ、咲ちゃんはいつもお菓子持ってきてくれてね。ちょっと話をして帰るんだけど――」


 何の因果だろうか。

 群れの中で私だけが優れた能力を持っていたように、三条遂叶もまた彼女だけが優れた能力を持っていた。それ故に、孤立して、卑屈になっていた。

 餌に釣られて彼について行った私と、苛立ちに釣られて田中小太郎に会いに行った三条遂叶。彼女は、田中小太郎のお陰で友を得る。

 私も又、鴎太を受け入れたのは、彼の影響が大きい。


 然し、私と彼女には、大きく異なる点がある。

 三条遂叶はまだ、何も失ってはいないのだ。

 まだ幸せの只中に居て、幸せな未来を掴み取ろうとしている。

 ――ゲームのキャラクターでしか無い彼女に、未来なんてものは、有りはしないのに。


 無限のループの中で、繰り返す事しか出来ないのに。


 それを踏まえた上で三条遂叶を私に当て付けたのだとしたら、田中小太郎は相当嫌味で、相当策士だ。けれど、これは想定外の事なのだろう。

 三条遂叶は、田中小太郎の弱点でもあるのだから。

 今、私が三条遂叶の話を黙って聞いているように。三条遂叶は、人の制御出来る人間ではない。


「もうわかったよ。遂叶ちゃんはコタローくんの事がだいすきって事だよね」

「はあ?! そんな話してない……! アタシは咲ちゃんの話を――」


 繰り返しになるけれど、彼女の話は聞くに堪えない。

 そんなにも好きなのであれば、行動に出れば良い。にも関わらず、彼女は積極的には動かない。


「さっさと告白して、返事貰えばいいと思うよ。コタローくん、きっと断らないんじゃないかな」


 そうしてくれた方が自分にとって都合が良いというのは、勿論あるけれど。

 ただ、純粋に。田中小太郎は、告白して是非を問われれば、彼女を拒絶する事なんて出来無い気もする。

 あれは、相当な意気地なしだ。

 そのくせに噛み付いて来るので、鬱陶しい事この上無い。


「――でもさ、咲ちゃんもきっと、コタの事が好きだよ」

「じゃあ諦めるの?」

「諦めたくは、ないけど」

「けど?」

「……アタシにとっての一番は、コタだけど。コタにとっての一番は、アタシじゃないんだよ」


 ――そんな所まで、似てくれるなよ。

 狐の私と違って、お前は人間じゃないか。喉元まで出てきた言葉は、無理矢理飲み下した。

 三条遂叶は、ゲームの中のキャラクターだ。

 同じなのだ。現実世界に居る、想い人。人間には、勝てやしないのだから。


「クソみたいだな」


 代わりに、口をついて出た言葉は、二ノ前満月の言葉では無かった。

 三条遂叶は酷く驚いていたけれど、この腹の底が煮え立つような苛立ちは正しく『クソみたい』としか言い様が無い。


「み……みつきちゃん?」

「決めた。わたしがコタローくんと遂叶ちゃんをくっつけてあげる」

「え? いや、アタシがミツキちゃんと鳳凰を――」

「そっちの方が優先度高いから!!」


 かろうじて、二ノ前満月の皮を被りながら。その癖、吐き捨てるように声を荒げた私を、硝子玉のような瞳が見ている。


 ああ、最早、知った事では無い。


 三条遂叶と、田中小太郎が付き合う事は急務だ。


 この世界を保つ為に。


 そうだ、これは、この世界の為なのだから。急務である。


 加えて、彼女の話は、聞くに堪えない。田中小太郎と付き合えば、彼女の言葉に腹を立てる事も無くなるだろう。



「遂叶ちゃん。次の日曜日にさ、遊びに行こうよ。コタローくんも誘ってさ」


 




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