141.エンドロールが見えた気がした
『この世界の、ループを取り消す』
――俺が、逃げたから。
三条さんに、総べてを委ねて放棄したから……。
『……三条遂叶に。未来があれば、今の不幸も、幸福に変わると言われた。――私は、随分と間違っていたんだ』
三条さんはまるで物語のヒロインみたいに、穂波の事を改心させたのだろう。
自分の非を認めさせて、あまつさえ、救いの手を差し伸べたんだ。
更生する、チャンスを与えた。
世界を壊すのでは無くて、――世界が真っ当になるように。
『今後、一切。ロードも、リセットもしない。お前たちのいた世界と同じように、年を取り、死んでいく。そういうシステムに、変更する』
「そんなこと、出来るのか?」
『力はためなければならないが、可能だ』
「転移者は、どうなるんだ」
『――この世界で生きてもらう事になる。あちらの世界と、此方の世界を繋げてしまうと、この世界は小さ過ぎて、壊れてしまうんだ』
この世界の、――三条さんや、吾妻さん、皆の幸せを考えるのであれば、それは最良の結末と言えるだろう。
三条さんは、過去を乗り越えて、前を向いている。
吾妻さんは、まだ思い悩む事もあるだろうけど、三条さんが友達として側に居る。
五十嶋さんは記憶を消してしまわれたけど、ヒナちゃんの幸せを望んでいるはずだ。
穂波がヒナちゃんの事を意識して、受け入れれば、それで解決してしまう。
鴎太も、健康な身体で大人になる事が出来る。
他の転移者たちも、帰りたいという素振りを見せてはいない。
考えれば、考える程、誰もが幸せになれる結末だ。
簡単に辿り着きそうな答えなのに、俺はそこに至らなかった。
だって、この世界には、日向が居ない。
俺だけが、そんな世界、望んでないんだ。
『転移者の中で、帰りたいと望んでいるのはお前だけだ。そもそも、元の世界に未練の無いものばかりを選んで摘んだはずなのに、――お前だけがイレギュラーだった』
――聞きたく無い。
知りたくなかった。考えないように、していたんだろう。
五十嶋桂那との『世界を壊す』という約束は、俺にとって都合のいい大義名分だった。
それこそが一番、俺の望む結果に近いから。
それこそが唯一の、解決方法だと思い込んでいた。
『お前がこの話を呑んでくれれば、私はその未来のための、神になる』
エンドロールが見えた気がした。
俺が此処で首を縦に振れば、あとはもう、何もする事が無い。神が幸せを保証した世界で、皆は幸せに暮らしました。
めでたし、めでたし、と締めるんだろう。
偉そうな顔をして、穂波に間違っているなんて宣って――間違いたかっただなんて声を掛けて、俺も十二分に間違っていた。
正当性を掲げて、盤面がひっくり返ればどうだろう。
今の俺は、まるで穂波じゃないか。
日向ですら、俺が側に居る事を望んでいるかどうかも分からないのに。
俺自身ですら、日向の側に居ることから逃げていたくせに。
どうしようもない、我儘で。
俺のエゴだけで、世界を壊そうとしている。
『返事、待ってるから』
ぷつりと電話が切れて、ぷーぷーと電子音が鳴り響く。
返事なんて、決まっているのに。
十一章は此処で終わりになります。
読んで頂きありがとうございました(_ _*))
次話から数話は穂波視点の裏話になります。飛ばして頂いても問題が無い様に繋げますが、どういう経緯でこういう結果になったのか、気になる方はお付き合い頂けると嬉しいです!