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136/151

136.どういう状況?




 商業施設と水族館は、隣接してはいるが、一旦建物外に出てレストラン区画を抜けた先にある。

 晴天であれば眩しい日差しを浴びる事が出来るだろうが、今日は雨が降っている。俺と三条さんは各々傘を差して向かった訳だけど、どういう訳か、鴎太と二ノ前満月は一本の傘に収まっていた。



「遅いぞ、コタロー」



 わくわくして待ち切れないといった様子の鴎太が、水族館の入り口側にある券売機の横で手を振っている。


「それ、どういう状況?」

「こ……こた! 突っ込んじゃダメでしょ……!」


 隣に居る三条さんが、顔を真っ赤にして非難の声を上げたけど、俺にはとてもスルー出来なかった。


 所謂、相合い傘。

 おまけに、ちゃっかり手まで繋いでいたのだから。


 どうした穂波という問い掛けを込めてのツッコミだったのだけれど、当の穂波は無言のまま、ずっと下を向いていた。表情は読み取れないが、多分、鴎太を何一つとして制御出来なかったのだろう。


「待ち切れなくてさ、だからミツキに止めてってお願いしたんだ」


 いや、なんで呼び捨て? 何があった?

 洗い立てのシーツみたいに汚れひとつない純粋な顔をして、鴎太が言ってのけるもんで。コイツ相変わらず距離感バグってるなと、関心してしまう。

 多分仲の良い女友達なんて居なくて、女子と仲良くして囃される経験なんてものもないもんだから、そうして照れのひとつも見せずに手を繋いでいるんだろう。


「アタシは良いと思うよ……! 鳳凰走って行っちゃうし、名案だと思う!」

「だよなあ。ほんと重ね重ねゴメンね、嫌だったらコタローに頼むよ」

「いや、いや……、とかじゃないよ。大丈夫」

「俺はお前と手なんざ繋ぎたくねえけどな」


 三条さんに睨まれたけれど、此処は否定しておくべきじゃないか。嫌なものは嫌なのだから仕方が無い。


「それより、早く中入ろう」


 いつまでも券売機の前で傘を差しているのも面倒で、この話を続けていて飛び火するのも勘弁願いたい。

 促すように声を掛ければ、鴎太は再び目を輝かせて、二ノ前さんに「行こう」と笑いかけていた。


「……なんか、上手くいきそうだね」


 こっそりと呟いた三条さんの声は、どこか羨ましがっているようにも感じる。

 良心に、爪を立ててくすぐられている気分だ。


 結局、この茶番に付き合ったところで、物事が好転する気もしないし、鴎太と穂波が仲良くやっているのであれば放っておいても良い気もする。

 付き合ってやる必要は、あまり無いのだ。


 それなのに、隣に居る三条さんが寂しそうにするもんだから。


「いいんじゃない。楽でいいよ」

「そうだね」

「早々に二人にしてやって、俺らはゆっくり回ろうよ」


 券売機の前でやいのやいのと騒いでいる二人の背中をぼんやり眺めていた三条さんが、此方を見る。

 目をまん丸にして、驚いた顔をして。

 だから俺は視線を逸らして、その辺の水溜りなんて眺めながら、続ける言葉を探す。見つかる気は、しなかったけれど。




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