表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

133/151

133.小学生みたいだよな





「コタロー」


 人好きのする笑顔を代名詞にしたら如何だろうか、と思える程に屈託の無い笑みを浮かべた鴎太は、右手で傘を差し、左手を掲げてみせた。

 上へ伸ばした左手につられて、右手まで上へ動かすもんだから、ぴょこぴょこと上下する傘がなんとも間抜けだ。


「小学生みたいだよな」

「出会い頭に何?」


 豆鉄砲を食らった鳩みたいな顔をする鴎太の事は放置して、辺りを見回す。

 人影は、見当たらない。


「待ち合わせか?」

「うん」

「誰と?」

「コタロー、二ノ前さん、三条さん」


 日曜日、校門前で。昼の一時に。

 先日の、俺のメールに対しての返信はそれだけで、多分待ち合わせなんだろうとは判別がついた。けれど、その面子は予想外だ。

 三条さんと二人なら良かったのに、と思えてしまえるくらいに、気不味い。穂波は勿論として、鴎太と顔を合わせるのだって、神社に向かったあの日ぶりなのだから。

 いつ穂波が現れるか分からない場では、あの日の話も、五十嶋桂那の話も、適した話題とは思えない。

 俺が特別話題を振らないのはいつもの事だが、鴎太までもが沈黙を貫くもんだから。雨雲におぶさられているみたいな、何とも言えない気分だ。


「……会えたんだってな」

「あ、ああ。……ゴメン」

「なんで謝んの」

「……誰か一人でも、元の世界に帰りたいと思うのなら。オレは元の世界に帰るための方法を探さなきゃいけないから」


 暗い顔をしてそんな事を言う奴に、返す言葉なんて見当たらなかった。


 暗い顔もするだろう。コイツにとって、元の世界に戻る事は死ぬ事を意味するんだから。

 加えて、この世界に居れば、鴎太は穂波に会うことが出来る。


 つまり、元の世界に帰りたいと思えなくて『ゴメン』だ。


 謝る必要なんて、微塵も無い。


 ――ただ、俺はそれを言ってはやれないから。そこから先は、会話なんて、無かった。



「二人とも早いね」



 雨粒が傘を叩く音を聞いていると、聞き慣れてしまった声がする。甘ったるい声の出所に視線をくれると、そこには二ノ前満月が立っている。


 イベントスチルになりそうなくらいに、綺麗な笑みを浮かべる二ノ前満月。白地のシャツワンピースを着て、踵の低い同色のパンプスを履いて。清楚を身に纏った彼女からは、穂波の影を見る事は出来ない。

 完璧な、二ノ前満月。

 おまけに傘まで、桃色の小花の散った可愛らしい柄をしていた。



「二ノ前さんも、早いですね」

「でもちょうどくらいじゃないかな? 男の子って、時間にルーズかなぁって思ってた」

「雨降ってるのに、女の子待たせる訳にはいかないもんな、コタロー」


 同意を求められても困ってしまう。

 心理戦で後手を踏んでいる以上、物理的にも後手に回る事は避けたくて早めに来ただけなのだが。


「二人とも優しいんだね」


 にっこり笑顔を浮かべるヒロインと、例の人好きしそうな顔をして笑う主人公。俺は本当に邪魔者な気がして、いよいよ逃げ出してやりたい気分だ。


「え、皆早くない? アタシ、遅刻してないよね!?」


 声のした方へ視線を向けると、ぱちゃぱちゃと、水溜まりを散らして此方へ駆けてきた三条さんが立っている。何だか、救いに見えてしまった。


 白いTシャツにデニムのハーフパンツ、腰に暗い色のチェック柄のシャツを巻いて、足元はスニーカー。防水仕様なのか、ピカピカしていて、三条さんっぽいなぁと、殊更の安心感がある。女の子の私服を見て、安心したなんて酷い話かもしれないけれど。


「今集まったところだよ」

「よかった……」


 安っぽいビニール傘の下で、花が咲いたみたいに笑う三条さん。

 それがとても場違いに思えて。振り回される事を覚悟したはずなのに、逃げてしまいたくなる。



「ダブルデートだね」



 とてもとても楽しそうに笑う二ノ前満月の声が聞こえて、まるで逃がさないと退路を固められているみたいだなぁなんて、ぼんやりと思った。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ