表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

126/151

126.酷く眩しかった





「三条さん、協力してほしい事があるんだけど」


 そう伝えて、呼び出した部室で、彼女は真剣な面持ちで俺の話を聞いていた。

 ぴっしり姿勢を正して、青い瞳を揺らしながら。


 すべてを聞き終えた三条さんは、こくんと、一回頷いた。



「わかった。協力するよ」


「ごめんね、ありがとう」


「全然、ちょっと驚いたけど」


「突然こんな話、驚くよね」


「ううん。薄々は、気付いてたんだよね」



 三条さんは、曇りひとつ無い笑顔で、そう言った。

 そうして、喉に引っかかっていた魚の小骨が取れたみたいに、清々しい顔で頷いてみせる。



「じゃあ、アタシは二ノ前さんに声掛けるようにしたら良いかな?」


「うん、五十嶋さんの事は俺に任せて」


「……ちょっと不安だけどね」


「でも、きっと俺よりは良いと思う」


「コタよりはね」



 可笑しそうに、声を潜めて笑う彼女を見て、若干良心が痛むけれど、気にしてはいられない。

 これは、三条さんを守るための行動でもあるのだから。



「ちょっと楽しいかも」


「折角なら楽しむ?」


「うん。じゃあ、アタシ応援隊長ね!」



 頬を上気させて、三条さんは手を挙げて宣言した。

 応援隊長――そう、俺は三条さんに全てを伝えなかった。ほんの少し、ひとつまみだけの事実を伝えて、協力してもらう事にしたのだ。



「二ノ前さんの恋、絶対に成就させてみせるから」



 ダブルピース。

 ありがとうと礼を伝えながら、上手くいった事に、こっそり安堵した。


 三条さんを、この件から遠ざければ遠ざける程、三条さんが巻き込まれる可能性は高くなる。


 二ノ前満月にとって一番安全な手は『攻略対象全員の記憶を消す』ことだ。


 それを、二ノ前満月はしていない。

 何らかの事情があって、全員に手を下す事は出来ないのかもしれない。



 吾妻さん一人が協力者だと知られてしまった場合、二ノ前満月に出来る事は『吾妻さんの記憶を消す』か『三条さんを人質に取る』くらいなものだろう。


 ここで三条さんを巻き込んだ場合、一人の記憶を消した所で仕方が無いし、どちらか一方を人質に取った所で、相手を煽る結果になると考える事も出来る。


 何より、脅しに屈しないという意思表示になる。

 はったりでしか、無いのだけれど。


 何にせよ、三条さんが協力してくれていると見せ掛ける事で、二ノ前満月を動き難くするための作戦だ。


 勿論、三条さんに本格的な協力は仰がない。


 彼女には『二ノ前満月が鴎太の事を好きらしいから、協力してやりたい』とだけ伝えた。


 俄然やる気を出してくれた三条さんは、五十嶋桂那の側に居ることを俺にパスし、二ノ前満月と『仲良くなる』ために、尽力すると宣言してくれた。


 それは、二ノ前満月の目には、不気味な行動に映るだろう。


 加えて、他にも二つ、この作戦には意味があるのだけれど。

 これはまあ、上手くいけばいいな、程度のものでしかない。



「でも、そうは言っても、何をすれば良いんだろうね」


「まず、三条さんには二ノ前さんと友達になって欲しいかな」


「友達?」


「うん、彼女もきっと、親しい人がいないから」


「うん……。そうだね、確かに二ノ前さんが特定の誰かと居るところ、見た事ないや」



 中々真剣に考えてくれているので、また心が痛い。

 三条さんの素直さを利用しているみたいで――いや、利用してしまっているのだ。



「三条さんに話してよかったよ」



 これ以上の手なんて、思い浮かばなかったから。

 悪い事を正当化するみたいに、心の中で言い訳をする俺に、三条さんは心からの笑みを向けてくれる。


 彼女のそんな純粋さが、酷く眩しかった。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ