表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

114/151

114.君は本当にバカなやつだよなあ





「あ、ついたっぽい……」


 鴎太の声を聞き、顔を上げれば少し先に開けた場所があった。

 こんな所に社を作る意味は分からないが、かなり年季の入ったものだと思われる。

 主に木で作られているが、その木の劣化が著しい。


「ああ、懐かしいな」


 社の前へ向かって歩いて行く鴎太を、俺と五十嶋さんは開けた場所の入り口から、見ていた。

 邪魔するべきでは無いのかもしれない。

 もし二ノ前満月が、この場に姿を現そうと思ったとしても、俺や五十嶋さんが居ると邪魔になるかもしれない。

 二ノ前満月は、この世界に来てから一度も、その姿で鴎太に会えては居ないだろう。


 ――此処まで来て、何を躊躇する?


 臆するなと、自分を律する為に拳を握る。

 此処に居なければ、二ノ前満月が現れたとしても、何も確認する事が出来ないじゃないか。

 こんな所でお人好し振ってどうするんだ。


 ――頭では理解出来ているのに、俺は、気付けば口を開いていた。


 此処ぞと言う時に、日和ったんだ。

 だって、俺はただの人間だ。人より心は弱いほうだ。

 俺が殺してしまうかもしれない鴎太の事を思うと。

 俺が潰してしまうかもしれない二ノ前満月の夢を思うと、この一日くらい、コイツらにくれてやるべきなんじゃないか、なんて。思ってしまったんだ。


「五十嶋さん、行こう」


 彼女は、目を見開いて、俺を見る。

 それから、俺の事をキツく睨んだ。


「意気地なし……」


 心の底から侮蔑するみたいに、五十嶋さんは言葉を吐く。

 当然だ。彼女は、誰よりもヒナちゃんの事を大切に思っているから。

 情け無くて、今すぐこの場を立ち去りたかった。

 だから、俺は後ろへ進んだ。文字通り、この行動は悪手で、後退だ。

 五十嶋さんは、ついてこない。


 俺は一人で、いや――抱かれたままの猫丸と一緒に、元来た道を進んだ。



「君は本当にバカなやつだよなあ」



 ――腕の中から、声が聞こえる。



「そもそも、猫の姿のおじさんに声を掛けてくれるのも、君だけだったしねえ」


 足を止めて、腕の中の猫丸を見る。

 口をぱかりと開いた猫丸は「やあ」と、声を発した。


「君たちがおじさんの社を作ってくれたでしょう。中々生徒がやって来て、供物をくれるもんだから、多少この世界でも力が使えるようになった」


 猫小屋の、事だろう。

 あれは本当に、社としての機能を果たしていたらしい。


「お礼に、戻る間少しおじさんとお話しようよ」


 目を細めて、猫丸はそう言った。

 歩けという事だろう。


「ゆっくり戻りなさい。これは、お礼だからね。おじさんと、ミツキからの」


 後ろへ戻ったと思ったのに、どうやら此方は、前だったらしい。

 俺があの場から立ち去ったことによって生まれた、ボーナスタイム。


 来た時の、倍くらいの時間を掛けて歩こう。


「質問にも答えるよ、答えられる範囲ではあるけれど。貰ったものは返さなくてはね」


 猫から人の声が発される違和感は凄まじいけれど、俺は一番の質問を、猫丸にぶつける事にした。



「二ノ前満月は、何故此処に来る?」


「変身や巻き戻しには神力を使うからね。回復する必要があるんだ」



 それは、猫丸が社が出来たから力が使えると言うのと、同じ理由なのかもしれない。

 二ノ前満月の社があるのはこの場所だ。

 だから、毎日この場所に通っている。



「力は、無制限に使えるものではないのか?」


「そうだね。基本的に力は信仰によって溜まるものだからね。ミツキには、この世界に信仰してくれる人なんて居ないけれど、この場所自体が神域だから、その力が社に溜まる。それを使って回復しているんだ」



 それは、微々たるものなのかもしれない。

 それじゃあ、もし、この場所にある社を壊したら――



「君の考えている事は、おそらく正解だ」



 猫丸が、それを保証してくれた。

 クイックロードも、記憶の改竄も、防ぐ術が、あったんだ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ