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113/151

113.それだけで幸せだ




「足元良くないから気を付けてね、五十嶋さん」

「うん」

「猫丸持とうか?」

「……お願い」


 木と木の間が空いているとは言え、舗装されていない道だ。

 五十嶋さんの手から、俺の手へ向けてぴょいと跳ねた猫丸は、綺麗に腕の中へ収まった。

 足元には剥き出しの木の根や、大きな石が転がっている。

 傾斜で無いだけまだマシではあるけれど、普段こういった道を歩く機会は多くないので、蹴躓きそうになる。


「どれくらい行った所にあるんだ?」

「子供の足だと結構歩いたかな。多分敷地の端の方なんだ」


 鴎太が記憶している道と、今歩いている道はどうやら一致しているらしい。

 割と慣れた様子で先を進んで行く。


「懐かしいな……。また此処に来れるなんて、思ってもみなかった」

「身体、悪かったんだっけ」

「そう。でもさ、結構諦めてたし、こんな大それた事望んでなかったんだ」


 まるで、独り言みたいな口振りだった。

 見えるのは背中ばかりでその表情は見えやしないが、泣き出しそうな、声だった。


「眠る前にさ、女の子が現れてオレに言ったんだ」

「……何を?」

「お前の願いを何かひとつ叶えてやるって」


 可笑しな話だ。

 願いを叶えてやれると言うのであれば、身体を治してやれば良い。

 それは、鴎太自身、気付いているようだった。

 前だけ向いて、真っ直ぐ歩く鴎太の肩が小さく揺れる。

 笑っているんだろう。


「オレ、その子が何でも願いを叶えられる訳じゃないって、分かってた。だからさ、こうお願いしたんだ」


 記憶を辿るように少し上を向いて、たっぷり時間を開ける。

 俺も五十嶋さんも、猫丸さえ、続きの言葉を急かしはしなかった。

 その思い出話が、二ノ前満月の思惑に繋がる話だから。

 純粋な気持ちで聞いてやれない事に対して罪悪感はあるが、これは確実に聞いておかなければいけない事柄だ。


「眠る時にキミがいてくれればそれだけで幸せだ、って。そんで、目が覚めたら、この世界」


 二ノ前満月は、受け入れられなかったのかもしれない。

 全てを受け入れて、全てを終えようとする鴎太の事を。

 だから、永遠にループする、幸せな世界を作った。

 ろくに側に居る事も叶わないのに。

 それでも、世界から永遠に鴎太が居なくなってしまうよりは、ずっと良いと考えたのだろう。



「オレさ、お前に楽しいよって答えたよな」


「――ああ」


「ごめん、あれ嘘だ。オレはあのまま――」


「クイックロード」



 ――世界は、歪まない。

 慣れてしまったんだろう。

 それよりも、重要な事だ。

 今の声は頭の中に響く声では無かった。


 二ノ前満月は、声の聞こえる距離に――此処に居る。



「あ……、れ。なんの話してたっけ」


「……ごめん、俺も覚えてないよ」



 記憶の改竄が起きたのかどうかは、分からない。

 けれどまあ、聞かなかった事にしてやったとも取れるだろう。

 鴎太は違和感だけはしっかりと残っているらしく、此方を振り返り、顔を青くしている。


「行こう。もう随分歩いたし、そろそろだろ」

「……ああ」


 二ノ前満月はその言葉を言わせなかったけれど、鴎太の気持ちは分かった。

 こんな世界は、当事者である鴎太ですらも、望んでいない。

 二ノ前満月のためだけに、この世界は廻っているんだ。





お読み頂きありがとうございます!

今日は宣伝を(_ _*))

実は今リレー小説に参加させて頂いております。

ギャルゲーの話を書く私が、今日を含めて三話ほど乙女ゲームの世界に出張です! 男主人公が悪役令嬢ちゃんを幸せにしたいお話です。良ければちゃんと書けているのか様子見に来て頂けると喜びます。向こうの投稿分は既に書き終わっているので、こちらの投稿ペースは今まで通り二話投稿を維持します!


タイトル「悪役令嬢の本当の魅力を知ってるのは、転生した俺だけです! 〜今更周りがそれに気づいてももう遅い! 彼女は俺の婚約者なので〜 」

URL「https://ncode.syosetu.com/n1601gq/」

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