101.つままれたって
その後、会話らしい会話は無かった。
流石にあそこまで言えば、クイックロードが行われるかと思ったが、その兆しは無い。
鴎太は二ノ前満月がその女の子だとは気付いていないようだ。
二ノ前満月がカミングアウトしていないという事は、それは隠したい事なのだろう。
けれど、二ノ前満月は過去に会った自分に関しての記憶を消してはいない。
自分の事を忘れられたくは無いというジレンマがそうさせているのか、バレたところで問題が無いという事なのか、そこは判別つかないけれど――、
社に行く事を止めないという事は、鴎太と、鴎太の認識している姿で会いたいと思っているという事だろう。
「なあ、コタロー」
「……何?」
「これもさ、皆に聞いて回った事なんだけどさ」
コンビニで適当にお茶やスポーツドリンクと紙コップを購入して、学校へ戻る道すがら、押し黙っていた鴎太が重々しく口を開く。
「この世界に来た時さ、皆同じ言葉が頭に浮かんだんだって。コタローには、聞いてないよな」
「同じ言葉?」
俺は、当初の記憶を随分改竄されているので他の奴らに共通する記憶は無い可能性が高いけれど、興味はあったので、先を促す。
「オレが思った事だから、A組の奴らに聞いてみたら、皆がそう思ったって」
「なんだよ」
「狐に、つままれたって」
――狐に摘まれたような感覚に、
言われてみれば、そうだ。
普段俺はそんな言い回しを使う事なんてないのに、この世界に違和感を覚えた時――確か、本名の話をした時か。
あの時俺は、確かにそう例えるのが相応しいと思ったんだ。
「オレが神社で遊んでた子って、もしかしたら人間じゃなかったのかなって。今はそう思う」
クイックロードは、起こらない。
これもまた、二ノ前満月にとって知られたところでどうにかなる類の話では無いという事なのだろう。
もしくは、鴎太に会った後全てを巻き戻すつもりで居るか、だ。
森ヶ縁の神社のお社に祀られた稲荷が二ノ前満月の正体。
――確かに、わかったところでどうにかなるものではない。
「人間じゃなかったとしても、友達だったんだろ」
「――うん」
「こんだけ良く分からん世界で、今更お稲荷様だなんだ言われたって。驚く気にもならないよな」
「はは、確かにな」
当面俺のするべき事は、神社へ行く事を阻止されない事だ。
二ノ前満月がその目的を黙認している間は、下手な事を言うべきでは無いだろう。
適当なフォローでも、鴎太は少し気を楽にしたらしい。
足取りを乱す事も無く、猫丸の尻を追っている。
「コタローに話して良かったよ」
「俺はまあ、暇つぶしにはなった」
「オマエほんと酷いよな」
「だってそうだろ。俺はモブ子にしか興味ねえから」
「ああ、そうだったっけ。攻略対象はべらせてるから推し変したのかと思った」
推し変どころか、俺の推しが現実世界のイトコで虚像だったなんて、思い出しただけでも頭が痛い。
けれどこれは、二ノ前満月に対しては上手く惑わせていると思わせておいた方が吉だろう。
モブ子の話をした事で、鴎太は元の調子を取り戻したようで、けらけらと笑っている。
「それより、コタロー気を付けた方が良いぞ」
「何を?」
「割と一年男子の中で、オマエが飛び抜けて狡いって話題になってる」
「直接何かされた事ねえよ」
「主人公なんじゃないかって専らの噂だからな。チートスキル持ちって」
主人公に、お前が主人公じゃないかと言われても、どうしろと。
苦笑してみせるしかなくて、不自然な笑みを浮かべてみせれば、鴎太はまた笑った。
「どんなスキル持ってるって言うんだよ」
「時間を操るとか、記憶操作?」
「――馬鹿馬鹿しいな」
「だよな。でも皆警戒してる。例えば記憶操作だった場合、学校に来ないようにされたら終わりだから」
二ノ前満月の行いが俺の所為と解釈されている事にも驚きだが、それを違和感程度でも感じ取っている奴が他にもいる事が、驚きだ。
やたらめったら時を戻しているツケが、回って来ているのかもしれない。
お読み頂きありがとうございました!
これ、伏線気付いてたよって人が居たら教えてください笑
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