表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

100/151

100.近所に住んでた男の子




「あ……ああ、最近話してなかったもんな!」


 取り繕う時に、指を擦り合わせる癖は相変わらずの様だった。

 鴎太の隣に並んで歩きながら、次の言葉を何にするか、考える。

 もう少し、二ノ前満月に対してアピールしておいた方が良いだろうか。


「喧嘩でもしてるんじゃないかって、心配したんじゃないか」

「それは、悪い事したね」

「元々、そこまで仲が良いって訳でも無いしな」

「何気に酷いよな、コタロー」


 ははは、と。乾いた笑みを浮かべる鴎太は、少し調子が戻って来ているようだ。

 さて、次に聞く事。

 不自然にならない様に気を付けながら、探りを入れるか。


「最後に花壇で話した時さ」


 その言葉を口にした途端に、鴎太はびくりと肩を揺らす。

 なんて、分かりやすいやつなんだ。

 ギギギとブリキ人形のように不自然な挙動で此方を見た鴎太は、青ざめている。

 ――何故、青ざめる?


 ――ああ。

 もしかすると、鴎太は俺を敵かもしれないと疑っているのかもしれない。

 思わず苦笑してしまったので、誤魔化すように「なんだよ、その顔」とだけ、突っ込んでおく。


「何の、話したっけ」

「此処に来る前何してたかの話」

「ああ、そっか。そうだな」

「鴎太が何してたか聞いてねーなって。思い出した」


 まあ、及第点じゃないだろうか。

 この流れならば、不自然では無いし、鴎太がこの世界に来る前に何をしていたかの話に関しては、ストップが掛かる事は無いはずだ。


「オレがこの世界に来る前……か」


 鴎太にとって、この話はあまり突っ込まれたく無い話なのだろう。

 迷うように視線を泳がせ、口籠る。


「聞きたい、か?」

「まあ、コンビニ着くまで暇だし」

「その程度の興味かよ」

「良いから、話してみろよ」


 隣で鴎太が溜息を吐いたのが聞こえる。

 それからまた、暫く迷うように時間を置いて、校舎を抜けて校門まで後わずかといったところでようやく、口を開く。


「オレさ、子供の頃からずっと病院に居たんだ」

「病院?」

「ああ、身体弱くてさ。退院してた時期もあったけど、学校なんてほとんど通えてなかった」


 開いた口が塞がらないとは、この事だ。

 せいぜいトラックに轢かれ掛けて、だとか。

 ありがちな展開くらいは予想していたけれど、想像以上に重たい言葉が出てきたもんで、俺は掛ける言葉が見当たらなかった。


「友達って呼べるのも、昔お参りに行ってた神社の子くらいかな。金色の髪が綺麗な女の子だったんだけど」


 遠くを見て、思いを馳せるみたいに、鴎太は言う。


『鳳凰くんはその、昔近所に住んでた男の子に似てて……!』


 二ノ前満月の言葉が頭を過ぎる。

 なるほど、神社の子――つまり、二ノ前満月が本当に神なのだとしたら、



「此処に来る前ってもう本当に寝たきりの状態だったから。神様がオレにくれたプレゼントなのかなって、思ったよな」



 ――この世界は、鴎太が出来なかった事をする為に、作られた世界なのだろう。

 何故、ギャルゲーの世界を模しているのかは、いまいち分からないが。


「今、楽しいか?」

「楽しいよ。だって、夢にまで見た高校生だぜ」


 情けなく眉尻を下げて、鴎太は笑う。

 その表情は、とても、楽しいという言葉を吐いた人間のものでは無かった。

 楽しんでいる事を申し訳無いとでも言うように、鴎太はぎゅうと自身の手を固く握る。


 ――自分の所為で、沢山の人が巻き込まれている。


 鴎太自身もそう気付いているし、だからこそ一人で、この世界の謎を追っていたのだろう。


「なんか、話難い話聞いたな」

「うん、ごめんな」

「別に良いけどさ」


 この世界が消えて無くなった時、元の世界に全員が戻された時、たしかに鴎太は死ぬらしい。

 この話を聞いて、並の人間であれば、元の世界に戻る事を躊躇するはずだ。


 けれど、俺はもう、迷わないって決めたんだ。


 全員を殺す事になったとしても、俺は元の世界へ戻る。


「その神社さ、行ってみれば?」

「え?」

「女の子、居るかもしれないだろ」

「……行ってみたけど、いなかったよ。(やしろ)のところでよく遊んでたけど。いなかった」

「ふうん、どこにあんの?」

「この学校の近くの駅から電車に乗れば、森ヶ縁って駅があるんだけど、そこで降りたら駅前にある」

「――今度、皆で探しに行ってみるか」






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ