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一千一瞬物語

ツケマく~る

宇宙人に誘拐された女の子。脱出方法を考えるのだが……

朝のTV番組が聞こえてくる。

世界各地にUFOがあらわれたらしい。

アタシは洗面所の鏡の前で、かなり盛り上がっているスタジオの声をBGMにドンキで買った、上まぶた用の ツケマ をなんとか右目につけようと格闘中だった。

『かわいく』て『ラグジュアリー』(どういう意味だろ?)で『クール』で『おしゃれ』と(ほかにも)いっぱい形容詞がついた、とにかくとっても長~いのでとってもつけにくいのだ。


「エリ、なにしてるの!? 遅刻するわよ!!」

ママの声がキッチンから聞こえてきた。

しまった。もうそんな時間か。

今度、遅刻したらさすがにヤバイ。

先生の顔とセリフが頭に浮かぶ。

『エリさん! 高校は義務教育ではありませんよ!!』

アタシは、あわててカバンをかかえて玄関にダッシュしかけたが、ママが

「ほら、お弁当持っていきなさい!」

というので、キッチンにUターンした。

まだ、キッチンのTVではUFOのニュースがやっていた。

お弁当をカバンに入れて、ママの焼いてくれた食パンを1枚口にくわえたとき、ちらっと『アブダクション』という単語がTVから聞こえた。


あわてて玄関のドアをあけてダッシュで一歩出たときだ。

アタシの体はピタッっと止まった。

家の上空の視界いっぱいに巨大な『UFO』が浮かんでいた。

『あ、さっきニュースでみたヤツだ』って思う間もなくアタシは強い光につつまれていた。

アタシは光の中をパンをくわえて、右足をふみだし両手を直角に曲げたダッシュのポーズのまま、上空のUFOの底に空いた大きな穴(ハッチ?)に吸い込まれていった。


気が付いたら、アタシは広い場所にポツンと一人でいた。

パンをくわえてダッシュしても、ハンサムな転校生に会えるのは漫画の中だけらしい。

アタシはダッシュのポーズを解きつつ、パンを食べながら思った。

どうもUFOの中ではないようだ。よくアフリカなんかの映像でよく見る『サバンナ』のような風景だ。

そこへ、

「あ~ら、目覚めたのね」

なにかカン高いが中性的な声、がひびいた。

声の方向、アタシの目線の斜め上を見ると、大きな顔が空間に写っていた。

髪の毛はなく肌は銀色、目はとても大きく白目がなく真っ黒だ。鼻は突起がなく、ポツンと小さい穴が2つ空いている。

なんかで読んだ『グレイ型宇宙人』みたいだ。

まあ、宇宙人だし『立体映像』なんだろう。

「えーと、あなたは宇宙人なの?」

「そうよ、わたしは宇宙人!! あなたを『アブダクション』したのはわたし、よ! 」

「『アブダクション』って何?」

「まあ、あなたの国の言葉に直すと『誘拐』? かしらね」

「うち貧乏だから、身代金でないよ。はやく家にかえして!!」

「あなたを連れてきたのはお金のためじゃないわ。(宇宙にお金なんかないし) わたしは宇宙の冒険家。そして、美のコレクターでもあるのよ」

「コレクター?」

「そう、あなたは地球の人間族にしてはとても美しいわ。だからわたしのコレクションにいれてあげる」

「コレクション……って、アタシを閉じ込める気ね! そんなのジンケンシンガイ(この前、学校で習った)だわ!!」

「ザンネンね。宇宙人に『ジンケン』(ってなんのことかしら?)っていってもムダよ」

宇宙人はそういうとパッと消えた。


ここは外国だろうか? ともかくサバンナからでて町に向かわなきゃ!

でも町はどっちだろ?

スマホは圏外になっていて通じないし。

考えながら、歩きだして少し歩くと、何か見えない壁にぶつかった。

「イタイ! なんだこれ??」

どうも見渡すかぎりサバンナだが、透明な壁のようなもので囲まれているようだ。壁のようなもの、といったのはさわっても感触がない、物質?じゃないみたい。なにか、アタシをはねかえす『力』の壁にとりかこまれているようだ。

早くここを出なきゃ、でもどうすれば?? と考えていると後ろから話しかけられた。

「あ~ら、新人ね! こんにちは」

え、また宇宙人?、と思って振り向くと……、

『キリン』だった。


「キリン? 今、しゃべった? なんで??」

キリンは足を広げて、首を思いっきり下げてどうにか私の顔をのぞきこんでいる。

「私たちも、アブダクションされたのよ。どうもこのエリアの中ならお互い話もできるみたい」

「私たち??」

キリンの後ろから、ラクダ が現れた。

「こんにちは、よろしくね」

さらに後ろからダチョウが現れた。

「まあ、私、人間みるのはじめて」

みんな言葉が通じるせいか、かなりフレンドリーだ。

アタシもとりあえず、あいさつした。

「よろしくお願いします」


アタシたちがとらえられているエリアは、縦×横1kmくらいの正方形、意外と広いようだ。

これは、キリ子さんのような大型動物がいるせいだろう。

そうそう、私は仲間の3人、というか2匹と1羽、に名前をつけた。

キリンはキリ子、ラクダはラク子、ダチョウはダチョ子、である。

そのままじゃん、といわないで。

アタシにはオシャレな名前を思いつセンスはないのだ。

だけど『固有名詞』という考えがめずらしかったらしく、3人とても喜んでくれた。

みんな、群れで生活する動物のせいか、仲間思いでおしゃべり好き。

(おしゃべり好き、なのは言葉が通じるこのエリア内だけの話だろうが)

すぐに打ち解けた。

みんなに出身を聞くと、キリ子さんはヨーロッパの動物園、ラク子さんも野生ではなくてアメリカの動物園、ダチョ子さんはアフリカの北の方(エジプト?)、らしい。


2~3週間が過ぎたが、状況はかわらない。

エリアの端の壁?を調べてみたが、少なくてもキリ子さんの背より高く、地面を1mほど掘ってみたが地面の下にも壁があり脱出は不可能のようだ。

そうそう、食事は朝、昼、晩、きまった時間になると目の前に銀色の箱が現れる。

現れる、というのは文字通り空中から突然現れるのだ。

中には、どこから調達するのか、カレーだのオムライスだの私の好きなメニューやデザート、お菓子、ジュースや飲料水のペットボトルまで入っている。そして食べ終わって、ペットボトルを取り出し、お菓子をポッケに入れると箱は消えてしまう。

エリアの真ん中にはきれいな川が流れていて、グレイによればその水は飲めるのだそうだが、私はおなかをこわしそうで川の水を飲んだことはなかった。

服はどんなに汚れても、次の日にはきれいになっている。

体の方も同様だ。お風呂に入らなくても体がべたべたになることはない。

これもグレイが寝ている間にこっそり洗ってくれている、とかではなく次の日の朝8時になると時間が巻き戻されたように突然、服がきれいになるのだ。

時間が巻き戻っている、といったが体調も初日のまま。よくも悪くもない。

トイレは……まあ、エリアは広いので端の方の木の陰でするのだが次の日には地面も元どおり。


こんな日々が続いていたのだが、一つ疑問があった。

グレイは『美のコレクター』とか言っていたが、アタシはいたって普通の顔で、美人ではないのだ。それに他のみんなもどんな基準でえらばれているのだろう??

キリン、ラクダ、ダチョウ……首が長いこと?

でも、アタシの首は長くないしなあ。


そして、さらに数日たったころ、久しぶりにグレイが現れた。

「あたらしい仲間を紹介するわよ。仲良くしてね」

いつものようにパッと姿が消えたのだが、入れ替わりにそこには、漫画みたいな目の大きい、きれいな鳥が立っていた。

鳥はとまどっていたが、アタシたちと話して事情がわかると優雅に頭をさげて挨拶した。

「こんにちは。わたくし、ヘビクイワシですわ」

出身はアジアの動物園、らしい。日本じゃないようだ。

すごい名前、と思ったが『クイ子』さんと呼ぶことにした。


その夜、クイ子さんが加わったせいか、みんなで遅くまで話をした。

ラク子さん、ダチョ子さんは家族に会いたいといっていた。

キリ子さんは子供に会いたいといって、涙を流した。

クイ子さんは美しくうなずいていた。

アタシは少し涙を流した。


アタシは寝ながら考えた。

宇宙人にとっての『美』(?)って何だろう。

クイ子さんはそんなに首が長くない。アタシよりは長いけど。

じゃあ、足かな?

確かにみんな足が長い。だけど肝心のアタシはそんなに長くない。

いったいグレグレイのことねは何を基準に『美しい』と判断しているのだろう。

ここまで考えたとき、クイ子さんの美しい瞳を思い出した。

そういえば、キリ子さんもラク子さんもダチョ子さんも目が大きい。

そうだ、グレ子もすごく目が大きい!

一瞬、コレだ、と思ったのだがアタシの目は普通サイズだった。


その日、アタシはエリアの境界の壁に背中をよりかかって(物質ではないがよりかかれるのだ)

手鏡を見ながら、つけまつげを直していた。

こんなところに閉じ込められても、乙女のみだしなみはキチンとしなくちゃ。ツケマはさいわいなことに何度つかっても次の日には新品になっているので毎日つけていた。

そして両方のまつげをはずしたときである。

なんと、そのままあおむけに倒れた。

『!?、??』

ハテナがいっぱい頭に浮かんだが、つまり

『壁がなくなった??』

ということを理解した。


うーん、なんで急に壁がなくなったんだろ。

とりあえずエリアの中にもどって考えこんでいるとただならぬアタシの気配にみんなが寄ってきた。

動物は目がいいのだ。

キリ子さんが驚いていった。

「ねえ、あなた壁の外にいたじゃないの」

「それが、壁がなくなったみたい」

「でも、わたしたちには壁あるみたい」

ダチョ子さんが壁をつついた。

そこへラク子さんが心配そうに

「エリさん、からだは大丈夫? ……なんだか急に目が小さくなったみたい」

まだ考え中でぼうっと聞いていたのだが

『目』の単語でひらめくことがあった。

私は急いでツケマをつけて見た。

……そしてアタシの前に壁が現れた。

アタシはツケマをはずした。

壁は消えた。

そして、みんなにいった。

「みんな、並んで! ここを出るよ!!」


そうなのだ。あのグレイ型宇宙人、グレ子が感じる『美』とは、『マツゲ』のことだったのだ。

気が付いてみれば、グレ子のあの大きな目にはマツゲがなかった。

キリ子さんもラク子さんもダチョ子さんもクイ子さんも、大きな瞳を持つと同時にとても長いマツゲをもっていた。

そして、アタシは……たまたま特大のツケマをつけていた。

このエリアの壁、というか障壁は、グレ子が『美しい』と感じたものだけに効果があるのだ。


アタシはカバンから携帯用のソーイングセットを出すと中からちいさなハサミを取り出した。

アタシはわたしの背に合わせて窮屈そうにはいつくばっている、キリ子さんの顔をのぞきこんだ。

「こわがらないで、目を閉じていてね」

そしてキリ子さんのマツゲを短く切った。

「さあ、壁に触って」

みておそるおそる壁にさわったキリ子さんだが

「まあ、壁がない!」

キリ子さん、壁が消えたのでエリアの外に出たがとたんにキリ子さんのいっていることがわからなくなった。

正確にはただのキリンのいななき(なんか牛っぽい声)にしか聞こえなくなった。

キリ子さんも気づいてあわててエリアの中に戻ってきた。

「外に出れたわ!」


ラク子さんのマツゲを切っているときに、ラク子さんが泣き出した。

「うれしいわ。でもみんなとお別れなのかしら」

ダチョ子さんもキリ子さんも泣き出した。

いつも優雅なクイ子さんも悲しそうに目をふせている。

「大丈夫。みんなのマツゲを切り終わったら一緒に逃げよう!」

アタシははげましながら、みんなのマツゲを切り終えた。

「さあ、逃げよう」

とアタシがみんなに呼び掛けたときだ。

空中に巨大なグレ子の顔があらわれた。

「も~~!! な、なんてことなのっ!? ワタシのコレクションがみんな台無しじゃないのおおお~!!」

あまりの大声にさすがに足を止める。どうやらマツゲを切ったのでひどく怒っているようだ。

「せっかく捕まえたのになんで急に美しくなくなっちゃうの!? もう、こんな星はいやだわっ、撤退よ!!」

一人で大声で文句を言っていたが、アタシたちの方に向き直ると、

「あなたたちにワタシのコレクションの資格はないわ!! 元の場所にお帰りなさいっ!」

グレ子がアタシたちを指さしたとたん、すごい光がみんなを包み一瞬、何も見えなくなった。


気が付くと、ワタシは家の前にいた。

すると、家の中からママが出てきた。

「エリ、何をグズグズしてるの! ちゃんとお弁当持った?」

私はとまっどったが、

「え、あ、持ったよ。 行ってきます!!」

アタシは学校に向かって走り出した。

時間は『アブダクション』前に戻っていた。


その日以来、UFOのニュースは聞かなくなった。

アタシは思い立ってキライだった勉強をはじめた。進学するためだ。

そして、バイトをはじめた。資金をためるためだ。

アタシは卒業したら、世界中を旅するつもりだ。


そして、みんなに会うのだ。



(了)

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