揺らぐ心
私は目の前の光景に目を疑った。
ラルザルクに属する筈のルークが、あろう事か味方の男を殴り気を失わせたのだ。
なんで? 私は味方を殴り倒したルークを信じられないといった思いで見つめる。彼はいったい何をやっているの?
「ルーク・ヴァンス。貴様……どういうつもりだ? 我がザズ帝国に寝返ろうとでも言うのか?」
アランが無表情に問い掛けるとルークは無気味な笑みを浮かべる。
「そのつもりだと言ったら……迎えてくれるのか?」
アランはそれを聞くと、値踏みをするような視線をルークに向けその場で黙り込む。暫く静寂が立ち込めた後
「良いだろう。お前の強さ……。そして何よりその何者をも寄り付かせようとしないその目と態度が気に入ったっ!! ザズ帝国に迎えた暁にはお前に一個師団の隊長の座を与える事を約束しよう」
そう言って不敵な笑みを浮かべながら手を差し出すアラン。
私は知っている。一個師団の隊長の座を与えるといったけどそんな力はアラン・ジラルドにはないことを。
ルークは静かにゆっくりとアランの元に歩いていく。
私はアランの考えてる事を予測する。
恐らくアランは今見せてもらった戦闘力をザズ帝国の為に利用しようと考えている。それは至極当然のことだと思う。だけど……。
私はこちらへと近付いてくるルークを見る。
ルークが仲間になってくれるのは嬉しい。だけど私が求めているのは戦う事ではなく、ルークと2人で戦争もない長閑な場所で平和に暮らしたい。それがどんなに難しく叶わない願いだとしても。
そしてルークがアランの元に辿り着くと差し出された手に自身の手を……。
「グッ……貴様……どういうつもりだっ」
握らなかった。
握ると見せかけてルークは先程の男と同じように鳩尾目掛けて拳を叩き込む。先程男の時と違って今度は深く入り込んだのか、アランの顔から汗が吹き出て顔色は真っ青になっている。
「どういうつもりかって? こういうつもりだよっ!!」
そういうとルークは一旦後ろに少し下がってからアランの顔目掛けてハイキックを打ち込む。アランはそれを顔で受けるとその場で崩れ落ち前から倒れる。
「…………」
ルークは倒れたアランを暫く眺めた後私に目を向ける。
「……っ」
私は息を呑む。
ルークの顔がすごい思い詰めた顔をしていたから。
「ルーク……なのよね」
私がそう問い掛けるとルークはその問い掛けに首を縦に振る。
「あぁ。お前はフレイ……でいいんだよな?」
慎重に尋ねるその物言いに昔の頃と何1つ変わってないと思った。
私はその言葉に頷く。
「10年ぶりね。あの頃に比べて貴方は背が随分伸びたみたいね。見違えたわ」
「大きくなっても中身はちっとも変わってねぇけどな……。フレイは大人っぽくなったな」
私はその言葉に嬉しくなるけど、顔に出ないように務め彼を見つめる。10年前より大分背が伸びている。私で170センチだけど遥かに高い180センチ台だろうか? 体は細めだが締まる所は締まってるという印象だった。この黒鉄の腕を見るまでは。
「その腕はどうしたの?」
私の言葉にその綺麗な顔に陰を落とす。
が、すぐに明るい顔を浮かべる。
「な~にっそんな事どうでも良いだろ?」
私はその言葉に憤りを感じたけど必死に堪える。
私は10年の間私はいつもルークの事を気に掛けていた。
それなのに自分の過去を一切話そうとしないルークが腹立たしい。
「なに怒ったような顔をしてんだよ?」
キョトン顔でルークは聞いてくる。いけない、顔に出てたなんて。気を引き締めないと。
「ンンッ!! まぁ無駄話はここまでにしましょう。で? ルーク……。貴方はどうしてこんな事をしたの?」
私は周りを見ながら言う。
周りに目を向けると奥にルークの仲間である男と私達の近くにアランが倒れている。
ルークは暫く無言で瞑った後大きく目を見開くと
「……このまま俺と一緒にこの場を去ろう」
当たり前のように言う彼に私は固まる。
えっ? 何を言ってるの?
「俺はフレイ……。君とは戦いたくない。今俺とフレイを邪魔する奴はいない。だから……」
「ダメだっ!!」
私はルークの言葉を拒絶する。
一瞬私とは戦いたくないという言葉を聞いて私の心は揺らいだ。
でもそれでも私がルークと一緒に逃げる事は出来ない。
「どうしてだよっ俺と戦う事を望んでるのかっ!?」
「……そうじゃないわ」
「ならっ!!」
怒りの炎を讃えた瞳を見ながら私は首を左右に振る。
「私はギルス・ザズの娘、フレイ・ザズよ……。これはどこに行ってもその肩書きは変わらない。戦うしか道がないのよっ!!」
私はそう言って魔銃を取り出しルークに銃口を向ける。
これ以上私は……迷う訳にはいかないっ!!




