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記憶

◆◆◆◆ 


 なんだ、ここ……?

 辺りは暗くほんの僅かな光さえ差していない。

 俺は暫く目を凝らした後、トボトボと足元を確かめながら歩き始める。だけど、どれだけ歩いても入口らしい物は一切見つからない。

 心が折れかけそうになった瞬間……。


「……っ」


 チャリチャリッという鎖と鎖が擦れたような音が聞こえた。なんだろう? 今のこの光景といい今の音といい……俺はこの場所を知ってるような気がする。

 俺は音の聞こえた方へ歩みを進める。音は次第に大きくなっていく。


『誰かっ……誰かっ!!』


 奥から子供の声が木霊する。

 あぁ、やっぱりか……。俺はこの声を知っている。

 それと同時にこの場所が現実ではなく夢の中だと悟る。なぜなら……。

 俺は音の出所にたどり着く。目の前には鎖で縛りつけられた一人の少年がいた。

 俺はこの少年が誰なのか知っている。だってその少年は……俺自身なのだから。

 俺は鎖で繋がれている哀れな過去の俺に歩み寄る。

 顔を覗き込むとその瞳は輝いておらず、絶望と恐怖を写し込んでいた。

 これが俺、ルーク・ヴァンスが16年の半生を過ごした場所だ。学校に通うようになったら外にいる間は()()などで拘束されることはあったがある程度の自由を許された。だけど孤児院に戻ればよくこうやって鎖に繋がれていた。

 だから俺は周りに絶望し呪った。なんで俺だけこんな暗い所でこんな惨めな思いをしなければならないんだと。


「でも()()()に会って、その気持ちが変わったんだよな」


 俺がそう呟くと暗かった場所に一筋の光が差し込む。

 俺はその光を微笑ましく眺める。俺は知っている。その光は絶望と呪いしかなかった俺の心に人としての感情を与えてくれた物だと。

 光の差す方から1人の少女がこちらへと歩いてくる。

 俺はその姿に目を細める。

 その少女は金色に輝く長い髪。愛らしくもどこか幻想的な雰囲気を感じさせる顔。そして全てを見通してるかのような澄みきった碧眼。

 今でも覚えてる。俺はこの時……この子に恋をした。


『貴方は……誰?』


 女の子が少年に尋ねる。


『…………』

 

 だが少年は答えずにただじっと彼女を睨みつけている。というかこの時の俺、何言ったらいいか分かんなくて黙りこくってたんだよな。


『あ、ごめんなさいっ。そうよね、人に名を尋ねる時はまずは自分からよね』


 俺が無言でいるのを女の子は勝手にそう解釈する。


『私の名前はフレイ・ザズ。ザズ帝国の皇帝、ギルス・ザズを父に持つ第一王女よ。貴方の名前は?』


『ルーク……ルーク・ヴァンス』


『ルークか……。いい名前ね。これから宜しくねっ』


 女の子……フレイはそう笑って告げる。

 俺は幼いながらもその時に理解したんだ。

 彼女は敵国の人間でいずれ俺が戦場に出て倒さなきゃならない敵なのだと。

 それでも俺はフレイと一緒にいる時を楽しんだ。彼女は毎日ではないが時々顔を見せてくれた。滞在理由を聞くとギルス皇帝が各地の孤児院を見て回っているとの事。最もこの頃はまだラルザルクとザズ帝国は険悪ながらも戦争までには発展していなかった。だからこそ、俺はフレイとこうして出会う事が出来たんだ。

 だけどそれは長くは続くはずもなく。ある時しょんぼりとした顔で彼女が現れるとこう言った。


『ごめんなさい。明日にはザズ帝国に戻る事になっちゃった』


 俺はその言葉を聞くと胸が締め付けられた。

 あぁ、これで彼女との時間が終わってしまう。次に会う時は戦場か? そうだとしたら……。


『私……。ルークとは戦場で殺し合いたくないなぁ』


『え……?』


 俺が思っている事を彼女が口にしていて驚く。


『だって、ルークはもう私にとって掛け替えのない友達だもんっ。その友達と殺し合いなんて……したくないよ』

 

 プレイの綺麗な碧眼に薄っすらと涙が溜まる。俺はその光景を見て目の前にいるのは天使なんじゃないかと、あの時の俺はそんな事を思っていたっけ。


『なら……約束しようよっ?』


 だから俺はフレイにそう持ち掛けたんだ。

 フレイの涙を止めたくて。なにより俺とフレイがまた出会える切っ掛けになればいいなと思って。


『……約束?』


『うん。戦場で出会ったらお互い殺し合わず、寧ろ協力し合おうっ!! 協力し合って戦争その物を終わらせるんだっ』


 フレイは俺のその言葉に暫く目を丸くした後……。


『アハ、アハハッ、アハハハハッ』


 俺の肩を優しく叩きながらフレイは笑う。

 俺はその笑顔を見て嬉しい気持ちで一杯になる。


『なら約束……。何があっても私達は殺し合わず、助け合うって』


 キラキラとした笑みを浮かべながらフレイは小指を突き出してくる。


『約束……。俺は君を守るよ。たとえ、国を裏切る事になっても』


 俺はそう告げて彼女、フレイ・ザズの小指に自身の小指を重ねる。

 そこで辺りが霧に覆われ俺は……。


「……ぃ……ろ………起きろルークっ!!」


「……ぅ……あれ?」


 目を開けるとそこはラルザルクの軍内部の講義室だった。

 あぁそうか。……俺寝てたのか。


「全く……。何ニヤニヤしてるんだ?」


「あぁ、懐かしい記憶を夢で見てな……」


◆◆◆◆

 そう、初恋だった……決して叶わぬ敵国の王女様との記憶を。

 結局俺はあの頃の約束を果たせずに今日まで過ごしてきた――。

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