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派遣社員の爆弾生存マニュアル ~ヴィンス・デニーロ~

 オハイオ州ヤングスタウン。


 いったい何があるのか、さっぱり分からない。


 調べてみたら、鉄鋼で栄えたが、七十年代以降、鉄鋼業の衰退とともに街も衰退したという。

 それに巻き込まれて小売業が衰退したところで全米チェーンの大型スーパーマーケットに薙ぎ払われた。


 現在、3D印刷の最先端都市になろうとしているが、労働人口の意欲の低下と薬物依存、最近やっと下げ止まった人口問題でなかなか好調とはいかないようだ。


 こんな町にも実はマフィアがいた。

 しかも、ふたつのファミリーがあった。

 しかも、こいつらは抗争状態にあった。

 1950年代から60年代の十年のあいだに七十五回の爆弾事件があった。

 そのうち、ひとつはマフィア以外にそのマフィアの十二歳と十歳の息子まで吹き飛ばされた。

 おかげでついたあだ名がマーダータウンUSA。


 これは中西部の小さな町に大都市並みのマフィアの抗争が起きたらどんなことになるかという話である。


     ――†――†――†――


 50年代から60年代、ヤングスタウンは鉄鋼景気に沸いていた。

 労働者の財布にはバーや売春宿で使うためのドルが唸っていて、男たちは荒々しい娯楽に飢えていた。


 ヤングスタウンは治安に問題があった。

 都市圏に五つも刑務所があったのだ。


 この都市には独自のマフィアがいなかった。


 鉄鋼景気に沸くとは言っても、所詮人口十六万人。

 イタリア系移民のコミュニティはあったが、大都市圏に比べれば小さく、ひとつのファミリーを形成するほどのものではなかった。


 人口の桁数が違う。


 ヤングスタウンのそばにあるのはクリーヴランドのファミリーとピッツバーグのファミリーだった。


 このふたつのファミリーはヤングスタウンについて、どれだけ儲かるのかなと怪しんでいたが、兵隊を送るくらいならいいだろうということで、クリーヴランドは準構成員アソシエーツのヴィンス・デニーロを、ピッツバーグは平の正式メンバー(ソルジャー)のサンディ・ネイプルズを派遣した。


 デニーロとネイプルズはとりあえず本拠地をつくり、高利貸しやサイコロ賭博をやってみたが、そこまで収益性がいいとは言えなかった。


「どうも儲からねえなあ」

「やつらは儲かってるのかなあ」

「いやあ、ダメじゃねえのか?」

「競馬場もないし」

「禁酒法時代ならワンチャンあったんじゃねえの?」

「でも、ちっこい町だからな」

「でも、刑務所が五つもある。もう、クリーヴランドに帰りたいよ」

「あ、でも、あれ、やってみたら、いけるんじゃねえの?」

「なに?」

数当て賭博(ポリシー)

「あー」

「駄目でもともとだ」


 これが当たった。

 つまり、デニーロにしろネイプルズにしろ、工場労働者の財布のみをあてにしたから、売り上げが伸びなかった。


 でも、ポリシーなら労働者以外にも主婦や小売店主、その他低所得者を狙える。

 なにせ、ひと口数セントからでもかけられるのだ。


 デニーロとネイプルズは早速、集金係と集計所をつくり、せっせとポリシービジネスをまわしたが、あっという間に売り上げが少なくとも二百万ドルになった。


 これに驚いたのは派遣元のクリーヴランドとピッツバーグのファミリーで、彼らはこのマホーニング・バレーの田舎町ヤングスタウンを自分たちの植民地とみなし始めた。


 案の定、クリーヴランドとピッツバーグのあいだで植民地戦争が発生した。


 クリーヴランド

  ヴィンス・デニーロ

  キャデラック・チャーリー・カヴァラッロ


 ピッツバーグ

  サンディとジョーイのネイプルズ兄弟


 社長ボス役員カポもいない。


 平社員ソルジャー派遣社員アソシエーツだけの戦争が始まった。


 そこで爆弾七十五発である。


 お互いの拠点(レストラン、煙草屋、ガレージなど)を吹き飛ばし合い、お互いの構成員の家に爆弾を仕掛けた。


 一番の人気は自動車爆弾だった。

 エンジンかけると、その電気が信管に流れるあれである。


 まだ、リモコンによるエンジン始動ができない。

 もし、標的が座席にケツを落ち着けて、キーをまわせば、確実にあの世行きである。


 これは確かな方法だと両サイドがこれを使いまくり、結果、メンタルがガリガリに削れた。


 いつも、車に爆弾が仕掛けられているかもとビクビクしながら、キーをまわすのだ。


 そこでクリーヴランド・ファミリーの準構成員アソシエーツで、ピッツバーグ・ファミリーのサンディ・ネイプルズを撃ち殺したばかりでつけ狙われているヴィンス・デニーロが実践した爆弾回避の秘訣をお教えしよう(ロバート・デニーロとは関係がないようだが、写真を見るとちょっと似ている)。


1.車から目を離さない。


 レストランに入っても、車が見えなくなる席に座らない。

 イグニッションに爆弾の信管をつなぐ場合、ボンネットを開けるか、ドアを開けてハンドルの下につなぐかしなければいけない。

 だから、車から目を離さなければ、爆弾が仕掛けられたかどうか分かる。



2.地べたを這いつくばる。


 まれに時限式爆弾を車の下にくっつける場合がある。

 爆弾爆発の瞬間に車に乗っているかどうか分からないので、イグニッション接続型に比べると確率で落ちるが、それでもあたることもある。



3.他人の車に乗る。


 これが一番いい。相手の裏をかくわけだ。

 いま、ヴィンス・デニーロはアップタウンにある知り合いが経営するピザ屋でたっぷり食って、家に帰るわけだが、ここでデニーロは突然、ガールフレンドのエディス・マグノリアが運転してきた自動車で帰ることにする。彼の車はガールフレンドに使わせるわけだ。

 もちろん、敵がこのトリックに気づいて爆弾をこちらに仕掛けている可能性もあるが、大丈夫、あいつらそんなにアタマ良くな――

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