チキチキファミリー猛レース ~フランク・スカリーチェ~
ニューヨーク五大ファミリー。
英語ではかっこよく『ザ・ファイブ』と呼ぶ。
五大ファミリーの名前は以下の通り。
ガンビーノ・ファミリー
ジェノヴェーゼ・ファミリー
ルケーゼ・ファミリー
コロンボ・ファミリー
ボナンノ・ファミリー
マフィアに興味がある人なら大体知っているこの五大ファミリーだが、最初からこの名前で呼ばれていたわけではない。
いろいろ変遷があったのだ。
その変遷をあるひとりのヘンテコなマフィア、フランク・スカリーチェとともに見ていきたい。
――†――†――†――
1931年、長きにわたる〈カステランマレーゼ戦争〉に勝利したサルヴァトーレ・マランツァーノはニューヨークを五つの縄張りに分けた。以下のごとくだ。
【1931年4月現在】
スカリーチェ・ファミリー ボス:フランク・スカリーチェ
ルチアーノ・ファミリー ボス:ラッキー・ルチアーノ
ガリアーノ・ファミリー ボス:トーマス・ガリアーノ
プロファチ・ファミリー ボス:ジョセフ・プロファチ
マランツァーノ・ファミリー ボス:サルヴァトーレ・マランツァーノ
そして、このうちサルヴァトーレ・マランツァーノがボスのなかのボスで一番偉いとされた。
この時点ではスカリーチェはボスである。
――†――†――†――
半年もしないうちに、一番偉いとふんぞり返っていたマランツァーノはラッキー・ルチアーノら若手に殺された。
ついでに喧嘩のもとになるボスのなかのボス制度は廃止された。
代わりに重要な決め事は誰かの独断ではなく、五つのファミリーのボスが集まって決めるコミッション制度が採用され、五大ファミリーも以下に再編される。
【1931年9月現在】
マンガーノ・ファミリー【Change!!】
ボス:フランク・スカリーチェ(降格)→ヴィンセント・マンガーノ
ルチアーノ・ファミリー
ボス:ラッキー・ルチアーノ
ガリアーノ・ファミリー
ボス:トーマス・ガリアーノ
プロファチ・ファミリー
ボス:ジョセフ・プロファチ
ボナンノ・ファミリー【Change!!】
ボス:サルヴァトーレ・マランツァーノ(殺害)→ジョセフ・ボナンノ
ここで注目なのが、フランク・スカリーチェである。
彼がなぜ降格されたのかはいまいち分かっていない。
マランツァーノに近すぎたのかもしれない。偽札大好きな長老マフィアのジュセッペ・モレロを殺害した下手人だし。
スカリーチェの降格は言うまでもないが、ラッキー・ルチアーノの判断である。
しかし、スカリーチェはなぜかルチアーノを尊敬していた。
ずっと後のことだが、ルチアーノが国外追放された後、イタリアへ頻繁に会いに行ったのはスカリーチェだし、ルチアーノがつくったヘロイン密輸構想をパーフェクトに支持して、誰かれ構わずこれを勧めまくったのも彼なのだ。
それこそ、質はいいけど高すぎるシャンプーを売る人みたいにヘロインを勧めた。
ヘンテコなマフィアである。
注目人事がもうひとつ。ジョセフ・ボナンノが昇格している。
ボナンノはこのなかでは一番長生きし、2002年、九十七歳まで生きる。
つまり、二十一世紀まで生きたのだ。
ボナンノは抗争に敗れて、アリゾナに逃げた後、インタビューやら自伝やらを書いて、マフィアたちからひんしゅくを買ったが、そのなかで前のボスのマランツァーノをスバラシイ人物と持ち上げていた。
「じゃあ、どうして殺されたのですか?」
「……」
マランツァーノが殺されたときの動向については口をつぐんだが、おそらく手引きしたのだろう。
自分で言うようにマランツァーノにそこまで忠誠を尽くしていたら、殺されているはずだし、スカリーチェのように外されているはずだ。
――†――†――†――
1936年、ラッキー・ルチアーノが強制売春の罪で禁固三十年から五十年の判決。
他に殺人教唆や労働組合への脅迫、酒の密売などで起訴されたが、なぜかやってもいない売春で有罪判決を受け、しかも量刑がケタ外れに重かった。
【1936年現在】
マンガーノ・ファミリー
ボス:ヴィンセント・マンガーノ
コステロ・ファミリー【Change!!】
ボス:ラッキー・ルチアーノ(投獄)→フランク・コステロ
ガリアーノ・ファミリー
ボス:トーマス・ガリアーノ
プロファチ・ファミリー
ボス:ジョセフ・プロファチ
『ボナンノ・ファミリー』
ボス:ジョセフ・ボナンノ
『』は現在の名前である。
全てのファミリーの名前に『』がつくまで、続けていく。
さて、投獄されたルチアーノは刑務所からファミリーを指揮したが、彼が収監されたダンモネーラ刑務所は統制が厳しいので、それも限界がある。
ボスについては外の人間がなるべきだと思って、次のボスを考えた。
フランク・コステロ。
ヴィト・ジェノヴェーゼ。
ルチアーノはコステロを次のボスに指名した。
もともとルチアーノ・ファミリーで政治家や警察との賄賂の受け渡し、それに賭博部門を任されていたコステロは協調型であった。
ジェノヴェーゼは有能だが、野心が強すぎるし、あるクラブダンサーと結婚するためにその夫を殺害するなど、かなり倫理に欠けて、自分勝手過ぎるところがあった。
それにジェノヴェーゼ自身、殺人での起訴から逃げるためにイタリアに逃げている。
そうなれば、悩むまでもなかった。
ただ、この人事が後に面倒なことになる。
――†――†――†――
ところで、我らがスカリーチェだが、ボスの座を降格で、一幹部にまで落とされたにもかかわらず、精力的に活動した。
たとえば、建設業界ではそれまでのマフィアは窓とか漆喰とか不動産販売オンリーとか食い込み方がバラバラだったが、スカリーチェは土地を買うところから建売をつくって売るところまで一本化してコスト分析をして、大いに儲けた。
ラスベガスのカジノでもバグジー・シーゲルを助け、リゾート・カジノのビジネスにも食い込んだ。
カジノの建設ラッシュが起これば、言うまでもなく建築業は大儲けである。
ホント、この人を降格させた意味が分からない。
ルチアーノが好きすぎてベタベタしてきて、ルチアーノにとって、うざかったのかもしれない。
――†――†――†――
1951年2月、トーマス・ガリアーノが死去。
彼はとことん目立たないボスで、投獄もされず、殺されもせず、見事に寿命を全うした。
建築関連に強い支配力を持っていて合法事業への食い込みが得意な一方で、若手時代には自分が尊敬しているボスが殺され、尊敬に値しない男がボスになると、すぐにぶち殺す意志の強さもあった。
【1951年2月現在】
マンガーノ・ファミリー
ボス:ヴィンセント・マンガーノ
コステロ・ファミリー
ボス:フランク・コステロ
『ルケーゼ・ファミリー』【Change!!】
ボス:トーマス・ガリアーノ(病死)→トーマス・ルケーゼ
プロファチ・ファミリー
ボス:ジョセフ・プロファチ
『ボナンノ・ファミリー』
ボス:ジョセフ・ボナンノ
後任のボスにトーマス・ルケーゼ。
五大ファミリーの名前も五つのうち二つが固まった。
これ以降、ボスが変わっても、ファミリーの名前はルケーゼで固定された。
ルケーゼもなかなか有能で、被服製造組合を支配下に組み込み、ガリアーノのニュージャージーと建築関係の利権を受け継いだ。ルケーゼ・ファミリーは建築に強かった。
もちろん、賭博や麻薬もやっていたが、とにかく用心深かった。
――†――†――†――
ガリアーノ病死からわずか二か月後の1951年4月、また代替わりがあった。
ただし、こっちのはかなりひどい。
マンガーノ・ファミリーの相談役でボスの弟であるフィリップ・マンガーノの死体がブルックリン近くの海水混じりの沼地で見つかった。
警察が事情を聴こうと思って、ボスのヴィンセント・マンガーノを探したが、こちらは行方が分からなくなっていた。噂ではどこかの公営団地の基礎コンクリートに沈んでいると言われている。
その日、ファミリーのアンダーボスであったアルバート・アナスタシアがコミッションの場に呼び出され、ボス殺しをしたか問われたが、否定し、逆に自分はマンガーノ兄弟に命を狙われていたと弁明した。
確かにマンガーノとアナスタシアの仲は険悪だった。
アナスタシアはボスを放っておいて、コステロや国外追放中のルチアーノといった他のファミリーとばかり連絡を取り、利権に一枚噛ませた。
そのことでしょっちゅう言い合いをしていた。
ボス殺しはご法度だが、コステロは盟友アナスタシアを擁護した。
ボナンノは干渉はしないと言った。
プロファチは形だけの非難にとどめ、ボスの交代に反対はしないとした。
ルケーゼの人事はまだ固まっていなかったので発言権がなかった。
【1951年4月現在】
アナスタシア・ファミリー【Change!!】
ボス:ヴィンセント・マンガーノ(失踪)→アルバート・アナスタシア
コステロ・ファミリー
ボス:フランク・コステロ
『ルケーゼ・ファミリー』
ボス:トーマス・ルケーゼ
プロファチ・ファミリー
ボス:ジョセフ・プロファチ
『ボナンノ・ファミリー』
ボス:ジョセフ・ボナンノ
ちなみに我らがフランク・スカリーチェがこのときアンダーボスに復活している。
ボスから降格されて、同じファミリーのアンダーボスになるとか、ワケが分からんが、アナスタシアと同様、マンガーノを無視して、ルチアーノと会い、あれこれ麻薬ビジネスを進めているので、立場としてはアナスタシアに近かった。
そもそもスカリーチェが降格された後、ボスになったのがマンガーノだ。
別にマンガーノが消されても文句はない。
もっとも、降格をお膳立てしたのはラッキー・ルチアーノなのだが。
――†――†――†――
1957年、フランク・コステロが自宅前で殺し屋に撃たれて、頭に大怪我をした。
やったのはヴィト・ジェノヴェーゼの手配した殺し屋だった。
長いこと、コステロとジェノヴェーゼは冷戦状態にあった。
ジェノヴェーゼは第二次大戦後、アメリカに戻ってきたが、そこで見たものはコステロがスロットマシン・ビジネスに夢中で自分たちの面倒を見てくれないと途方に暮れる組員たちだった。
彼らはヘロイン・ビジネスに参入したかったが、コステロは麻薬を扱うことに反対していた。
そこで、国外追放中にヘロイン密輸の準備をしていたジェノヴェーゼが彼らを引き取って、自分の商売に一枚噛ませた。
こうしてファミリーのなかで着々と実力をつけていくジェノヴェーゼにコステロは警戒した。
前にアナスタシアがボスを殺したことを容認したのは、ジェノヴェーゼ対策で同盟相手が欲しかったからだ。
しかし、もはや自分の手には負えないと思ったコステロはこれを機に引退。
ジェノヴェーゼは念願のボスに昇格した。
【1957年5月現在】
アナスタシア・ファミリー
ボス:アルバート・アナスタシア
『ジェノヴェーゼ・ファミリー』【Change!!】
ボス:フランク・コステロ(負傷・引退)→ヴィト・ジェノヴェーゼ
『ルケーゼ・ファミリー』
ボス:トーマス・ルケーゼ
プロファチ・ファミリー
ボス:ジョセフ・プロファチ
『ボナンノ・ファミリー』
ボス:ジョセフ・ボナンノ
――†――†――†――
まだ終わらない。
1957年はイベント目白押しだった。
まず、コステロが引退してすぐの6月に、なんと我らがフランク・スカリーチェが殺された。
アナスタシアに粛清されたのだが、なんでもマフィアのメンバーシップを五万ドルで売っていたことがバレたらしい。また変な金儲けを思いついたものである。
空席になったアンダーボスにはカルロ・ガンビーノが昇格した。
ちなみに死後、スカリーチェの家からイタリアでルチアーノと一緒に撮った『おれたちはマブダチです』な写真とルチアーノ直筆の手紙がたくさん見つかったらしい。
普通、マフィアは手紙を書かない。
あとでどんなことの証拠になるか分からないからだ。
ホントにヘンテコなマフィアである。
スカリーチェはブロンクスの八百屋で果物を選んでいたところを殺された。
ドン・コルレオーネがオレンジを買っているところを銃撃されたシーンの元ネタはこれである。
ところがスカリーチェが死んで半年と経たない1957年10月25日、今度はアルバート・アナスタシアがパーク・シェラトン・ホテルの床屋で髭を剃らせているところを襲われて、射殺された。
撃たれたアナスタシアは顔の上に乗っかっていたタオルを剥がすと、殺し屋目がけて突進したが、それは鏡だった。
アナスタシアは引退したコステロの盟友で残った最大勢力であった。
その排除を狙ったジェノヴェーゼが黒幕であり、アンダーボスのカルロ・ガンビーノがボスに昇格した。ガンビーノの昇格はジェノヴェーゼへの協力の報酬であり、トーマス・ルケーゼもこのボス就任のために動いたと言われている。
【1957年10月現在】
『ガンビーノ・ファミリー』【Change!!】
ボス:アルバート・アナスタシア(殺害)→カルロ・ガンビーノ
『ジェノヴェーゼ・ファミリー』
ボス:ヴィト・ジェノヴェーゼ
『ルケーゼ・ファミリー』
ボス:トーマス・ルケーゼ
プロファチ・ファミリー
ボス:ジョセフ・プロファチ
『ボナンノ・ファミリー』
ボス:ジョセフ・ボナンノ
五つのファミリーのうち、四つが固まり、あとはプロファチだけである。
ちなみにプロファチはアナスタシア殺害に噛んでいて、殺し屋としてギャロ兄弟を貸し出している。
アナスタシアが殺されたのはジェノヴェーゼの野心以外にもいろいろ理由があった。
まず、カタギ殺し。
ウィリー・サットンの回でも見たように、アナスタシアは何の関係もないのにお手柄セールスマンのアーノルド・シュスターを撃ち殺した。しかも、股に二発、両目に一発ずつという残虐なやり方で。
基本的にアメリカのマフィアではカタギ殺しはご法度だし、泥棒を捕まえて、そのお手柄を全国ネットのニュースに報道された人物を殺害すれば、世論の反発がニューヨークどころか他のファミリーにも波及しかねない。
そういうことを怒りに任せて行う時点でアウト。
それに出身地の問題もあった。
アナスタシアはマンガーノ兄弟を殺し、スカリーチェを殺したが、彼らはみなシチリアのパレルモ出身である。
さらにスカリーチェの前のボスであり、五大ファミリー体制に入る前のアル・ミネオもパレルモ出身で、その前のサルヴァトーレ・ダキーラもパレルモ出身である。
ところがアナスタシアはイタリアという長靴の踵にあたるカラブリアの出身。
シチリア島ですらない。
そのころのマフィアはシチリア以外のイタリア人も入れるとなっていたが、アナスタシアのシチリア系粛清は目に余るものがあった。
だから、ジェノヴェーゼとプロファチ、それにガンビーノと三つの勢力が手を結び、シチリア系ボスたちの巻き返しでアナスタシア排斥に動いたのだろう。
後を継いだカルロ・ガンビーノはシュスター殺害の実行犯とスカリーチェ殺害の実行犯を殺害して、アナスタシア派の殺し屋を粛清する一方、アンダーボスにアナスタシア派のアニエロ・デラクローチェを選んで、幹部人事ではアナスタシア派と和解し、ファミリーの基盤を固めた。
――†――†――†――
アナスタシアの死から四年間ほどニューヨークは平静を保っていたが、1961年、これまで問題らしい問題を起こしていなかったプロファチ・ファミリーにトラブル発生。
ジョセフ・プロファチの部下でフランク・アッバテマルコという幹部が五万ドルの上納金を払えず、殺された。
殺したのは前述アナスタシア殺害の実行犯であるギャロ兄弟で、プロファチはアッバテマルコを殺したら、そのシマを一部やると約束したらしい。
ギャロ兄弟はシマがもらえると思っていたが、プロファチは約束を破って、全部いただいてしまった。
「あのクソジジイ! 思い知らせてやるぜ!」
プロファチのケチは有名だったが、今回はしくじった。
ギャロ兄弟が反乱を起こし、プロファチの従兄弟でアンダーボスのジョセフ・マリオッコら幹部数名を誘拐して、身代金を取った。
ケチとはいえ、これは払わないわけにはいかず、渋々払ったが、プロファチの怒りは収まらず、抗争は継続された。
しかし、高額過ぎる上納金問題で不満のあった連中はかなりいて、三十人以上の正式組員がギャロ兄弟を支持していた。
これにはプロファチの指導力に問題があるのではないか?とガンビーノとルケーゼのあいだで話が持ち上がった。
と、いうより、こっそりギャロ兄弟を支援していた。
これまで見てきたように五大ファミリーは何度も代替わりがあったが、プロファチとボナンノは初期のまま、ボスであり続けた。その勢力は侮れないものがあり、それを削れるなら何でも利用しようという意図がガンビーノとルケーゼにあったのだ。
そのうちカルロ・ガンビーノは上納金問題を取り上げて、プロファチに引退勧告をした。
「上納金以外にワケわからん税金まで取ってるんだってな。いくらなんでも取り過ぎだ」
「余計なお世話だ」
「まるで税務署だ。あんたが引退するなら、抗争終結の仲裁をしてもいい」
「ふざけんなよ。お前らがあのガキどもを焚きつけてるんだろうが」
「さあ、何のことやら」
プロファチはこの引退勧告に対して、子ども同士を結婚させて縁戚関係にあるボナンノ・ファミリーのボス、ジョセフ・ボナンノを頼った。
ボナンノはガンビーノとルケーゼを排除し、麻薬密輸を独占したいという野心があった。
こうして、ギャロ対プロファチ戦争が、ガンビーノとルケーゼ対プロファチとボナンノにエスカレートしかけたが、ガンビーノが引退勧告を取り下げ、ひとまず全面戦争は避けられた。
プロファチはギャロ派の切り崩しを図ったが、決定打にはならず、フロリダの隠れ家を襲われるなど冴えない指導力を露呈させ、結局、抗争を終結できないまま、1962年6月、以前から患っていた肝臓がんで死去。享年64歳。跡はさらわれたことのある従兄弟のジョセフ・マリオッコが継いだ。
【1962年6月現在】
『ガンビーノ・ファミリー』
ボス:カルロ・ガンビーノ
『ジェノヴェーゼ・ファミリー』
ボス:ヴィト・ジェノヴェーゼ
『ルケーゼ・ファミリー』
ボス:トーマス・ルケーゼ
マリオッコ・ファミリー【Change!!】
ボス:ジョセフ・プロファチ(病死)→ジョセフ・マリオッコ
『ボナンノ・ファミリー』
ボス:ジョセフ・ボナンノ
しかし、この人事があっさり通るはずがなかった。
――†――†――†――
ちなみにこの時期、ジェノヴェーゼ・ファミリーは何をしていたのかというと、自分のことで精いっぱいだった。
まず59年にジェノヴェーゼが麻薬で逮捕され、刑務所に。
ボスの座は譲らず、シャバに代理ボスを置いた。
1962年、その代理ボスのアンソニー・ストロッロが失踪した。ジェノヴェーゼは自分を麻薬で逮捕させるのにストロッロが関与したと思って殺したといわれている。
ストロッロはギャロ兄弟に肩入れしていたので、それをこの時期に殺したことでジェノヴェーゼはプロファチを擁護するのかと疑われた。
その後、トーマス・エボリを代理ボスにしたが、このエボリはあまり優秀ではなかった(世界チャンピオンの座がかかっている試合中にリングに上がってジャッジにいちゃもんをつけて出禁。FBI捜査官の顔がプリントされた指名手配書を大量に印刷して面白半分にジュークボックスに貼りまくった結果、ファミリー全体がFBIに嫌がらせをされる)。
そのため、アンダーボスのジェリー・カテナと相談役のマイク・ミランダの三頭体制でファミリーを運営していたが、ここでとんでもない出来事が起こる。
ファミリーの組員のジョセフ・ヴァラキが当局に寝返り、政府の調査委員会に出て、何もかもベラベラしゃべってしまった。
マフィアの歴史、現在のボス、マフィアの入会儀礼、殺された連中が埋められた場所。
マフィアは裏切者を出さないことで定評があったから、この史上初の裏切者に残り四ファミリーがこぞって、ジェノヴェーゼを非難した。
「バカ!」
「なにやってんだ!」
「理由はなんだ、理由は!」
ヴァラキが寝返った理由は、疑心暗鬼のジェノヴェーゼが同じ刑務所にいたヴァラキが裏切ったと勘違いして、殺そうとして失敗したせいだった。
「バカ!」
「なにやってんだ!」
「誠意を見せろ、誠意を!」
三頭体制だったこともあって、指導力を発揮できず、対策が後手後手にまわって、五大ファミリーで最大の勢力を誇っていたジェノヴェーゼ・ファミリーはしばらく発言権を失った。
――†――†――†――
ケチなプロファチが天に召されて、敵にさらわれたことのあるマリオッコがボスになる。
ギャロ兄弟との抗争が終結する見込みがなく、ガンビーノとルケーゼはマリオッコのボス就任に難色を示したが、ボナンノが支持した。
63年にギャロ兄弟が逮捕され、これでひと段落ついた。
しかし、ボス就任に否定的なことを言われた恨みはまだあったので、マリオッコはボナンノと一緒に殺し屋を手配して、ガンビーノとルケーゼ、それにバッファローのステファノ・マガディーノとロサンゼルスのフランク・デシモーネを一気に殺してしまおうと企んだ。
それでふたりの天下だが、この殺しのリスト、なんだか余計なふたりがついてきている。
バッファローのマガディーノはボナンノたちと親戚関係にありながら、向こうについたので分かるが、ロサンゼルスのボスは何のために殺されないといけないのか。
単純に考えて、メキシコ国境か太平洋から麻薬を持ち込むためであり、この注文は国際的な麻薬組織を作りたがっているボナンノの意向が強くあらわれている。
マリオッコはこれらの殺しをジョセフ・コロンボというカミさんの言うことを引用しまくりそうな幹部に任せたが、コロンボは寝返って、この皆殺し計画をそのままガンビーノとルケーゼに教えてしまった。
「おい、デブ。それにボナンノちゃんよ。言い訳をきこうじゃねえか」
ガンビーノとルケーゼはコミッションを開き、出席して釈明しろと言ったが、ボナンノもマリオッコも拒否。
63年8月にはマリオッコのボス就任が正式に却下された。
そして、そのファミリーは今回のMVPであるジョセフ・コロンボに与えられ、
【1964年現在】
『ガンビーノ・ファミリー』
ボス:カルロ・ガンビーノ
『ジェノヴェーゼ・ファミリー』
ボス:ヴィト・ジェノヴェーゼ
『ルケーゼ・ファミリー』
ボス:トーマス・ルケーゼ
『コロンボ・ファミリー』【Change!!】
ボス:ジョセフ・マリオッコ(追放)→ジョセフ・コロンボ
『ボナンノ・ファミリー』
ボス:ジョセフ・ボナンノ
五大ファミリーのタイトルはいまのものになった。
――†――†――†――
こうして固まった五つの名前だが、2001年だか2002年だかにまた変化があった。
ボナンノ・ファミリーがマシーノ・ファミリーと名前を変えたのだ。
ボナンノが追放された1969年以降、ボナンノ・ファミリーは踏んだり蹴ったりだった。
内部抗争、国際的な麻薬取引の摘発、続出する逮捕者、そしてFBIの潜入捜査官に六年も気づかず、大恥をかいた。
ファミリーの規模も一番小さくなり、小さくなればなるほど、一発逆転を狙って、麻薬取引にのめり込んだ。
そんなファミリーをジョーイ・マシーノという人物が復活させる。
インターネットを使ったインサイダー取引など、最新のシノギを積極的に取り込み、リスキーな麻薬に頼らず、ファミリーの勢力を盛り返したのだ。
マシーノはコミッションの場ではボナンノ・ファミリーの名前をマシーノ・ファミリーに変えてくれと言って、許可されるなど、この世の春を謳歌したが、名前はすぐボナンノに戻る。
マシーノが死刑判決を受けそうになり、当局側に寝返ったのだ。
これまでアンダーボスが寝返ったケースはあったが、ボスその人が寝返るのは考えたこともなかったことだ。
こうして、現在、
ガンビーノ・ファミリー
ジェノヴェーゼ・ファミリー
ルケーゼ・ファミリー
コロンボ・ファミリー
ボナンノ・ファミリー
以上をもって、五大ファミリーと言われている。
実家に帰ったような安心感である。




