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夜神アリスの日常  作者: スルメちゃん
夜神アリスの家
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二章:夜神アリスの家A

 アリスはシリアをおぶさりながらその細い足で家々の屋根を蹴り、我が家へと向かう。カバンは右腕に、ランドセルは左腕にかけ、重たい荷物を二つも背負いながら、暗くなりゆく景色を眺める。

「はあ、本当ならば悪魔に戻り、いち早く家に帰りたいところですがまさかもう噂が広まっていたなんて。しかも面倒なことに学校に超能力者がいるとなると、少し嫌ですね。あ、ついた。」

アリスは赤い屋根の屋敷に降り立った。その家は、とても広い屋敷で周りは鉄の柵で囲まれていた。

奥の方には高級車が並んでおり、屋外プールや、テニスコート、さらにはバーベキュウ用の屋根付きコテージなどがあった。豪華と言う言葉がこれほど似合うのは、夜神家は代々金持ちであるからだ。アリス達の父親も海外で企業を立ち上げ、見事成功させ、うなるほど金があるのだ。

アリスは玄関の戸をなんとか開けると靴を器用に脱ぎシリアの靴も脱がせ、リビングルームに向かった。

玄関までの広い廊下の奥を行くと、宮廷のような広さのリビングが顔を現す。

「た、ただいま帰りました。セリカー、早くシリアを寝かせてやってください。」

か細くアリスが言うと、キッチンからバタバタと足音が聞こえた。

「おかえりなさいアリス。あら、し、シリアちゃん!!どうしたの?」

アリスの姉であり、夜神家の長女夜神セリカがエプロン姿で慌ててシリアを抱きかかえる。

「気絶して眠っているだけです。もう少しで起きると思うのでそこのソファーに寝かせてください。」

アリスが疲れ切ってリビングのフカフカマットに座り込むと、セリカがアリスを睨む。

「私のシリアちゃんに手をあげたのは誰なの?しかも貴方がついていながら気絶ですって?どうゆうことかしら?」

「、、。すみません。事情は言えませんがシリアを気絶させたのは私の不注意です。」

セリカはシリアをそっと寝かせアリスを睨みながら、まあいいわ、と言ってその長いストレートヘアーをくるりと揺らしてキッチンに向かった。

「アリス、シュロ君が帰ってるから、服を頼んでおいてね。じゃ、私は夕食を作って来るから。」

「はあい。」

アリスはよっこらせと立ち上がると、リビングの中央にある螺旋階段を上がった。



 「ふう、やっと帰ってこられました。」

自分の部屋の取っ手に手を掛けると、

「よお。おかえり。久しぶりだなあアリス。」

ベッドにピンク色のロングヘアの男が全裸で座っている。

ぶっとアリスが噴き出し勢いよく部屋の男めがけてアリスのカバンが投げられ、ドアが閉められる。

「うお。いってえ。何すんだよ。」

「それはこちらのセリフです!何故自分の部屋のドアを開けたらベッドの上に裸の男性がいるんですか!」

アリスがドア越しに部屋の男に向かって叫ぶ。

「ああん?久しぶりに帰ってきて風呂上りに適当な部屋に入ったら、たまたまおめえの部屋だったんだよ!カバン投げるとかなんちゅう挨拶だよおい。」

男が弁解の言葉を返す。

「だからといって、どうしてベッドに座ってるんですか?」

数秒して、自分の兄からとんでもない言葉が返ってきた。

「いや、なんかいい匂いがしたから居心地良いなと思って。」

「さいっっっっていな変態野郎じゃないですか!今すぐタオルを巻いて出ていってください。さもないとぶっ殺しますよ。」

アリスは猛烈な殺意を込めて忠告した。

「まあいいじゃねえか。それにしても最後に会ったのが四歳の時だろ?なかなかいい女に成長したな。」

「黙れ腐れ変態。」

アリスはずかずかと部屋に入り、思いっきり兄を蹴る。

「おお。なかなかいい蹴りだぜ。因みに今日は黒なんだな。」

「死ね!」

アリスがバタンとドアを閉める。アリスに蹴られた腰を撫でながら夜神家の次男夜神シュロは投げ捨てられたタオルを腰に巻き、隣の部屋に入っていった。

「きゃーーーーー。不審者がいるよーー。アリス、助けてー!」

シリアの叫び声が聞こえる。もう起きて部屋に戻っていたようだ。

「どうしたんですかシリア!」

アリスがシリアの部屋に行くとシュロが腰にタオルを巻いた状態でシリアに抱き着いていた。

「だれ?チョー可愛いんだけど。もしかして俺の妹?三人目の?すげえ。かわええ。」

シリアは涙目でアリスに訴えかけている。アリスはシュロを人とも思わない目で蔑む。

「うわー本当に最低ですね。早く死ねばいいのに。待っててくださいシリア。今から黒魔術の永遠の苦しみをその男に味わわせてあげますから動かないでくださいね。」

その言葉にシュロはびびった。

「ちょ、待てって。分かった分かったから、その儀式始めますよ的なポーズやめて。怖いから、うん。なんか筋肉が動かなくなってきたんだけど、ちょ、やめ。」

アリスは遺言も聞かず、黒魔術を出現させた。

「やめろって言ってるだろ!!!」

シュロが怒鳴り、アリスに突っかかる。

「きゃあ。」

アリスが倒れこむとシュロが足でアリスの手を抑え、馬乗り状態になる。その様子をみてシリアは破廉恥と呟くと、部屋からそそくさと出ていった。

「あ、待って。シリア、待ってくださいよ。」

「うるせえ!アリス、いいか?中学生だからってこんなにおっぱいがあったってな、俺は許さねえからな。」

そう言ってシュロはアリスの乳房を強引に揉む。

「ひっ、ひゃあ。や、やめてください、こんなことして、ただじゃ済みませんからね!」

「ふっ、今のお前に何ができるんだ?あーりーすー。」

にやにやしながら、シュロは顔を真っ赤にしたアリスに自分の顔を近づける。

「いっ、やめてください。」

「やめろシュロ。みっともないぞ。」

ガツンとシュロにげんこつが降り注いだ。

見ると、周りには涙目のシリアを抱きながら、呆然とした冷たい目でシュロを睨みつけるエプロン姿のセリカと、スーツ姿の夜神リュウガの姿があった。

「おう、兄貴。久しぶり。」

「早く、アリスからどいてシュロ君。」

セリカがニコニコと包丁を握りながら言う。

「お、おう。す、すまねえ。アリス。」

シュロが周囲の視線に耐え切れずにアリスから離れる。

「はあ、どうしてお前はほぼ裸でしかも妹を押し倒していやらしいことをしているんだ。あと二十年くらい刑務所にいても良かったんじゃないか?」

リュウガが額に手を当て、ため息をつく。

「嫌な、そこの俺の妹のツインテールちゃんを抱きしめていたらな、アリスが死の呪文を発動させてきやがったんだぜ?そりゃ、怒るにきまってるだろ?」

「え、シリアちゃんを、抱きしめたの?その汚らわしい手で?」

セリカがわなわなと体を震わす。

「ああ。シリアっていうのか。可愛いな。」

「黙りなさい!よくも、よくも私のシリアちゃんを汚したわね!もう出ていってよ。貴方なんて私達の兄弟じゃないわ!ただの変態よ。」

セリカの言葉に、シュロは反論せず、

「ああそうかい。生憎だがてめえの体にも俺と同じ血が通ってるんでね、これからよろしく頼むぜ。」

ドヤっと全員に言った。

「ああそうですか。好きにしてください。このようなこと、次やったら本当に殺しますから覚悟しといてください。本当に、ほ、本当に、あ、あああああ。最低、クズ、糞以下、早く死ね!

本当なら今すぐにでも貴方の腹を引き千切って内臓をぐしゃぐしゃにして全身の皮を剥いで、その脳みそを吸い取って、肉片にしてやりたいつもりですが、本当は。」

アリスが鬼の形相でシュロを睨み、風のように部屋に帰っていった。



 アリスは怒りをしまいきれずに転移魔方陣を自室の床に出現させ、適当なパラレルワールドにとんだ。

「ああ、もう抑えられません。今すぐ全ての世界を破壊したいところですが、まあ、ここでいいでしょう。」

そう言ってアリスは指を鳴らすと、一瞬でメイド服に着替えた。アリスはサキュバスの血が通っているが、メイド悪魔として生み出されたため、本気で力を使うときはこの姿になるのだ。

禍々しい漆黒の翼と、サキュバス特有の尻尾。そして、漆黒の角。

美しく整った顔に黒縁の眼鏡。鋭く光る瞳は普段のエメラルドグリーンではなく、真紅に変わっていた。これは、アリスの祖先が古い民族の末裔だったからだ。

アリスは翼をはばたかせ、バサバサと上空に上がると、肺がパンクしそうなくらい空気を吸い込み、

アアアーーと叫びながら大規模な咆哮を中央の町に向かってはなった。

その咆哮は禍々しい魔のオーラを放っており、これをくらった常人は肉が引き裂かれ、骨が秒で灰となる。

冒険者や、多少レベルの高い者であっても、筋肉が膨張、そして破裂し体が耐え切れず死亡する者がほとんどなのである。

アリスはこのようにして、年に数回パラレルワールドに侵入し、その度に多くの犠牲者をつくりその世界そのものを壊滅状態にまで追い込む。

彼女自身はそれを楽しんでおり、そこは悪魔の血が濃くでているのだ。

アリスは一分ほどその状態で固まり、その後スッキリした、と言って転移魔方陣をまたもや空中に出現させ自室に戻った。



 「アリス、ご飯よ。大丈夫?」

コンコンとドアをノックする音と共にセリカの声が聞こえた。

「はーい。今行きます。」

アリスはドアを開け、セリカと大広間に向かった。中央の螺旋階段を降り、リビングの横の東側へと続く廊下を歩くと奥に見えてくる。

その部屋は豪華なシャンデリアと、大理石テーブルが目立つ。両サイドにはそれぞれ六つずつ大理石の彫刻が置かれている。その彫刻は夜神家代々先祖達で、一人ひとり誇り高き英雄である。

テーブルには鼻腔をくすぐる、デミグラスハンバーグが五人分並べられている。

これらは全て、セリカが作った料理だ。セリカはほかの兄弟よりも手先が器用で小さい頃から母親に料理を教わっていたり、裁縫を教わっていたりと、とても家庭的なのである。

料理はプロも絶賛するほどの味で日々進歩している。


しかし、シリアに対する異常なまでの愛が周りをドン引きにさせる。そのため、兄弟はあきれ気味なのだ。

「美味しそうですね。ハンバーグですか。」

アリスが席に着くと、兄弟全員が手を合わせる。

「「いただきます。」」

そして、夕食の時間が開始した。

噛むたびに舌に染み出す肉汁とソースのこく。飲むたびに体を優しく包み込むオニオンスープ。

柔らかさ、焼き加減、塩加減等全てが完璧なセリカの料理を皆楽しそうに頬張る。

「相変わらずうめえな。収容所のクッソ不味い料理とは比べ物にならねえぜ。」

「そうだな。やはり、毎度毎度腕が増しているな。店でも出したらどうだ?」

「いえいえ兄さん。別に開かなくてもシリアちゃんだけが喜んでくれたらいいんです。」

あははと、リュウガは苦笑いをした。

「美味しいけどセリカキモイ。あとシュロって人なんて呼んだらいいの?」

「き、キモイ?!シリアちゃんが私を蔑んだわ。ああ、素敵。」

「ん?おお、お兄ちゃん♡でいいんじゃねえか?」

アリスとシリアが同時に、きっしょ、と顔をこわばらせる。

「じゃあ、シュロでいいか。ちょっと呼びにくいけど。」

シリアが自分で納得し、スープを口に運んだ。

「では兄さん、食べ終ったらシリアとリビングに来てくださいね。そこのロンヘア糞野郎は来なくていいですから。」

アリスは綺麗に食べ終った夕食の皿をキッチンに下げに大広間を出た。

了解と言ってリュウガは皿に残っているハンバーグを口に入れ、アリスに続いてキッチンへ向かった。

「はあ、こりゃ、嫌われちまったかな。ちょっと短気なところは相変わらずなんだな。まあ、可愛いんだけどなあ。どうよ?シリアちゃん。」

シュロの唐突な質問にシリアはびっくりして肩を震わす。

「し、知らない!アリスは、なんか何考えてるかわかんないから、、。なんて言ったらいいのかわかんない。」

シリアのたじろぐ姿にシュロは微笑み、だよな。と言った。

「シュロ君の笑顔は本当に似合わないわね。」

セリカが余計な口を挟む。

「うっせえな。セリカ、デザートはまだなのか?」

「アリス達がゲームしに降りてくるから、その時にだすわね。」

シュロはおうよと言って、アリスの部屋からこっそり頂戴したスルメを出し、地下室へ向かった。

「んじゃ、ちょいとかましてくるわ。デザートできたらよろしくな。」

「はーい。行ってらっしゃい。」



 アリスとリュウガがリビングの特大薄型テレビの前のソファに座ってゲームを始める準備をしているとシリアがトコトコと廊下から走ってきた。やはりふわふわしたワンピースは彼女を可愛らしく目立たせる。

アリスがコントローラーとゲーム機本体をテレビにつなげ、電源を入れる。

リュウガは、「ぴゃっぴゅうげいむ」と書かれたゲームディスクを本体に挿入し、白いコントローラーをシリアに渡す。因みに夜神家ではコントローラーがそれぞれ決まっており、白がシリアで、黒がアリス、青がリュウガで黄色がセリカ。そしてシュロが赤である。

「お兄ちゃん。今日は私がリーダーね。アリスは回復よろ。お兄ちゃんは防御だから。」

シリアがコントローラーをカチカチと動かし、アリス、リュウガの役割をそれぞれ決めていく。


 ぴゃっぴゅうげいむはつい最近売れ出した戦闘ゲームであり、世間にもあまり知られていないがネットでやや話題になっている。ゲーム会社が不明で、闇サイトなどで購入しなければ手に入れることは不可能なのだ。このゲームは、詳細こそ知られていないが精度がよく、また二月に一回のペースで大型アップデートがくる。

ゲームは、一人~最大十人まで一緒にプレイできる。オンラインでバトルロワイヤルをすることも可能であり、またフレンドとマッチングや、チームでマッチングなどもできる。武器は主に銃、又はオリジナル武具を使う。銃はクオリティが非常に高く、一部の銃マニアからは絶賛されている。実在する銃から、ぴゃっぴゅうげいむ特製銃まで数百種類ある。オリジナル武具というのは、様々なパーツからプレイヤーが独自の武器や、装備品を制作した物のことである。しかし、そんな機能があれば馬鹿強い武器を持つ者が多すぎて、逆につまらなくなってしまうので、設定が強くなりすぎることはない。例えば、精度、威力共に高い物は大抵はスコープがついていなかったり、弾数が通常より少なかったり、リロードが遅かったりと、何かしら不便な個所が一つは必ずつけられる。

ゲームのルールはそのマップによって異なり、オンラインマッチングではそれぞれのプレイヤーにそれぞれの職業がランダムで振り分けられる。どのキャラクターを使っていても職業が決まれば、キャラクタ―スキルのほかに職業特有のスキルがプラスされる。フレンドとのチーム戦では職業の振り分けはランダムで決まったリーダー又は、リーダーを元から決定している者が決める。チーム戦ではよりキル数の多かったリーダーのチームに高額報酬が貰える。一試合は大体十分程度。リーダーのキル数が十を下回ると、報酬は一定の千コインだが、十から二十四キルはそこにプラス五百コイン。さらに、二十五から三十キルはプラス二千コイン。そして、チーム全員が二十五キルを上回ると、プラス五千コインと、衣装や、外部品の購入、オリジナル武具の制作を行うのに必要なレッドコインが百配られる。

チームとして勝利すればレッドコイン十枚とコイン千枚である。因みに、デス数がキル数を上回ると、その差の十倍分だけ、通常貰えるコインの枚数が減る。

 そして、このゲームのメインともいえるキャラクター。種類は今のところは四体。次のアップデートでさらに四体増えるようだ。

初期は「モーリオ」という蛙の被り物を被った少年。スキルは「ぴょん」という変身スキル。

十秒間大蛙に変身し、敵を踏み潰したり、仲間を乗せて移動することもできる。

そして、二万コインで解放可能の体力や、スピードが安定の「ニャンドロスン」という一つ目の猫の着ぐるみ。このキャラクターはスキル「ニャンズパンチ」を使い、猛スピードで特定の敵を追いかけ、銜え、豪快にパンチを三発。体力の低いキャラならば瞬殺である。

五万コインで解放可能な体力はやや低めで、スピードが速い「びろりん」という白装束の女の子。スキル「おとろえ」は使った瞬間マップに奇声を発する赤ん坊が大量に発生し、それに触れた敵プレイヤーを一定時間スロウ状態にさせ、その後、自分を除く視界に入っているプレイヤー全員をスリープ状態にする。

最期にこのゲームの名前でもある「ぴゃっぴゅう」というヘッドホンを首にかけている触角が生えた赤色の人型パンダ。これは、ある一定のランク到達と、レッドコイン二百枚と十万コインで解放可能なため、このキャラの為に課金するユーザーも多い。その最も欲しがられる理由は、足跡すら残さない自分の完全透明化スキル「パンダパワー」と、敵プレイヤーに変装しレーダーに敵だと認識させずにこっそり潜む「うしろのだれか」という潜入スキルを持ち合わせており、プレイヤーの一番憧れるキャラクターだそうだ。

因みに、アリスのデータは最高ランクまで到達しており、メインは勿論ぴゃっぴゅうである。

シリアはランクは低いがメインは高額キャラの、びろりんだ。

リュウガはシリアより高ランクだがメインはモーリオ。



「準備できた?」

シリアが、アリスとリュウガに聞く。二人は五分ほど真剣に銃を決め、シリアに対して頷いた。

「出来ましたよ。」

「僕も出来たよ。」

「じゃあ、出発するよー。」

シリアがゲームスタートのボタンを押した。

独特な乗り物に三人の使うキャラクターが乗り込み、読み込み画面に移る。数秒でオンラインチームマッチングが始まる。今回は色んなマップの中でも一番広い、「どーるはうす」という幽霊屋敷のマップだ。

各チームの守備する大部屋に古びた人形のようなものが十個ずつ置かれており、敵チームの人形を多く自分たちの部屋の中の井戸に投げ込んだチームの勝利だ。

シリアが着いた瞬間素早くコントローラーを操作し、三分割された画面の真ん中に別チームの部屋のドアが映り込む。

「シリア、いくらなんでも早すぎませんか?」

「護衛は任せてね。」

「うん。」

アリスが慌てながらシリアについて行き、リュウガが護衛隊員のスキルを発動させる。これは、敵から受けるダメージを五十パーセントカットできる。

と、シリアが思いっきりびろりんで敵部屋を開けると、超大型マシンガンを豪快にぶちかます。

敵は慌てた様子で、戦闘態勢に入るが遅い。

 敵が生き返る前にアリスとリュウガは人形を回収し、即座にチーム部屋に入る。すると部屋に別の敵チームが人形を回収しているところだった。焦らずにリュウガがスキル「ぴょん」を発動。部屋の敵を踏み潰し、ダメージを与えるが死亡したのは一人。逃げながらアサルトライフルでこちらを狙う二人組をすかさずアリスがショットガンでキル。見事な連係プレイである。

 更に、シリアは大胆に他の部屋にも戦いを挑み、圧勝し、人形を即座に回収する。

アリスはシリアの回復に努め、積極的にキルするが、シリアにキルパクされまくり、少しムッとする。

 あっという間に今日の第一試合が終わる。

結果、通常貰える報酬にプラス五千コインと、レッドコイン百枚が配布された。

そう、アリスたちのチームは、全員が二十五キル以上していたのである。


「みんな、デザートのパンケーキよ。ゆっくり食べていってね。」

セリカが甘い香りの漂う、フワフワしたパンケーキを運んできた。

「おお、凄いですね。美味しそうです。」

「ん。ありがと。」

「ありがとうな、セリカ。シュロはどうしたんだ?モグモグ。」

リュウガがパンケーキを食べながら聞く。

「ああ、地下室の訓練場に行くって言ってたわ。今からパンケーキ持っていってあげようと思ってたんだけど。」

その言葉にアリスがピンとくる。

「え、地下室に行ったんですか?ちょっとまずいので、私が行ってきます。セリカ、私の代わりにこれやっといてください。」

と、アリスがコントローラーを差し出す。

「ええ。いいけど。自分のコントローラーじゃないのが残念ね。」



 セリカから受け取ったパンケーキをアリスは落とさないように運ぶ。

大広間の奥の方の個室は、地下に続く隠し階段があり、そこから兄弟達は移動している。地下室は、訓練場、アリス専用の実験及びコピー人形製作室、シリア専用の特殊武器開発施設と発砲試験場、武具管理室、金庫等がある。

 今、シュロが訓練場にいることは、アリスにとって非常にまずい。何故なら、昨日まで使っていたコピーをそこに捨ててあったからだ。何も急ぐ必要はないと、明日完全に破壊するつもりだったが、シュロがいるとなると何をしでかすかわからない。

急いで訓練場の戸を開ける。


いきなりズドーンといった凄まじい音が聞こえた。

「お?アリスか?デザート届けに来てくれたのか?わりいな。」

 アリスの視界には二人の人間が写り混んでいた。いや、正確に言えば一人と一体である。

アリスは自分と全く変わらないコピーを見つめる。

「コピー、どうしてお前が立って動いているの?主電源と予備電源は完全にシャットダウンし、使えなくしたはずだ。」

先程のアリスとは様子が少し違った。目付きが鋭く、彼女の周りの空気がやけに重い。常人では耐えきれない気迫と圧力をアリスはコピーに対してかけ続けた。

「分かりません。ですが、かろうじて言えるのは私に自我があると言うことです。」

その言葉にアリスは息を飲み、戦闘体勢にはいる。

 普通のコピー人形に自我が芽生えること事態異常であり、そもそも彼女のオリジナルは特定のコピーにしか生命を宿らせないため、勝手に人形が動いて話していることはあってはならないからだ。



つまり今焦って戦闘体勢に入ったアリスもオリジナルではない。


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