一章:夜神アリスの学校A
清々しい朝、教室に響く小鳥の鳴き声。少し冷たい空気が、夜神アリスの肌を刺激する。
静けさが伝ってくるのは、登校時刻が随分と早めだからである。
カバンを机に置き、教科書、ノート、筆箱を取り出す。引き出しに素早くしまうと、ゴソゴソとロッカーからクロッキー帳と、十本ほどの鉛筆を机まで運ぶ。芯の微かな匂いが鼻をついてくる。
桃色のショートヘアーを揺らし、黒縁眼鏡をあげ、机に取りつかれたかのように無駄な動きを一切しない。
朝早くに登校し、誰もいない静かな空間で鉛筆を動かし、自分の世界に浸る。それが朝の日課である。
この空間、凄く好きだなあ。と、いつも思う。
しかしながら、あくまで学校であるわけで、彼女の思うとおりにこの空間が続くわけではない。
二十分もすれば、一人また一人と生徒やら教師やらが校舎に入ってくる様子が窓からよくわかる。
「アリス!今日のすうがくの宿題の解答を我に見せてもらいたい。それと、おはようなのだ。」
突然後ろから浴びせられた大声に少しびびる。
声の主は金髪の艶やかな髪から甘い香りを漂わせてアリスに近づいて行った。
「何ですか。青葉さん、少しはボリュームを考えてくださいよ。朝っぱらから大きすぎるんですよ。」
「アハハ!目が覚めただろう?今日もお主の髪は美しいな。うん、羨ましいぞ!アハハ!」
アリスの注意も聞かずに黒田青葉は笑う。少し長めのまつ毛が彼女の笑みを輝かせる。
「何が面白いのか全く分からないのですが、、、。まあ、褒めて下さってありがとうございます。で、数学、やってないんですか?」
「うむ、そうなのだ。まったく分からんのだ。」
彼女の返事を聞き、アリスはため息をついた。まあいいか、と、引き出しから数学のノートを取り出す。
「はい。今度はちゃんとやるんですよ。」
「うむ!ありがとうなのだ!」
嬉しそうに席に戻っていく青葉を見送って、アリスは時計を見た。あと五分で朝の会が始まる。
まったく、青葉さんはどうしてあんなに勉強できないんでしょうかね。運動はぶっちぎりでこの学校一の天才なのに、成績は凄く悪い。どう解釈すれば、一+一が四になるんでしょう、、。
ぶつぶつと考えていると、いつの間にか一時間目が始まろうとしていた。
「おっと、考え込み過ぎました。早く準備しなきゃ。」
そうして、少しボケ――っとしているアリスの一日は幕を開けた。