表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夜神アリスの日常  作者: スルメちゃん
夜神アリスと副会長
17/17

三章:夜神アリスと副会長F

 アリスは、毎回エスカレートしていくいじめに耐えながら日々を送っている。従姉である莉央菜は必要以上に心配していたが、他の兄弟はそれほどまで心を痛めているわけではなかった。

 いじめが続いてもう一週間以上経った。それに伴って彼女たちへの呪いもいよいよ完成する。今はまだ、うなされて眠れないだけだろうが、いずれ完成すれば人間すら直視できないほど衰弱しきってしまうだろう。そして、その完成は明日だ。それを見届けなければ。

 「かはっ。」

思わずアリスは自室の床に吐血する。痛覚が蘇り、内臓がえぐられるような、想像を絶する痛みが全身を襲う。一般人を不用意に襲うことは禁じられている。勿論いじめっ子たちの暴力が暴力でなくなり、アリスに殺意を向けて本気で殺しにかかってきた時は正当防衛として認められる。だが、多大な量の魔力を秘めたアリスの正当防衛などよっぽどでない限り認められないのが現状である。

 白い夏のセーラー服は―勿論毎度セリカによって綺麗に洗われるのだが―生暖かい血で染まり、普段ならすぐに回復できるものの生憎オリジナルに殆ど魔力を吸われていたため、アリスはトラッシュにわざわざ回復を頼まなければならない。しかし今日はそのトラッシュが定期的なドクター達の検診を受けている。だから、少ない魔力でちびちびと回復を行わなければならない。

「くっうあああ」

びちゃりびちゃりと滴る血を必死で抑えて止血する。何度もこんな傷は受けた。だがその度に回復をしてきたため大したことはなかった。だが、じわじわとしか治らないこのしょぼくさい魔力が、痛みを更に増してやろうと企んでいるように思われる。

 「アリスもう大丈夫だ。」

いつの間にか駆け寄ってきたシュロがアリスを抱きかかえ、アリスの口に、光った緑色の液体を流し込む。回復薬だ。だが、これは殆ど捨てたはずだったが、まさか持っていたとは。

「あ、ありがとうございます。けほっけほっ」

「もう学校は休め。コピーであるお前がここまでする必要はないだろう?」

「シュロ君、あとちょっとなんです。だから大丈夫ですよ。うう」

アリスは唸り声をあげてシュロの腕の中で気を失った。

「馬鹿野郎。無茶しやがって。」

シュロはアリスをベッドに寝かせた。これで何度目だろうか。他者の手によって傷つけられた彼女を寝かしつけ、自分の無力さに気づかされるのは。


 

 さて、こちらはまたもやあの静かな学校である。

花美は五日ほど前からこの夢を見続けており、既にくまが薄くできている状態だった。しかし、今日の夢は昨日までとは違い、他のいじめっ子たちもいる。

「牧野?どうしてあなたもここに?」

「それはこっちのセリフなんだけど。」

「ま、まあとにかくみんな揃ってよかった。」

「いいわけあるかよ!こんな夢、いい加減終わらねえと本気であのアリスって女ぶち殺しちまいそうだ。」

「もうやだよ。私こんなの耐えられない。目が覚めたと思ったら、目の前にあの女がいるんだよ!」

いじめっ子の一人が我慢できないというように泣き喚いた。

「私だって、何度も何度も殺されかけたんだ!もうごめんだ!」

「落ち着きなさい牧野。あなたが取り乱すなんて珍しいわね。」

頭をぐしゃぐしゃとかき、倒れ込む牧野に花美が寄って行った。

「あんただって、足震えてんじゃん。」

と、指摘された瞬間またもやあの足音が聞こえる。

「いやあああああああ!」

先程の泣き崩れていた生徒がついに悲鳴を上げた。それに共鳴し、他の生徒も涙を流す。

 「ここから逃げないと。」

「は?何言ってんのあんた。逃げ場なんてないじゃん。」

「牧野、しっかりしなさい。あなたらしくないわ。さあ、行くわよ。もう死ぬのはごめんだわ。」

ガラガラガラ

教室の扉が開く。が、その女の眼前にはひっそりとした教室があるだけだった。

「ああれえぇぇぇ?どおこぉぉいったあのおかあなああああああ?きひひひひひひひ。」


 そして再び悪夢が始まる


 「はあ、はあ。あいつは?」

「まだ私たちの居場所には気づいていないようですわね。」

「もうやだああ。」

「お待ちなさい!」

耐えかねた生徒が一人、走り去っていった。それを引き留めようとしたが、彼女は見向きもしない。

「ほっとけ。あ、あいつを囮にすりゃいいだろ。」

「そ、そうね。じゃあ、二階に上がりましょうか。」

正気を失った生徒を一人囮にし、花美たちは静かに二階へ上がる。どうやらここは、櫻田中学東校舎のようだ。どこかの窓が開いてないだろうかと息を殺して探る。だが、やはり窓は開いていない。

 「きゃああああああああ!」

その時、一階から悲鳴。恐らく囮の生徒だろう。びちゃり、と嫌な音がする。きっと殺されたのだ。もたもたしていては、今度はこちらがやられてしまう。花美たちは急いで三階へ上がる。

 ちょうど三階の教室に隠れようとしたとき、

「ねえ田中さん。次の囮になってくださいません?」

ふと、悪知恵を働かせた花美が尋ねる。勿論本人は嫌だ、と否定した。しかし、

「私の言うことが聞けないのかしら?あなた、たいして活躍していませんわよね?ねえ?私に逆らうつもりですの?」

花美が攻め寄る。田中と呼ばれた生徒はしばし躊躇ったが、仕方なく二階に戻ることになった。だがまだだめだ。囮が一人だけだとすぐあの女にやられてしまう。

「牧野、ちょっと来なさい。」

「ああ?」

花美は牧野を呼ぶと、

「あなた、無事に生き残りたいでしょう?」

「当たり前だろ?」

「なら、私と逃げましょう。他の生徒は皆囮にして。」

 この時、牧野は背筋が凍った。花美とは長い付き合いだが、こんなピンチでもその頭のずるさは変わらない。元からずる賢い女狐のような性格の花美だったが、今はそれ以上の悪魔のように思えてきた。

花美の目は恐怖で荒んだせいか、真っ黒としていて気味が悪い。そんな彼女の恐ろしさに、牧野は今気づいた。そして、首を振った。

「あんたは相変わらずくそったれだな。もう、あんたと一緒にいるのはごめんだ。悪いけどあんた一人で逃げな。私は他の子たちと二階に戻る。たかが夢だぞ。そこまで自己中だなんて。冗談きついわ。」

「は?何を言っているの?私の言うことが聞けないというの?だったらいいわ。勝手にしなさい。私は一人で逃げますわ。」

 

 花美と別れ、牧野は他の生徒たちを連れて二階へ戻った。先程囮にした生徒がいない。もうやられてしまったのだろうか。

「固まって動いてもだめだ。散らばるぞ!」

牧野は生徒に指示を出し、自分は一階へと戻る。

「はあ、はあ。これで大丈夫か。」

牧野が振り向くと、階段から誰かがこちらを見つめていた。男の子だろうかやけに身長が低いが、短パンを履いている。階段の壁についている窓から漏れた月の光の逆光で詳しくはわからない。手にはカバンが握られている。

 「こ、こここ、ここここここここここここんばんはああああああ。」

次の瞬間、その男の子の顔と思われる部分がまるでフクロウのように回転しだし、こちらにずんずん近寄ってくる。その足取りは軽く、しかしぎこちない。回転する頭部のぐちゃぐちゃという音が耳に残る。

「なんだぁぁ!こっちくるんじゃねえよおおおお!なんだてめえ、あの女じゃねえのかよぉ!」

牧野は必至で逃げた。そうして、無意識に走っていたら眼前に始めの囮の生徒が横たわっていた。だが、その生徒は体中の肉を引きちぎられており、牧野の腹から熱い物がこみ上げる。

「おええええ。」

気色悪い。こんなもの人生で見る経験などほとんどないだろう。さんざんいじめを繰り返してきたが、ここまで無残な人間など見たことはなかった。と、後ろからまたあの男の子が近寄ってきたことに気付き、慌てて逃げる。あの女のようなスピードはないが、速いのには変わりない。だが、それを振り切って牧野は職員室の横の用具室に駆け込んだ。ちょうど牧野が駆け込んだすぐ後、男の子がやってくる。

「こここここここここんばんはあああああああ?」

同じ言葉を何度も繰り返し、その男の子は校舎の奥の方へ消えていった。何とか助かった。


 「はあ、はあ。あんなやつ初めてだ。」

「そーなのかー。そーなのかー。」

「そーだよ。今まではあの女だけだったんだ、、って、え?誰?」

「そーなのかー。そーなのかー。そーなのかー。」

窓のない用具室の奥の方からどろどろと音を立てて何かが近寄ってくる。

「そーなのかー。そーなのかー。」

「は、はは。なんだよくそ!」

逃げようとドアノブをひねるが、開かない。ガチャガチャと音が響く。その音がやけに緊張感を引き出していた。ドンドンドンと体当たりをしてもドアはびくともしない。

「そーなのかー。そーなのかー。」

「こここここここここここここんばんはああああああ!!」

ぞわっと悪寒が走る。ドアの小さいのぞき窓から高速回転した後頭部がこちらを見つめているではないか。

「きゃああああ!」

「そーなのかー。そーなのかー。そーなのかー。そーなのかー。」

「ここここここここここここんばんはああああああああああ。」

「いやあああああああああああ。」

 どろどろとした何かに足を取られ、牧野は後ろに大きくのけぞった。もうだめだ。

目をぎゅっとつぶると、口を何かに開けられる。思わず目を開けてしまった。すると、

「そーなのかー。そーなのかー。」

と言いながらどろどろの液体の中に歪んだ口と左右で上下逆さの眼球がぷかぷかと浮かんでいる。そして、それは手のようなものを牧野の口に入れ込んできた。

「かっ、がはっ。」

顎が外れ、舌の感覚がなくなり息が困難になる。さらに、喉の奥深くまで泥が這って行き牧野の口からは血が混ざった泡がブクブクと垂れている。牧野は既に気を失っており、白目を向いていた。

 本来ならば殺された時点で夢が覚める。だが、今日は痛みがずっと続いている。

「そーなのか―。そーなのかー。」

その声によって又もや牧野は夢に呼び戻される。未だに自分の口には泥が入り続けており、気がおかしくなりそうだ。

「そーなのかー。そーなのかー。そーなのかー。」


 ぐちゃり


 この音が何の音なのか牧野は理解するのに時間がかかった。が、やがてそれが自分の胃が握りつぶされた音だとわかる。

「が、あああああああああああ。」


ここで、牧野の意識はなくなった。



 さて、こちらは三階に一人取り残された花美である。何度も悲鳴が聞こえたがそんなものはどうでもいい。自分が生き残らなければ意味がないのだ。

 牧野も他の生徒も結局ただの駒でしかなかった。自分という女王が上へ上へと這い上がっていくためのいわば兵隊のようなものだ。

「きゃはははははははは。みいぃぃぃぃつぅぅぅけぇぇたぁぁ。」

あの女だ。ロッカーに隠れ、息を殺す。だが、女は始めから位置を知っていたようにこちらに歩み寄ってきた。花美の頭の中は、


恐怖 恐怖 恐怖


ただそれしかなかった。

 そのせいだろうか、プツンと花美の中の何かが切れた。

 「くくく、くくくくく。あっははははははははは!」

「なぁぁぁにぃぃわらってぇんのぉぉ?」

「馬鹿馬鹿しい!私がこんなものに怯えていてはだめですわぁ。」

笑い声が薄気味悪く響く。もう、その場に吉沢花美という人間はいなかった。両手を掲げ、精気のない笑みを浮かべる壊れた人間がいるだけだった。

 「さあ!さあ!いらっしゃい!もう屈しませんわ!」

「あしぃぃぃちょぉぉだぁぁいいいいい」

女が向かってきた瞬間、花美は思いっきり傍の椅子で女を叩いた。

鈍い音と共に女が倒れる。

「あっはははははははは!無様無様無様ねえ!そうよ、初めからこうしていればよかったのねえ♪」

ドスッ、ドスッ

 椅子で何度も女を殴る。びちゃりと血が自分にかかる度に、ぞくぞくと心が高ぶる。

ああ、楽しい。楽しい!殺しなんて案外簡単なものだ。こんな化け物だって弱っているのだから!


ブチっ


 花美は過信していた。自分こそが最強なのだと。しかし、それはただの過信であり、同時に夢の中だけなのだと。

 気が付けば初日のように左脚が引きちぎられていた。

「え?きゃあああああ!」

痛みと共に恐怖が再び花美を襲った。噛み千切られていたのだ。自分の足がいつの間にか。

「ううん。まずいまずいまずいねええええ!」

女は椅子の脚が刺さったまま起き上がり、花美を引きずり込んだ。

「いただきまあぁぁぁすぅぅぅ!」

途端に走ったのは激痛。膝の皿が割れ、あろうことか反対側に折れ曲がっており、骨がむき出しである。

「いやああああああ」

「きゃははははははは!おぉぉもしぃぃろぉぉいいねぇぇ。」

 「黙れ!私に触るな!汚らわしい化け物!」

「ちょっとおおひいどおおいいいねええええええ!」

バキバキと体の骨が折れていく音が鼓膜を伝い、脳にまで達成し後から痛みが襲ってくる。耐えきれず、食いしばっていた歯ぐきから血が滴る。

 もうだめだ、またこうして化け物に負けてしまうのだろうか。

そう思っていた時だった。花美の眼前には月明かりを真っ直ぐに通すガラス窓。奥の不気味な西校舎の屋上。と、そこに人影が薄っすらと写り込む。


 夜神アリスだ。


 この恐怖の連夜が続くようになったのも、自分をこんなにも不機嫌にさせたのも、全てあの女に出会ってからだ。まさか、―どうやったのかはまるで見当もつかないが―あの女が全ての元凶なのではないだろうか。自分をここまで恐怖させた真の悪魔はあの女なのだろう。そうだ、きっとそうに決まっている。

 そんな思考を巡らせながら、花美の意識も牧野と同様に遠のいた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ