恋は私を磨く、今が辛くても未来はきっと幸せだから・・・
『出会いあれば別れあり』
その言葉の由来はことわざの『会うは別れの始め』というところからきているらしい。
別れというのは悲しいものが多い、でも出会いからの再会もこの言葉には含まれているのかもしれない。再会することが出来たなら、過去には言えなかったことを、誤解の種を冷静に素直に伝えることもできるのかもしれない。なのだとしたら、そんな時間は大切な時間なのではないだろうか?
「愛那は俺の母さんに似てる。」
そう誰かが私の手を繋ぎながら言った言葉が変に頭によぎった。
『こんな朝は嫌だ・・・』
私はもう一度太陽を睨んでみた。
嫌いで思い出したくないのにそういうときに限って記憶というのは蘇ってしまう。
お兄ちゃんの癖、口元を隠す仕草。その仕草をする人間の心理は『嘘を言っているときの仕草』、お兄ちゃんは、こう言った
「俺はお前に隠し事をしている」
と。
これは何年前の話だっただろうか。
【初恋ってどんな味?】
1人でいることは嫌いだ。今も昔も嫌いだ。でも誰かに心の中を話すことはもっと苦手で嫌いだ。女の子と言うのはわがままだと私は私を見て思う。
高いカラコンをして、少しでもウルウルな瞳を必死に作った、涙袋は薄いピンクのシャドウでキラキラさせすぎずに丁寧に作り上げていく。眠い朝の睡眠時間を削ってでもマットな毛穴レスの透明な肌を作り上げていく作業は必死さがにじみ出ていて思っている以上に可愛くない。
洗顔1つからこだわっていく。同居人には内緒でしている週2回のアルバイト。そのお金では限度があるから、好きなモデルの写真集も、イベントも制限して可愛い以外のプライベートも削り倒していく。それでも憧れのモデルのようになりたくて可愛いを必死に研究する。女の子って・・・って思ってもやめられないのが女の子だ。
たっぷりと高い化粧水を塗って、デパ地下1番人気の乳液を買うのは『女の子だから』の1言で片づけられてしまう。でもその1言にはさまざまな色のマニキュアが塗られていることだろう。でもそれを表わせる似合う言葉が見つからないから、『女の子だから』で片づけていく。私はどうしてこうまでして女の子と言う難易度をあげていくのだろう。
「おはよう、愛那」
私の名前を呼んだ美夏は今日もショートパンツに白のTシャツに身を包んでいる。今日も相変わらず暑い6月下旬、「去年もこんなに暑かったっけ?」そんな言葉があっちこっちで飛び交っている。
「おはよう、美夏」
美夏はこの暑くてカラッとした晴れの日に生まれてきたのだろう、この太陽の下が似合う。
夏の面影が残る軽く焼けている小麦色の肌と短い髪が彼女の背景は太陽と砂浜だと誰もに思わせる彼女は天然の綺麗さを味方に、細い足をあざとく出すファッションが多い。
美夏と話したのは、大学の入学式の前に行われるオリエンテーションの日だった。絶対参加ではないが多くの新入生がこの会に出席する。
「初めまして、愛那です。よろしくね。」
私は極力「可愛いね」と言う言葉を言われないようにさっぱりとした笑顔で笑ってみた。
人というのは面白い生き物で、いつかは素をさらけだして話す仲間を友達といい、その子達としか関わらなくていいと豪語して、狭く深くがなんだかんだいいよね〜と友達の顔を見合いながらいうのに、はじめの第一歩は必ず謙遜し自分を出すことを恐れて、愛想笑いを繰り返していく。狭く深くなんていうのは綺麗事でしかない。誰もが皆、誰からも好かれたいと思っているそれが人間という生き物なのだ。私もその中の一人だから何も言えないけど、ひねくれ者の私は思ってしまう。そっと心の中で思ってしまう。
当たり前を測るものさしなんて存在しないのにどうして愛想笑いをして、人当たりのいい自分を演じるのが当たり前で普通なのだろうかと。そして愛想笑いをして疲れるだけなのにそれを知っていてもなお普通を皆がみんな欲しがるのは何故なのだろう。
そんな愛想笑いが鳴り響く大学のフロアで私は美夏に向けて話しかけた。
女の子の「可愛いね」以上に怖いものはない。だから甘くない親しみやすい笑顔を彼女に向けた。でもそんなにも身構えた私がバカバカしく思えるくらい、彼女の声は小さくて、緊張しているのが伝わる声質をしていた。彼女は「可愛いね」なんて言えるほど周りを見る余裕もなく緊張していた。
「美夏・・・です。」
細い筆ペンで書くような堅苦しくて、弱い癖のあるそんな言葉を彼女は言った。私はこの子となら仲良くなれると心から思った。
女の子と人間関係を築き上げていくことはあまり得意じゃない。いつでも作り笑いが必要となり、演技が要求される。思ってもいない「可愛い」を言うために可愛い声を作り出して、演じて友達の輪を広げていく。女の子との絶対ルール、それは入り込みすぎないこと。これに尽きる。
女の子の中で繰り広げられる話は中身があるようでないことの方が多い。誰もが自分のことを聞いてほしくてその順番を待っている。
深い話というのはいいこともダメなところも指摘されてこそ深みが話の中に出る、それゆえに答えがすぐに見えないことも導き出せないこともあるだろう、でも深い話の中には最終的な着陸地というのが存在する、それを導き出すのは話している最中ではなくとも必ず正しい答えを見つけ出せるものだ。しかし、女と女の関係では深い話は存在しない、なぜなら順番が巡ってきた誰かの話の中にセリフを見つけ出して最終回の終着地を見つけ出す、話が解決しているように見えて、これは一方的な被害妄想でしかないことに誰もが気付かないフリをする、そうやって安易に導き出してしまった着陸地には大きな落とし穴がつきものなのだ。誰も話し手の話に批判しない、誉め言葉と同感の意を示すだけだ、それでは正しく着陸できない。
例えば、恋バナは相手の惚気話、例え彼氏と喧嘩したという話でもその話の中でこう私達に言い聞かせてくる。
“私たちはそれでも愛し合っているから別れないのだ”と・・・。
愛しあっている2人の話を女友達は嫉妬しながらも「可哀そうだ」と言い、相手が求めている魔法の言葉を口々にそれぞれの話し方で挟んでいく。
「それでも彼が好きなんだね、羨ましい」という魔法の言葉を。
ここで出てくる主人公は2人のはずだ、彼女と彼氏・・・。でもここでは彼氏は主人公にはなれない。なぜなら主人公である彼女が描くシナリオだから彼女目線でストーリはどうしても進んでしまう。それが正しいかどうかは彼氏にしか分からないことでも彼女のシナリオではこうなんだと彼氏の感情もドラマ、映画、小説のように勝手に構成されて妄想の世界で片づけられていく。
そして少し早くに覚えてしまった甘いカクテルの味が物語の最終段階に持ち込んでいく。カクテルは女の子を罠にかけていく。可愛くて甘いカクテルに溺れてアルコールはどんどん回っていく。体が熱くなっていく頃には電話のコール音が鳴り響くだろう。罰ゲームという『私は望んでいない』と言わんばかりの小悪魔な笑顔、そして彼女の本音が繰り広げられていく。彼女が望んだ台本、そして彼女が演じた演技、すべてが計算の上で電話のコール音が3回なる。この舞台はもう少しでクライマックスを迎える。
「ごめんね、寝てた?、罰ゲームで、みんなが電話を掛けろって言われて・・・」
少しの沈黙が演技にリアリティーさを演出する。そして彼女がほんの少し微笑んだ瞬間を私は見逃さなかった。
「皆と話して、やっぱり私が悪かったって思ったの、だからごめんね、許して。」
女子会での会話の声とは2つくらいキーが上がった艶っぽい声が彼女の口紅の上に塗られたグロスが光ると共に声のトーンも光る。
そんな女を見ながら私たちは何を想っているのだろうか。
女友達と彼氏、天秤にかけたらきっと彼氏が下に下がり、その重さに勝てない女友達は足がつかない浮ついた関係に天秤の如くなっていく。
彼氏との時間というのはどうしても幸せでしかたのないものだ。女と女の関係なんてそんなものだ。もし彼氏が女友達に取られるなんてことが起きたら、「私たちの友情は一生ものだよ」なんて言っていた言葉があっけなくなかったことにさせられていく。そんな浅くて、弱い関係なのは何も女の関係に溝があるだけではない。彼氏と彼女の中にある愛情というものがあまりにも脆いものだからだ。
だから求めてしまうのだ、自分たちではない第三者の言葉、「羨ましい」という言葉の中でそのカップルは生きているのだ。だからあっけなく違う女に取られてしまう。話さないとやっていけない男と女の関係は秘密が駄々洩れされて、2人の秘密が全員の秘密になり2人の関係を意味あるものにしていた秘密が意味をなさなくなって関係は悪化させるだけだ・・・。
私はそんな関係が嫌で、楽しくなかった。見ていて悲しかった。彼氏がいないときに自分が女友達に抱いた感情を彼女たちも私に抱いたことがあるだろう。それを直視するのが怖くて、いつの日かうわべだけの関係すら崩れていった。恋愛を楽しんで、女友達を手放した。でもやっぱり私と恋人2人の関係には女友達の「羨ましい」が必要らしく、長続きはしない恋愛ばかりだった。
「お前は重すぎる」
その言葉で私は好きでもなかった彼氏から振られ続けた。長く続いて半年、制服を身に纏う私たち学生はそんな恋愛が当たり前だと思っていた。そんな私を噂がこういう『可愛いけど、もったいない女』と・・・。
そんな淡くもない青春を送る私からしたら
『酸っぱいけど、甘い青春の味』
というコマーシャルがあまりにも滑稽だった。私の青春は友達も、優しい恋愛もなく、受験の時代を迎えた。
大学は見事合格、私はこれを機会に変わりたかった。無駄な人間関係は築かない、そんな私であろうと思った。
そんな中での、美夏との出会い、彼女は見た目以上の緊張しいで見た目まんまの男らしさを持っていた。
私が今まで絡んできた女友達とは地球が逆転しても似ていないだろう。緊張しているように見せかけて出会いを求めていて会話を楽しむそして、男らしい狩りの能力をあざとい仕草で隠しぬく彼女たちと美夏は、比べ物にならないほど似ていなくて私は美夏を純粋だと思った。私は美夏を信じようとあの一瞬で思った。
美夏は私の髪を見て「女の子だね~」と入学式から半年以上が経った今では緊張の色など見せずに言う。初対面の美夏があんなにも緊張していたのが嘘かのように私の髪の毛をあたかも普通のように触って話していた。時間というのは怖くてすごいものだと思い知る。でも美夏とそんな間柄になれたことを私は誇りに思う。ピンク色の流行にのったボブを重くなりすぎないように空いてパーマかけた私の髪型を、“流行”、“ピンク”、“ふわふわ”それらを彼女は、“女の子”とまとめた。私はまとめ方に“可愛い”を使わない彼女が好きだった。そんなことを通学途中に美夏の隣で2人の出会いを振り返ってみたりした。過去を振り返ってしまうとき私はしみじみ思う温かさとともに嫌な何かが起こる前触れな気がして仕方ない、私はあまりいい経験を過去にしてきたことがないから立ち止まったり過去を見つめることを忙しさを理由にしてきたことがない。だからふと頭が勝手に回想を始めたりすると不安に陥って仕方ない。
その不安は的中した。それから約1週間後私は本気で涙を流した。
涙は簡単に、武器になる。私は女の子である私を1番証明するものは、涙だと思う。メイクや洋服、女の子らしさを表す言葉はきっとこの世の中には沢山あるはずだ、それでも私は涙という意見を変えることはないだろう。女の子の涙はきっと男女問わず気を引き、同情を招き入れる。だから私は本気の涙は嫌いだ。演じてこそ女の子だと思う。でも、そんなことを思う私も夕暮れが綺麗なあの秋風が吹いた日、人目を気にせず泣いた。大きすぎる太陽が私を真正面からあざ笑うかのように黄金のごとく力強い光を放って目を痛みつけて涙を誘ってくる。沈む直前の太陽の光というのがいちばんまぶしい、最後というのはそういうものなのかもしれない。絞り込むように、出し切るように、人間も自然も最後というのは一番輝くものなのかもしれない。後悔しないように…
そして思う、心から涙を流すときそれは武器にならないと、可愛く泣いてこそ武器、可愛くない女の子の涙は鬱陶しさを醸し出すだけだ。それでも止まらないのだからしかたない。私は美夏と別れて1人になった瞬間自分を支えていたであろう体の筋肉全てが働きを終えたというかのように力が入らなくなって泣き崩れそうになる。それでも今、ここが公園の目の前だということを盾に倒れることだけは阻止する。それでも涙が止まらないくらい美夏の一言は私の心を一気に言葉の刃で私の心臓を突き刺してきたのだ。
「彼氏できたんだ」
その言葉を聞いたのは学校帰りの学校近くの喫茶店でのことだった。
美夏に彼氏ができたと聞いたとき、自然と涙が流れた、計算のない涙は、私を困らせた。
私は恋と友情を分けて生きてきた。学生のうちじゃないと恋は遊べないのだから。彼氏を作るのは体の関係を持ちたいからでも、自慢したいからでもない、ただ「可愛いね」その言葉をもらいたかったからだ。毎日、毎日お金も使って時間も使って自分をプロデュースする私は誰かに認められて、それにあったご褒美をもらいたかった。その形は何でも良かった。お金でも、かわいいねの言葉でも、キスでも…それでよかったはずなのに、それは言い訳に過ぎなかったみたいだ。寂しい自分の心を守るための言い訳だったみたいだ。恋をする上で私が欲しかったものは、相手の心ではなかった。私自身を勇気づける言葉で、愛とか目に見えない心ではなく、可愛いという確かな言葉で、証明だったはずだった、でも本当は愛という目には見えない、優しい何かが欲しかったのだ。
「話したいことがあるんだ」という美夏の何気ない言葉、そこから広がった「彼氏できた」の言葉。
苦いコーヒーに甘い角砂糖を落としたときのようにポチャンと静寂の空間に鳴り響く些細な音、美夏の言葉はそんな音に似た些細な言葉で、それでも静寂を覆すほどの力のあるそんな言葉だった。そんな音が響くこのお店でカプチーノを頼んだことを私は後悔する。
エスプレッソ:ミルク:泡立てされたミルク
=
1 : 1 : 1
のカプチーノは後味がビターで大人っぽい味がする。私はその味が好きだ。でも今は違う、カプチーノの味が舌をざらつかせるたびに胸のあたりにもその苦みが染み渡っていく。この苦味がカプチーノのせいじゃなくても、カプチーノのせいにしておきたかった。カフェモカならきっと違ったはずだ。甘いチョコレートが体に染み渡って素直に「おめでとう」が言えたはずだ。私はそうだと思っていたかった。
美夏が恋をして、彼氏ができたとき言いたくて、言いたくてたまらないという幸せな顔を見たとき、化粧気のない彼女に負けたと思った。
可愛いを作らずとも彼女は可愛いを持っていたことが、羨ましくて、私がバカバカしくて、作り笑いに疲れて「トイレ」と言って化粧ポーチも忘れてトイレに向かう。可愛くない私の顔を鏡で見たとき笑えた。
その瞬間私は全員の男友達の名前を連絡先から消した。
そして思う、無駄な連絡をとっていたのは
『私じゃん』
と…悔しくて、悔しくて、そんなことを思う私が嫌いになっていく。二人の時間を何とか乗り越えて、お店を背景にまた明日という挨拶を他人事のように繰り広げた。
自分が1番大切だったはずなのに、街中で思いっきり泣いた。カフェを出て「またね」という言葉を言ったとき流れた涙に彼女は気づいていただろうか。いや、自分の今の幸せに私の顔はフィルターがかかって涙が笑顔に見えていたのかもしれない、だとしたらものすごく寂しくてさらにやるせない気持ちにかられる。
マスカラが取れることも、ファンデーションがヨレることももうどうでもよくて、被害妄想の世界観に私はただただ勝手に泣いた。
そして次の日、私は学校を初めて休んだ。
昔、関わっていた女友達の恋バナを聞くよりも美夏の恋バナを聞くのは辛かった。私は失恋したばかりの女の子みたいに落ち込んだ。本気の片想いなんてしたこともない私は失恋などしたことないはずなのに、大人ぶってそんなことを思ってみたりした。でもどんな言葉もこの気持ちを表現するピッタリさがなくて言葉たちがガラクタに見えた。
それでも、時間は悠々と流れて、私をあざ笑っていくから私はさらに惨めになっていく。24時間という長いのか短いのか分からない1日を1日中ベットの上で終えた。太陽も紫外線も、月も全てこのベットの上でただ、ただ眺めていた。
いくら私が学校を休もうとも、世の中は変わってくれようとはしてくれない。苦しくても、楽しくても、時間は一定のリズムを刻んで過ぎていく。
夜が明けて朝をこの日本が向かいれたのであればもう仕方のないことなのだ、そう言い聞かせて腫れぽったい目をピンクぽいブラウンのアイシャドウでカバーしていく。そうやって私はまた可愛いを作って学校へ向かう、毎日に溶け込んでいく。
そう考えると人って思っているよりも何もできない生き物だ。それでもそれしか方法がないのだから仕方ない。どんな状況でも可愛いを作る私は可愛いに身を売っているらしい。
この世界は我慢でできている。割り切って生きても、愛想笑いで生きても、やはりどこかで人間は我慢をしなくてはならないらしい。
「おはよう」の代わりに「大丈夫?」という言葉とともに私の名前を呼ぶ美夏の声が後ろから聞こえてくる。いつもと一緒でいつもと違う、そんな今日が私を置いて始まっていく。
聞いていない形だけしているイヤフォンを私は取りたくなかった。とってしまえば美夏の言葉を受け止めなくてはならない。彼女の声が響くたびに、胸が痛くなる。それでも私がイヤフォンを取ってしまうのは、なんでかな…?
「ありがとう、大丈夫。ごめんね」
こんな言葉を返す私の言葉は彼女にはどんなふうに聞こえているのだろうか。
「本当に?」
彼女は私にそう聞き返してきた、彼女はこういうところはものすごく鋭い。
髪を切ったり、メイクの雰囲気を変えても気づかず「おはよう〜」とのんきに言ってくるくせに、こういうとき、彼女はものすごく鋭い。彼女の「本当に?」という疑問形は疑問形ではなく、彼女の中のどこかで核心をついているときの言葉なのだ。
「うーん、微熱はまだあるから移したらごめんね」
最後に♡マークがつきそうな声で言ってみた。これがきっと私らしい回答だから、疑われないための嘘だ。
「そう…大丈夫ならいいや。」
美夏とのやり取りの中にも私は演技をしてしまうようになった。そしてその演技に美夏は気づいている。私達2人の関係というのはそんな関係なのだ。まだ、すべてを言うには時間が浅く、何もかも分からないわけではない女と女の関係、この先の未来で良くも悪くも進んでいけるそんな関係…、私たちはこの関係にどんな終止符を打つのだろうかなんてことを思いながら、美夏の隣を歩く。
今日も太陽の光がアスファルトの上を照らしている、長そででは汗ばんでしまうそんな気温だ。そんな暑い太陽の下で歩幅を合わせて私たちは学校に向かっていく。これから先の未来もこうやって足をそろえて歩いていけるのだろうか・・・。
時間というのは残酷だ。程よい関係のままにさせてくれればいいのに、時間が経って、2人の関係が親友となり、その関係が当たり前になると共にわがままも、好きなところも、そして同時に嫌いなところも口癖も、癖も知ってしまう。そして円満な関係のために、演技という名の嘘を吐き出していく。
もう、美夏は私に「大丈夫?」と話すことはなく、授業の話に切り替えた。彼女が彼氏の話をしないのは私の心を読んでいるからなのだろうか…
私は心ここにあらずの状態で、美夏の話を聞く。
「愛那、私の話聞いてないでしょ?」
怒った顔を私に向けながらも彼女は笑っていた。
『余裕』、その言葉が私の頭をちらついて、私は思いっきり頭を横に振る。私はそんなことを彼女に思いたくなかった。初めて信じると思えた女友達、あのとき感じた直感と感覚、それらすべてを私はわがままかもしれないが失いたくなかった。
「ごめん、なんだっけ?」
私は笑ってごまかす。そうやって、またセリフをピンクのグロスを塗った唇から吐き出していく。
「深い話はしてないからいいよ、忘れて。」
彼女はそう言って、もう何かを話すことはなかった。私は罪悪感に駆られて彼女と一緒にいるこの無言が嫌で、仕方なかった。でも彼女はスマホを見ながら笑っていた。そんな彼女を見て、彼女が遠く感じた。
恋って不思議だ。相手への思いが強ければ強いほど、人を変えてしまうものらしい。その変化は良くも悪くも周りをも巻き込んでいく。
彼女はスマホを閉じて、私にこんなことを言った。
「愛那はかわいいから羨ましいね」
私はこの瞬間、彼女に絶望を見た。
彼女は恋に心を売ってしまったなと思った。可愛いという言葉に身を売った私が言える言葉じゃないかもしれない、でもこのとき私は彼女に失望したのだ。
「美夏、変わったね」
私は素直な言葉がまんまでた。
美夏は約3秒止まってそのあと、私を見た。そしてクシャッと笑った後
「みたいだね」
と言って、わかりやすい彼女は表情を固めた。
「だね〜」と、わらってくれればいいのに、まじめに答えられると私が悪者になったようで、言ったあと後悔してしまう。でも、私はかける言葉を見つけることをしなかった。彼女は変わってしまったのだから。
遊んでいる間も、ご飯中もスマホを覗くようになった。彼女はどこまでも彼氏の色に染まった。そして恋する少女になった。やはり、友達と彼氏は天秤にかけると彼氏が勝つらしい。私はそれがただ悲しかった。
『恋ってなんだろう?』
私は、この答えを見つけられずにいる。でも、美夏は見つけている。それがほんの少し悲しくて、ウェディングドレスに身を包んだ娘を送り出す父親のようなもどかしい気持ちが心の奥の奥からこみ上げられて、うずいて消えた。そしてもう一度『恋ってどんな味なのかな?』
そう、呟いて気持ちを押し込んだ。
【失恋って香水の味】
「おはよう」
そう言って入ってきたのは、ゼミの先輩、大宮優人さんだ。大学というところは不思議で〇〇先輩ではなく、〇〇さんと目上の人を呼ぶものらしい。私はいまだにそれに慣れない。
高校の3年間、吹奏楽部で染み付いた〇〇先輩という先輩呼びは、なかなか取れない。
時間というのはあっという間に過ぎ去っていくもので、私は大学2年になった。2年生になるとゼミが始まる。1年の後期になるとゼミの説明会も多くなってきてゼミというものが何なのか何となくの感覚で得ていてもやはり遠い未来の形にしか見えなくて、先輩たちが「これがこのゼミの魅力です」と笑顔でお話ししてくれていても楽しそうだな~という小学生の読書感想文のようなそんな感想しかなくて身近なものにはどうしても感じなかったが2年生になって週に2回ゼミの時間が本格的にカリキュラムに組まれていると嫌でも身近なものになっていくというものだ。
今日は、ゼミの部屋の掃除当番を大宮さんとやる。私達の学校は8つのゼミのグループに別れている、私の入っているゼミは、月に1回順番に廻ってくる3年と2年で行う掃除当番、私はよく大宮さんとやることが多い。
「今日も愛那ちゃんとなんだね、やりやすいわ、よろしく。」
大宮さんはお洒落な人だ。大人な感じが醸し出されるチャラさがない洗練された見た目が、頑張ってます感がなく“お洒落”という漢字をさらりと着こなしているように思える。
白いブランドのTシャツに、身長の高さを生かしたダボッとしたズボンを履きこなして左耳に2つの金色のピアスをつけている。大宮さんのお洒落さは見た目だけじゃない、香りも彼のお洒落さを後押ししている。埃ぽいこの部屋の匂いを大宮さんが来るだけで、大宮さんの香水の香りに変えていく。
この香水がお洒落すぎるからなのだろうか、大宮さんとの掃除当番は緊張する。
香りは初対面で挨拶を交わしたとき「好き」と思うための大切な要素だと思う。でもそれだけで恋に落ちれるかというとそうもいかないのだから女の子はわがままだ。
私が大宮さんを見て恋の色をみいだしてしまうのは、引っかかる心のフックがあるからだ。
私達2年生の新入生歓迎会の飲み会の帰り道に大宮さんが私に言った「可愛いね」という言葉と照れ、そこには小悪魔的な誘惑が見え隠れする恋愛のルールがあった。私をベリー色の恋心に変えていくそんな一言だった。赤くもピンクとも違う色の核を持った色が私を包む。それは可愛いの言葉だけで包まれたものではなくて、私と同じ何かを持っているから惹かれあった必然さがそこにはあった。大宮さんはそんな人だ。
その飲み会の後から大宮さんとはよくごはんに行くようになった。そして、4回目のデートで、大宮さんの家に泊まってキスをした。その時も大宮さんは私に完璧な笑顔で私を「可愛い」と言った。私の頭を優しくなでながら。私は身支度を着々と進める大宮さんの横顔を見ながらそんなことを思い出して、ドキドキしている。そんな私の緊張も知らないフリをして身支度を終えた彼は私を見て
「土曜日だけど頑張るかー、始めようか」
と大きく伸びをしてにこっと笑顔を私に向けた。
私はこの笑顔に弱い。授業のない土曜日に朝早起きをするのはこの笑顔を見るためだなんて柄でもない乙女チックなことを頭の中だけで呟いてみたりした。
「はい」という言葉を彼の目を見て言うことができない。
彼が私を「可愛い」というのが1つの計算式だと分かっていても、いや、分かっているからこそ悔しかった。私が可愛いねの一言に弱いことを彼は分かりきっている、それが悔しくて私は彼に染まっていく。恋というものはやはり魔物みたいだ。良くも悪くも、私は私を殺した。万人受けする可愛い、それを捨てて、彼が求める可愛いにシフトチェンジした。
自然に流れる涙も笑顔も何もかも自然というのは1番可愛くなくて、飾られていないからこその美しさがあるのだ。彼が私にはなかった「可愛いね」は、完璧なシチュエーションに、かっこいい表情の上のキュンがあった。そのキュンは残ることなく言われたという事実だけが私の心に記されて、消えていく。自然と出た言葉とは同じ言葉でも100もの違いがそこにはある。私は彼に言われたかった、かっこ悪いくらいの唐突な「可愛い」を…
掃除当番は1時間もかからずに基本的には終る、というのも私たちのゼミがそんなに活動的なゼミではないからだ。基本的に整理されているので掃き掃除をしてモップ掛けをしてゴミがあれば捨てに行くその程度で終わる。それでも私にとっては大宮さんと居れる時間は緊張の中にある少女心がさく裂しているので幸せな時間だ。時間の長さなんて関係ない、そんなことを思っていると
「ねえ、この後暇?」
大宮さんはモップをしまいながら私に話してきた。
「はい、暇ですよ~」
「俺朝ごはん食べてなくてさ、近くのカフェ行こうかなって思ってて愛那ちゃんもどう?」
「えっいいんですか?行きたいです。大宮さんとご飯楽しみです」
演技でなのか素の笑顔なのか自分でも分からない笑顔を大宮さんに向ける。そう思ったとき私と大宮さんはやはり似た者同士だと思う。
大宮さんとの朝ごはんは朝ごはんにしては遅めの、お昼ご飯にしては早めのご飯を終えて私たちは帰り道をゆっくりと歩く。大宮さんは駅について「じゃあね」と言う。そのバイバイの言葉が急に胸を刺す、さようならという言葉はいくつになっても好きになれない、そんなことが顔に出ているのだろうか大宮さんは
「そんな顔しない」
と私の頭を優しくなでながらふてくされた子供をなだめるように言った。単純な私は
「うん」
と、笑顔に戻って改札を通った。
月曜日を迎えた。秋らしい茶色のタイトスカートに白の鎖骨が見えるオフショルの薄手の長袖、そこに独特なアクセントとしてピンクのチョーカーをつける。ピンクのパンプスは可愛らしさを倍増させる女の子必須のアイテムだ。
「愛那ちゃん、おはよう」
そんな大宮さんの言葉、手を振る彼に手を振りながら返す「おはよう」はカップルみたいだ。
「誰?愛那彼氏いたの?」
美夏は身を乗り出しながら私に疑問を2つぶつけてきた。そのうちの2つ目の質問、彼氏いたの?この言葉は私と大宮さんが並んで歩いていても違和感がないと認めてくれた言葉だと私は素直に受け取った。
「うーん、内緒・・・かな?」
私はあざとく右頬に人差し指を当てながらたっぷりとためていってみた。
「なーにかわい子ぶってるんだ、全部吐き出せ、こんにゃろーー」
美夏は笑顔でそう私をくすぐってくる。それでも言わないのは分かっているからだ、私と大宮はきっとまじわれない、私たちはお互いが自分を愛しすぎて、相手を好きになれないことを今までの人生で知り尽くしてきた。この恋愛が今までの恋愛の類となんら変わらないことを知っていた。利益のための恋愛「あのカップル美男美女だよね」その言葉が欲しいから付き合うそんなカップルになることを私たちは知っている、だから私たちはこの関係を言わないのだ。
午後の授業が終わり、私は美夏に手を振る。お互い1人暮らしだが私の方が家が遠く、電車を使わなくてはならないのに対して美夏は自転車で通える範囲内に家がある。でも今日は家に帰る前に反対方向の電車に乗って寄りたいところがあった。カメラ屋さんだ。今はやりのカメラ女子、流行っているからという不純な理由で私はカメラを手にした。続けるつもりなんてなかった。でも写真は思い出をおしゃれに切り取っていく。温かみのある色に加工したり、かっこよくモノクロに加工したりできる。おしゃれに残された思い出たちをまた更におしゃれに貼り付けていく作業がたまらなく好きだった、そうやって私はカメラの虜になる。そしてまた今日も私はカメラ専門店『pasha』に足を運んでしまう。
カメラ屋さんは原宿にある。薄いグリーンとブルーの中間色とパステルカラーのピンクを中心に淡い色のペンキが木材に丁寧に塗られて、マットな印象が可愛いらしさと温かみを出している外観だ。中に入るとオレンジ色のライトが天井から武装座にぶら下がって、英語の新聞紙や分厚い英語の本がしっかり構成をもってインテリアとして飾られている。武蔵座に置かれていても決して散らかっているようには見えない、そんなお店にはぴったりな落ち着いたジャズ風のメロディーが流れている。インテリアのように飾られたカメラがインテリアじゃないと思えるのは万年筆のような艶のある黒いインクで風になびいた筆記体のような数字がカメラの前に置かれているからだ。
「いらっしゃいませ~、あっ愛那ちゃん、いらっしゃ~い」
「こんにちは、お疲れ様です」
私はここの常連だ、店員さんはみんな女性でナチュラルメイクにパッツン前髪だ。面接時に指定されるのかと思うくらい皆がみんなパッツン前髪なので今話している店長の糸原さんに私はこんなことを聞いたことがある。
「募集欄にパッツン前髪に限るとか書いているんですか?」
そんなカメラに関係ない変な質問は糸原さんと私の距離感を一気に縮めたきっかけとなった。人間関係というのはこんな風にふと一気に距離を縮めたり一気に遠のいたりするそれが人間関係だ。『出会いあれば別れあり』そんな言葉を作っただれかはそうやって積極的に人とかかわっただれかなんだろうなと思った。そしてそれに共感するのは、ロボットでもなく動物でもなく人間だからなのだろう。私は実際に多くの人間関係を切って、多くの人間関係を築き上げてきたつもりだ私は『出会いあれば別れあり』この言葉に共感する人間の一人だ。
糸原さんと仲良くなってからもう3年が経とうとしている。今ではカメラを教わりながら流行りの原宿スイーツをめぐり、恋バナ、愚痴、将来の話全てを含めて私は糸原さんを頼っている。12歳違う糸原さんは私にとっては年の離れたお姉さんのような存在だ。
「最近顔出してくれないから寂しかったよ、あら?メイクと髪型変えたんだ、別人ね~、そのメイクは何メイクって言うの?最近の流行り?」
糸原さんは私に温かみのある笑顔を向けながら丸い眼鏡を持ち上げた。私は糸原さんの笑顔を見るたびに安心する。彼女の笑顔はそういう笑顔だ。
「このメイクは韓流メイクです、流行りでもあるけど、最近の私のブームなんです。最近忙しくてでも忙しいときにここに来るとやっぱり落ち着きますね優しい気分になる」
「そう?そんなお店になれてよかったわ」
「カメラカバーとかありますか?新しいのが欲しくて」
ここのカメラカバーは可愛いものが多い。刺繍されているデザインがみんなセンス良くて可愛い。店員さんがデザインして作っているらしく同じものはない、そんなところも気に入っている。世界に一枚というのはやっぱりいい。
「こんなのどう?愛那ちゃん好きそう、女の子っていう感じの可愛いデザインだよ」
糸原さんが持ってきてくれたのはピンク色の皮生地に一輪のチューリップが刺繍されている。
「可愛い~」
私はひと目で恋に落ちた。
「これにします」
「愛那ちゃんって本当に気持ちがいいってくらいに気に入ったものは即決するよね」
糸原さんは大きな口を開けて笑ってそう言った。それでもやはり彼女の笑顔は温かい。この世界の優しいものにしか触れたことのないような温かみのある笑顔だ。そこにはきっと罪があると思う。優しいもの美しいものにしか触れていないからこその罪があるように思う。そんな買い物後私は少し糸原さんと会話を楽しんで、ごはんの約束をして外に出た。
秋の空というのは顔色をよく変える。朝まで晴れていたのに今はもう雨が降っている。淡い藍色の空は深くて冷たかった。私は折り畳みを出した、その時だった。目の前がスローモーションに流れた。
もう少しで人恋しい時期が来る、夏の暑さは1人でいても何も思わせないし、寂しかったら誰かを気兼ねなく誘えるのに冬というのは寒さで寂しくさせる。そして誰かを誘うという行為はものすごく勇気がいる。そんな人間の心理に好かれる形でイルミネーションはデートの定番になった。温かみのあるライトアップは寒い冬空のような寂しい心を優しく包む。そんなイルミネーションがこの冷たい夜を温かくしているのに私の心は凍っていく。
「みてみて、このお店可愛くない?」
目の前にいるカップルは傘をさす私のことなど目にも留めずに糸原さんのお店『pasha』の外装に一目ぼれだった。そこに広がった香りは大宮さんの香りだった。
彼女がいたことよりも、遊ばれていたことよりも傘という隔たりだけで私が見えなくなってしまうくらい大宮さんには私が見えていなかったことが悔しかった。彼の可愛いは私にとっては特別でも彼にとっては特別じゃなかった。私は彼の飾りにもなっていなかった。糸原さんは久しぶりに会ったにもかかわらず私の雰囲気の変化に気が付いた。私はあんなにも先輩に染まったのに先輩は私の色に一切染まってはくれなかった。それが無性に恥ずかしかった。
「失恋ってことか・・・。」
私は今まで振られたことはあっても、それは彼氏に振られるのであって、自分で仕掛けた恋愛は絶対成功させてきた。それがこんな形で失恋を味わうとは思わなかった。彼に思いを伝えるほど私は彼が好きじゃなかった、でも彼はそれ以上に私が遊びでしかなかった。
「私は男運がつくづくないみたいだ。」
私はこのイルミネーションの光がうっとおしいくらいに光る夜の街をゆっくりと歩いた。
呆れてしまう、笑いがこみあげてきそうなのになんでかな・・・今私は涙で視界が覆われているのは・・・。
私は無意識に美夏に電話をかけていた。涙はこぼすまいと必死になった結果私は美夏に電話するという手段に出た。
「もしもし」
彼女はコールしてすぐに出た。何かを食べているみたい音を立てながら、のんきな声が聞こえてくる。そんな声が私に安心感を与えて余計涙が出そうになる。涙をこらえるのがやっとな私にとって何から話すべきかを考えることが出来なくて黙り込んでしまう。でもかけた手前勝手に切ることもできず沈黙が流れる。その沈黙に疑問を持ったのか美夏が「愛那?聞こえてる?」と慌てることもなく何かを食べながら問いかけてくる。
「うん、聞こえてるよ・・・」
私は涙をこらえているせいで、声が震えている。その声の震えに自分で気づいてしまったせいで、涙がこぼれ落ちる。
「美夏・・・」
もう我慢できずに次々にぽろぽろといろいろな色のインクを含んで涙がこぼれ落ちていく。
美夏は「どうしたの?」驚いた様子を見せた、でもすぐに勘づいたのか何かを食べるのをやめて軽く呼吸する音が聞こえた。
「泣きたいときは泣いた方がいい、気が済むまで泣きな」
彼女はやはりこういうことの勘づきが鋭いらしく、怖いくらいだ。でも、そんな彼女の気遣いが優しくて、私は涙が止められずにいる。それってきっとものすごく幸せなことだ。私はそのまま長い時間泣き続けた。それでも美夏は電話を切ることも、あきれることもなくただ、じっと何も言わずに相槌を打ち続けてくれていた。そして時折、「大丈夫」そう口にし続けた。大丈夫は可愛いとか愛してるとは違って愛を感じられる言葉ではないと思っていた。でも美夏が言葉にする大丈夫は愛を感じる言葉だ。愛というのは繕わなくていいものなのだ。
「失恋って香水の味がする」
私がやっとの思いで言ったかすれた声はそんな言葉を羅列した。先輩とのっ恋愛を1番分かりやすく説明したつもりだ。先輩を思い出すたびにあの香りを思い出す。香水はいい香りを放つけど飲めばものすごく苦くてまずいだろう、先輩と私の恋愛は私から見ればそんな恋愛だ。先輩から見たらどんな味だったのだろうか・・・。
「それは愛那ぽいね、可愛い愛那らしい恋の味だ。でもそれは恋の味じゃないよ、それは理想を詰め込みすぎた、完璧なデートの味だ。恋ってきっともっと未完成で、失敗の味がするはずだ、香水じゃ、お洒落すぎるよ」
彼女はそう言った。
「それに愛那は香水飲んだことないでしょ?」
彼女はそう笑った。そのカラッとした笑い方が気持ちよくて私もつられて笑ってしまう。
「確かに・・・(笑)」
「少し元気出た?」
「うん・・・ありがとう」
「どういたしまして」
涙の味は、ものすごく苦くて、でも見かけはものすごく甘い。そんな香水のような味が確かにあった。大人になろうと必死にしがみついていたこの恋は誰かと同じを嫌って、わざときつい香水をつけている先輩のようなそんな、そんな・・・味だ。初めて味わった後味の悪い恋愛の味。やっぱり、電話を切った後私の心は寂しくて痛くて、心がぽっかり空いてしまったかのようだった。その日一日私は眠れなかった。思うことはお洒落すぎる香水の味がしたデート。そのデートで先輩が見せた笑顔、デートで話した言葉を1言1句忘れることなく心のノートに刻んでいた。それが美夏が言う完璧で、恋の味がしなかった証拠だ。
夜が明ける・・・、24時間ってこんなに短かったっけ?私はそんなことを思いながら洗顔をする。高い洗顔はやはり泡に弾力感がある。顔に当てた瞬間に洗われていくことが分かる。その泡に心の汚れも落としてほしくていつも以上に磨いてみる。
最近私の中で流行っていた韓国メイクはやめて、男女受けする愛されピンクメイクをするために下まつ毛にピンクのマスカラを塗る。カラコンも明るめのブラウンから暗いブラウンに変える。
誰かのためのメイクじゃない、昔の私に戻る。でも昨日泣きすぎたせいでピンクのアイシャドウはやめてピンク色が入ったブラウンのアイシャドウを二重幅に塗って腫れぽったい目をカバーする。
でもキラキラのシャドウは私の心まではキラキラにはしてくれず、また泣きだしたい感情に駆られる。
朝ごはんも食べられる気もしなくてそのまま家を出た。
大学までの駅からの道のり、太陽を睨んで流れる時間を憎んだ。
「愛那~」
後ろからいつものごとく、美夏の声が聞こえる。
「はい」
振り返ると、目の前に美夏はいて私の知らないキャラクターが書かれた封筒を渡した。
「えっ?」
「ダメ男と別れた記念」
「えっ?」
「愛那の可愛いが欲しい為だけに近づいてきた男だよ?愛那が追うのはもったいなかったんだよ」
「は?」
「だからとりあえず、受け取ってって」
美夏はかなり強引に手紙を手渡した。
私は始まったばかりの今日にもらった手紙を家に帰ってから読むなんてことは気になって気になってしょうがない。だから授業中に読んでしまう。
【愛那へ
愛那があの先輩に手を振ってた時私は嬉しかった。愛那が優しい笑顔を浮かべてたから。でも、変な気持ちにそのあとすぐにかられた、その思いは羨ましいとかじゃなくて、美男美女すぎるな~ていう感想だった。なんか2人を見ているとさ作られている感がすごかったんだよね。そんな姿が悲しかった。
だから昨日の愛那の恋の味を聞いたとき、ホントに殴りに行きたかった。あの先輩の事・・・私の愛那になに教えてるんだって!、だから愛那、遅くなってもいいから傷つく恋じゃなくて、幸せになる恋を見つけて。詳しいことは聞かないでおく、でも言いたくならなかったってことはその程度の男だったってことだよ。大丈夫、愛那は間違ってない。次はいい恋してね
美夏より】
この言葉が、すごく的をついていて、胸が締め付けられて不安定な感情が私を支配する。
私は何も言えずに静かに泣いた。
私は失敗に終わった初めての失恋の味を忘れることはないだろう。でも同時に、美夏がくれた愛を忘れることもないだろう。やはり美夏を信じていてよかった。愛って不思議だ。私は味わった恋と愛の味を忘れない、先輩の香水の香りとともに・・・。
【初恋は手紙に隠す】
幼いころ私はよく泣いていた、感動とかうれし涙とかではなくなんで泣いているか分からない涙を私はよく流していた。見るに堪えない涙達を隠すように苦しみと恐怖で血を流してみたりした。誰かが私という存在に気づくように・・・。誰かからの愛を私は独り占めしたかった。
約束はあっけなく破られる。人は簡単に裏切る。それは私から見た世界もだし洸から見た世界もそうで、さらに言うのなら、この世界で生きている全ての人から見た全ての世界がきっとそんな悲しい世界観だろうと思っていた。
でも、私は1つの約束を忘れないでいる。破ってしまっても、それでもあの約束は私のお守りのような言葉だ。
『生きてさえいれば』そんな言葉を多くの映画、ドラマで耳にする。綺麗事だ。でも1つだけ保証することがある。孤独だと思っている全ての人にささげよう。
「生きてさえいれば1人は2人になれる」
6年前の話をしよう。2018年から6年前2013年。私は15歳だった。
「俺がお前を守ってやる」
そんなことを言う幼馴染の誰だったっけ?幼馴染はここ2~3年で見た目の雰囲気が大きく変わった。
うさぎの耳がついた黒のパーカー、それが私のお気に入りのパジャマだ。可愛くてひとめぼれして即決した。でも、その耳が思っていたよりも長くてうっとおしい。その耳を無意識に触りながら物語の世界を豪華客船で眺めることにした。
15歳の誕生日を迎えた幼馴染は金髪頭でワックスで思いっきり固められている。でも今私の目の前にいる少年は黒髪のサラサラヘアーだ。
幼馴染は“塩顔”だか“潮顔”だか分からないがそういう顔立ちらしく、「芸能人の〇〇に似ている~」というイケメン俳優の名前が人気をあげると共に、幼馴染の髪色も明るくなっていって、チャラくなった。
好少年という顔立ちに黒髪のサラサラヘアーが風に軽くなびかれている目の前の少年が幼馴染の少年時代だとはどうしても思えない。好少年と遊び人間があまり一致しない。でも、一致してしまうのは目の前にいる好少年を幼馴染の幼き頃だと私の脳は認識しているからだ。
これは、私と幼馴染が小学校低学年の頃だっただろうか・・・、その日はクリスマスだった。生まれて初めてのプレゼントをもらった日で、私がクリスマスを子供たちが楽しみにしている理由が分かった初めての夜だった。そして同時に自分が可哀そうな子なのだと知った日でもある。私と幼馴染は葉っぱで作った指輪を交換っこしあった。
「これ愛那にやるよ、クリスマスだから」
妙に現実的で自然な形で声が聞こえてくる。声も言葉も生きているように聞こえてまるで私が死んでいるように思える。私は頭が混乱しながら、好少年に返す言葉を考える。
「クリスマスだとなんでこれをくれるの?」
考えるよりも先に言葉が出た。
自然だ。
『ここはどこなのだろう』
煙草の味を知らない幼き頃の私の声が鳴り響く2人だけの空間で、幼馴染と幼い私の会話は続く。
「サンタさんだから」
「サンタさん?」
このころの私は本気で知らなかった。サンタさんという単語も、存在も、私にはその存在をしてくれる両親がいなかった。
「大きくなったら結婚しよう」
結婚は女の子の憧れで苦しみを意味することを私は知っている。結婚と血痕は字のごとく全然違う、でもおんなじ読み方の2つはまじわることがあるのだと私は思う・・・。結婚と血痕は紙一重だ。
この空間は夢でも、現実でもない豪華客船から眺めた高みの見物だ。恐れることはきっと何もない。過去へのタイムスリップを楽しんでみた。
「愛那はサンタさんになれるよ、会ったことはなくてもなることは出来る。」
この世界にひげもじゃのおじさんは存在しない、マジックに種があるように、もらえるプレゼントにも仕掛けがある。この好少年はどこまで知っていてそう断言するのだろうか、私はそんなことを思いながら次にこの世界の私がなんて言ったのか気になって私は若き頃の私に目線を移す。
ピロピロ・・ピロピロ・・・ピロピロピロ・・・
アラーム音・・・
こんなロマンチックな物語も指輪のごとくなくなった。朝を伝える現実のベルが私を地獄へと案内する。さっきまで繰り広げられていた空間は豪華客船での高みの見物状態ではなかったみたいだ。ただ人間が体しか眠っていないときに見る夢だったらしい。でもただの夢じゃないあんな過去が私にはあった。思い出になっていたサンタの物語・・・。こんな昔話を夢に見るなんて・・・。
いつでもお姫様に憧れていた。その憧れを詰め込んだレース付きのベッド、でもピンクや白を選べずに黒を選んでしまうのはお姫様になれない証拠だ。目をこすりながらそんな布団を軽くたたむ。
運命の赤い糸というのはそう簡単には導いてもらえるものではないみたいだ。あまりにも夢がないこの世界はもう少し単純化されて、魔法の1言で綺麗な光に包まれながら魔法にかかるべきだ。結婚まで導く運命の赤い糸というロマンチックな物語があるなら世の中きっと美しい世界で私も傷つかないのに、でもそんな赤い糸は存在しないみたいだ。彼と私は小学生の高学年あたりから絡むことがなくなった。彼はいわゆる目立つ集団にいた。運動会はリレーをして目立って音楽祭は「ダルい」の一言で練習をさぼるようなそんなグループで、可愛らしい女の子ととっかいひっかい付き合っていた。私はそんな彼を眩しくて見ることもできないような立ち位置にいた。
誰かに心を開くなんてことは出来なかった。いつでも私が私でいれたのは図書館と本屋さんだけだ。
そんなことを思い出すとため息が出てまた幸せは逃げてしまう。あんな、夢を見るなんてついてない朝だと割り切らないとこの世の中はやってはいけない。
指紋認証をしてロックを解除する、メールの通知はゼロ、時間は朝の1時、私は身支度を始める、この生活が始まって2年と少しが経つ。
慣れたかと言われたら慣れた、でもこの生活は幸せかと言われたら分からないが答えだ。幸せとは言えないでも、私以上に恵まれていない中学生はきっといる、私はもう一人に慣れて寂しくない。
でも、寂しくて泣いている中学生はきっと地獄のこの世界にはいる。
小学生から中学に上がるくらいのとき家に帰ると、知らない男と母親が声を喘げながら寝ていた。そして、それに気づいているだろいう父親もまた母親がつけている香水の匂いとは違う香水の香りを身に纏って帰ってきていた。
私は何も気づかないフリして二人の言い争いが聞こえ始めたら気づかれないように家を出て、タバコの煙を暗い空に投げつけてみたりした。それでも空はなにも答えてくれない、そして私の叫びの代名詞の煙を何事もなかったかのように消した。
黒のフリルのワンピースに、イエス様に祈りをささげる十字架のチョーカー、前髪で目を隠して、大きなぬいぐるみがついいたイアリングで現実の音を遮断した。いつでもメイクをとることは出来なくて寝るギリギリまでメイクをしていた。誰かに見てもらいたくて、振りむいてもらいたくて、叱ってほしくて、メイクで可愛いを作って派手な格好をして早くからタバコ吸ってみたりした。そうやって間違った個性を主張し始めた、曲がった愛でいいから大人からなんだかの愛がほしかった。そうやって現実から目をそむけて素顔を隠す姿が客観的に自分を見て滑稽だった、それでもやめられないのは煙草が中毒性のあるものだからだろう。私の体は煙草の成分が染みつくとともに心の崩壊音を鳴らしていてそれを鎮めようと煙草が治療する、その治療は涙を奪い泣く方法を忘れさせた。
こんなにも結婚を好きになれないのに、私はいつか結婚式を題材とした記事を書きたいと思っている。
いつかの洋画で見た結婚の特集を描くライターの仕事、その仕事に一生を捧げていた女性の30代入ってからの恋愛物語が大人で、艶っぽくて、仕事への熱い思いが感動を呼んだ映画、大好きで15年間の人生で30回は見てきた自信がある。そのくらい大好きな映画だ。そんな映画のような人生を送りたい、誰かに褒められるために仕事をするのではなく自分自身がその仕事に誇りを持っている、そんな人でありたい。そしてその先で見つける女の幸せに憧れている。夢見がちだと言われてもそれでもいい、私はそうでありたいのだ、そうなりたいと強く思っていなかったらそうは絶対になれない。自分でくらい自分のことは信じていたい。
その第一歩として私はネットを通してライターの仕事をしながら新聞配達をして生計を立てている。
シャワーを浴びていても私の脳は誰にも伝わらない無駄な言葉を羅列させていく。
そもそも私の両親は若いころの結婚だった、どちらの親からも恵まれる結婚ではなかった。それが道を脱線させたきっかけだ。私の母親は若い男と寝て時には父親よりも年上の男と寝て父親と離婚した、でも父親もいつの日か私を見捨てて私を静かに殺した。1週間に1回お金を渡すために帰ってきてすぐに家を出ていくようになって、私を孤独に追いやっていく。。玄関には知らない女がよく立っていた、でもその女は毎週、毎週顔が違った。
そしてついに、帰ってくるのが月に一回になった。今では銀行に振り込まれてくる形式だ。私は本当に孤独になった。
望んで料理を学んだわけじゃない、でもなぜか料理が上手になっていた。
「料理が出来ない女は論外だな」そんな声が街中を歩く男子大学生だろうか、歩く明るい髪色の集団がそんなことを話しながら私の横を通り過ぎた日があった。でも私は思う、料理をできない女の人は愛というのをきっと知っている人だ。私は知らないきっとそこらの同級生よりも私は料理もできるし、掃除洗濯全て出来るだろう。でも、同時に大人の欲も知っている。大人は可愛くない生き物だ。愛がほしくて夜を知るそんな生き物だ。愛ってきっと優しくて可愛いはずなのに・・・
料理も掃除、洗濯も、今じゃなくたっていつかは身につく。
そう、知るのは今じゃなくていい。
でも愛されるということは今のうちにしか学べない愛があって、私はその愛を知らない、そしてそれが当たり前のように、その愛がないことの孤独さをある日の集団の男は知らないのだろう。彼はそんな言葉を放ちながら笑っていたのだから。
愛をもらってきた人にとってはそれがゆえのコンプレックスがあるかもしれない、
“料理が出来ない”、“怒られることに慣れていない”上げたら尽きないかもしれない、でも真っ赤な血が可愛く見えるほど自分を孤独にしていくコンプレックスではないのだろう。愛をもらえないというコンプレックスというのは血を可愛いと思えるそんなコンプレックスだ。愛されなかったゆえにできるようになった料理など誰のために食べてもらう料理なのか分からないのだから・・・。
私はおにぎりを作りながら自分の話を誰かに聞かせるかのように1人には広すぎる二階まである一軒家で小さな声で呟いてみた。
「孤独・・・」
私は誰かから愛をもらうことを恐怖で仕方ない。それは甘えられないという類の可愛いものではない、男女問わず、何かを要求したらそこにはお金が絡むものだと考えてしまう。可愛げがないとかのレベルではなく、ここまでくると潔癖というのにも難しいものがある。人間不信とも違う、これは愛されていないということを誰にも見られたくなくて怖いから見栄を不器用なりに張って、やり方が雑で、脆いからこそそこに隙が出来て、絆創膏を貼る。その絆創膏は粘着力だけを残してその見栄をあっけなく剥がしてしまう。そんな心の傷だ。そんな私は逃げ場のない、生きるという道のりに疲れながらも死ぬことは出来ないから何もかもを飲み込んで背負いこむことに慣れて、社会に従順になった、それゆえのわがままだ。そう、これが俗にいう反抗期だ、でも私は反抗できる人がいないから私はこうやってわがままになって同時に従順になった。矛盾しているが私を表わす一番の言葉がわがままと従順だ。
そんなことを思いながらお弁当になるおにぎりを4個持った、もちろん朝ごはんとお昼ご飯ようだ。水筒と制服をもって可愛くないジャージに着替える。
外に出てみても思考は止まることなくカタカタと文字が浮かび上がっていく。
唯一救われたことは父親が若いなりにお金に困っていないことだった。いや、これだから私は救われていないのかもしれない。お金がなければ私は誰かに救われたかもしれないし、死ねたかもしれないなのに、お金があるから私は生かされている気がしてならない。私は契約で娘をしているのかもしれない・・・。いや、本当は父親は契約など結びたくなかったのかもしれない。
そう思ったとき私はある日から父親からのお金を1円も使わなくなった。
怖いからだ、いつか返せと言われる日が来るかもしれない、あれは契約金だとそう言われる日が来るかもしれないと思うと、怖くて私は中学1年の夏頃から朝の新聞屋のバイトを始めた。中学生で出来るアルバイトなどこれくらいしかない。そのお金で生活費を成り立たせた、私は今そのためにこんなにも早い時間に起きて真っ暗な道を歩くのだ。
最近はこんな真っ暗な空を見ると思うことがある。「似ているな」、この真っ暗な空が私に似ていて仕方なかった、そしてそのたびに涙が出そうになる。きっとこの空は私に似ているなどと言われても嬉しくないだろうし、空はじきに夜が明けて朝が来る。でも私の心に朝が来ることはない。受験を目の前にしてみて私はこの先どうやって生きていくのだろうと思った。中学とは比べ物にならないほどの多額な費用が高校にはかかる。父親が与えるお金を全額使って1年と制服代、教科書代が限度だ。そう思ってしまうと生きていることを忘れたいのに生きていることを自覚させられるくらい呼吸の音が聞こえてならない。目をつぶる、そして忘れていた過去の思い出を思い出す。
「俺がお前を守ってやる」
なら、早く守ってよ・・・。独り占めしようなんて思わないから、君の手をずっと握っていたいとか最後の記憶が私であってほしいとか口先だけでとどめるから・・・。私はその瞬間に熱いものが目から流れてきた。もうだめだ、心が折れる、その音が聞こえた。
「この世に神様がいるのであればどうかお願いです、私をこのまま殺して下さい、できることなら、可愛い拳銃で殺して下さい。」
私は生まれて初めてのお願いをこう唱えた、暗い朝というのか夜中というのか分からない3時を少し過ぎた空は冬をいつ迎えるかの相談をしているかのように冷たくてでも、その冷たさが心地いいものだった。都会の空には星は見えないという。ここは23区ではないが東京・・・それでもここからは案外綺麗に星が見える、よく目をこすって空を見たら綺麗に星も月も光っている。月がピンクと赤色の間の色に見える、「あっ、綺麗に見えるのは私が星になるからかな・・・」そんな言葉を呟いたか呟こうと思ったのかは分からないが確かに最後私の耳でこう聞いた。
「ストロベリームーン、恋の魔法だからだ」
という、低い男の声が聞こえた。
私はものすごく神様に嫌われているらしい。死にたいという人生初めてで最後のお願いとなる予定だった願いごとも叶えてくれなかった。
目を覚ますと私は家のベットに寝ていた。訳が分からなくて起き上がろうとした瞬間にものすごい激痛が頭に走る、思わず叫んでしまった、その瞬間に男の声が聞こえる。
「なに、女の子みたいな声出してんだよ、気持ち悪いぞ」
ツッコみどころは沢山ある、この男は誰なのか、そしてなんで家にいるのか、なんでこんなにも上から目線で失礼な物言いなのか・・・、でも何よりも金髪でピアスをつけているその姿の男がものすごく可愛らしいエプロンをつけている、そのギャップがおかしくて、そこまでしてエプロンをつける必要があったのだろうかと考えてしまう。
数か月前の私の誕生日に新聞屋の女の先輩がくれたプレゼントのエプロン、私の趣味を心得ていて、可愛すぎるからもったいなくて綺麗に包装されたまま私は棚の中に入れていた。それを彼は身に付けている。メイドさんのような黒と白のフリル付きのエプロンを・・・。私はその姿が一番のインパクトで何を質問するより、初めに笑いが噴き出てしまった、でも、その笑いの衝動で頭がかち割れそうになる。
「うっ」
私は一気に冷や汗が噴き出て、ベットに顔をうずめた。
「大丈夫か」
エプロン姿の男は私に駆け寄ってきた、初めての反応に私は表情を失った。彼は何を求めて私に大丈夫か?という優しい言葉をかけたのだろう、私は彼の顔をただ見つめた。
「どうした?、どこが痛い?ちょっと触るぞ」
そう言って私の腕を触る、脈を測るときの2本指を私の手首に当てる。慣れているそのしぐさと反応に私は目を奪われてしまう。
「脈が乱れてる、寝ようか、ゆっくりでいい頭を枕に付けよう」
そう言って私の頭をゆっくりと触った、そのままの流れで彼は私の目を見た、そしてあっかんベーしたときのように両目を思いっきり開けられる、そしてライトを当てながら交互に見ていく、見つめられる感覚はくすぐったくて同時に痛かった。見られたくない、心の奥まで見られるのではないかと怖くなる。ズキンという音を立てながら心臓は2倍の速さで動くことが自分でも分かる。反抗期の私の心も、真っ黒の私の心も夜のような真っ暗な私の未来そんなものも見られているのではないだろうか・・・。彼の瞳にはどんな私が見えるんだろう。聞きたくないけど、聞きたい衝動に襲われる。
「ちょっとごめんね」
そう言って私の気も知れず彼は目を見ることをやめて淡々と作業を進めていく。私のおでこに手を当てる、ほのかなご飯の匂いがした、みそ汁と優しいふっくらなご飯の匂い、彼の手からは生活の匂いがした。
「高熱だね、ウイルス性でもなさそうだ、なにか頑張りすぎてるんじゃない?ちゃんと寝てる?」
彼は私のベットに半分のる形で、私を優しい目で見つめてきた、でもどうしてもその優しさに悪があるんじゃないかと思ってしまうから私は口をつぐんだ。でもそんなことを思ってしまう自分自身が可哀そうで私は泣きそうになった。でも、もう泣くのに疲れたという気持ちすら出てくる。
今日は久しぶりに泣いた、その涙は崩れてしまうくらいの大粒の涙だった、そう、涙の流し方を忘れて、煙草の味を覚えたあの日から、流したかったのに流せなかった涙をまとめて流したかのような土豪のような涙の量だった。そんなにも泣いた私はもう泣くのに疲れていた。
しかも知らない男の前で泣くのは嫌だった。涙は簡単に武器になってしまう、そんな涙でつられた愛などほしくなかった。母や父親のようにはなりたくなかった。愛というのは自然に芽生えるものだと思っていたし、そうであってほしいとも思っていた、“病み”その言葉が私を表わす最適な言葉でも涙だけはその病みの中に入れておきたくはなくて、私は泣くことを抑え込んだ。
「泣きたいなら泣いた方がいい」
彼はそう言って私を抱きしめた。
「涙は簡単に武器になる、でも、涙は心を開いた証拠にもなる。」
この世の中は不思議なことが起こるものだ、普通の女の子なら叫ぶところなのかもしれないが私はその抱きしめられるこの温度に涙が自然と溢れた。自然と流れたのではない、溢れたのだ。彼は心地いいくらいに私の心を読んだ。
寝ている私を抱きしめる彼はポンポンと規則的なリズムで私の頭を優しくなでて、私を子供扱いした。でもそのリズムが心地よくて初めてな感覚に胸が浮いたかのような痛みと心地よさが混ざった感情に駆られる。くすぐったくて離れたいのに、くすぐったい心をもっと触ってほしいとも思う。自分の心がまるで見れなかった。
「私は・・・皆に捨てられた、親にも親戚にも、神様にも見捨てられた、もう死にたかった、このまま高熱で死んでしまえばよかった、それすら許されなかった。私があんな親の子供だから?だから私はこんなにも恵まれていないの?ろくでなしの親の子供は憐みすらしてもらえない、可哀想な子じゃない、あの子もきっと親と同じでダメな子だと言われるの、私があの親を一番憎んでるのに、私はあの親と同類にさせられるの、私は親も親戚もそしてここにいるすべての人を恨んでる。大っ嫌い。」
私は泣いていた。誰かに認められたいだけなのに文句しか自分の口から出てこないことが憎らしくて、でも口を開いたらさらにひどい言葉が出てきそうでここで口をつぐんだ。その代わり枕の下に入れてあるピンク色のカッターを手にしてくまのぬいぐるみを刺し殺す。このぬいぐるみを縫い直した回数は何回だろう?もう綿が刺す前から出てしまっている。縫い直すたびに心がすさんでいく私は糸の色も分からなくなるくらい泣きながら縫う。誰もがもう使えないと思うだろうしひどいと思うだろう、それでも私はそのぬいぐるみが好きなのだ。
自分で思っていた以上に声を荒げていたらしく、過呼吸のような状態で息をあげて声が震える。私は力尽きて泣きじゃくった可愛くない顔のまま彼にカッターを向ける。
「離れて、離して・・・涙が・・・とまらないの・・・」
そう言いながらも私は心で願ってしまう、どうかその手を離さないで・・・と・・・。
それでも彼はカッターをよけて優しく私を抱きしめた。
「いいよ、殺していいよ」
嬉しいはずなのに、こうしていてほしかったはずなのにどうしても私の心は素直になれない。
「はっ?痛いんだよ、本気で私は言ってるの、私のことバカにしてるの?」
「ううん、疑ってなんかないよ。でも愛那が悲しいから抱きしめてって顔してたから・・・。俺はそういう男なの、ただそれだけだ。」意味が分からない、なんでこの男は私にここまで恐怖心をを抱かずに優しく出来るのだろう・・・。初めての戸惑いに私は硬直する。でも少なくとも私は彼の視界の中に入ることが出来た。誰かが私を見てくれた。抱きしめられると彼自身の香りを知れた。作っていたのであろう料理の匂いが染みついた手の香りではなく、彼の匂いがした。今の季節には遠い、夏を知らせるようなそんな淡い香り、彼はそんな香りを持つ人だ。親たちがつけていた人工的な香水な香りじゃない、優しい自然な香り・・・、私は彼の香りに包まれて、荒かった心臓も心も落ち着いていく、なのに気持ちが温かい何かに包まれて涙腺は崩壊したままだ、もう声を抑えて泣くことが出来なくて大声をあげてしまう、それでも変わることなく彼は背中をポンポンとリズムを刻みながら私を抱きしめ続けてくれた。
「でも・・・」
彼の声が聞こえる。
「君が生まれてきてくれたから、生きていてくれたから、俺は君に会えた。例え君が俺を含んだ全人類を嫌っても俺は君を愛しぬく。君は愛をすぐに受け付けなくても俺は愛しぬく。」
今までにない考え方に私は意味が分かったような、分からないような、不思議な気持ちに満たされていく。
「君の傷を見たくない。カッターを置いて」
彼は私の手から腕に繰り広げられている細い傷を知っていた。胸が思いっきり締め付けられた。私は彼の言葉に、そして彼の心に惹きつけられて、染まっていく。優しい気持ちで満たされているはずなのになぜか思いっきり体に力が入るのが自分でも分かる。
「反応が新鮮だな~」
抱きしめられることも、優しい言葉をかけられることも大人からもらうことは初めてで、人というのは初めてなことには緊張が電流のように流れるものらしく体が固まってしまうものらしい。
彼は私を抱きしめながらそう言った、私は力が体中に入っていることがバレていて恥ずかしかった。でも彼は鼻で笑うとは違う、静かな笑いで優しく笑っているから安心して自然と力が抜けていく。
そして、思いっきり力を込めて私を抱きしめた後、私から離れて私を見つめて、優しく頭を撫でた彼の手は柔らかかった、彼の顔を私はまじまじ見つめた。彼の瞳は濃くて長いまつげが印象的な奥二重の瞳に、肌が綺麗で女性ぽい綺麗な顔のラインをしていた。モテることを決定づける綺麗な顔立ちだった。でも彼はマッシュ型の金髪という貧弱そうな顔立ちからは想像もつかない派手な髪色が似合ってしまっている。彼のゴツゴツした鎖骨、力がある腕、そんな男らしさと金髪がマッチさせているのだろうか。
私には彼の本性がどこに隠れているのか分からなかった、だから私は彼を知りたくてまじまじ見てしまう。
「あのさ、見つめられても何も出てこないし、むしろ気になるだけだから、単刀直入に聞いてくれるとありがたいんだけど・・・名前も何ものかもちゃんと答える。」
ならばどうぞという代わりに私は黙り込んで見つめるのもやめた。それに気づいたらしく彼は、自分のことを話し始めた。
「俺の名前は洸、高梨洸、24歳でこれでも医者だ。」
彼が“これでも”とつける意味がよくわかる。彼のビジュアルからは医者のオーラはない。彼と私は9歳違った、でも見た目だけでいけば4歳差くらいだろう、そのくらい24歳にしては幼い顔をしている。
「別に、あなたのことなんて聞かなくてもいい、私はあなたがどんな色を持った人なんだろうって自分なりにあなたを分析していただけ。ただ・・・」
「ただ?」
「なんで、あなたが私を助けてくれたのかそれは知りたい。」
「なぜか・・・、そう言われたら難しいな、でも、目の前に人が倒れてたら人として助けるのが本能だからじゃない?、医者だし俺」
彼はクシャっとした笑顔を私に向けて、それを隠すように口元を腕で隠した
重い話も重い話ではないようにする、鬱としい雨の後に表れる虹のような何もかもを「綺麗だねと」まとめ上げてしまうそんな虹みたいな後味がいい笑顔を私に向けた。
「あっ、言っておくけど家を教えたのは君だからね」
彼は慌ててそう言った、その姿が可愛くて、私は笑った、もう頭の痛みもなかった。
「ご飯食べる?勝手にいろいろ使っちゃった」
私は「うん」と頷いた。知らない人の作ったご飯とか危ないとバイト先の人や先生、親切にしてくれた大人たちは思うだろうか?思ってくれるだろうか・・・
思ってくれたことを前提に心の中で話しかける。
でもね、私にとっては久しぶりだったのだ、誰かが作ってくれるごはん…、もう私の体は煙草で汚れている、だからたとえここで死んじゃってもいいの、最後に誰かのご飯を食べれるのだから私は思っている以上に幸せなのだ。だから、食べたいんだ、と言ってみた。
「よし、温めるか…、ちょっと待ってろ」
そう言って彼は1階に降りていく。私は彼の匂いが残る枕に顔をうつぶせた、そしたらまた熱い雫が枕にのってシミを作っていく。笑ってしまう、こんなに泣くことが出来なかったのに、1度泣いてしまうとこうまでも人は変わってしまうものなのかと思い知る。
涙を流した状態で彼と会いたくなくて、私はクローゼットを開ける。可愛くない赤のジャージを脱ぎ捨てて、黒のチュールワンピースに着替える。そしてクローゼットについている鏡で涙で落ちたメイクを整えていく。
「待たせたなー、おっー、雰囲気変わったなー。」
彼は二人分のおかゆとみそ汁をもって現れた。
「あなたも食べるの?」
「へ―そういう、格好の子をなんて言うんだっけか?ロリータ?」
「いや、ロリータではないけど聞いてるの?」
彼と私の会話が成立していないからもう一度「あなたも食べるの?」
と問いかける。
「作った本人が食べないわけないだろ、俺朝ごはん食べてないんだよ、手術が長引いてさ」
「知らないわよ、そんなこと」
彼は急に私の質問の回答を答えるからツッコみづらい。
「反抗できるようになったなら治ったな」
彼はそう言って笑った。
「それにさ、1人で食べるより2人で食べたほうが絶対美味しい、愛那にもそれを知ってほしかった。」
また泣きそうになる。クローゼットの前で私は立ちすくむ。
「泣き虫だな~、でも俺は愛那の笑顔が見たいなー、だから堪えろ」
彼は笑いながら、流れてしまった少数の涙を親指で拭ってくれた。
「よし、これで笑顔だな、冷める前に食べよう」
私はありがとうも言わずベッドの上に入り込む。彼の作ったおかゆは塩の味がなかった、彼は味がないなと言って笑った、でも美味しかった。彼が言う通り1人より2人の方が美味しいらしい。でもそれだけじゃない気がする。正直私の作ったおかゆの方が10人いたら10人がおいしいと言ってくれるだろうと思う、でも私は誰が何と言おうとこのおかゆを選ぶ、彼の作ったこのおかゆが世界一美味しいと断言する、このおかゆの味を私は一生忘れない。
誰かが作ってくれるごはんというのは、自分で作ったご飯より何千倍も美味しくさせるものなのだ。
「にしても、かわいい顔してるのに何で目隠すの?前髪切りなよ」
と彼は私の前髪を白くてゴツイ手であげながら言った。切ればいいのにというニュアンスで言いながらも彼は私にはさみを渡しながら言うから切れということらしい。それなら最初から命令口調で言ってくれればいいのにと思いながらも私は渡されたはさみと鏡を受け取る。私はものすごく緊張する、はさみがものすごく重く感じる。カサカサと音を立てながら丁寧に切りそろえていく。前髪を切るという作業は思っている以上に繊細だ。優しく、丁寧にを心掛けなければ凸凹になってしまう。前髪を切ったとき私は見る世界が変わった。黒髪にさえぎられた世界は光を受け付けなかった。でも、前髪が眉毛少し下になると光がちゃんと視界に入ってくる。わたしの顔ってこんなんだったけ?とおかしくなった。私は鏡の中の私を見て笑った。
「可愛くないな~」
そうつぶやいた私の言葉に洸はこう言った。
「可愛いよ、もったいなかったよ、今までが」
「んなことないでしょ、こんな青白い顔の女の子可愛くないよ」
「いーや、可愛い、そっちの方が断然いい。ついでに言うなら、ショートカットが好きだ。」
彼は大きな声でそう断言する。堂々と胸を張って言うその姿がおかしくて私は笑ってしまう。
「いいよ、そんな褒めたたえなくて、いつでもメイクで可愛いを作り上げてるんだもん。素の自分は可愛くないこと痛いくらい知ってるから。」
「でもタバコ吸っている愛那よりメイクに溺れるくらいが中学生らしくて、俺は好きだ。」
この言葉を言われたとき、なんかすんなり受け入れてしまった自分がいた。この人がそういうなら煙草の味を忘れようと思った。煙草の味以上の中毒性が彼にはあった。
「分かった。」
私はこの日を境に何もかもが変わった。幼馴染がいた世界に一気に近づいた、そして同時に感じた、見た目が変わると誰もがころっと性格を変えることを、怖いくらいに知って、癖になった。今まで身に付けていた黒のワンピースは投げ捨てて、十字架のチョーカーも奥にしまい込んだ。誰もが可愛いという万人受けの洋服がクローゼットを埋めていく。
「こいつ、俺の幼馴染なんだ、可愛がってやって」
そうこの名前を忘れた幼馴染は私のことを中学校という小さな社会で目立つ派手な自分のグループに安定の可愛いを自分にプロデュースした私を紹介した。
私はそのグループのある男が私にこんなことを聞いてきた。
「急にどうしてそんなに雰囲気変えたの?」
彼は私にやらしい手つきで私の髪を触る。それでも、私が拒絶しないのは愛に飢えているからだ。私はそれをよくわかっているけど、可愛いと言われるのは気分がよくて、その手つきすら許してしまう。
「なんで・・・そんなの理由ある?恋と一緒で比例していると思うの、可愛いって・・・。」
「ってことは、愛那ちゃん恋してるの?」
「さ~あそれはどうかな・・・、秘密かな」
そんな可愛い声を至近距離で言うことにもなれたのはつい最近のことだ。
でも私はぶつけられた疑問が心に引っかかって仕方なかった。私はどうしてあの時、変わることを即決したのだろう・・・。
洸が家に来てから3週間がたつ。彼はなぜか半同居の勢いで私の家の合いかぎを勝手に作っていた。私は怖すぎる男だと半分思ったが半分は嬉しかった。結果的に言うと、嬉しさが勝って私たちの半同居生活は続いている。
彼との約束は
1、22時までには帰ってくること
2、家について洸がいないときは必ずlineを入れておくこと
3、もう一人は嫌だと泣かないこと
4、そしてたばこを吸わないこと
私は洸とそんな約束を交わした。
洸はもう愛那は働かなくていいと言った。そして、高校への費用は俺が出す。とまで言った、そんな彼を私はものすごい勢いで睨んだ。それは3週間前のことだ。
「そんなの信じれるわけない、学費を出すってなんで?私の親ですらしてくれないことをなんであなたがしてくれるわけ?医者っていうのはリッチなのね。」
「曲がってるね」
22時を少し過ぎた時間に彼は何事も普通のように合いかぎを使って帰ってきた。そして私の部屋に上がってきて、ただいまを言ったかと思ったらすぐにこの本題に入ってきた。彼は私のにらみを笑いで交わしていく。まるで私の行動を先読みしているかのようで、私はその彼の態度に不服で仕方ない。でもそんなことも分かり切っていたようで彼はめげることなく彼は次にこんな提案をしてきた。
「じゃあ、俺をここで住ませて。ごはん、洗濯掃除は君に任せるから、お金は俺が出す、これならある程度平等でしょ?」
彼はあらかじめこの交換条件を考えていたのだろう、スラスラと話してきた。
私は彼のその余裕感がイラついて怒りに駆られる。
部屋を明るく照らす蛍光灯の白さが妙に際立っている。怒りに駆られるとそんなどうでもいいことが気になって仕方なくなる。
この世界はお金が他人と自分を結ぶすべてだと私は思う。彼と私はあったばかりだ、お金が絡まずに一緒にいるのはおかしいものなのではないかと思ってしまう。でも彼はこの後にこんなことを言った。
「仕事というのは子供がすることじゃない、大人がすることだ。」
この言葉を言われたとき、認めてしまった。子供だと言われたことが嬉しかった。子供というのは無意識に愛をもらえるものだと誰もが考えている。でも私はもらえなかった、それでも常識というものでそいうものだと学ぶ。私の家は他の家とは違うのだということも同時に知ってしまう。それを知ってしまうと何もかも割り切れるようになってしまう。寂しいということを忘れるために私は従順を覚えた。それでもほしくて仕方なかった、甘えていい場所、子供であるという自由そんな場所と特権が欲しかった。ずっと言えなかった、言ってはいけないものだと思っていた、でも本当は知りたくて仕方なかったのだ。本当は声を大にして言いたかったのだ、「私は子供でありたいです、甘えたいんだ」と・・・。彼はそれを許そうとしてくれる。
「反抗しないってことは、それで契約終了?」
契約という言葉が私の胸を締め付ける。
愛というものを目の前にして分かったことがある。人はものすごくわがままだということだ。
人間は簡単に測れる方法で愛を測ろうとする。でも愛を測って愛があると知るとさらなる愛を求めようとしてしまうものらしい。
子供がおもちゃを買ってと駄々をこねるのと同じだ、物心がつく前から人間というのは愛の測り方が単純だ。でも子供心で分かっているはずなのだ、愛というのはおもちゃを買ってくれたから愛があるというわけじゃないということを・・・、愛を得ていると知るときはいつも目には見えないのだ。でも人間は視覚で70パーセントもの情報を得ているからどうしても目には見えない形を信頼できないでいる。だから彼がしてくれている愛の形をもっとちゃんとした形で聞きたくて、見たくて仕方ないのに目には見えない、そしてそんなとき彼は契約という言葉を使った。契約という言葉を使ったとしたら契約書が目の前に現れてしまうそんな2人の関係になってしまう。それは目に見えてしまう形で、その視覚情報は大きい。契約という言葉の意味に簡単に傷ついてしまう。愛を直視したいのにしたくないなんて私はやはりわがままだ。
「ええ、そうね」
でも、契約という言葉は考え方を変えると、ある程度の時間一緒にいれるということを意味する。でもやはり、契約で結ばれた関係で長い時間一緒に過ごせてもむなしくなるだけな気がしてその寂しさを気づいてほしくて私は大人ぶって答えてしまう。いわゆる反抗だ。小さな小さな反抗。
「その口調は可愛くない、言いなおし」
「・・・」
私は彼の瞳を見つめた。彼は私の反抗に本気で怒ってくれている、それが気持ちよくて、もっと束縛されたくなる。私はもっと私を彼に要求されたい。
「可愛い言い方って?」
わざとらしく、大人を演出してみる。いたずら好きの子供みたくyesと言われたらnoというように。
「ありがとうだろう、こういう時はありがとうだ。」
でも、反抗心はエスカレートしていくと、求めすぎた愛の裏返しを怒りに変換してしまうものらしく、ヒートアップしている感情がそのまま考えなしに出ていって傷つけてしまう。
「待ってよ、私は働いてもいいのよ?勝手にあんたが言ったことになんで私が・・・」
そう言いかけて、自分の心の狭さに気づく。
「ごめん・・・」
私は自分の心の狭さに辛くなる、思いっきり胸が締め付けられる、心を踏まれて痛いとかそういう感じじゃない、心のひねりを正しい方向に捻じ曲げて広げられているその痛みは鈍痛が走って足の小指までの神経まで痛みが走る。自分があまりにも惨めで仕方なかった。私はごめんと言うのが精いっぱいだった。
「悪いのは君じゃない、そうさせてしまった俺達だ」
私は首を傾げた、彼は私に謝る必要は絶対にない。
「なんで洸が謝るの?」
「・・・なんでかな、でも責任を感じる」
彼は一瞬目から光る何かを隠した。その光る物は、ただ流れる涙じゃなかった、意味のある心だと感じた。彼がここまで私を思ってくれる確かな理由は分からないけど、私は初めて大人の涙を目にした。その涙がこんなにも心を動かすものだと思わなかった。やはり涙は武器になるみたいだ。でも武器だからこんな感情に駆られるのだろうか?私は自分の気持ちがよく分からなかった。一度曲がってしまった心を素直な心に戻す作業は簡単じゃないみたいだ。さっきとは違う鈍痛ではない激しい痛みが私の心を支配する。
私はそれを見たとき変わろうと思った。強く激しく流れる血液と共に・・・彼は私に愛を教えてくれた、だから私はその愛に答えたかった。あのとき私は何を考えるのではなく、自然に彼を抱きしめた。彼が抱きしめてくれたみたいに、愛を伝えることを不器用なりに考えて抱きしめるという方法を見出した。
私は可愛くなろうと思ったのだ、あのときただ洸が私を見て可愛いねと言ってほしくて今までのおしゃれを捨てて可愛いを探してみた。それが答えだがこんなにも長い説明をするのは面倒で、でも1言で片づけるには説明不足になりそうでやっぱり「なんでか分からない」という言葉にたどり着く。洸と私の関係は何なのだろう・・・。
「ただいま~」
21時30分に私はショートボブにして帰ってきた。20時までクラスの子や幼馴染とご飯からのカラオケに行って、可愛くなった理由を考えたとき、洸の名前が頭の中に浮かんだ、その時髪を切りたくなったのだ。女の子ってきっとそういうものだ。失恋したら髪を切りたくなるというが、愛を知ったときもきっと女の子はそういう気持ちに陥るのだ、好きな人が好きだと思う髪型にする、そういうものだ。きっと女の子は不器用ででも誰かからの可愛いを求めて模索する生き物だ。
「おかえり~、ごはんさ・・・」
彼は私の顔を見て目を丸くするという見本にもなる顔をしている。
「髪切ったんだ、似合ってる、可愛いよ」
洸は私を見て、優しい笑顔を私に向けた。その笑顔がものすごく綺麗で、私はものすごく恥ずかしくなる。大人がくれる愛と言うのはものすごく優しくてあたたかくて、赤色の練チークが頬を染めるような赤さがあるみたいだ。
中学3年の冬が目の前に迫ってきた。やはり私と洸の生活は変わらない。ただ違うことというと私が勉強に憑りつかれていることと・・・、悩みがあることくらいだ。
冬休みを前に3年生は三者面談が開かれる、私は今まで親が忙しくてを言い訳に二者面談にしたり、父親が嫌々ながらも隣を座っていた。親に連絡が行くものらしく父親は現れていた。しかし、1つ事件が起こった、父親は連絡手段を途絶えた。私はもう親と繋がる手段は銀行に振り込まれてくるお金だけとなった。このお金はどんな思いで送り込んでくるのだろうか、お金と言う単語には幸福を表わす言葉の響きと恐怖を表わす言葉の響き2つを兼ね備えているらしい。孤独を突き刺すための嫌がらせか、訴えられたくないからの自己利益か・・・。どちらにせよ私への愛はそのお金にはない。でも私はこのことを先生という大人に伝えるべきか分からなかった。
部屋で一人、教科書とノート、プリントが広がる机を前に三者面談のお知らせという紙をただ眺めた。
そして1人で見つめてもどうしようもないことにようやく気付いて
「ああああああーー」
と思いっきり叫んだ。時間はもう21時を過ぎている。お風呂は出てもご飯はまだ食べないでいるのはまだ洸が仕事中だからだ。だから叫んでみたところでこの家には私1人しかいないのだから何も起きない。
急に大人からの愛を受け取ると無性に寂しくなる時がある。
「なんで今隣にいてくれないんだよ・・・」
私は学校にいる同級生になら簡単に言えるそんな甘いセリフも、洸を前にするといつも言えなくなるのはなんでなんだろうといつも思っては、胸の中で押し殺す。
「もう、頭、働かない。ご飯作ろう」
私はそういって、パジャマの上からエプロンを巻きながら下に降りる。先輩がくれた可愛いエプロンをつけることに抵抗がなくなったのは髪を切ったときに洸が言ったかわいいが私に勇気をくれているからだ。
髪を切ってからは沢山の人が私を可愛いと評価した、でも洸の可愛いの言葉以上に私の心を動かす可愛いは味わったことがなかった。私にとって洸の言葉と言うのはそのくらい大きな影響力がある。
「ただいま~」
洸が帰ってくる頃には6品作っていた。2人で6品は・・・多い。4人用のダイニングテーブルがお皿で覆いつくされていく。
「今日なんかあったけ・・・?」
洸はお皿の量に目を奪われながら言った。
「いや・・・なんか気分転換に料理してたらこんな量になっちゃった。」
私はそう言うと、私は私が思っていたよりも演技が下手みたいで
「何か学校であったの?」
そう洸はうつむいている私の顔を覗き込んでくる。
「えっ、いや・・・」
私はどこから説明したらいいのかが分からなくて、思いっきり手をぎゅっとする。彼はその私の仕草に気づいているだろうか・・・
「とりあえず、手洗ってくる、おいしそうだし、腹減ってるし全部たえらげちゃおう~」
彼は無理やりと言う言葉が似合うくらい明るい声でそう言った。
「いただきま~す」
彼は唐揚げに手を伸ばしながら言う。
「うまい、酒にぴったりな味の濃さだな」
彼は未成年者の作る料理にそんなコメントをつけていく。
私もから揚げを食べようとしたとき、彼がゆっくりと口を開いた。
「愛那、なんか俺が聞く立場じゃないかもしれないけど、進路決めてるの?」
私は進路と言う言葉に体が反応するのが自分でも分かった。唐揚げが箸にフィットしなくて滑り落ちる、何とも縁起の悪いことなんだろう・・・。
「出来る限りのことはしたいんだ、なんか俺も愛那と似てるからさ、育った環境が・・・」
えっ・・・私は小さな声とともに目線をあげる。彼の目は真っすぐ私を見ていて嘘じゃないことが何となく伝わる、伝わってくる空気が人間味のある生ぬるさで広がる。
「ライターになりたい、いつかウェディングの記事を書くことが私の夢・・・」
私は彼の瞳を見て言うことはあまりにも恥ずかしくて目をそらしてしまう。ありのままの私、繕っていない自然体のままの私を見せることは今も昔も慣れない。昔は前髪で、今はメイクで私を隠している。私は隠すことから逃げられない。なのに言葉にしてしまったのは、綺麗な洸の瞳が眩しすぎて何かを話さなければその光に飲み込まれてしまうと思ったからだ。私はまだその心の声を聞きたくはなかった。気づいてしまったら引き返せないことを私は本能で悟っている。女の勘と言うのは冴えているというのはきっとこういうことだと自己解決させてみる。
「カッコイイじゃん」
彼はものすごい勢いで声を出している。そして立って前のべりになったかと思ったら、私の頭をくしゃくしゃとした。
「ちょ、髪が、崩れる」
そんな私の言葉とは裏腹に、「うん、偉い、かっこいい」とビールを片手に彼は頷いている。
「文系か?」
「うん」
私は第1志望の高校の名前をあげてちょっとまってて、と言った後勢いよく部屋に上がる。私は今まで書いたライターの仕事のデータを彼に渡す。
私はものすごく単純らしい。ただ彼の笑顔が心の底から嬉しくて褒められている子犬のようにしっぽを振って走っていた。わくわくした気持ちが抑えられなくて今すぐなでてと言わんばかりの甘ったるい笑顔で彼と向き合う。
「これ、今まで私が書いたネットで書いてた記事。」
USBメモリーを彼に私は渡す。
「そんなこともしてたのか?」
彼は本日二回目の目が点を私に向ける。
彼は私のメモリーカードを受け取ったとき私を軽く引っ張って抱きしめた。
「偉い、自慢の妹だ・・・」
彼の言葉はあまりにも自然で自分が彼の妹なのかと錯覚するが、私が家族の愛に飢えていることを彼は知っているからこそ、親友でも、恋人でもない名前のない私達の関係に兄妹と言う名前を付けた。あんなにも家族というものに憧れていたはずなのに、彼の言葉から兄妹だと言われると胸がチクリするのはなんでなんだろうか・・・。それでも抱きしめられると伝わってくる温かさや、彼の優しい香り、そして彼の香りに混じって、私と同じ柔軟剤の香りがすることが嬉しくて、安心する。思いっきり力が抜け落ちる。最近、テスト勉強で寝不足だった私は一気に力が抜けて動けなくなる。誰かに甘えるということは作ることと自然にやること2つの選択肢がある。作って甘えるというのは思っている以上に精神力が使われて、緊張というアンテナを常に張って演技をしてチャンスをものにしなくてはならない。それは1種のサバイバルだ。でも後者は違う、それは力が抜け落ちるほど安心することだ。
そんな私を洸はお姫様抱っこする形で部屋まで連れて行ってくれた。
私はありがとうと言ってその日はそのまま眠った。彼が私の机で何かを見つめていることにすら気づかないほど私はすぐに深い眠りについた。私は朝6時前目を覚ました。あたりはまだ暗い。電気をつけて椅子にかかっているカーディガンを羽織ろうとしたとき見慣れない文字が目に入った。
【三者面談のお知らせ】
第一希望日 12月22日(金)
第二希望日 12月23日(土)
備考欄 両親が忙しい為兄がうかがいます。
私はその文字を見て嬉しかった。楽しみな三者面談は生まれてきて初めだ。
「洸・・・」
私は洸の眠る寝室に急ぐ。
「愛那・・・、どうした?」
彼の眠そうな顔を少しでも眺めていたかった。彼の自然な顔だから。だから私は思いっきり布団に入り込んで至近距離で洸の顔を見つめる。寝起きの私はすっぴんだ。
「ありがとう」
私は三者面談の紙を洸に見せながらそう言った。
その日私は生まれて初めてのキスをした。
【拳銃から飛び出した愛は危険な香り】
糸原さんとのランチの日を迎えた。
失恋の味を知ったあの日から2週間がたった土曜日が糸原さんとランチの日だった。
「えっー、愛那ちゃんの後に来たカップルの男浮気してる最低野郎だったの?」
私達は待ち合わせして、メールのやり取りで決めていたカフェについてメニューを注文した後、糸原さんが「メイク戻したんだ」の一言で私の失恋の香水の味は苦味だけが胃で消化することが出来ずに逆流したかのように舌をざらつかせた。
「はい・・・、しかも彼女が同じ研究室の先輩なんです。」
「何それ!最低だな」
糸原さんは左手に光らせる指輪が当たることもお構いなしに、思いっきり上下に振って怒りを表現している。そんな感じの姿がきっと可愛くて糸原さんの旦那さんはプロポーズしたんだろうなとか考えてしまう。私はそんな恋ができる日が来るのかな・・・。
料理が運ばれてくると糸原さんはさっきまでの怒りの顔じゃなく、可愛らしい温かい顔に戻る。でもすぐナイフとフォークに手が伸びないのはこれはあくまでもカメラの指導だということを忘れてはならないからだろう、変なところが律儀で糸原さんは面白い。
「パンケーキは可愛いでしょ?だから下には白のランチマットとかを引いて、真上からとるのがおすすめ」
彼女が撮った写真は現像していない、機械の中で表示される小さなモニターの中でもはっきりわかるほど可愛らしさとおいしさが伝わる1枚だった。ずっと、斜め上からとっていた私からすると意外で挑戦してみる。するとパンケーキだけが映るその写真はそのパンケーキの可愛さとおいしさをリアルなものにさせるダイナミックさがあった。斜めからとると、お店の可愛らしいインテリアが混ざりこんでどうしてもパンケーキの可愛らしさとおいしさが半減してしまう。
「うん、いいかんじ、じゃあ食べようか」
とナイフとフォークを渡されて私たちは「いただきまーす」と口をそろえる。
おいしいとほっぺを抑えて私たちは微笑みあった。おいしいだけで会話が続くのは3回目までだと私は思う。どんな話を振ろうかと考えていると、糸原さんから話題を提供してくれた。
「お兄さんは、まだ海外なの?」
「あっ、はい・・・」
私には血のつながった兄弟は居ないが兄替わりをしてくれる男がいる、洸だ。
でも彼は私の大学受験合格と共に海外の病院に転勤になった。私はそれを機に1人暮らしを始めた。糸原さんが洸のことを知っているのは1人暮らしを始めてすぐの頃、2人の生活に慣れきっていた私は洸のいない生活にな寂しくて耐えられそうにない日々を送っていた。その状況化は洸も同じだった。でも女と男の脳の仕組みは大々的に大きく違う。
女はなれない生活に寂しさを覚え、誰かを求める性質がある。
それに対して、男はなれない生活に忙しさを覚えて、連絡を取るという行為が億劫になる。洸からの連絡はほとんどなくなった。
連絡をとっても時差があって2日に一回のペース、寂しくてたまらなかった。時差の勉強なんて中学生ぶりだけれどインターネットから計算式を探し出して数字を当てはめていくことを夜な夜なやってみてはもう少ししたら仕事の休憩時間かもしれないとかそろそろ家につくかなとか洸の生活を想像して連絡をまつ私はスマホを握りしめていた。でも連絡がこなくて絶望すら味わって「洸なんて大っ嫌い」と1人暮らしの部屋で、スマホを投げて叫んでみたりした。でもなにも変わらない、そのことが頭で分かっているから私がスマホを投げつけるのはいつだってクッション性のあるベッドの上なのだ。
そんなとき私は糸原さんと出会った。糸原さんは洸以外で私の両親のことを知っている人だ。そんな私を結婚ほやほやな夫婦なのに私をよく家に泊めてくれた。
「子供が私たちなかなかできなくてね、愛那ちゃんが可愛くて仕方ないの」
私はもう20歳を目前にしていたけれど30代の糸原さん家族にしたら妹と娘の間の感覚なのかもしれないと思いながらよく甘えさせてもらった。そんな中洸も私も1人暮らしになれて連絡は1日に2回ペースであと少しで21歳になる今も変わらず続いている。でも、それは、『おはよう』、『おやすみ』のやり取りと天気を言い合うだけで寂しいのには変わらない、だから私は大学入っても恋愛に溺れるのかなんて洸のせいにしてみたりもした。
「お兄ちゃんも大変ね、でも海外の方がお金もいいし、スキルも上がるからってことなんだろうね、寂しいけどもう少しの辛抱ね。いつでも遊びに来て」
糸原さんとそんな話をしてたまに、「なんの話したの?」と聞かれたら答えられないそんなたわいもない話をはさみながら、
「また遊びに来てね、お店にも家にも」
「ごちそうさまでした、はい、ありがとうございます」
と言って別れた。
その帰り道美夏からメールを受信した。
「愛那のあの例の男彼女と別れたらしいよ」
美夏はどこからそんな情報を手に入れたのだろう、学年もゼミも彼女は違うのに・・・。
そんな他人事のような言葉しか浮かばなくて
なんて返信したらいいか分からなくてとりあえず、『そうなんだ』と返して、スマホのお休みモードにして、メールの通知を気づかないようにした。でも美夏はそんな報告をしたかったから私にメールしてきたわけじゃないことに気づいたのは次の日の朝だった。
私は、いつも通り学校の最寄り駅のエスカレータに近いホームの場所で電車を待っていたとき勢いよく私の方に現れた女性に思いっきり肩と肩がぶつかる。
「すみませ・・・」
目の前にいたのは先輩の彼女・・・いや元カノだった。ぶつかった勢いで落ちた私の書いたライターの記事のコピーと今日ゼミで使うはずだった書類全てがホームに広がり電車の車両に落ちる。
「ああー落ちちゃったね、今日使う資料どうすんの?」
そういいながら、ホームに広がった記事を彼女は思いっきり踏みつけた。
「大丈夫?」
近くにいたサラリーマンが私のプリントをもって手を差し伸べてくれる。その手を掴もうと思ったとき
「ごめーん、愛那ちゃん」
サラリーマンと私の手をほぼ無理やり結ばせない、そんな意地が見え隠れする。往生偽の悪さというのは女の口紅のようなものだ。ある一定の年齢に入り、異性を意識する年頃になると環境が大きく変わっても、どんなに大きな失敗をして反省してもでもどうしても手放せない口紅のように、艶やかに出る嘘と共に、色を変えても存在してしまう。
『いかないで』
私はサラリーマンに伸ばした手を元カノの夕菜に掴まれて私と夕菜はふたりきりになった。もちろん、そこには電車を沢山待つ大人たちがいるが迷惑そうにただ見つめるだけ、騒がしい、憂鬱な朝は鬱陶しい子供の遊びには付き合ってはくれないらしく、スマホと新聞に多くの者は目をやって私たちの存在はないことにしている。
『だれか・・・』
「可愛いからって調子乗んじゃねーぞ」
夕菜は耳元でそうつぶやいて、書類を破り捨てていった。
電車の到着した今、ドアが開くと共にこんなことが起こっていることを知らない多くの乗客達は書類を邪魔そうに睨んで踏んでいく。
「邪魔だ」
私は思いっきり、頭をけられる。心のない言葉と言動が私の心を凍らせていく。でもなぜか痛みなんか感じなかった。
『どうして?恋をして幸せになれる人もいれば振られるどころかどん底に落とされる子もいる、どうしてこの世界はこんなにも、こんなにも不平等なのだろうか・・・』
私はとりあえず拾える書類は全て拾ってごみ箱に捨てて、家に帰るために来た道をそのまま帰る。サラリーマンのおじさんも、OLの女性も乱れに乱れた私を思うことだろう、「可哀そうな子だ」と。私に起こったことを彼らはどこまで知っていて、どんな感情で見ていたのだろう・・・。
『洸・・・私は約束を破りそうだ・・・』
私はもう耐えられなくて駅の改札で思いっきり叫んだ、泣き崩れるそんな言葉で表現しても伝わらないくらいの勢いで私は倒れこんだ。
「ああああぁあああああああああああーー!!!」
「お客様?」
そんな声と痛い視線が思いっきり私の体中を包み込んでいく。
「愛那・・・」
そんな落胆な声が聞こえる。
『私の人生終った』
その言葉が私の心にカタカタと刻まれて、エンターキーが押された。
その時何もかもがフラッシュバックする。
「あんたなんて、知らない子よ」
「お前はどこか行ってろ」
「邪魔なんだよ」
「あの子がいなければ、結婚できたのに」
「生きてなきゃよかったのに」
「可愛いからって調子乗んな」
『なんでだ、なんなんだ、私が何をしたんだよ、私がなにをしたんだよ』
私は頭を思いっきり抱え込む。聞きたくもない、思い出したくもない声が聞こえる。
母親の色っぽくて、罠をかけるかのようないやらしい声で2階の寝室から鳴り響く女が女になる瞬間の声、それからは想像もできないほどの気性の荒い声とともに放った言葉
「あんたなんて、いなきゃよかったのにね」
寝室から鳴り響く喘ぎ声を遮る父親の声と浮気相手の男の討論、それを泣きながら叫ぶ色っぽい声、この声の主はどこまでを快感だと思っているのだろうか。2人の男が自分で言い争うということをシナリオで描いていたのだろうか・・・そんな大人たちをただ見つめた。心の中であざ笑っていた。そんな私に気づいた見たこともない浮気相手はこう私に言った。
「気味悪い子供だ」
そして母親が続ける
「あんたさえ生まれてこなかったら・・・」
そんな両親が離婚して、父親が週に1回帰ってきたとき、赤のピンヒールを履いた若い女がこういった
「あんたがいなかったら、結婚できたのに」
『私は・・・私は何のために生きているんだ・・・死にたい、私が死んでも誰も・・悲しんでなんかくれない、こんな世界なくなればいい。もうなんで私はこんなにもこんなにも・・・1人なんだ・・・迎えに来てよ』
遠くの方で「担架持ってこい、急げ」そんな大人たちの声が聞こえる。そのとき1枚の断片が記憶から思いっきり引っ張られてきた。
「嫌だよ、痛いことはしたくない。あああああああああああああああああ」
1人の少年が、根性焼のごとく煙草を突き当てられ、背中に当てられている。そこから出る煙も音も煙草の吸い殻の墨も鮮明に見える・・・あの少年は・・・。
目が覚める。
見慣れた景色、私の部屋だ。でも違和感があるのは点滴が私の腕に刺さって栄養を与えているらしく、私生活感あふれる実家の私の部屋は点滴のせいで生活感がまるでなくなっていた。そしてドアが開く。
「愛那・・・」
洸がそこにはいた。部屋着でグレー1色に包まれた彼の体はひょろっとしている。
「私・・・」
「無理するな、ごめんな自分のことでいっぱい、いっぱいだった、日本のチームでやり続けていれば・・・俺がついていれば」
「洸・・・ちゃん・・・」
彼は、大きく目を見開いて、思い出しちゃったか?と私に言った。私は「うん」と静かにうなずく。彼は私を思いっきり抱きしめた。「お前は1人じゃない、お前は俺を助けてくれた、お前がいるから今の俺は居るんだ。」
そして静かに彼は息を吸って
「愛那、好きだよ」
そう私のことを抱きしめながら心臓の音が聞こえるこの静寂したこの部屋で彼は優しく、落ち着いた声で私に言った。
でも私はその抱きしめられる温かさに恐怖を覚えていた。
【艶やかな声は口紅から】
2016年03.19洸は海外へ行った。
『着いたよ』
そんなlineが来たのは次の日のお昼だった。時差は約12時間、洸は本当に遠くに行ってしまったのだと実感したのはその日の夜だった。
「ごめんね、メールで今すぐ来いって呼び出されちゃった」
と一方的に切られた電話、蒼い地球の島国は23時だ、こんな遅くに夜勤明けに呼び出されることはきっとない、でも向こうはもう休憩時間が終わる、お昼なのだと実感したときなぜか自然に涙が滴った。泣いてることに気づいたのはだいぶ後だった。そして涙に気づいて私は傷ついていることに気づく。この感情はなんなのだろう・・・。
私はどうしたらいいか分からなくなった。だからといってどこかに出かけて気分転換しようとも思えなかった。ただ時間が流れているだけで、ただ呼吸しているだけ、私は抜け殻に等しかった。ただ1つ抜け殻と違うとしたら、生ぬるい涙の奥には恋心を隠しているということだけだ。でも私はこの恋心の終着点が分からなくて、私は愛に貪欲になった。この時から分かっていたはずなのだ、私は洸を欲しすぎているから、彼からの愛の形意外どんな愛の形も受け付けることが出来ないことを、それでも残酷までに時間は流れていくから、私は洸への恋心を胸の奥の方に閉じ込めて窮屈そうに恋心は毎日泣いていたことを私は気づかないフリをしてどおってことなく、毎日を過ごしていると言ってみせた。そして私は毎日の生活に戻った。そんなある日、美夏とお昼ご飯を食べていると隣の席に座った女子学生たちの女子トークがさく裂していることに気づいて美夏の会話よりその会話が気になって仕方なかった。
「今までの彼氏の中で今の彼氏は断トツいいかも♡」
頭の中で復唱された女子学生の言葉に私は思わず♡をつけてしまった。それくらい彼女の声はピンク色でケーキのような柔らかさと甘さがあった。
彼女は私に似ている。この世界で一番自分が可愛いと思っている。自分が一番大好きで、自分を愛している。愛しているからこそ人目を気にせず言える愛の言葉の数々、清々しいほどの可愛いでしょ?アピール、きっと彼女は自分で自分にあげている愛以上の愛を他人からもらったことがない。お金を自分にかけすぎて理想をさらに高くしていく、それでもその理想の人は来ることはない。彼女は1度傷つかないといけない。傷つかなければ自分の欠点を見つけることが出来ない。誰よりも完璧な自分、自撮りの中の可愛く盛られた自分しか彼女は見ていないからそんな自分を自分自身だと思い込んでいる。でも人間はそんな完璧じゃないからこそ輝けるし、人に愛を渡すことが出来るのだ。彼女は愛に似た何かを愛と勘違いし、愛を受け取ったことも渡したこともない。私もきっとそんな感じなんだろうと思う。
「愛那?」
美夏は私を見て心配そうに見つめていた。
「ごめん、まだ学校に慣れてなくて、授業のこととか、いろいろ考え事してた。」
美夏は「慣れないよね・・・、高校と大学は本当に全然違うんだもん」と話を合わせてくれた、しかしまたすぐに「愛那?熱でもあるんじゃない?ものすごく顔色悪いよ?」と私を心配する疑問形をぶつけた。
「なんか、疲れてるのかな・・・体がだるい」
私は笑って見せてみたけど、顔が笑っていないのに自分でも気づく。でもまだであったばかりの私と美夏の関係じゃここまでの探り合いがきっと限度だ、「早く治ればいいけど、無理しちゃだめだよ」美夏は私にそう言ってご飯を完食していた。私は食力がなくて半分残して、席を立った。
誰かに「大丈夫?」と心配されると、変に意識して、さらに体調が悪くなってしまう私は午後の授業がものすごく辛くて憂鬱だった。
この世界はどうしてもう少し誰もが生きやすい世界にはしてくれなかったのだろう。
どうしてもう少し愛というものを学生でも理解できる言葉で説明をしてくれないのだろう。
『そのものの価値を認め強く引きつけられる気持ち』
なんていう難しくて、堅苦しい文章でしか愛をかけないのだろうか、説明できないのだろうか・・・バカな私にも分かるようにもう少し簡単な言葉で説明はしてくれないのだろうか。そうでなければ彼が遠のいていく形を愛と呼ぶと私は勘違いで生まれた間違えの辞書を作ってしまう。でも、もしそんな辞書を作ったとしても誰も何も言わない。傷つくのは私だけだから、みんな知らん顔するだけだ。
この世界は目には見えない物を大切だという割にそのやり方を誰も教えてはくれない。それはどうしてなのだろうか・・・。どうして人はそれでも、何かを学ぼうとしてそして、大切だという目に見えない何かをも手に入れようとする貪欲な生き物なのだろう。そしてそれらを持たなければ何故、負け組だと思うのだろうか、呼吸をしているだけでも、自然を綺麗だと思えるはずなのに、生きているだけではどうしていられないのだろう。人間はこうしてまで何かを得ようと必死になるのだろう。私はもうスタートを遅れてしまった負け組らしいということを最近知った。
みんながもっとゆっくり歩いてくれればいいのにどうしてみんなは走りたがるのだろう、どうしてみんな大人になりたがるのだろう、どうしてみんなはそんなに幸せなのだろう・・・。
どうやって生きるのがこの世界を楽に生きるやり方なのかな・・・?
そんな方程式があったらメイクもネイルもパーマも何もいらない、方程式の通りに数字となるパーツを当てはめていくだけでいい。
そうなってしまったらきっと人はまたつまらないと嘆く、本当にわがままでめんどくさい生き物だ。
ノートの上に羅列されていた言葉は教科書に書かれている言葉でも、先生の訳の分からない呪文でも、スクリーンに映る暗号でもなく、誰かに向けた愛の告白の手紙だ。私の心を箇条書きされたそんな手紙は可愛らしさのかけらもない。それでもきっとこの言葉たちが心の本音だ。
毎日、どんなに眠くても1言でいい私のことを「好き」だと言ってほしい。
会える日は私に会いに来てほしい、愛を心にそそぐっために、私の体があなたのものだと証明するために・・・
連絡はまめにしてほしい。時差なんて関係ない、愛さえあればきっとこの世界は便利な世の中だから堅苦しい文字の中に優しさの象徴愛を見つけ出すことが出来るはず。
強がらないでほしい、私への素直な言葉をぶつけて、もったいぶらないで私以上に私を愛して。
あなたへの愛を重いなんて言わないで、あなたもそのくらい私のことを愛してくれればいいの。
私は、高いアクセサリーなんていらない。私はただあなたからのメッセージを1文でも多く読みたい、あなたの声を1分でも長く聞きたい、私はあなたのぬくもりを永遠に私のものにしたいだけだ。それだけだ。
私の思いが汚い字で羅列されている。私の思いはどこまでも愛に飢えていて、貪欲で洸の色を求めていた。彼は私へのこの思いにあまりにも気づいてなさ過ぎて、または見て見ぬふりをして私を悲しませる。彼の言葉は優しすぎて私を傷つける。
「愛那?」
「愛那ちゃん?」
私の名前を呼ぶ美夏と裕也・・・。
「きゃあああああああああああああ」
私は授業が終わって、3人しかいなくなったこの教室で盛大に叫んだ。
私の甲高く、霞んでいる声が3人には広すぎるこの教室に鳴り響く。
「近い!」
裕也の顔が近くて私は叫び声とともに思いっきり裕也の顔をたたく。
「お前が俺の腕を引いてたんだろ?、なんなんだよ」
裕也の手を私が握っていただろうぐーの形をした私の左手を私は隠す。
「ごめん」
「痛かったから、今日メロンソーダ奢れ」
「あんた、ホントにすごいよね」
この誉め言葉は引っ張たいた私ではなく叩かれた裕也に美夏が言った偽の誉め言葉だ。
「なんでだよ?」
「いや、この学校のアイドルだよ?愛那はまだこの大学入って2か月も経ってないのに4人ものヤリたいだけの男から告られてんのよ?そんな女の子を軽々デートに誘ったら殺されるわよ?主に髪色明るくしていればイケてる大学生だと思ってる、要領がいいことだけが取り柄の集団に」
「いや、殴られてんだからこれはデートじゃないだろ?それに俺は愛那よりも、麗華ちゃん派なんだよ、可愛い子犬とかうさぎには興味はねーよ、ツーンとした冷酷さの中にある甘え、そんな猫に俺はしごかれたいんだよ」
「あんた、ものすごく気持ちわるいわよ?」
美夏の引いた言葉が教室を張り詰めていたとき私はふと言葉になってしまった。
「私って、寂しがり屋のうさぎ?」
裕也の顔ならこんなにも素直に見つめられるのに・・・毎日見ることが出来るのに、どおうして彼は遠くにいるのだろう・・・。
「あっ、いや、そんなに深く考えていったわけじゃねえっつか・・・」
私は裕也に顔を近づける。ただジーとみる。
「なんだよ?」
「ねえ?キスしてみて?」
「は?」、「愛那・・・?」
裕也の声と美夏の声が同時に聞こえてくる。
でもそんなの関係ない、私は洸がキスしてくれた時のような、孤独とか、寂しさとか、悲しさとかそんなものをなかったようにする煙草のような、1度したら手放せなくなる恋の味を味わいたかった。ただそれだけだ。
「キスをしたら、忘れられるの。全部・・・お願い、して?」
「愛那落ち着け、悪かった、俺が悪かった奢りもなくていい、麗華ちゃんよりお前の方が可愛い、だから落ち着け」
裕也はそういいながら私の肩を掴み、力を加えているから私は身動きが取れない。男と女の力の差が分かる。私はやはり女の子なんだなと当たり前のことを思ったりしてみた。
「愛那、何があったかは分からないけど落ち着いて?こういうのはちゃんと考えなきゃだめだよ?話は聞くから・・・」
「話を聞いてくれるだけじゃダメなの、もう私の心はここにはないんだもん。ここにある偽物の心を満たしてくれないと私はただの抜け殻になっちゃう」
私は立ち上がる。
「ごめんね、帰るね・・・」
私はその日の帰り道、ナンパしてきた若い男とキスをした。お酒や煙草では満たすことのできない心の奥の部分を私はその日の夜抱きしめて、ただ大胆に、思うがままにかき乱して叫んだ。遊びの夜は続いても平等に朝はきてしまう。まだ青さもない無名の白さを保っている空を横目に私は彼の上に座りながら背中をそって喘いだ。艶やかな母親の声が私の霞んだ声に重ねて鳴り響くかのようにそこには真っ赤な口紅から始まる、女の巧みな技と演技が盛り込まれていく。私は快感の隣には侘しさがあることを学んだ。この関係には寂しさを消してくれる何かが足りなかった。男と女の快感が生み出す演奏はあまりにも朝には不釣り合いで、その場限りの快感と気持ちよさがあった。その間だけは忘れることが出来た。でもきっとそれは本当の幸せを忘れていることとイコールなのだ。洸のキスの味はきっと本当の幸せだ、そこには尊さと共に美しさまでが混ざりこんだ愛という苦しみを含んでいる。会いたくても会えないもどかしさ、サプライズのない誕生日、大好きがなくなったメール、すべてが苦しみで、でも言ってくれた言葉、くれたぬくもりが忘れられなくてくるしくて、苦しくて、苦しいのに私は洸を求め続けている。私はその幸せが幸せすぎて忘れたかった、夜の男と女の時間は頭ではなく体で感じるだけの本能だけだから本当の恋のキスの味を忘れられる。だから快感なのだ。
本当の恋以上の中毒性ここにはきっとない。
それを分かっていて、刺激と歪んだ愛を求めてしまうのが女というものなのかもしれない。いや、母親の血が混ざった私の体と心が遺伝的に求めている行動なのかもしれない。
そのホテルから学校へ向かうまでの間私はものすごく苦しかった。贅沢な悩みだ、自分で選んだはずの道を後悔するなんて本当に・・・、贅沢だ。
「愛那ちゃん、あの男誰?」
手を知らない男に振っていたところ裕也は見ていたらしい。
「知らない」
「お前、何でそんなあぶ・・・」
私は裕也の言葉を遮った、説教はもう散々だ。自分で一番わかっている。でも裕也にそれを言われたら、誰かのせいにしてまたさらに自分が嫌いになりそうで、だから私は叫んだ。
「危ないことっていうな、そうでもしないと辛いんだよ、わけわかんないんだよ。私は・・・」
私は無性に泣き出したくなる。涙は女の最大の武器だ。それを分かっていて私は裕也に涙を向けるのだろうか?私は今、なにを思っているのだろう。どんなときでも頭は多くのことを考えすぎて感情を考えるのは心が叫んだあとだ。突発的に出てしまう言葉は心の声だ、でもその言葉はあまりにも心がなくて、後悔する。どうしてもっと効率的に脳というのは動いてはくれないのだろう・・・
「ごめん、俺が悪かった今日お前は帰れ、家まで送ってやる」
裕也はもう私の顔を見ない。彼は私を抱きしめてはくれない。彼はきっと私なんかよりずっと頭がいい。
彼は恋人になるのではなく友人を選んだ。その選択は愛だ。恋人になってしまったら1度生まれた溝を埋めるのは難しい、でも友人と言うのは案外できるものだ、溝を少しずつ埋めるという作業を・・・。彼は彼なりの愛を私にくれていたのに、私は簡単にそのルールを破る。分かっていたはずなのに私はあまりにも自分の欲に勝てなかった。いつ洸に私の気持ちを伝えられるんだろうと考えては寂しくなる。もう耐えられないのだ、私は誰かと重すぎるこの恋心をはんぶんこしあいたかった。
家までの帰り道私たちは1言も話すことがなかった。ただ無言を貫いた。
彼は忠実に友達、親友というポジションを変えることはなかった。手をつなぐことも、混んでいる電車の中で差し伸べる優しさもなくただ私の横にいてくれるというそのずるいくらいに彼は私を見ていながら、見ていないフリをした。
電車を降りても、私たちの無言はそのまま続いた。
アパートに着いたとき、
「じゃあな」
彼は素っ気なく私に背を向けた。
「まって」
私はとっさに声が出る。やっぱり脳と心だと心が先走ってしまうらしい。私は背を向けた彼を後ろから思いっきり抱きしめた。
「愛那、本当にお前」
「こっちを見ないで」
私は彼の言葉を思いっきり遮ってみた。この涙は演技だ、分かっている、何もかもこの舞台の終着点を分かっている、それでも流してしまうのは女の子は魔性でそのために可愛いを作っているからだと言い訳していなければ後悔だらけの道のりを自分で見つめなくてはならなくなる。私は私が1番好きだから、そんなことをすることが恐怖なのだ。わたしにその選択をする考えはそもそもないのだから私は始まってしまったこの舞台を最後まで演じなくてはならない。
「愛那・・・、なんで泣くんだよ・・・」
彼は私を優しく抱きしめる。朝の忙しい時間私たちは学生を十分に感じた。
ごみを捨てに来る奥さん、嫌々ながら会社に向かうサラリーマン、仕事終わりのキャバ嬢、私たちを羨ましそうに眺める。大人で大人じゃない私たちを、ただ迷惑そうにでも羨ましそうに眺めてその視線を十分に感じた。痛くて、痛くて、痛い視線を味わいながら私の部屋まで2人で向かう。
「愛那、もう俺らは親友に戻れない・・・」
その覚悟を大人になり切れていない私たちはどこまでできていただろうか。私達はキスから始まる男と女の物語を、遊びだと思っていなかっただろうか・・・
そんなことも分からなくなるくらい私たちは大人になるということを間違って進んでいた。
そして私たちは次の日から親友ではなくなった。でも恋人でもなかった。私達はもう会話が成立しなくなった、私たちの関係は言葉では繋がれなくて、それ以上を私たちは求めるようになった。意味をなさないキスを、口紅で赤く染まった唇を彼の唇に重ね合わせた。
もう私は、このとき洸を忘れていた・・・。
【拳銃はナイフだった】
「お前は勉強だけしてればいいんだよ」
酒臭い男が1人の少年を蹴飛ばした。そして、その後、鉛筆とノートを思いっきり少年に投げつけて酒の瓶を机に当てて割った。
1年前
洸の母親は死んだ。美しくて心の綺麗な彼女にこの家族は頼りすぎていて、母親は美しすぎる瞳に嘘を隠し続けていたと今、洸は当時を振り返る。母親はこうなることをどこまで想定していたのだろうか・・・?
洸の父親は会社役員でそれなりに安定していたサラリーマンだった。でも妻がなくなった瞬間人が変わった。30代の男にとって、病気とはいえ子供置いて旅立った妻を心から憎んだ。彼はそんな彼女の面影を消そうと心を魔物に売っていった。
知らない女と、毎晩寝ては母親の優しすぎる声を消していった。
俺のことを叱っては、母親に似ている俺の存在も消していった・・・。
その行動はエスカレートしていく、母親と同じ位置にあるほくろが気に入らないと、10代入ると背中のほくろを煙草で焼かれるようになった。あの日もそうだった。
あの日
愛那が家に来たときだった。どうしてこの母親が、6歳になったばかりの愛那を浮気相手の男の家に連れてきたのかは分からない。本当に趣味の悪い男女だと思った。しかし6歳という幼くても周りを理解することのできる年になった愛那と出会えたことは俺にとって何もかもが変わった瞬間だった。
愛那は俺が11歳のとき、彼女が2歳の時も1度来ていた。本当に趣味の悪い親父とばーさんだと思った。あの時はただ怖かった、喘ぐ男女の奇声も、煙草の匂いも、親父の手も、女の笑い声も・・・。それでもこの家を出れなかったのは、母親の匂いがあるのはこの家だけだったからだ。何度もその匂いを捨てようとはしても、このくそみたいな家に帰ってきては後悔をする。でも親父と同じ背丈になったとき俺は何も怖くなくなった。痛みも笑って耐えるようになった。
2人が喘ぎ始めた声を俺は教科書片手に聞いていた、俺はもう慣れてしまった。
肩を焼かれることも、ぶたれることも何もかも慣れてしまった。でも6歳の愛那はクマのぬいぐるみを両足の間に入れて、耳を思いっきり抑えて泣いていた。その姿がうっとおしくて愛おしかった。あの頃の俺は壊れていた。1度彼女を、幼き彼女を思いっきり犯したくなって、殺したくなった。自分より弱い立場の少女を俺はただ、ただ苦しめて快感を得たかった。
「なんで泣いてるの?」
俺は優しく問いかける。
「この後私は必ず、いらない子だって言われるもん」
彼女はまだ母親を愛してた。愛しているから涙が出せる。愛と言うのは飴と鞭、いじめた後のお菓子を彼女は愛だと勘違いしている。こういう子供たちのあるある、俺も昔はそうだった。
「おいで?」
俺は手を広げて見せた。そのとき彼女は言った。
「お菓子も、お金も何もない、だからいけない」
と、俺は惨めになった。そして彼女があまりにも現実を見ていることに圧巻させられた。彼女は自分が愛されていないことを分かっていて分かり切ったうえで待っているのだ、母親が自分に愛をくれる瞬間を・・・。
彼女は弱くなんてないことに気づいたとき、俺は思いっきり親父を殴っていた。15歳の俺は40歳になった男より明らかに力があった。
「俺はもうあんたの言いなりにはなんねー」
裸の男に思いっきり唾を投げつけたとき、愛那の母親よりも若くて綺麗な女を若さだけで抱いたいつかの夜よりも、快感だった。映画の中の主人公になったような、そんな快感だ。
「この子から、人生を奪うな。」
俺は愛那の母親を思いっきりにらんで言った。
「ちょ、その子に何をするの?」
「なに?あんたがそんなことを言えるわけ?俺のこと責められるの?」
俺はナイフを愛那に突きつけて裸体の男と女をあざ笑ってみた。
愛那を守る方法をこの方法以外若すぎた俺には分からなかった。
「あなた、これ以上言ったら警察呼ぶわよ」
艶やかしいくらい女の声を漂わせた女が俺に言った。
「いいよ?でも後悔するのはあんたらなんじぁないの?俺の背中の痕、この子の腫れた目それぜーんぶ、証拠なんだよ?頭の悪い親父でも分かるよね?そうなったら俺なんかよりヤバいんじゃないの?そこにいるおばさんも、快感味わえないもんね、まあ俺には関係ないけど・・・。」
愛那はこのナイフの冷たさをどう感じていたんだろうか、彼女は最初から最後まで黙っていた。そして彼女の家に帰るとき、彼女はこう言った。
「お母さんは悪い人、お父さんも悪い人、それを見てる私はもっと悪い人」
こういう子供は誰もが見て見ぬふりをして、守ってはもらえない。その代わり嫌な噂だけが彼女に付きまとう。
「君は、悪くない、悪いのは俺だ」
俺は自分を自分で否定しなければやってられなかった。1度でも俺と同じ人生を歩もうとしている幼き少女を犯したいと思った俺を俺は責めずにいられなかった。この状況をすべて俺のせいにしてしまえば片付くのであればそうしておきたかった。
「悪くない、洸ちゃんはあったかい」
彼女は小さな手を俺の汚い手に重ねていた、でも到底俺の手は覆えないくらい彼女の手は小さかった。それでも彼女は両手を必須に大きくパーにして俺の片手を包もうと必死に俺の手を見ている。母親か父親か分からないけど殴られて腫れたのであろう右目を必死に見開いて試行錯誤している。俺は胸が熱くなって涙が流れた。どんな傷よりも痛かった。優しさと言うものは、愛というものはものすごく痛くて、熱くて、それを涙で表現するものらしい。
それでも彼女は笑っていた。その時刻んだのだ、例え母親との思い出を失ってでもこの子だけは守ろうと、この子だけは助けてあげなくては俺は生きている意味がないと・・・。
「すみません、親父が奥さんを家に連れ込んで・・・」
俺は殴られる覚悟で頭を下げる、でも目の前にいる愛那の父親は俺をただ見つめた後小さな口で、小さな声で俺に話しかけてきた。
「愛那も一緒に・・・?」
「はい・・・」
俺は素直に思ったことをこの人に言った。俺の言葉が届くなんて思ってない、でも届かなければ愛那は救えない。そのためには何百回だって頭を下げて俺の言葉を届ける努力をしなければならないそう思って俺は素直に言葉を告げる。言葉を選ぶなんてことは俺らしくない。
「こんな幼い子を同じ部屋にいさせるのはなんかできなかったつーか・・・」
俺は紳士そうな顔のいい愛那の父親に敬語とため口の間の言葉で素直な気持ちを言ってみた。
「悪かったね、君にも嫌な思いをさせたね。愛那、お父さんと2人でここに住もう」
そう愛那に愛那の父親は笑いかけていた。
簡単に伝わってしまった。
俺はこの時1つの誤りをすぐに考えるべきだった。
大人の問題にたかが中学生が首を大きく突っ込んで解決させるなんていうドラマは怒らない、そこにはなにかしらの理由があるということを考えるべきだった。
そして1つの疑問にたどり着くべきだった。
愛那の目の傷を知っててなぜあなたは離婚を考えてなかったのですか?と・・・。
【拳銃から飛び出した愛を振り返る】
『私の母親は帰ってきてくれるのかな?』
そんなことを思うことがよくある。
私の母親は不器用でいつでも女で匠の技を持ち合わせていた演技派だと思う。
顔のいいことを武器に、綺麗な体を売りにして父親をだましにだまし込んだ。だましにだまし込んだ挙句私は1発父親に殴られた日私は洸と出会った。そして父親はその日の夜母親の演技の涙にあきれて帰ってこなくなった。あの日私は洸にナイフを突きつけられた。それがすべてでないと心のどこかが訴えている。分かっている、父親が出ていったのも、母親が私を愛してくれなかったこともすべて洸のせいではないということを分かっているでも思い出せないということに甘えて、誰かのせいにしてもっともっと自分を孤独に追いやらなくは、自分を惨めに思えない。惨めはラクだ、惨め以上に可哀そうな子はいない、気持ちを最低ラインに保ってさえいればいいことがものすごい幸せに思えて、嫌なことが起きてもこれ以上の惨めがないのだから辛くない。私は私をもっと追い込んで、誰かのせいで傷ついた悲劇のヒロインを気取りたかった。
私を抱きしめる洸を思いっきり突き飛ばす。
「どうして、あの時私を裏切ったの?あの時どうして私をナイフで脅したの?」
「全部を思い出したわけじゃなかったのか・・・」
洸は悲しい顔を私に向けた。
「全部?、それがすべてじゃん、とぼけないでよ」
「全てじゃないよ」
「罪滅ぼしで、私にお金をくれてるの?だから海外へ行ったの?私とそんなに会いたくない?そんなに殺したいの?で、殺せないんだ、私があなたのお母さんにそっくりだから。」
私はどこまで思い出しているのだろう・・・。私は私でもそんなこと思っていたんだと言葉を放ってから理解していく。
「確かに愛那は俺のかーさんに似てる、そしてそんな俺もかーさんに似ている。」
「じゃあ、もう出ていって。私は1人でも生きていける。」
「できない、俺は兄だから。」
「冗談やめて、私は洸のことを兄なんか思ったことない、それにそれがものすごい重みなの、私は家族なんていらない」
「違う、形の問題じゃない、血液的に俺と愛那は兄妹なんだ。俺と愛那は半分血がつながっている」
私は何も分からなかった。脳がショートする。
「どういうこと?」
こんなに声がかすれてしまうのは、煙草を耐えきれずに、約束を破って裕也と吸ったからだと言いたかった。でもあいにくそうじゃないらしい。
「俺が怖い?」
洸は私に近づいてくる、この胸の鼓動は、もう説明がない、恋でもないし家族愛でもない。でも恐怖でもない、恋にならないもどかしさゆえの何かだ・・・。
「俺は、愛那の父親に会ったとき、あの父親がものすごく驚いた顔と、あまりにも落ち着いた対応、そして素直な謝罪の言葉が忘れられなくて、1つの疑問が浮かんだ」
彼は私を抱きしめながら15歳の自分にタイムスリップしたように話し始めた。鮮やかすぎるくらいに鮮明な説明を・・・。母親が子供に絵本を読み聞かせるように優しく、ただ優しく話しはじめた。あの時を話し始めた・・・。
「ナイフを突きつけたあの日、俺の親父が愛那の母親を家に連れ込んで俺らのいることもお構いなく服を脱ぎ始めた。愛那は7歳でその服の意味を理解していた。俺と似ていた。でも愛那は俺とは違った、愛那はちゃんと理解してた、親からの愛がもらえていないことの現実を、大人だった、子供なのにあまりにも縦社会を知っていた、それがなんか何も言えなくなって俺は親父をぶん殴っていた。それでその足で愛那を送りに行った。そのときはじめて君のお父さんは驚いた顔をした、初めは愛那の右目が腫れていたことの驚きだと思っていた、でもその日の夜愛那の家に俺はもう1度行ったんだ、どうして愛那への母親の暴力を許したんですか?って聞きたくて。でも彼はものすごく気性を荒らして家から出てきた、そして俺はどうしたんすか?って声をかけたとき言ったんだ、俺の名前を・・・」
彼は黙り込んで、抱きしめる形を変える、片手を私の頭にのせて優しくなでながら会話は再開する。
「なんで俺の名前を知ってるんすか?って聞いた、彼は慌てて口元を抑える仕草をしたんだ。」
「口元を抑える仕草・・・」
「そう、愛那は分かるよね?」
私が洸に言った、『口元をお抑えるの癖だね』
その言葉の返答に彼はこう言った、『人って何かを隠したり、嘘を言ったりするとき隠しやすいんだ』あの時は何も分からなかった、彼は何を私に隠しているのか・・・彼はこんなにも大きなことを私に隠していた・・・。
「なんかあるって何となくあの時は思ったんだ、何となくね」
心理学なんてコミュニケーションを1つの学問的に難しい言葉で書いただけなのかもしれない、彼はきっと多くの人とかかわって、いろんな世界に首を突っ込んで知ってしまった、感覚的に心理学を心得ていたのだ。
「そして知ったんだ、俺はあの暴力男の子供じゃない、洸祐と優那の子供だと、あの暴力男は母親優那が死んだときそれを知ったんだ。」
彼は静かに言い切った。もう過去のことだと私に言い聞かせるように・・・。
「俺を昼見たとき、俺にものすごく似てて焦った、その変な緊張感で、聡美に全てを打ち明けてしまった、そして聡美は泣き、愛那はそれを見て泣いた、聡美が仕掛けてきた恋愛の舞台に俺は客としてではなく顔を隠すピエロごとく入り込みすぎた・・・それも全部、お前らのせいだ、お前ら2人が生まれてさえ来なければ、優那がお前を生まなければ、そうあいつは俺に言った。」
洸あまりにも落ち着いた物言いで優しかったから、私は泣き出してしまう。
「そんなのひどい・・・」
私の涙と震える声に洸は驚いて、抱きしめるのをやめて私を至近距離で見つめた。
「ありがとう」
彼は優しい笑顔を私に向けた。
「そのとき、ものすごく悔しくてさ、胸ぐら掴んでこう言ったんだ、愛那から離れろって」
「私・・・」
私は自分の名前が出ることに驚いた、でも彼が口元を抑える仕草をしないで、私を変わらず優しい笑顔で見つめるから嬉しくなる。
「そう、でもあのとき俺は中学生でさ、お金がなくて、すぐには助けられなかった、ごめん、俺のせいで寂しい思いさせた・・・」
私は何もかもどうでもよくて、優しさに包まれた感覚に陥ってものすごく気持ちがよかった。
「言い訳ぽく聞こえるかもしれないけど、海外に言ったのは9年間分のお金をあげたかったんだ・・・。」
「いいよ、信じてあげる。」
やはり脳と言うのは心の速さには追い付けないらしい。
洸は「ありがとう」と言って私を思いっきり抱きしめた。
「もうここから離れない、愛那の隣から離れないよ」
そう彼は言って強く私を抱きしめた、だから私は「うん、私もだよ」と抱きしめた。
【幸せセロリ】
幸せってきっとこういうものだ。
好きだと素直に心から言えることで、愛をしっかりと確かめ合えることだ。
私達は遠回りをして、不器用なりに足掻いてやっと家族を見つけ出せた・・・。
愛は伝えようとしなくては伝わらない、どんなに愛し合っていても、血が繋がっていても愛は伝えようとしなければ伝わらない。
幸せって、セロリみたいに癖があって、合う、合わないがあって、ものすごくはまってしまうものだ。