6話 水無月兄妹の正体と招待
フードコートはお昼時だからか、人が多くとても座れそうになかった。
「ねー、どうするー?」
「んー、近くにファミレスあったよね、そこにするかー。」
外は暑く歩くのもしんどかったが、幸いにもファミレスではすぐに座れた。クーラー効いてていいわー。
「んー、私、ミックスグリルのセットのライスで。」
「私はアスパラのクリームスパゲティね。」
「んー、じゃあ、たらことエビのドリアで。」
「かしこまりました。」
「「「いただきまーす。」」」
「「「ごちそうさまでした。」」」
「ふう、美味しかった。じゃあ、戻ろっか。」
「えーまだ見るのー?」
「そりゃそうよ!まだ見足りないもの!」
「はーい・・・・。」
私達はファミレスを出て、来た道を戻っていた。ふと、道路の向こうを見た。
「あれ?あそこ、敬一先輩と和音ちゃんじゃない?」
「んー?・・・・何してるんだろう?走ってる?」
「私、行ってくるー!」
私は、きせかえ人形にされた鬱憤を晴らすように颯爽と駆け出した。あっ、ちょうど信号青だ!急げー!
「あっ、ちょっと、あまり走らないでよ!」
私は横断歩道を渡り、やや遠くに見える水無月兄妹を追いかける。んー、以外と足速いな、なかなか追い付けないや。あっ路地裏に曲がった。私はギアを上げて更に走る。そして、路地裏の前でスピードを緩め、歩いて路地裏を覗いた。
「ふむん、残念だ。こいつがこんな雑魚だったとは・・。」
そこには、燃えている玉を平然と持つ敬一先輩とその玉を見ている和音ちゃんがいた。そして、先ほどまで火のようなものは外から見えなかったにも関わらず、その路地裏の壁は所々黒く焦げていた。
「も、燃えてる・・・・?」
私はあまりの光景に恐怖を感じ、後ろに下がろうとする。
「ふむん、上白石君か。まさかこんなところで会うとはね。」
その言葉で和音ちゃんも私に気が付いたのか、こちらの方を向く。和音ちゃんはいつも通り無表情のかわいい顔だった。しかし、それがすこし怖く感じた。
「はあ、やっと追い付いた。」
「もう、待ってって言ったのに・・・・!?」
「え、なんで、燃えて・・・・!?」
後から来た2人もここの異常性によって固まっている。
「ふむん、見られたか。まあ仕方ない。君達、すぐにここを離れてもらえるか?今日はまだすることがあるんだ。だから、明日話そう。いいね?」
敬一先輩は笑って言ったが、その目には有無を言わせない、強い力が込められていた。恐怖によって体は震え、足は自然と後ろに下がっていった。やがて、路地裏から出ると、3人で駅まで走った。
私たちは家に着くまで一言も会話をしなかった。
「え、と、また、明日。」
「うん。また、明日ね。」
「また明日。」
私は家に入ると、ただいまと言ってからすぐに部屋に入って座り込んだ。
「こ、怖かった・・・・。」
そして、晩ご飯に呼ばれるまでぼーっとして、風呂に入って寝た。晩ご飯の味はよくわからなかった。
朝、起きてご飯を食べ終わって外に出ると、既に優ちゃんと穂高ちゃんがいた。
「お、おはよう。」
「おはよう・・・・。」
「おはよう・・・・。」
「やあ!おはよう、3人共。迎えに来たぞ。」
「きゃっ。」
私たちの後ろから敬一先輩に呼び掛けられた。振り返ると、敬一先輩が1人で立っていた。先輩は昨日とは違い、とても穏やかな笑顔だった。
「では、私の家で話そう。付いてきてくれ。」
先輩が学校とは反対の方向に歩き出す。私たちは黙って付いていくことしかできなかった。
歩いて15~20分ほど経ったころ、敬一先輩は洋風の高級そうな屋敷の前で止まった。庭も整備が行き届いていてお金が掛かっていることが目に見えて分かった。
「さあ着いたぞ、中に入りたまえ。」
私たちは先輩に続いて屋敷に入る。屋敷の中は埃1つ落ちてなくて、とてもきれいだった。
「おうい、連れてきたぞ。さ、とりあえずリビングへ案内しよう。良い家なんだが、なにぶん、広くてね。迷うことは無いだろうがね。」
私たちは靴を脱いで上がる。こういうところは日本式なんだ・・・・。
「「「おじゃまします。」」」
リビングはとても広く、教室の1.5倍ほどはあった。そして、部屋の真ん中には、学園長室にあったソファと同じものが置いてあった。そして、そのソファに、笑顔の和音ちゃんと見知らぬ高校生と思われる暗い茶髪の爽やかイケメン、そしてその隣に、乃木先生と学園長先生が寄り添って寝ていた。
(なんで先生がここにいるの・・・・?)
そんな疑問が口から出る前に、イケメンの男の人が口を開いた。
「遅かったじゃないか。」
「いや、別に遅くはないだろう?光弘。」
「あ、いや、すまん、1度言ってみたかったんだ。シチュエーションとか違うけど・・・・。ああ、ごめんね、お客さんを放っておいて。まあ、座って。紅茶飲むかい?」
私たちは向かい側に座って、紅茶をもらった。紅茶の味はよく分からなかった。と、その時、今までニコニコと座っていた和音ちゃんが、立ち上がって私の方に来た。
「え、なに?」
そして、そのまま私の上に座った。
「えっあっ・・・・。」
和音ちゃんはとてもいい笑顔だった。かわいい。いい匂いで、柔らかくて、温かくて・・・・。
「あー、和音、そこがいいのか?ふむん、まあ、いいが。」
「あ、先生方、起きてください、話が始まりますよ。」
「んー?ふわぁ。」
「おはようございます。」
「んーああ、おはよう。君達、すまないね。私たちは寝不足でね。」
「おはよー。ん、あら来たのねー。」
先生方が起きる。が、正直私は和音ちゃんのことで頭がいっぱいいっぱいだ。かわいい。
「あー・・・・和音、その、上白石君も困っている。降りてこっちに来てくれるか?」
和音ちゃんは首を横にブンブンと振る。かわいい。腰まで掛かる長い髪が胸や顔に当たる。痛かわいい。
「あー、和音、本当に困って・・・・困ってるの?君。いや、話が進まない。降りてくれ。」
和音ちゃんは頬を膨らませながらしぶしぶ、といった感じて私から降りる。
「あぁ・・・・。」
「んん・・・・!とりあえず、自己紹介からしていくね。僕は武正 光弘だよ。高校1年生で、敬一のクラスメイトだね。で、先生方は・・・・まあ、わかるよね。こっちが乃木 優理先生で、こっちが、学園長の藤田 美月先生だね。で、僕からうちの組織について説明させてもらうね。君達、うちの組織に入るんだよね?」
「ああ、すまないが、あれを見られたからには入ってもらわないと困る。」
「はい、分かりました、でいいのね?」
「えっ、優ちゃん?」
こういう時、いつもなら真っ先に食って掛かる優ちゃんがすぐに従った。和音ちゃんには申し訳ないが、私が力で押さえ込んでから逃げようと思っていたのに。
「さゆりちゃん、ダメよ、こいつら、強いから。」
「え、そうなの?まあ、優ちゃんが言うなら、私もいいよ。」
「あ、はい、私もいいです。」
「うん、わかった。なんか、申し訳ないことをしてしまったね。まあ、基本的に危ないことは無いから安心してね。」
ふと、先生方の方を見ると、また寝ていた。
「あー!ちょっと、寝ないでくださいよ!」
「うーん、起きてるよー・・・・。」
「あーはい、分かりました。まあ、とりあえず、組織の説明を。僕達は、妖怪を退治する仕事をしてるんだ。魔法を使ってね。」
魔法・・・・?そんなもの、あるわけが・・・・。
「ふむん、まあ、信じられないだろうな。では、上白石君、私の目を見てくれ。」
目を見てって・・・・なにするのかな。
「目を見てって・・・・なにするのかな。」
「えっなんで!?」
「今のは心を読む魔法だ。普段はこれで和音と会話している。和音は字も書けないからな。筆談は私があらかじめ用意していたんだ。凄いだろう?」
「これが、魔法・・・・?って、和音ちゃん、字も書けないの?」
「ああ、これは代々続く呪いでね。他人と意志疎通ができないんだ。だから、魔法で心を読まないといけないんだ。魔法は、もっと凄いのがあるが、とりあえずこれで信じてくれたかな?」
「はあ、まあ。」
正直何となくしかわからなかった。けど、優ちゃんは分かっているようだし。これでいいと思う。
「うん、いいようだね。じゃあ、次は、役割と君達の分担について話そう。まず、僕は学校での活動の補助と、家事とかだね。あとは、代表もしてるよ。まあ、雑用係りみたいなものだね。僕の手伝いを、籠谷さん、頼むよ。」
「は、はい。よろしくです。」
「ふむん、では次は僕達かな。僕と和音は戦闘を主にしている。これは上白石君が適任だろう。」
「はい、わかりました。和音ちゃんと一緒ですね?」
「あ、ああそうだ。」
「幼方さん、そんなに睨まないで。大丈夫。暫くは上白石さんは戦闘しないから。」
優ちゃんはそれを聞いて安心したのか、睨むのを止めた。心配し過ぎだよぉ。
「ふわぁ、えーと、私たち先生組は事務の仕事だね。あと、学校での補助もしてるよ。ここは、幼方さん。よろしくね。」
「はい。よろしくお願いします。私は皆が怪我とかしなければ、それでいいので。」
「そうだね。まあ、大丈夫だよ。訓練から始めるしね。」
「ふわぁ、ごめん、寝に戻ってもいいかい?今さっき最後の書類が終わったばかりで、寝てないんだ。」
「ああ、もう終わるからいいぞ。ちゃんと寝てきてくれ。」
「ああ、おやすみなさい。」
先生方はリビングから出ていった。大変なんだね・・・・。
「では、今日はこんなところかな。詳しいことはまた訓練などの時に話そう。明日からでもいいか?」
「はい、大丈夫です。」
と、私たちのスケジュールをよく覚えている優ちゃんが答える。まあ、明日は何もなかったと思うし、大丈夫だね。
「じゃあ、今日はこんなところで、明日からよろしく頼むよ。今日はしっかり休んでくれ。昨日と今日で少し心労などが溜まっているだろう。」
「はい。では。」
「「「おじゃましました。」」」
「うん、また明日・・・・とと。」
見送りに来てくださった武正先輩の脇を和音ちゃんが走り抜けてきた。手には紙袋を持っていた。どうやら、お土産として渡しに来てくれたようだ。かわいい。
「これ、くれるの?ありがとう!」
私は和音ちゃんから紙袋を受けとる。どうやら中身はカップケーキのようだ。
「じゃあ、また明日ね、和音ちゃん。」
そう言って手を振ると、和音ちゃんが笑顔で振り返してくれる。とてもかわいい。
「ほら、帰るよ、さゆりちゃん。」
優ちゃんに手を引かれる。むう、帰るか。
カップケーキはみんなで食べた。甘くてとてもおいしかった。和音ちゃんの手作りなんだろうか?また、食べたいな・・・・。
お読みいただき、ありがとうございました。