3話 日常、さゆりの家
教室を過ぎ職員室も過ぎ、敬一さんが止まったのは学園長室と書かれた部屋だった。
「え、ここって・・・・。」
学園で1番偉い人の部屋に彼はノックもせずずかずかと入る。もちろん和音さんもそれに続く。
「え、ちょっ?!」
私たちが戸惑っていると、ドアからひょっこりと敬一さんが顔を出してきた。
「どうした?入りたまえ。ふむん・・・・なあに、怒られはせんさ。」
その言葉に、私たちはおずおずと部屋に入る。
部屋には、水無月兄妹の他に誰もおらず、和音さんは部屋の真ん中に置いてある、黒皮の高級そうなソファに座っていた。
「さあ、そこに掛けたまえ。なかなか心地よいものだよ。」
そう言いながら、敬一さんは和音さんの隣に座った。
私たちは和音さんたちの向かい側にそろりと腰掛けた。うわあ・・・・ふかふかだ・・・・!
「さて、礼だが・・・・何かあるかね?恥ずかしながら、どういったことで君たちが喜んでくれるかさっぱりなんだ。だから、君たちの要望になんでも答えてあげよう。」
「え、なんでも、ですか?」
「ああ。上白石君だけというのもなんだし、君たち3人とも、1つずつなんでも。」
なんでもって言われてもなぁ、とっさに思い付かないよ。
「じゃあ、私から。すみませんが後で2人きりで敬一さんと話したいです。」
「2人きり、ふむん、まあいいが、そんなことでいいのか?」
「ええ。」
「えっ、優ちゃん、2人きりでなに話すの?」
「秘密。それより、2人はまだ決まらないの?」
秘密って・・・・ちょっと、心配だなぁ。
「んー、じゃあ、私は、ちょっと探したい人がいるんですけど・・・・あーこれも、後で2人きりでお願いします。」
「ふむん、構わないぞ。ああ、2人の名前を聞いてなかった。教えてくれるか?」
2人は軽く自己紹介をした。
「ふむん、では、いつにしよう。私は基本暇してるから、いつでもいいが。」
「じゃあ、私は明日の放課後で。」
「んー、それなら、私、明後日の放課後にしようかな。」
「あいわかった。では、場所はここでいいか?」
「はい。」
「うん。」
2人がお礼を決めちゃって、決まってないのは私だけとなってしまった。うーん・・・・思い付かないなぁ・・・・。
「ふむん、上白石君はまだ決まってないようだね。なら、保留、ということでもいいよ。また決まったら和音に言ってくれ。」
「は、はい。」
「じゃあ、今日はこれで。幼方君、また明日だな。じゃあ、僕と和音はもう少しここにいるから、君たちは帰りたまえ。」
「は、はい。では、失礼しました。」
私たちは部屋を出た。
「ふう、じゃあ、帰ろっか。今日はどこで遊ぶ?」
「んーさゆりちゃんの家で。」
「おっけー!じゃあ早く帰ろ!」
私は優ちゃんと穂高ちゃんの腕を取って走り出す。
「うわぁっ、ちょ、ちょっと、危ないって!」
「へへへっ!」
途中で優ちゃんに止められたけど、みんなで走れて楽しかった・・・・!
「「おじゃましまーす。」」
「あら、今日はうちなのね。どうぞ入って。」
こういう風になにも言わず突然みんなで遊ぶことはよくあるので、母さんも特になにも言わず、迎え入れてくれる。
「じゃあ、後でお菓子とか持っていくわね。」
「うん、お願い。」
最近の私たちのブームはトランプ。勝率はだいたい同じになるから思いの外楽しい。
「んー・・・・こっち!」
「ふふっ、残念、そっちほババよ!」
「うわー負けたー。」
今回は私が早めに抜けて、最後は優ちゃんが穂高ちゃんを上手く誘導して勝っていた。
「次はなにするー?」
私は回収したトランプを繰りながら2人に聞いた。
「んートランプはもういいよ。ね、それよりさ、明後日の土曜日、服買いに行かない?」
「おー、いいねぇ、んじゃ、なに買う?」
「そうだねー・・・・。」
私はファッションとか、興味ないのだが、2人がよく買いに行くから、荷物持ち件、きせかえ人形のために付いていく。優ちゃん曰く、
「そんなにきれいな顔とスタイルしてるんだから、ちゃんとした服着ないともったいない!」
だそうだ。まあ疲れるけど、楽しいからいいんだけどね。
「よし!さゆりちゃん、土曜日、いつものショッピングモールね!」
「ん、りょーかい。」
「あ、そろそろ帰らなきゃ、じゃあね。」
「あ、うん、じゃあまた明日。」
「「また明日ー。」」
「おはよーさゆりちゃん。」
「おはよー優ちゃん、穂高ちゃん。」
「ふわぁ・・・・おはよーさゆりちゃん。」
さーて、今日もがんばろー!ん?優ちゃんのカバン、心なしかパンパンな気がする・・・・。ま、いっか。
「あっ、そうだ、さゆりちゃん、昨日の宿題、ちゃんとできた?」
優ちゃんが心配してくる。しかし、いくら頭のよくない私でも宿題くらいはできるよ。
「もう、さすがにできたよ!」
「ふふ、よかった。あっでも、今後わからないことがあったら言ってね。」
「うん、そういう時は頼らせてね、優ちゃん。」
優ちゃんは私をよく甘やかせてくれる。ときどき、今のようにからかってくるけど、優しくて、好き。
「はー尊いわ・・・・。」
「穂高ちゃん、置いてくよー?」
「あ、待ってー!」
お読みいただき、ありがとうございました。