2話 水無月兄妹
学校から家までは近いこともあり、歩いて数分で着いた。
いつもなら、誰かの家か近くの公園で遊ぶのだが、今日は2人とも疲れたらしく、家でゆっくりしたいそうだ。といっても、2人の家は私の家の両隣にあるから、最後まで一緒に帰るんだけどね。
「ただいまー。昼はなに?」
「おかえりなさい。今日の昼はたらこスパゲティにしたわ。手洗いうがいしてきなさーい。」
「はーい。」
2人は疲れていたけど、私はまだ元気あるし、昼ごはんのあと、走ってこよっと。
「いっただっきまーす。」
「ふふ、相変わらず、いい食べっぷりね。父さんに似たのかしら。」
「はーはん、はへほはっはらはひっへふふへ。」
「こらこら、ちゃんと飲み込んでからしゃべりなさい。」
「んー・・・・。母さん、食べたら走ってくるね。」
「わかったわ、あまり遠くにはいかないで、暗くなる前に帰ってくるのよ。」
「はーい。・・・・ごちそうさまっ!行ってくるね!」
「あっ、水筒持っていきなさい、今日は暑くなるらしいから。はい、気を付けて行ってらっしゃい。」
母さんにいつもの軽いプラスチック製の水筒を渡される。いつの間にか準備していたようだ。
「行ってきまーす。」
(確か、この辺りに・・・・!)
春先とはいえ、晴天だと暑い。母さんの言った通り、だいぶ気温が上がっているようだ。汗をかき、喉も渇いてきたが、既に母さんに渡された水筒は空になっていた。予定していた折り返し地点はまだ先なのに・・・・!
こういうときのために、ガマ口の小銭入れも持ってきている。
(そこの角を曲がれば自販機があるはず・・・・!)
しかし、その角を曲がっても、自販機は見えない。
(あれ、なんで・・・・?この前まであったのに・・・・!)
私は一度止まり、垂れてくる汗を拭う。他の近い自販機は・・・・。あれ、あれは、水無月さん?どうしてこんなところに?
水無月さんは私に気がつくと、トコトコと走ってこちらに来て、手に持っていた水筒をこちらに差し出してきた。
「はあ、はあ、これ、くれるの?」
水無月さんは首を縦に振る。ああ、話せないんだっけ。
「ええと、ありがとう。」
私は渡された水筒を飲む。中身はどうやらスポーツドリンクのようだ。爽やかな酸味が喉を潤す。
「ぷはぁ、おいしい、ありがとう!助かったよ。」
水無月さんは首を縦に振る。
「ええと、洗って返せばいいかな?」
水無月さんは首を横に振り、さっと私の手から水筒を掠め取った。そしてそのまま走り去っていった。
「あっ、もう行っちゃった。」
飲み物も無いし、こんなに暑いとは思ってなかったし、帰ろう。水無月さんは、また明日学校ででも、話そうかな。
「ただいまー。」
「おかえりなさい。早いじゃないの。水筒、足りなかった?」
「あ、うん、でも暑いし、今日はもうパス。」
「そうね、じゃあ、シャワー浴びてきなさい、さっぱりするわよ。」
「はーい。」
シャワーを浴びながら、さっきのことを思い返す。
(さっきのスポーツドリンクおいしかったなー。あれ、あの水筒って・・・・水無月さんの水筒、あれって間接キス・・・・なのかな。)
自分の頬に熱が集まってくるのが分かる。たぶん今の私はゆでダコのように真っ赤だろう。
夕食を食べたあと風呂に入り、すぐに私は寝入った。さすがに疲れてたのかな・・・・。
ああこれは夢だな、とすぐに分かった。だって水無月さんが私にかわいらしく笑いかけていたからだ。いつもの水無月さんはあまり表情が無いから。夢の中の水無月さんは私にあの水筒を差し出していた。私はそれを受け取り、中のあのスポーツドリンクを飲む。すると、水無月さんはかわいらしく頬を赤く染め、ポケットから紙を出して広げる。
『間接キス、してしまいました。』
私はその文を読み、頬どころか、耳まで赤く染める。顔が熱い・・・・。
ジジジジジジジ・・・・
目覚まし時計が鳴る。
「うう、私は何て夢を・・・・水無月さんの顔も見れそうにないよ・・・・。とりあえず、起きて目覚まし時計を止めなきゃ。」
昨日の昼に会ったとはいえ、あんな夢・・・・。うう・・・・。
「さーゆーりーちゃん!!」
「うわっ!!」
突然耳元で大きな声を出され、びっくりしてしまう。またぼーっとしてしまったようだ。あの夢が頭に取り付いて離れない。
「もう、またぼーっとして、今日、なんか変だよ?授業中もずっと上の空で先生の話聞いてないし、顔も赤いし・・・・熱は無さそうだけど。」
優ちゃんが私の額を触り、熱を測る。
「うん、いや、夢が・・・・。」
「夢?悪い夢でも見たの?」
「いや、その・・・・。」
「おーい、優ちゃん、帰ろうぜー。」
「うん、まあ、そうね、悪い夢なんて早く忘れなさいよ。」
助かった、夢の内容は恥ずかしくてとてもじゃないけど言えない・・・・。
私たちはカバンを持って教室の外に出た。と、そこに私より少し背の低い高校生の髪の長い男の人が立っていた。
「お、待っていたよ、上白石君。」
よく見ると、その後ろに水無月さんも立っていた。あれ、どこがて見たような・・・・?
「ねえねえ、さゆりちゃん、誰?」
人見知りな優ちゃんは私の後ろに立ち、小声で聞いてくる。
「ふむん、そういえば自己紹介はまだだったかな。僕の名前は水無月≪みなづき≫ 敬一≪けいいち≫だ。後ろにいる和音の兄だ。」
「は、はあ、それで何の用ですか?」
「ああ、今日は迷子になった和音を助けてくれたお礼、の話に来たんだ。まあ、立ち話も何だから、こちらに来てくれ。落ち着いて話せるところがあるんだ。」
と、敬一さんが歩き出した。そして、その後ろの和音さんも付いていった。
「迷子・・・・?」
穂高ちゃんがなにか考えている。失礼なこと考えてなければいいけど・・・・。
「え、あのときの迷子の子って水無月さんだったの?!いやー私はてっきり小学生かと・・・・。」
「ちょっと、穂高ちゃん、失礼だよ。」
「ははは。いや、いいよ・・・・ふむん、やはり身長は重要だな。それより、付いてきてくれるか?」
「あ、はい。」
私たちも和音さんの後ろに・・・・うう、和音さん・・・・また夢が・・・・。
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